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DUO  作者: 一狼
第5章 災厄招来
28/81

27.その魔獣の群れを指揮するのは魔獣の王

 自分が助けられたと判断した鈴鹿はすぐに立ち上がりデュオに向かって礼を言ってくる。


「すまん、助かった。先行部隊ってことは他にも何人か来ているのか?」


「ええ、あたしを含めて5人ね」


 その言葉に鈴鹿は更に驚いた表情を見せた。

 おそらく先行部隊と言う割には数が少ない事に驚き不安を感じたのだろう


 デュオは取り敢えず鈴鹿の不安を解消するために周囲の魔物の殲滅をすることにした。


「それで、取り敢えずはこのモンスターの群れを蹴散らせばいいのね?」


「ああ、黙っていても夜になれば居なくなるが、殲滅できるのならそれに越したことは無い」


「了解」


 魔物が夜になると居なくなると言うのは初めて聞く情報だ。

 『災厄の使徒』が操る魔物には何かしらの制限があるのかもしれない。

 とは言え、デュオが居れば夜まで待たずに範囲魔法でほぼ片付いてしまうだろう。


 デュオが魔法で周囲の魔物を吹き飛ばしていると、追いついてきた美刃とトリニティが鈴鹿へ襲い掛かろうとしていた魔物を斬り飛ばす。


「鈴鹿、無事だったみたいね。良かった、間に合って・・・」


「・・・ん、久しぶり」


「トリニティ!? ちょ、おま、何でここに居るんだ!? それに美刃さんも!」


 鈴鹿にとっては驚きの連続だろう。

 トリニティと美人の出現に更なる驚きを見せていた。


「詳しい話はこれが片付いてからにしましょう。2人とも大分込み入った話になりそうだし」


 流石にこんな魔物の群れの中で込み入った話をするわけにもいかないので、デュオはさっさと魔物を蹴散らしてお互いの状況を説明し合おうと提案する。


「まぁ鈴鹿の言いたいことも何となく分かるけど、今はお姉ちゃんの言った通りこれを片づけてからにしましょう」


 本当に何度驚いた顔を見せるのだろう。鈴鹿はデュオがトリニティの姉だと知って2人の顔を交互に見ては驚いていた。

 デュオはそんな鈴鹿の顔を見ては面白がっていた。

 調子に乗ったデュオは更なる範囲魔法で周囲の魔物を次々蹴散らしていく。


 そんな様子を近くで見ていた竜人(ドラゴニュート)は慄き、鈴鹿は気持ちを持ち直しさも当然だと言わんばかりに嘯き、トリニティは自慢の姉ですとばかりにデュオを褒め称える。


 デュオの魔法、美刃の剣閃、持ち直した鈴鹿の刀技、竜人(ドラゴニュート)の体から繰り出される槍技、トリニティの蛇腹剣による流派、そして遅れて到着し文句を言いながらも戦技を繰り出すウィル。

 ジャドはシャドウゲージから自家製の炮烙玉を持ち出し周囲の魔物を爆破していく。


 こうして無事にサーズライ村を守る2人に合流したデュオたちは、サーズライ村の周囲を取り囲んでいた魔物の群れを1・2時間ほどで殲滅させた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 魔物の殲滅を終え、デュオたちは結界の張られたAlice神教教会の中で一先ずの休憩をしていた。

