22.その悪意の進化は召喚従魔師
12年前、ハンドレ村を襲った大量複数の魔物は1人の少年召喚師が召喚したものだった。
少年は全てを滅ぼし己をも滅ぼす思想に憑りつかれた魔王信者だった。
その思想に従い少年は己の故郷を滅ぼしハンドレ村まで手に掛けた。
ハンドレ村で育ったデュオは兄のソロを目の前で魔物に食い殺され、自分と妹のトリニティまでもが魔物の餌食になろうとしていた。
それを救ったのが通りすがりの謎のジジイだった。
いや、通りすがりではない。少年の故郷で辛うじて息のあった少女から敵討ちを頼まれ少年を追いかけてきたのだ。
争いの結果、謎のジジイは少年を倒すことに成功した。
少年は謎のジジイの謎の攻撃により光の粒子となってこの世から消え去ったのだ。
――消え去ったはずだった。
今、デュオの目の前に居る男は間違いなくハンドレ村を滅ぼした少年だった。
体つきは少年から青年へと変化していたが、顔には間違いなくあの時の少年の面影があった。
「森でこの従魔師の実験がてら魔物の育成をしていたら懐かしい顔を見つけたんだもの。
笑っちゃったね。まさかあの時の少女がこうして目の前で冒険者をやってるとは。君あんな経験をしておいて神経図太すぎない?」
「ふざけないで。あれを笑っちゃうで済ませる様なものじゃないでしょう!
あれがあったからこそあたしは冒険者として生きているのよ。貴方になんか分かるわけないでしょうけど」
「まぁ僕には分からないね。僕にとっては魔王様が1番だし、世の中の全てが壊れてしまえばいいって思ってるし」
デュオはこれほど質の悪い魔王信者もいないだろうと思った。
タダでさえ召喚師はあらゆる魔物を召喚できる魔法によって軍隊1個大隊に匹敵する力を秘めていると言われているのだ。
それを魔王信者が使えば世の中を壊すのは容易いことだろう。
「ってちょっと待って。森での実験? もしかしてザウスの森の異常発生の魔物は貴方の仕業なの!?」
「あれ? 今頃気が付いた?
うんそうだよ。蠱毒って知ってるかな? 蛇や百足などを壺とかの同じ容器に入れて共食いさせ強い個体を作る方法なんだけど、それを魔物を使って森で行ってたんだよね」
そう言えばとデュオは今更ながらに気が付く。
ザウスの森で見かけた魔物の一部はこの男がハンドレ村を襲った時に召喚した魔物と同じだったと言う事に。
「まぁ物事には何事もイレギュラーが付きものだよね。
全然魔物に襲われないその子にも興味があったけど、何より僕に敗北を味あわせた君が出て来るとはね」
「あの時貴方を倒したのはあたしじゃなくておじいちゃんでしょ」
そう言いながらデュオはクオを男の視線から隠す。
この男の口ぶりからするとクオは何日もあの森で魔物の脅威に晒されていたことになる。
持ち前の何かが魔物に畏怖を与えクオを守っていたみたいだが。
「そうそう、あの爺さんにもお礼をしなきゃ。
でもまずは君からいっておこうか。その後は君の妹のトリニティだっけ? それともう1人の生き残りにもキッチリ死んでもらわないと。
その後でその子を実験材料にして人をベースにした最強の個体を作ろうか」
「悪いけどそんなことはさせる訳ないでしょう。今ここで返り討ちにしてあげる」
デュオはクオを抱えながら静寂な炎を宿す火竜王の先を男に向ける。
「返り討ちねぇ・・・残念だけど君にはそんな余裕はなくなるよ?
