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DUO  作者: 一狼
第5章 災厄招来
26/81

25.その届きし凶報は災禍の知らせ

 マトマは見知らぬベッドの上で目が覚めた。


「あれ・・・あたし、何を・・・」


 何かから必死に逃げた覚えがある。

 そしてそれは何かを伝えなければならないから、だと。


「あら、目が覚めた? 随分とボロボロだったけど何があったのかな?」


 マトマは部屋を見渡せばここが医療室であり、自分はそのベッドで寝ていたことを理解する。

 声をかけてきたのは白衣を着た女性で、医療室の主であり女医であるだろうと判断した。


「魔物にでも襲われたのかしら?

 だとしたらもう大丈夫よ。ここはガルデナ砦、ちょっとやそこらじゃ壊れない要塞よ」


 魔物――その言葉を聞いてマトマはこれまでの出来事を思い出した。


 ちょっとやそこらじゃ壊れない?


 マトマは女医の言葉に危機感が無さすぎると怒りの感情が渦巻いた。


 あれはちょっとやそこらじゃない。軍事都市の第一衛星都市アレミアでさえも飲み込みかねない程の魔物が蔓延っているのだ。


 とは言えこの事を知っているのはマトマだけであり、女医には寝耳に水の事なのだ。

 マトマに怒りを向けられるのは理不尽な事であり、ただ何もできなかったマトマの八つ当たりでしかない。


 マトマもそのことを分かってはいるのだが、降って湧いた不幸な出来事に感情が抑えきれないでいた。


「お願い、大至急この砦の偉い人に取り次いでもらえる? 事は緊急を要するの」


「砦将に? いきなりは無理よ。

 まずは貴女の素性を確認したうえでここに至った経緯を説明してもらわないと」


「そんなの後でいいから! 早くして!! 急がないと取り返しのつかないことになるのよ!!」


 マトマの剣幕に女医は思わずたじろぐ。

 あまりの真剣な表情に何かが起きていることは分かったが、流石にいきなり砦将の前に連れ出すわけにはいかなかった。


「分かったわ、ちょっと待ってて。砦将は無理だけど、取次できる人を呼ぶから」


 女医は医療室から出て行き、マトマ1人だけが取り残された。

 自分を逃がしてくれたクランマスターのベルチェ、サブマスターのカロナ、そして仲の良かったピルマ。

 何故自分だけが生き残ったのか、と自責の念に駆られながらもマトマの思いは次第に復讐へと向くことになる。


 迷いの森の奥底で構えていた突然変異で生まれた魔人であり、26の使徒である『災厄の使徒・Disaster』に。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 エレガント王国国王カーディナル=エレクシア=ジ=エレガントは執務室で大量の書類に囲まれながら激務をこなしていた。

 と、そこへ宰相のワンダ=イターナーがらしくなく、扉をぶち破らんばかりに開け現れた。


「どうした、ワンダ。お前らしくないな、そんなに慌てて」


 いつもなら毒舌の1つでも吐きながらカーディナルを相手するのだが、この時ばかりはワンダもそんな余裕が無かった。


「陛下、緊急事案です。災厄が確認されました。それも危険度SSS級の」


「なに・・・!?」


 ワンダの言葉を聞いてカーディナルは眉をひそめる。


 災厄とは26の使徒『災厄の使徒・Disaster』の事を指し、余ほどの事が無い限り緊急事案としてあがることは無かった。

 それもそのはず、女神アリスに使徒にされたことによってエンジェルクエストの攻略の為に天地人(ノピス)や異世界人の冒険者に狙われやすくなった災厄は、力を付ける前に倒されてしまう事が殆んどだったのだ。


 『災厄の使徒』は記憶を受け継ぎ従えた魔物の数だけ強くなると言う突然変異種であったが為に恐れられていたのだが、今では冒険者の貢献によってその危険度が限りなく低くされていた。