 隣の一室ではアイと言う異世界人を交えてトリニティと鈴鹿が話し合っている。

 鈴鹿達は仲間の救援に歓びつつも危険地帯へと来てしまったトリニティに複雑な思いを抱いていたのはデュオにも想像が付いていた。

 3人でどんな話し合いになっているのは分からないが、トリニティにとっては今が本当の仲間になるための試練と言えよう。


「『月下』の救援、助かった。流石にワシと鈴鹿だけではどれだけ持ちこたえられたか・・・」


 一緒に休憩を取っている竜人(ドラゴニュート)――リュデオが改めてデュオたちに礼を言ってくる。


「いいのいいの。お礼なら先行部隊になる理由になったトリニティに言って。あの子が居なきゃあたし達はまだここには着て居ないもの」


「そうか。鈴鹿は良い仲間を持ったのだな」


「そう? トリニティのこれまでの話を聞けばあながちそうとも言えないわよ」


「む、そうなのか? まぁよい。結果的には助けに来てくれたんだ。それで良しとしよう」


 リュデオは敢えてそれ以上は聞かず、助けに来てくれたことを感謝する。


「ところで・・・リュデオは何でこんな村に居たんだ? こんなところに竜人(ドラゴニュート)が居るなんて珍しいぜ」


 確かにウィルの言う通り、竜人(ドラゴニュート)と言う種族は人里へは滅多に降りてこない。

 王都などの大都市には数人いればいい方で、こんな田舎の村に居るのは珍しいのだ。


「ワシは戦人として世界中を巡る武者修行の旅をしている訳だが・・・魔物の群れに襲われた村を見つけてな。

 その村――セカンデッド村は既に手遅れだったが、近隣の村の状況を確認しにここに来て魔物の群れに襲われているサーズライ村の防衛に回ることになったのだ」


「へぇ~武者修行の旅とは、随分と古めかしい事をしてんだな」


 そんな2人の会話を聞いていたデュオはリュデオの姿を見て口を挟んできた。


「リュデオ、貴方紅玉族よね? 人間で言えば王族にあたる竜人(ドラゴニュート)の部族だったはず。

 そんな紅玉族がおいそれと武者修行の度に出れるものなの?」


 リュデオの肌は黒い鱗に覆われていて、目は赤眼となっている。

 数ある部族の中で一番発言力のある紅玉族の特徴であり、デュオの言う竜人(ドラゴニュート)の王族とも言われている。


「む、デュオ殿は紅玉族を知っているのか?」


「昔竜人(ドラゴニュート)の集落に行ったときに、紅玉族の族長にお世話になったのよ」


「父上に会ったのか? 余程のことが無い限り人間が紅玉族族長である父上に会うことは無いはずなのだが」


「まぁ、ね。ちょっと色々あったのよ。

 と言うか、貴方族長の息子なのに何で武者修行なんかしているのよ。紅玉族はどちらかと言うと武官より文官寄りだったわよね?」


「む、それはそうなのだが・・・まぁ、その、何と言うか、ワシはどちらかと言うと体を動かす方が好きでな。将来部族を率いる為の帝王学とやらが肌に合わなくて、それで集落を飛び出してきたのだ」


 竜人(ドラゴニュート)が武に強いのは基本であり、それに加えて知にも優れているのが紅玉族なのだが、リュデオはどちらかと言うと若い者にありがちな武に傾倒している方だった。

 ぶっちゃけ、父親に強制された族長を継ぐための勉強が嫌になり、武者修行の旅と称して家出したのだ。


「おま・・・それ族長の息子としてどうなんだよ?」


「気持ちは分からんでもないが、流石にそれは浅慮ではないでござるか?」


 ウィルとジャドに諌められ、流石にリュデオも少々バツが悪かった。

 とは言え、リュデオが武者修行の旅に出たことはまるっきり無駄だったわけでは無い。

 これまでの旅でリュデオも集落を出た時よりも成長はしていた。


 今なら集落に戻り族長を継ぐための勉強を素直に受けられるだろう。

 族長も成長して戻ってくるだろうと敢えて集落を出ていくことに反対しなかったのだ。


 実はそのあたりの事はデュオは直接族長から聞いていたので、ワザと意地悪してリュデオに突っ込んで聞いたのだ。


「分かっておる。旅をしているうちに分かってきたのだが、確かに今思えば浅慮だったと思うよ。もう暫く旅をしてから集落に戻ろうと思っておる。

 だが、それも今回の『災厄の使徒』の件が片付いてからだ」


「そうね。まずは『災厄の使徒』を倒してからじゃないとね」


「うむ、もしかしたらこの武者修行の旅も実は『災厄の使徒』を倒すためのものだったのではないかと思っておるよ」


 それは出来過ぎではないかとデュオは思ったが、鈴鹿を助けるために王都に戻ったトリニティにより自分と美刃、ウィルと言ったA級S級の冒険者が、そしてそこに都合よく竜人(ドラゴニュート)が集う事になったことを考えればあながち否定できるものでもない。

 言い換えれば運命ではないかとすら錯覚を覚える。


 そんなことを考えていたデュオを余所に、話し合いを終えたトリニティ達が姿を現した。

 改めて8人で明日からの作戦を練ることにする。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「多分明日からの魔物の群れは様子を変えると思うわ」


「と言うと?」


「リュデオと鈴鹿の話を聞いた限りじゃ『災厄の使徒』は遊んでいるのよね?