なんせこの王都の至る所に魔物を召喚したからね」
「なっ!?」
男の言葉にデュオのみならずこの場にいた全員が恐怖した。
それが合図だったかのように通りの向こう側から魔物の怒声や住人の悲鳴が響き渡る。
「ああ大変だ。ハンドレ村の時みたいに王都の住人が全滅しちゃう。あの時の村の悪夢が再び訪れようとしている。可憐な少女を助けてくれる勇者も今はいない。ああ、どうしよう!」
男は芝居がかった仰々しい口調でデュオを挑発してくる。
「これで僕に構っている暇はなくなった。でも君たちには僕の相手をしてもらうよ。
そう、もっと僕を憎むといいよ。その苦痛に満ちた表情は魔王様への最高の貢物になるのさ!」
男はあらかじめ用意しておいたのか、召喚魔法陣から3体ものデュラハン、10体ものトロールを召喚し、デュオたちを逃がさない様に隊列を組む。
「そうそう、自己紹介が遅れたね。
僕の名はアレスト=グロリワール。召喚従魔師アレスト=グロリワール。以後お見知りおきを」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アイアンゴーレムがその拳を振り下す。
背後の様子に気が付いた男は一緒に居た友人を突き飛ばし辛うじてアイアンゴーレムの拳を躱す。
「ゴゴゴ」
追撃とばかりにアイアンゴーレムは再び拳を掲げる。
男は転がるように避けてしまったため、まだ地面へへたり込んだままだった。
「おい! 逃げろ!」
友人の叫び声が聞こえたが、最早どうすることも出来なかった。
振り下される拳に恐怖しながら思わず目を閉じて最後の時を覚悟する。
だが、いつまでたってもその拳は男に届くことはなかった。
「エアスラッシュからの~~~スラッシュストライク!」
「アイアンゴーレムにはこれね。
――アイシクルランス! ファイヤージャベリン!」
さっそうと現れた赤色の女剣戦士――ジャスティが斬撃を飛ばす剣戦技を放ち、そのまま懐に飛び込んで剣戦技の強撃を叩き込む。
その後方で控えていた白色の女魔術師――フリーダが輪唱呪文で氷属性魔法の氷の槍と火属性魔法の炎の槍を同時に放つ。
最初に氷の槍がアイアンゴーレムの分厚い胸板に当たり、その直後に炎の槍が突き刺さり一瞬の熱膨張でアイアンゴーレムの胸板がはじけ飛ぶ。
「よっしゃ! 止めだ! バーストバレット!」
フリーダの横で銃を構えた魔動機術師のプロヴィデが銃戦技で魔力の弾丸を飛ばし、アイアンゴーレムの内部から更なる破壊をもたらす。
「ゴゴゴ・・・」
そのままアイアンゴーレムは力尽き動きを止めた。
「大丈夫だった?」
ジャスティは未だ腰を抜かした男に怪我はないか話しかけると、男は自分が助かったことに安堵しジャスティに礼を言ってくる。
「ああ、助かったよ。まさか町中で魔物に襲われるとは・・・」
「本当よね。何か他の所にも魔物が現れているみたいだから早く避難した方がいいよ」
ジャスティの言葉を受けて男は直ぐに友人と結界のあるAlice神教教会へ向かう事にした。
友人は余程怖かったのか、さっきまで門の外へ騎士団の魔物討伐を見ようとしていたのが嘘のように慌てて避難する。
「さて、ボク達は町中で暴れ回っている魔物を排除していこう」
「そうね、流石にこのまま見過ごすわけにもいかないわね」
「うへぇ、帰魂覚醒していきなり魔物の殲滅戦か~。キッツいなぁ」
「ほら、ボヤかない。昨日森でデュオに助けてもらった恩返しだと思おうよ」
イマイチ動きが鈍いプロヴィデにジャスティは活を入れて魔物退治へと向かう。
「魔物が町中で暴れ回るだなんて、何が原因なのかしら・・・?」
ジャスティとプロヴィデの後を追いかけながらフリーダはこの騒動の原因を考えるも、それに答えれる者はここには居なかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王都西区外周区――下層区とも呼ばれるこの区域にも魔物が現れていた。
3mもの体躯を有する大きな虎。その牙は口からは見出し2本の剣と化している。
ソードファングタイガー。別名、牙刃虎。
異世界にもサーベルタイガーと呼ばれる2本牙の虎が存在したと言われるが、このソードファングタイガーの牙はそれすらも上回る切れ味を持つ牙を持っている。
そのソードファングタイガーが3人の子供に襲い掛かろうとしていた。
「うひゃあ! マジでこれヤバいよ!」
「ピーターどうするの!?」
ザウザルド孤児院の年長組のルフェルとミンティは迫りくるソードファングタイガーにビビりながらもしっかりと向き合っていた。
2人のリーダー格であるピーターもしっかりとソードファングタイガーを見据えて手にした木刀を突きつける。
「俺が何とかここを食い止める。お前らは孤児院へ逃げてこの事を知らせろ」
「いや、幾らなんでも無茶だよ。俺達の焼き付け刃じゃ敵いっこないよ」
「ピーターも一緒に逃げようよ!」
「大丈夫、無茶はしないよ。避けることに専念すれば時間は稼げる。
俺達はあのフェルさんみたいになるんだろ? これくらいの事でビビってちゃフェルさんみたいになれないよ」
ここに居る3人はカイン王子が誘拐されたとき一緒に攫われた子供たちだ。
その時に助けてもらった黒髪の巫女・フェルに憧れを抱いている。
今こうして勇気を振り絞ってソードファングタイガーに向かい合っているのもその時の経験があるからだ。
とは言え、流石に子供だけでソードファングタイガーに向かうのは無茶であった。
ソードファングタイガーはあっという間にピーター達に迫り、その刃の牙で子供たちを切り刻もうとした。
ガキンッ!