 それがこともあろうか危険度SSS級の事案としてあがってきたのだ。


「どういう事だ? 災厄は3か月前に倒されたと冒険者ギルドからの報告があったはず。

 例え直後に転生しようとも3ヵ月では集められる魔物も精々1,000がいいところだ。

 それなのに危険度SSS級だと・・・?」


「信じられないでしょうけど、事実です。

 各所から上がってきた報告の中に『神託の使徒』の証言もありますのでまず間違いないかと」


「・・・詳しく話せ」


 『神託の使徒』の言葉のお墨付きとあっては流石に疑わざるを得ない。

 カーディナルはワンダに『災厄の使徒』の報告に関する詳細を求めた。




 イートス草原の南にあるセルタルト丘に構えたガルデナ砦に届けられた、ある冒険者によって『災厄の使徒』の存在が確認された。

 迷いの森に大量の魔物を従えた『災厄の使徒』が君臨していたと。


 その冒険者は『ブルーツノヴァ』で、冒険者ギルドが迷いの森の調査を依頼していた事は、今回の報と合わせてワンダの方でも確認していた。


『ブルーツノヴァ』は迷いの森に入り、浅部から中部、深部へと周辺の魔物の調査を行っていたが、この時はまだ異変と言う異変は確認されなかった。

 ランクに合った魔物の存在と、異変と呼べる不釣り合いな魔物が見えなかったからだ。


 『災厄の使徒』の報告をした『ブルーツノヴァ』の冒険者――マトマによれば、この時からすでに異変が起きていたのだと言う。

 こうして何の問題も無く深部まで入り入り込み、暫くすると大量の魔物に襲われることになったのだ。

 大量の魔物は後退する道を塞ぎ、唯一生き残る道は魔物の数が薄い更なる深部への道しか残されていなかった。

 『ブルーツノヴァ』のクランマスターは僅かな希望に賭け迷いの森の最奥に向かう事にした。

 それが『災厄の使徒』の罠だったとも知らず、気が付いた時には既に遅く数限りない魔物に囲まれて『災厄の使徒』と対面することになった。




『よう、俺はお前らが26の使徒と呼ぶ『災厄の使徒・Disaster』だ。

 見ての通りお前らは俺の仲間達に囲まれ絶体絶命のピンチってわけだな。今の気分はどうだ?」


『最悪の気分よ・・・まさか迷いの森の異変の原因が『災厄の使徒』だったとはね』


 顔を青ざめながらも『ブルーツノヴァ』のクランマスター・ベルチェは答える。

 大量の魔物に囲まれているだけではない、今目の前にいる『災厄の使徒』から放たれる威圧(プレッシャー)により体が恐怖しているからだ。


『まぁそうだろうな。何せ今回の俺の仲間の数は100万近く居るからな。確か100年前の大災害時の魔物の襲来にもそれくらいの数が押し寄せて来たんだっけ?』


『な・・・!!?』


 『災厄の使徒』の言葉に『ブルーツノヴァ』のメンバー達は言葉を失った。

 100年前の大災害時規模の魔物の群れともなれば国を滅ぼし得るほどの数なのだ。

 それほどの魔物の群れにそれを従えるほどの『災厄の使徒』が目の前に居て怯えない方がおかしかった。


『出鱈目を言わないで・・・! 3ヵ月前に貴方は倒されているはずよ。それが僅か数ヶ月で100万もの魔物を従わせることが出来る訳ないでしょう!』


『あー、それには色々細工があってな。細かい事は省くがお前らは見事俺の策にハマったってわけだ』


 ベルチェは『災厄の使徒』が策を弄したことに戦慄した。

 この魔物はやはりただの魔物じゃない。何度も生まれ変わることにより知識を蓄え、それを扱う術すら学習してきているのだ。

 これが恐怖を覚えずに居られようか。


『ま、その細工のお蔭で大勢の仲間を従えることが出来た訳だし、満を期してお前ら天地人(ノピス)に復讐を果たせるわけだな。

 あ、もう既に仲間の一部はこの近辺の村の1つを襲っているぜ。と言うか壊滅させているな。次はその隣の村かな?』


『復讐って何よ!? 魔物のあんたに復讐する理由なんてないでしょ!』


 今回の唯一の生き残り――マトマの叫び声に『災厄の使徒』は殺気をはらんだ視線を向ける。


『あ゛?』


『ひぅ!?』


 殺気を受けたマトマは思わず腰を抜かしへたり込んでしまった。

 そしてその場に小さな水溜りが出来る。


『てめぇら天地人(ノピス)に何度も殺されて復讐する理由が無いわけないだろうが!