 でもあたし達の登場でそれも難しくなった。だから今度は指揮官を用いて組織的に動いてくると思うの」


 ジャドとトリニティが王都で入手した情報によると、これまでの『災厄の使徒』には指揮官的な魔物が居ると言う。

 幾ら『災厄の使徒』とは言えど、たった1匹で大量の魔物を操ることは不可能と言える。

 指揮に追われ、まともに戦う事すら出来ないからだ。

 それを補うために別に指揮する魔物が居るのだと言う。

 『災厄の使徒』から指揮官的魔物に、指揮官的魔物から魔物の群れにと言った具合にだ。


「つまりその明日出て来るであろう指揮官魔物を倒せば今日と同じく魔物の群れは有象無象と化す訳だ」


「そう言う事」


「あの魔物の群れの中から指揮官魔物を探し出すのか? 流石にそれは骨が折れるな」


「その点は大丈夫よ。ジャドが居れば比較的楽に見つけられるわ」


「拙者の看破に掛かれば見破れぬものはないでござるよ」


 本来の看破は隠れた敵や罠などを見破るものだが、ジャドは修行の末に看破に気配探知や魔力探知を掛け合わせた特殊技能を身に着けていた。

 これによりジャドは戦場に置いて指揮官や伏兵を見つけることが出来るのだ。


「これは拙者が忍だから可能な技術でござる。他の人が真似しようとしても不可能でござる」


「いや、何でも忍者って付ければいいもんじゃないだろ・・・」


 鈴鹿が思わず突っ込みを入れるが、『月下』の者たちは敢えてジャドのセリフを聞き流していた。

 ジャドの忍者狂いは今に始まったことではないからだ。


「まぁいいや。すると明日はジャドが看破した指揮官を倒していくって事でいいのか?」


「そのことなんだけど、チームを2つに分けようと思うの」


「おいおい、この人数で分けてどうするんだよ。ただでさえ相手は大量の魔物だぜ。

 ここは一塊になって敵陣突破じゃねぇのか?」


 デュオのチーム分けの作戦にウィルが待ったをかけた。

 本来であればウィルの言う通り万を超える魔物を相手に人数を分けるなんて自殺行為に居等しい。

 だが今この場に居るのはただの冒険者ではない。


「まぁそれも1つの手だけど、ここは囮が居た方が動きやすいんじゃないかと思ってね。

 広範囲殲滅の出来るあたしと攻撃力超特化の美刃さんで戦場をかき回し、その間に鈴鹿達に指揮官を倒して回るとか」


「なるほどな。デュオの魔導師(ウィザード)としての力を最大限発揮するにはかえって俺達が居ない方がいいのか。

 仮に範囲殲滅魔法を潜り抜けてきても美刃さんが叩き斬ると」


「そう言う事」


 鈴鹿は今日のデュオの放つ魔法を見て納得していた。

 それが味方を気にせずに広範囲の殲滅魔法を放てるのであれば更に火力が上がるであろう。

 そう思ってデュオの提案に乗って2チームに分けようとしたが、再び待ったをかける人物が居た。


「ちょっと待て、俺は反対だぞ。幾らなんでもたった2人じゃ危なすぎる。せめてもう1人連れて行けよ」


 ウィルだ。これが純粋に2人(・・)の心配ならその言葉に重みがあるのだが、ウィルの心配はただ1人だけに集中している。

 そのことを知っている『月下』の者たちやトリニティ、果ては今日会ったばかりの鈴鹿やアイにまで悟られているが故、ウィルの心配事は却下された。


「ウィル~、そんなにお姉ちゃんの事が心配なんだ」


「・・・ん、私の実力じゃ不足・・・?」


「ウィル殿、色恋事は結構でござるが、この場にまで持ち込むのはどうかと思うでござる」


「へぇ~、ふ~ん、ほ~う。そっかそっか、ウィルはデュオの事が心配でたまらんのですなぁ~」


「あらあら、若いっていいわねぇ」


「ばっ!! 違う! 俺はただ純粋に戦力分担が心配で・・・!」


 デュオを除く全員にやじられウィルは慌てふためくも、当のデュオは特段気にした様子も無くウィルの提案を却下してチーム分けを勧めた。


「戦力分担ならあたしと美刃さん以外で固まってた方が戦力を維持できるでしょう。