だが子供たちの間に割り込んだ白と赤の人物の2本の刀がソードファングタイガーの牙を防ぐ。
割り込んできた白は白衣、赤は緋袴、即ち巫女装束だ。その姿は先日ピーター達を助けてくれた黒髪巫女フェルを思い出させる。
ピーター達はフェルが再び助けに来てくれたと喜んだのもつかの間、見上げてみれば流れる様な艶のある黒髪は見えずに白い頭部があるのみ。
よくよく見ればその白い頭部は頭蓋骨だった。
「うわぁぁぁ!?」
「スケルトン!?」
「はうぅぅぅ!?」
思いもよらぬ闖入者にピーター達は腰を抜かしてしまった。
ピーター達には巫女装束を身にまとったスケルトンにしか見えなかったが、このスケルトンはかつて『不死者の王』と呼ばれたアンデットの眷属であり、最強のアンデットと言われたスケルトンロードだったりする。
巫女スケルトンロードは子供たちが無事だと分かると頭をカタカタ鳴らす。
最初はその様子に不気味に思えたピーターだったが、次々繰り出されるソードファングタイガーの攻撃を防ぎながら自分たちを庇っていることに気が付いた。
「おい、今のうち逃げるぞ」
「え?」
「こいつは俺達を助けてくれているんだ。だったら今のうちに逃げるんだよ!」
呆けていたルフェルとミンティを奮い立たせ、ピーターは巫女スケルトンロードに軽く頭を下げて一目散に逃げ出した。
それを見届けた巫女スケルトンロードは刀を構え直し、ソードファングタイガーに向かって二刀流戦技と刀戦技の複合技を叩き込む。
『桜花十字閃!』
巫女スケルトンロードの戦技を受けたソードファングタイガーは自慢の牙を折られ、そのまま頭を切り落とされた。
ソードファングタイガーの死骸を一瞥した巫女スケルトンロードはそのままこの場を立ち去る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いーい、みんな! ここは私達『ケモモフ大進行』の数の利を生かすところよ!
シャロット第一部族とエリザベート第二部族は南に向かうのよ。
ダイアナ第三部族は西に、プリコット第四部族は北へ向かって。シーデレラ第五部族はこの場に残って魔物の殲滅及び住民の救助に当たって!」
突如王都に溢れ出た魔物に対し、B級クラン『ケモモフ大進行』のクランマスターのベネットは素早くクランメンバーに指示を出し、住人の保護を優先させ魔物の殲滅に向かわせる。
『ケモモフ大進行』はクランメンバー全員が従魔師と言う異色のクランだ。
そのモットーはケモモフを愛でる事のみで特に細かいルールは存在しない。
それ故か、『ケモモフ大進行』には大勢の人数が所属していた。
とは言え、魔物を従えるためにはそれなりの強さが必要になってくる。
おのれのケモモフ欲を満たすため、クランメンバーの殆んどはC級以上と言う強者が集う集団だ。
それぞれのクランメンバーの傍らには大小無数の魔物が付き従っている。
それは大きな狼だったり、真っ赤な熊だったり、ふわふわもこもこの三本角の羊だったり。
クランメンバーに加えて付き添う魔物も数に入れればかなりの手助けになるのだ。
「ベネット酋長! 東はどうするんですか?」
「東は大丈夫よ。貴族区域だから騎士団が対応するわ。
だから私達はそのほかの区域の魔物を倒すことよ!」
第五部族を纏めるシーデレラは東方面に人手を向けないことに疑問を持つが、ベネットが言う通り東区は貴族区域の為、おいそれと一般人が中に入ることは躊躇われる区域なのだ。
そしてそれぞれの貴族に使える騎士や、王宮から派遣されている騎士団が駐在しているため、わざわざ『ケモモフ大進行』が向かう必要はない。
「さぁ! まずはこの区画の掃討から始めるわよ!」
ベネットは側に控えていた巨大な獅子に指示を出し魔物の討伐を開始する。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「トリプルショット!」
「クリティカルショット!」
「ショートスラッシュ! トライアングル! クリティカルエッジ!」