 何度も死ぬ気持ちをてめぇにも味あわせてやろうか?』


『この場に私たちを呼び込んだのは直接手を下すためなの?』


 『災厄の使徒』の視線をマトマから逸らすため、ベルチェはこの場に呼び寄せた理由を問うた。

 その気になれば『災厄の使徒』の居る最奥に呼び寄せる前に大量の魔物で殺すことが可能だったはず。

 それをしなかったのは理由があると踏んだのだ。


『ま、そうしてもいいが、お前らをここに呼び込んだのは宣戦布告の為だ。

 これから俺は、俺達はお前ら天地人(ノピス)の国々を襲う。まず始めに近くの村から一つずつ、そして次第に町、都市、最後には王都を。

 精々足掻く事だな。もっともお前らがこの事を生きて伝えられれば、だけどな』


 その言葉と同時に周囲に居た魔物が『ブルーツノヴァ』に襲い掛かってきた。

 サブマスターのカロナが密かに唱えていた魔法を後方に放ち、逃走の為の道を作り上げる。

 逃走経路を駆け抜けながらベルチェは殿(しんがり)を務める。


『貴女達はこの事を必ず外に伝えて! 私はここで貴女達に魔物がいかない様に食い止めるから』


 当然『ブルーツノヴァ』の2人の少女から抗議が上がるが、そんな問答をしている暇も無く魔物は襲い掛かる。

 サブマスターのカロナは2人の少女を強引に引き連れてベルチェを残して撤退する道を選んだ。


 こうして迷いの森から逃走をして『ブルーツノヴァ』の最後に1人残ったマトマは迷いの森の近くにあるガルデナ砦へと辿り着いたのだ。




 ガルデナ砦の責任者である砦将にこの事が知らされると、すぐさま通信魔道具を用いて王宮へと報告をしたのだ。

 無論、砦将は1000年前の大災害規模の魔物がいるとは信じられず、『災厄の使徒』のハッタリではないかと疑ってはいたが、ありのままの報告をした。


 ガルデナ砦からの報告とほぼ同時に、水の都市ウエストヨルパの冒険者ギルドからエンジェルクエストを受けていた冒険者が『神託の使徒』の神託により、100年前の大災害規模の魔物を率いた『災厄の使徒』が村を襲っていることが判明したのだ。


 この2つの報告を受けたワンダは情報の信憑性が信頼するに値し、さらにはAlice神教教会よりこの情報をもとに魔物の侵攻の災いを察知する専用の魔法を掛けてもらい『災厄の使徒』の襲来を確信させた。