 と言う訳で、あたし達が派手に魔法で魔物を蹴散らして引き付けている間に鈴鹿達は遊撃として指揮官最優先で撃破して回って頂戴」


「了解・・・っていいのか、本当にそれで。ウィルくらいなら付いてもらった方がいいんじゃ?」


 未だに慌てふためいているウィルを尻目に鈴鹿は若干のアシストとしてデュオにウィルの編成を言ってみたのだが・・・


「ああ、あれはただのウィルの我儘でしょ。いつまでたっても子供なんだから。今この場でこれ以上戦力の分担は戯作にしか過ぎないわよ」


「あ~、際ですか」


 分かっているのか、分かっていてワザと知らぬふりをしているのかは判断が付かなかったが、鈴鹿はこれ以上突っ込んで聞くのはやめた。

 下手に藪蛇を突いてこっちにとばっちりが来るのも嫌だし、明日の戦闘に影響が出るのも困るからだ。


 こうして翌朝、ウィルは後ろ髪引かれながらも遊撃チームに加わり、指揮官を倒す為戦場を駆け巡る。

 一方、デュオと美刃の殲滅チームは村の東側に向かって魔法を派手にぶちかましていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「インフェルノ・ブルーフレア!」


 地獄より呼び寄せられた超高温の青の獄炎が周囲の魔物を炭と化す。


「タイタルウエイブ・クロスストーム!」


 大量の水を呼び起こし津波となり、生み出された2対の水流が魔物を水圧で押しつぶし・捻じ切り・弾き飛ばす。


「ソニックタービュランス・ファイブフローディン!」


 扇状に放たれた5つの巨大な竜巻が魔物を切り刻む。


「アースシェイカー・ロックブレイク!」


 地を割るほどの地震を引き起こし、それに伴い隆起した無数の岩に魔物は押しつぶされ、あるいは吹き飛ばされる。


「んーーー! こうも思いっきり最上級の魔法を放てるなんて気持ちいいわー!」


「・・・ん、デュオいい顔してる」


「あはは、滅多にないからね~こんな機会。

 普通だと仲間への誤射も気にしないといけないし、威力も抑えなきゃいけないからね」


 東へ進んでいたデュオたちは好調に襲い来る魔物を薙ぎ倒していた。

 デュオの放つ鋼範囲殲滅魔法は大量の魔物を薙ぎ倒していくものの、大味であるが故に僅かばかりの魔物を素通りさせている。

 だが、決して術者であるデュオに近づく事は出来ない。

 何故なら傍にいる美刃に全て薙ぎ払われているからだ。

 とは言え、そんな僅かばかりの魔物は美刃の相手にもならず、美刃はほぼデュオの側について歩いているだけの様なものだった。


 デュオたちは東に進むにつれて魔獣が多くなっているのに気が付いた。

 トロール部隊やオーク部隊の他にもブラッドウルフやスタンビートボア、ビックアームゴリラ、ソードファングタイガーなどの魔獣が群れを成して襲い掛かってくるのだ。


「・・・? やけに魔獣が多いわね。もしかしたらこっちの方向に魔獣に指示を出す指揮官魔物が居るのかしら」


「・・・ん、その可能性大」


 その後も注意しながらデュオと美刃は周囲の魔獣を蹴散らしていく。

 だが、ある程度進んだところで押し寄せる魔獣の数が多くなり捌ききれずにその場に釘付けにされてしまっていた。


「ちょっ・・・! 流石に数が多いわね!」


「・・・ん、想定内。寧ろ今までが少なかったくらい」


 美刃の言う通り『災厄の使徒』が従える魔物が100万も居るのにこれまで襲い掛かってきた数を見れば少なかった方なのだ。

 これまでが『災厄の使徒』の様子見・お遊びなのだから、デュオたちが加勢に来たことにより本気を出して魔物の数を増やすのは当然と言えよう。


「リアクターブラスト・フルバースト!」


 本来であれば着弾点を決めそこに無属性の巨大エネルギー弾を放つのだが、デュオのアレンジした魔法によりデュオたちを中心として周囲に巨大エネルギーがドーム状に放たれその中にいた魔獣たちは一瞬にして消滅する。