弓道士のアリアードとサラフィの放つ矢がトロールを穿つ。
その隙をついて短剣士のロイドが懐に入り込み短剣戦技の連続技でトロールを打ち倒す。
これで倒したトロールは4匹。
残りはデュラハン3体と6体のトロール。そして操られているゴウエン。
デュラハン3体は武装法師のハックと魔想闘士のウルミナが抑えている。
特にウルミナは狼人の獣人の為、身体能力が突出しているのでその職業と相まって素早い機動力で攪乱するのに向いているのだ。
今この場でデュオとウィル以外で冒険者ランクが高いのはB級のアリアードだけだ。
ロイド、ハック、ウルミナはC級でサラフィに至ってはD級とやっと一人前になたばかりのランクなのだ。
よって、取れる戦術はハックとウルミナの2人がデュラハンを抑えている間、アリアードとサラフィが援護しつつロイドが1体ずつトロールを確実に葬る方法を取る。
出来ればウィルもデュラハンやトロールの方に回したいのだが、ゴウエンを抑えるので精一杯でそちらに戦力を回す余裕はない。
そしてデュオと言うと、クオを抱きかかえたままアレストと対峙している。
アレストが新たに呼び出した5体もの一本角のオーガとも。
「貴方・・・! よくもまぁあたしの前でオーガを呼べたわね」
デュオは憎々しげにオーガを睨みつける。
「君のお兄さんが殺された魔物なんだって? ははは、そりゃあ目の前に敵が居れば怒るのも当然か。これは失敗したかな?」
失敗したと言っているもののアレストはワザと煽るようにデュオを挑発する。
デュオはアレストを睨みながらも素早く呪文を唱えてオーガに向かって解き放つ。
「フリーズバインド! スネークボルト!」
氷属性魔法の束縛魔法で氷の蔦が5体のオーガに絡みつく。
そして氷の蔦を伝い雷属性魔法の雷の蛇がオーガに電撃を浴びせる。
対象を複数にした為か倒せたのは5体の内4体だけだった。
残った1体は電撃を浴びながらも束縛魔法が解けた途端、デュオに向かって襲い掛かる。
デュオはサイドステップでオーガの攻撃を躱しながら、再び呪文を唱え魔法を放つ。
「スタンボルト! ファイヤージャベリン!」
雷属性魔法のショック魔法で動きを止め、火属性魔法の炎の槍をほぼゼロ距離射程でオーガの顔面へと放つ。
「おおー、お見事。流石はA級冒険者だ。
だけど魔物はいくらでも呼ぶことが出来るんだよ」
そう言うと召喚陣から再び一本角オーガが5体現れる。
「・・・っ! またっ!」
「ははは、どうしたの? こんなところでもたついて。急がないと町中の人が危ないよ?」
更なる挑発をしてくるアレストにデュオの頭は怒りや憎しみで一杯になる。
最早デュオの目にはアレストしか映っていない。
それがアレストの狙いだった。
人間を調教する特殊条件として、負の感情で埋め尽くされている事が最低条件となるからだ。
上手くいけばA級冒険者の『鮮血の魔女』が自分の配下になる。そう思っていたのだが、思わぬ所から邪魔が入った。
「マー! ダメー! おこっちゃメー!」
抱いていたクオがぺちぺちと叩きながらデュオの怒りに満ちた目を覚まさせたのだ。
「マー、おこっちゃマーじゃなくなっちゃう」
クオの言葉にデュオはハッと気が付く。
自分が自分でなくなる。それはアレストが自分をゴウエンのように調教しようとしていたのではないかと。
「そう言う事ね・・・さっきから必要以上に煽ってたのはこのためだったって訳ね」
「チッ 余計な事を・・・」
目論みを外されたアレストは舌打ちをしながら抱かれているクオを睨みつける。
そんなアレストを見たデュオはいくらか溜飲が下がる思いをした。
「ふふん、うちの子は優秀だからね!」
「所詮一時しのぎにしかならないよ。ほら、君のトラウマの一本角オーガがこんなにもいるじゃないか。
このオーガを目の間にしてちょっと冷静になったくらいで怒りが収まるわけないじゃないか」
アレストの言う通り、目の前にはトラウマの一本角オーガが5体も居る。