 そして即座に危険度SSS級の緊急事案としてカーディナルに報告したのだ。

 因みに、『災厄の使徒』の魔物が原因と思われるファスタ村の生き残りの報告も信憑性の後押しとなっていた。




「なるほどな。奴め、俺達天地人(ノピス)に喧嘩を売って来たって訳か」


「ええ、冒険者を使い宣戦布告をしてきたと言う事はそうなのでしょう。

 ファスタ村の生き残りが居たのも自分の存在を知らしめるためでもあったと思われます」


「奴の弄した策とやらが少し気になるが、それは置いておこう。

 100年前とは違うと言う事を思い知らせてやろうじゃないか。

 直ちに災厄討伐軍を結成しこれに当たらせろ。討伐総司令にはカルヴァンクルを任命する」


「王太子を、ですか?」


「ああ、あいつはこういった緊急事案には優秀だからな。普段はだらしがないが、敢えて己の力を隠しているんだよ」


「いえ、それは知っておりますが、王太子は現在異世界(テラサード)の「ミトコウモンサマ」や「トウヤマノキンサン」を真似てお忍びで行方不明ですね。

 まぁ、エレミアの何処かに居ると思われますが」


 ワンダの言葉にカーディナルは顔を真っ赤にさせて怒鳴り散らす。


「王太子たるものが何をやってるんだ、あの馬鹿者が! さっさと探して連れてこい!」


「陛下も若いころは同じような事をしていたのですが・・・」


 若い頃のことを言われれば流石にカーディナルも口を濁すが、今はそれどころじゃないので怒鳴って誤魔化しながらこの後の指示を出す。


「いいからさっさと行け! やることは沢山あるんだぞ!!」


「はっ」


 ワンダはカルヴァンクル王太子の捜索と、災厄討伐軍編成の為の各所通達、冒険者ギルドの協力要請などを手配する為に執務室を出る。


「これからは災厄にはもっと目を光らせなければならないな。冒険者ギルドとも協力して・・・

 尤も今回の『災厄の使徒』を討伐できればの話になるがな」


 カーディナルは誰となく呟く。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 冒険者ギルドの会議室では数人の各クランのクランマスターやサブマスターとギルド職員数名がロの字状に並べられた机の前に座っていた。