 一時的に魔物の空白地帯が出来るが、直ぐに大量の魔獣が押し寄せ思う様に前には進めなかった。

 魔獣が押し寄せ、それを蹴散らし、そしてまた押し寄せと状況は膠着状態に陥る。

 何度同じ状況を繰り返したのだろうか。ふと気が付けば周囲に押し寄せていた魔獣の数が減っている。


 デュオは最初はほぼ全ての魔物を倒しきったのかと思ったが、それにしては周囲を囲う魔獣の数はそれほど変わらなかった。


 そしてついには襲い掛かる魔獣が居なくなり、遠目でデュオたちの周囲を囲うだけになっていた。


「・・・どういう事?」


「・・・ん、おそらく指揮官の指示。この流れだと多分指揮官自ら登場」


 美刃の言葉をなぞるかのように魔獣の群れが分れてその間から1匹の獅子が現れた。

 5m程の大きさの真っ赤な(たてがみ)を持つどこか狛犬にも似た獅子だった。


「我は『災厄の使徒』様の直臣にして魔獣の王バロン。これ以上『災厄の使徒』様の配下を減らすわけにはいかない。

 我自らが相手になってくれよう」


「それはこっちとしても願ったりだわ。

 まさかこっちの方にも指揮官魔物が出て来るとはビックリしたけど、指揮官を潰せば後は烏合の衆だからね」


「我の力を侮るか、それとも自らの力を過信するか」


「どちらかと言うと後者の方かな? でなければたった2人でこれだけの魔獣を相手しないわよ」


「ならば自らの自惚れによって悔いて死ぬがよい」


 バロンは身を屈めたと思うと30mも離れていた距離を一瞬で縮めた。

 デュオは襲い掛かる牙を平然と見つめていて、身動き一つとらない。


 ガキン!


 バロンの牙とデュオの間に1本の刀が差しこまれ、バロンの攻撃を防ぐ。


「・・・ん、死ぬのは貴方」


 バロンの攻撃を防いだのは美刃だった。

 デュオは美刃が防ぐのを信じてその場を動かなかったのだ。

 そしてその一瞬の間に唱えていた呪文をバロン目がけて解き放つ。


「ハウンドドック!!」


 数十の自動拘束追尾弾がバロンに襲い掛かる。

 バロンは直ぐに身を翻しデュオたちから距離を取ろうとしたが、その瞬間を狙ってデュオはチャージアイテムの卵の十冠(デケム・オーブマ)から3つのストーンウォールを解放しバロンの退路を塞いだ。


「ぬうっ!?」


 ドドドドドドドドドドドドドドッ!!


 逃げ場の失ったバロンは自動高速追尾弾に身を晒される。

 無論デュオたちはこれだけの事でバロンを倒せるとは思ってはいない。

 仮にも魔獣の王を名乗っているのだ。


 着弾した自動高速追尾弾の効果を確認せずに美刃は間合いを詰めて舞い上がった土煙に向かって刀を一閃する。


「ん、桜花一閃」


 だが斬り裂かれた土煙の向こうにはバロンは居なかった。


 その場に影が差し、ふと上空を見上げればバロンが両の爪を持って振り下してくるところだった。

 美刃は素早くバックステップでその場を離れて爪をやり過ごす。


 猫のようにしなやかに着地したバロンは油断なくデュオたちを見据えている。

 先ほどの自動高速追尾弾も全て躱したわけでは無く、体には幾つもの着弾の跡が見えた。


「前言を撤回する。侮っていたのは我だ。貴様らは戦士だ。こちらも全力を持って貴様らに応える」


 その言葉が示す通りバロンの体から雷が迸り、炎の様な真っ赤な鬣は文字通り炎となってバロンの体に纏いつく。


「あらら、何も本気を出さなくてもいいじゃないの」


 聞き入れないと分かっていても思わず口にするデュオ。

 デュオとしてはこのまま侮っていて欲しかったところだが、現実はそう甘くはない。

 デュオと美刃の実力に咥え、お互いの連携がバロンに危機感を抱かせたのだ。


「ん、ならこちらもそれ相応に相手する。

 モード剣閃半月(ハーフムーン)