「以上が王宮からの通達です。A級クランの皆様には半強制的ですが『災厄の使徒』の討伐に協力してもらいます」


「マジか・・・大災害規模の『災厄の使徒』だと・・・」


「嘘でしょ・・・100万もの魔物って・・・」


「いや、まだそう悲観的になることも無いだろう。災厄の居場所は判明しているんだし、王都へ襲来するとしても迎撃の準備ができる」


「だが討伐に向かうのには位置が丁度イートス草原の真ん中ってのがな・・・」


 ギルド職員のアデリーナが冒険者ギルドの緊急招集で王都に現在存在するA級クランの代表者を呼び立てて、緊急招集した概要を説明する。

 それによって各クランのマスター・サブマスターがもたらされた情報に戸惑いを見せていた。


 呼び出されたA級クランは


 『月下』サブマスター・デュオ

 『梁山泊』サブマスター(第2席)・ヒューリー

 『クリスタルハート』クランマスター・ソクラテス

 『Angel Arts』クランマスター・フェルト=ブエノス

 『黒猫』クランマスター・クローディア

 『トラベル・トラブル』サブマスター・ハープ


 と言った一癖も二癖もあるクランだった。

 この他にもA級クランはあるのだが、現在王都には居らず他国や行方不明状態だったりする。


「皆さん思うところもおありでしょうが、これは100年前以来の国を揺るがす危機でもあります。

 これは放っておくことのできない事であり、災厄の討伐は必須です。その為にA級クランである皆様方の協力が必要になります。

 特にS級冒険者の居る『月下』は必ず参加してもらいます。いいですね」


 アデリーナに強制参加を言い渡され、デュオは特に断る理由もないので災厄の討伐の召集を承諾した。

 ただ問題があるとすればS級冒険者の美刃は異世界人であり、向こうの生活との兼ね合いが上手く取れるかと言ったところだ。


「まぁ、美刃さんは何かとこちらの世界の事を気にかけてくれているから大丈夫だと思うわ」


「それは大変ありがたい話です」


「宜しいですか? 美刃さんの都合はいいかもしれないですが、俺達のように全員が異世界人のメンバーの場合はどうするんですか?」


 そう言ってきたのは『Angel Arts』のクランマスターのフェルトだった。

 彼のクランは全員が異世界人で構成されていた。

 異世界人は天と地を支える世界(エンジェリンワールド)異世界(テラサード)を行き来する為、中々こちらの世界で冒険者ランクやクランランクを上げるのが難しいのだ。

 そんな異世界人で構成されたクランにも拘らずA級クランへと上り詰めた超実力派クランなのだ。


 だが異世界人である以上、異世界(向こう)の生活もあるためどうしても今回の災厄討伐には不具合が生じる。


「こっから災厄の討伐に向かったとして、どんなに急いでも1日や2日は掛かるでしょう。

 全員が全員美刃さんみたいにずっとこっちの世界に居られるわけじゃないんですが」


 そう、異世界人には常に移動時間の問題が付きまとう。

 異世界(向こう)に戻っている間、天と地を支える世界(こちら)で活動する身体が無防備になるのだ。

 女神アリスの加護により命の危険に晒されることは無いが、それでも異世界(テラサード)に戻るたびに移動には時間がかかってしまう。


「その点は心配には及びません。

 少々手荒にはなってしまいますが、異世界人の方の身体を運ぶ為に王国軍から軍用の馬車を借り受けることになっています」


「そいつは気前がいいですね。ただでさえ災厄の討伐にはかなりの物資の搬送がいりますのに」


「ええ、それだけ冒険者の方々の協力が必要なのでしょう。尤もお客様待遇の乗り心地ではなく、物資と一緒の荷物扱いの搬送にはなりますが」


「いえ結構。運んでもらえるだけでも十分ですよ」


 王国軍からの待遇に少々驚きながらもフェルトは納得した。

 これなら移動に関しても問題も解決する。


「討伐軍は明日中に編成や必要な物資の準備等を終え、明後日の朝一に出発する予定となっております。

 我々冒険者ギルドも緊急クエストとして他の冒険者の方々に募集を掛けます。

 明日の午後には集まった冒険者の方々は討伐軍に合流して詳細を詰めていく形になりますのでよろしくお願いします」


 王国軍のあり得ない程の準備の速度に各クランの代表者たちは驚いていた。

 冒険者ともなれば緊急の準備には慣れてはいるものの、軍ともなれば準備などにかかる時間は大きくなる。大災害規模の災厄討伐の軍ともなればそれはかなりのものだろう。

 それがたった1日弱の準備で済まそうと言うのだ。


 つまりそれだけ王国は『災厄の使徒』に危機感を抱いているのだ。

 時間を掛ければ掛けただけ被害の度合いが大きくなるだろうと。


 各クランの代表者たちは明日の準備の為直ぐに行動を開始した。


 そしてデュオも準備の為クランハウスに戻ろうとしたところ、一緒に会議に出席していたトリスに呼び止められた。


「直接依頼をする暇も無かったわね」


「ですね。まさかここまでの大騒ぎになるとは思いもよらなかったですよ。こんな事ならあの時もう少しちゃんと調べていれば」


 デュオは新人研修で迷いの森に訪れていたことを思いだして苦い顔をしていた。


「それはしょうがないでしょう。デュオちゃんはあの時新人さんを率いていたんだから。

 無茶をして新人さん達に何かあったらそれはそれで問題よ。

 それに魔物の規模から言ってもう既に手遅れの状態だったと思うわ」


「確かにそうですね。それでも少しでも早く分かっているのと思うとね・・・」


「過ぎた事を悔やんでも仕方がないわよ。

 それよりも・・・デュオちゃんにご指名が来てるわよ。カイン王子から。この会議が終わったら至急王城に来るように、と」


 カイン王子と言う言葉を聞いた瞬間、デュオは顔を思いっきり引きつらせた。

 この緊急事態にも関わらずわざわざ自分を呼び寄せるのだ。厄介事だと言うのがありありと分かる。


「・・・どう考えても災厄関連の事ですよね。あああ、何で大人しくしててくれないのかな・・・」


「大人しくしていたらそれはもうカイン王子ではないような気がするけどね」


「仮にも王子ですよ。大人しくしてて欲しいですよ。はぁ・・・説得するのに時間がかかりそうだわ・・・」


 トリスは苦笑しながらもデュオを見送る。

 冒険者ギルドは今はカイン王子1人に構っている余裕はないのだ。

 カイン王子の事をデュオに任せトリスは緊急クエストの事務処理へと急いで向かった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「我も災厄討伐に同行させるのだ!」


「駄目です」


 開口一番カイン王子はデュオに向かって言った。

 無論デュオは即座に断った。


「何故だ! 我のこの目があれば災厄討伐に役に立つであろう!」


「カイン王子、確かに王子の真実の目(トゥルーアイズ)はこれと言ってない程の祝福(ギフト)です。災厄討伐に大いに役に立つでしょう。

 ですが、王子の立場である貴方様を一介の冒険者である私が戦場に連れて行くことは出来ません。しかも相手は100年前の大災害規模の『災厄の使徒』です。危険すぎます」


 デュオが断りを入れるが、この後もカイン王子は自分の()があるから連れて行けの主張の一点張りだった。

 幾らデュオがカイン王子の立場や身の危険を主張しても頑固として聞き入れない。


「はぁ・・・どうしても災厄討伐に付いて行きたいと言うのであれば、陛下や討伐軍総司令の王太子様の許可を貰って下さい」


「むぅ・・・父上は兄上の許可を貰えと言うし、兄上は碌に話も聞かずに即座に断りおった。だから我はデュオ殿にお願いしているのだ」


 カイン王子は災厄の凶報を聞くなり討伐軍を編成しているカルヴァンクル王太子に参加の要請に向かっていたりする。

 当然速攻で断られていた。


「王太子殿下はカイン殿下の身の危険を心配して要るッスよ。今回の件は普通じゃないッスから」


 護衛の騎士として傍に控えていたイーカナが、流石に今回ばかりはカイン王子の賛同側に回らず窘める側に付いていた。


「イーカナまでこう言う始末だ。我には最早冒険者に、デュオ殿に頼むしかないのだ」


「カイン王子の気持ちも分かりますが、イーカナ様の言う通り今回ばかりは相手が悪すぎます。ここは大人しく城で控えていてください」


「ええい! デュオ殿までそんな事言うのか。もういい、分かった。もうお主らには頼まん!」


 拗ねた子供のようにカイン王子はデュオに背を向け不貞腐れてしまう。

 デュオはそんなカイン王子の背に向かって一応釘を刺しておいた。


「以前みたいに黙ってこっそり抜け出そうとはしないで下さいね。そんなことをしたらもう二度とカイン王子の依頼は受け付けませんから」


「うぐっ!?」


 カイン王子はまさか見抜かれているとは思いもしなかったのか思わず反応してしまっていた。

 デュオはそんなカイン王子の反応を見てやっぱりかとため息をつく。


 カイン王子の真実の目(トゥルーアイズ)があれば城の警備を抜け出すのは容易いのは前回の誘拐事件の時に判明している。

 前回の反省を踏まえ警備は強化してはいるが、本気の真実の目(トゥルーアイズ)に掛かれば警備などないに等しいのだ。


 流石にデュオに釘を刺されてはカイン王子も諦めざるを得なかった。

 国の危機に自分の目が役にたてられないことにもどかしさを覚えていたが、それと同じくらいに冒険者に憧れるカイン王子にとって冒険者に拒否されることが辛い事でもあった。


 大人しくなったカイン王子を確認してからデュオはカイン王子の部屋から退出する。


「助かったッス。カイン殿下はどうしてもと聞かなくて手を焼いていたッスよ」


 一緒に部屋を出たイーカナがデュオにお礼を言ってきた。

 流石のイーカナも手を焼いていたらしい。


「一応大人しくなってたみたいですが注意していてください。カイン王子がその気になれば抜け出すのは容易ですし」


「分かってるっス。

 でもそれは流石にしないと思うッス。カイン殿下もこれ以上俺達の気持ちを裏切らないッスよ。前回の事で身に染みているはずッスから」


 そうであれば前回の誘拐事件も無駄ではなかったと言うところか。

 取り敢えずカイン王子の難件を片したデュオは災厄討伐の為の準備をするために早急にクランハウスへと戻った。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 一難去ってまた一難。


 クランハウスに戻ったデュオはまた別の意味での説得を余儀なくされた。

 今度の案件に上がったのは最近デュオの娘となったクオからだった。

 ついでに迷惑正義(トラブルジャスティス)のスティードからも。


「やーーーー! クオもいっしょについていくーーーー!」


「駄目よ」


「やーーー! やーーー! やーーー!」


「デュオさん! D級以下は置いて行くってどういう事ですか!」


「言葉通りの意味よ。災厄討伐にはD級以下は置いて行くわ」


「マー! クオもいっしょー! いくのーーー!」


「そんな、納得できないですよ! 国の危機に大人しく待ってろだなんて!」


 デュオは左右からのステレオ抗議に思わず頭を抱えたくなった。

 こんなことをしている暇はないのに2人とも連れて行けと喚き立てるのだ。


「おい、スティード。お前何時からサブマスターに意見できるほど偉くなったんだ?