 言葉と共に目に見えて美刃の周りの空気が揺らぐ。

 美刃の内より溢れ出る闘気が周囲に影響を及ぼしているのだ。


「シャッ!!」


「シィッ!!」


 雷と炎を纏ったバロンが弾けるように走ると同時に美刃もこれまでにない速度でバロンへ迫る。


 お互い交差時に攻撃を加えながら距離を取り、そして再びお互いが交差し合う。

 それを瞬間的に何度も繰り返し、傍から見ればとてもじゃないが手を出しようがない争いが繰り広げられていた。


 否、デュオにとって美刃と組んでいたのでこんなことは常だった。

 なのでデュオにはこの状況に対しても美刃を援護する事が可能だ。


「トラッピング・バインド!」


 デュオが魔法を放つが効果は何も無いように見えた。

 だが次の瞬間、バロンの足下から魔法陣が出現し瞬時にしてその足を絡め取る。

 仕掛けた魔法陣を踏み込むことにより仕掛けた魔法が発動するデュオオリジナルのトラップ魔法だ。


 トラップ魔法の為仕掛けた魔法の効果は10分の1まで堕ちるが、それでもその一瞬の効果で十分だった。


 その一瞬の束縛で身動きが取れなくなったバロンに美刃の刀が振るわれる。


「桜花乱舞:斬」


 刀戦技の乱撃技・桜花乱舞に更なる斬撃が加えられた戦技により、射程・威力共に上がった桜花乱舞がバロンに襲い掛かる。


 バロンも身を纏う雷や炎で迎撃しようとするも、無数に襲い掛かる斬撃の前に為すすべもなく身を切り刻まれその場に崩れ落ちた。


「ぐふっ・・・! お見事」


「ん、貴方も強かった」


 美刃はモード剣閃半月(ハーフムーン)を解き、残心の構えでバロンを見つめていた。


「・・・ふん、全力でない貴様が何を言う」


 バロンは息も絶え絶えに恨みがましく美刃を睨みつけてくる。

 実際、デュオの手助けが無くてもあのままでも美刃はバロンを倒すことが出来たのだ。

 一瞬互角に見えたお互いの交差攻撃だが、美刃にはまだまだ余裕がありバロンにはあれが精一杯で余裕が無かった。

 時間が経てば経つほど美刃が有利になっていき、最終的にはバロンが負けるのは目に見えていたのだ。


「ここで我は倒れる。だが『災厄の使徒』様にはまだ我ら四天王の他にも強者が居る。

 精々足掻く事だな」


 バロンは何やら意味深な言葉を残してそのまま息絶えた。


 四天王とはおそらく指揮官魔物の事を指すのだろう。

 東にバロンが居たと言う事は、反対側の西、もしくは北と南にそれぞれ指揮官魔物が配置されていた可能性がある。


 デュオたちと反対側から向かって行った鈴鹿達は上手く魔物の群れを縫って指揮官魔物を倒すことが出来ただろうか。


 そしてバロンが息絶えたことにより、周囲の魔獣たちの統制が取れなくなってきて各自で暴れはじめる魔獣が現れた。


「んーー、確かに指揮官を倒して烏合の衆と化してるけど、結局はさっきまでと変わらないで魔物を吹き飛ばすだけなんだよね。

 連携で襲ってこなくなる分だけ楽になるけど」


「・・・ん、やることは結局一緒。全部倒す。それだけ」


 それを言っちゃあ身も蓋もないでしょと心の中で突っ込みを入れながら気合を入れ直したデュオは、周囲の魔獣たちの様子が少しおかしい事に気が付いた。


 てっきりバロンが死んだことにより暴走状態宜しく魔獣たちが思い思いに襲ってくるのだと思っていたのだが、そうなるようにも見えたにも関わらず魔獣たちは次第に落ち着きを取り戻していたのだ。


 魔獣たちは一様にして空を見上げていた。


 デュオと美刃もそれにならって空を見上げると、幾つもの空飛ぶ魔物が空を覆っている中で1つだけこちらに近づいてくる魔物が居た。


 それは次第に大きくなり、遂にはバロンの亡骸の前に音を立てて降り立つ。


「ちぃ・・・間に合わなかったか。

 ウォーリアビートルに続いてバロンもか・・・指揮を任せられるほどの仲間を見つけるのにどれ程労力を必要とするか知ってるか?」


「・・・さぁ? 少なくともその労力をたった今無駄にさせたのは分かるわ」


 デュオは目の前に降り立った生物に冷や汗をかきながらも皮肉を込めて答える。


「ふん、まぁいい。これ以上の遊びは終わりだ。俺様自らが相手になってくれよう」


 そう言って、目の前の生物は背中から生やした空を覆うほどの翼を広げてデュオと美刃にその殺気を向ける。


 デュオたちの目の前に降り立ったのは漆黒のドラゴンだった。

 但しただのドラゴンではない。


 かつては魔王に使えたとされ、100年前の大災害時にも現れセントラル王国を滅ぼしたとも言われる最凶魔竜。


 そしてデュオにも少なからず因縁がある最悪魔竜。


 全身漆黒に覆われ瘴気を撒き散らす邪悪なる竜――邪竜(イビルドラゴン)だった。








次回更新は8/30になります。

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