 勿論そこまで言うからにはそれ相応の実力があるんだろうな」


 背後から聞こえた底冷えするような低い声にスティードは思わず身震いをした。

 恐る恐る振り返るとそこには『月下』No3のピノが滅多に見せない笑顔でスティードの肩を鷲掴みにする。


「あ・・・ピノさん・・・いや、これは実力云々より正義を行う事に意義があると言うか、何と言うか・・・」


「ほう、ならばお前のその正義を見せて見ろ。私が直々に見てやろう。私を納得させられるんであれば災厄討伐の同行を許可しようではないか」


「え゛? ピノさん直々にですか・・・ちょ、ちょっと待って・・・!」


 ピノはスティードの肩を鷲掴みにしたままクランホームの鍛錬場へと引きずって行った。

 デュオはスティードを引きずって行くピノに感謝しながらもう1人の抗議者の説得を試みる。


「やーーー! クオもいくのーーー! マーのことしんぱいなのーーー!」


「クオ、あたしの事心配してくれてるのよね。ありがとう。

 ね、クオはマーの事好き?」


「だいすき!」


「マーもクオの事大好きよ。だから大好きなクオが危険な目に合うのは嫌なの。

 今回の相手はマーたちだけで相手するのが精一杯なの。クオの事を守ってあげられないのよ。

 そんなところにクオを連れて行ってクオを危険な目にあわせたくないの。

 分かってくれる?」


「でもマーもきけんなんでしょ?」


「大丈夫よ。マー1人で行くわけじゃないから。ね、だから大人しくサラフィ達と一緒に待っててくれる?」


「・・・・・・・・・わかった。マーがぶじにかえってくるのをまってる」


 デュオの言葉を聞いてクオは俯きながらも納得してくれた。


「ありがとう」


 クオの頭を撫でながらギュッと抱きしめてあげた。


 何とかクオの説得をしたデュオは明日の討伐軍合流のための準備を急いでする。

 クランからの選抜メンバーに物資の補給、移動手段の確保等々。


「アルフレッドに美刃さんの連絡をお願いしてくれた?」


「はい、アルフレッドはさっき離魂睡眠で異世界(テラサード)に戻りました」


 いつも天と地を支える世界(エンジェリンワールド)に居るアルフレッドは、美刃が異世界(テラサード)に居る時によく連絡員として使われている。

 何でもニートの特権だとかのたまっているが、同じ異世界人のザックからは見習いたくない大人だそうだ。


「デュオっち、ちょっといいかな?」


 スティードを叩きのめしたピノと一緒に準備をしていたところに盗賊(シーフ)のシフィルが話しかけてきた。


 盗賊(シーフ)であるシフィルとティシリア、そして忍者のジャド達には『災厄の使徒』に関する情報を随時集めてもらっていた。

 情報は生ものな上、今回の災厄討伐に関する情報は刻々と変化していくので3人には出発までの間、情報収集に当たらせていたのだ。


「どうしたの? シフィル。何か上手くない情報でも入ったの?」


 作業をピノに任せ、デュオとシフィルは別の部屋へと足を運ぶ。

 そこでシフィルは少し躊躇いながら入手した情報をデュオへと告げる。


「トリニティってデュオっちの妹だよね?」


「え? そうだけど」


 いきなりの妹の名前にデュオは戸惑いながらも答える。


「今回の災厄の情報を提供した冒険者の中にトリニティって名前があったんだけど・・・」


「は?」








次回更新は8/26になります。

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