クオによって冷静になることが出来たが、このオーガを前にするとどうしても兄のソロが殺されたことを思いだしてしまう。
そんなデュオの心情を察したのか、抱かれているクオから思わぬ言葉が発せられた。
「マー、マーがこわがっているあれ、クオがやっつける!」
クオの口から流暢な呪文が紡がれる。
その様子をデュオのみならずアレストまでもが凝視していた。
「しゃいにんぐふぇざー!」
クオの周囲に現れた無数の光の羽は5体のオーガに向かって放たれ、あっという間に倒してしまう。
オーガだけではない、アリアード達が相手していたトロールやデュラハンもクオの魔法により倒されていた。
「な・・・っ!? まさかこんな小さな子がこれほどの魔法を操るなんて・・・
これは是非とも実験材料にしたいところだけど、流石にこれ以上はちょっと無理っぽいね。仕方がない、今日の所はこの辺にしておいてあげるよ」
アレストはまだ召喚によって魔物を呼ぶことが出来るが、デュオだけならまだしもクオの魔法も加われば消耗戦では不利と感じた為、撤退することにした。
デュオを調教するまたとないチャンスだったが、次の機会を狙う事にする。
「逃がすわけないでしょう! アリアード!」
「トリプルショット!
――バインド!」
デュオの意図を理解したアリアードは弓戦技で3本の矢を同時に放ち、アレストの周囲に三角形になるように地面に撃ち付ける。
そしてその3本の矢を起点として土属性魔法の束縛魔法で縛り付ける。
「チェーンバインド!」
それに被せるかのようにデュオも無属性魔法の束縛魔法を放った。
2つの束縛魔法が相乗効果をもたらし、三角形の魔法陣を模った3本の矢が束縛魔法を増幅させ、強固となった蔦と鎖はアレストをその場に縛り付けた。
「くっ、猪口才な真似を・・・! ゴウエン!」
アレストの声に反応してウィルと切り結んでいたゴウエンは己が傷つくのも厭わずに迷わず背を向けアレストを縛り上げている束縛魔法を斬り裂く。
普通であれば各属性の束縛魔法は一度発動すれば解除することは出来ないのだが、ゴウエンの取った手段は解除ではなく身代わりだった。
魔法剣によって一度綻んだ束縛魔法に強引に割り込んでアレストを押し出しゴウエンがそのまま代わりに蔦と鎖に縛り付けられる。
その一瞬の隙を使いアレストはガルーダを召喚し、その背に跨って飛び去ってしまった。
「くっ! このまま逃がすもんですか! 直ぐに追いかけるわよ」
飛び去って行くその背中をデュオは悔しそうに見つめるも、この惨状を引き起こしたアレストをこのまま逃がすつもりはなかった。
「あ、いや、でもどうやって追いかけるんですか? 相手は空を飛んで逃げちゃったし、どこに逃げたかもわからないですよ」
「それよりもこの町中の状況をどうにかする方が先じゃないですか?」
サラフィの言う通り、空を飛ばれてしまっては何処に逃げたのかは探しようがないのだ。
飛んでいった方角は分かるのだが、まさか素直にそのままその方角に行くわけでも無いので探す手段が無ければ探しようがない。
そしてアレストが逃げ去ったからと言ってこの王都の状況が収まるわけでは無い。
ロイドの示す通り、未だに王都中に魔物が暴れまわっている。
召喚魔法には即時召喚と通常召喚が存在している。
即時召喚は戦闘などで一時的に召喚する方法であり暫くすれば呼び出された魔物は送還されてしまうが、通常召喚は召喚者が意図的に送還しない限り命が尽きるまでその場に留まる為、魔物を倒さなければ送還することが出来ないのだ。
今回王都に呼び出された魔物は当然通常召喚によって呼び出されたものだ。
その為、アレストが逃げた今でも王都の中でとどまっている。
アレストの逃げた先の捜索、王都の魔物の後始末、この2つを同時にこなすのは流石にデュオでも不可能だ。
デュオはどうするか頭を悩ます。
「クオ、あのひとのにげたさき、わかるよ」
「へ? クオ分かるの?」
「あぃ、あのひとのやなまりょく、みえるの」
流石はS級以上の力を秘めた幼女と言うべきか。
調べた結果、普通の狐人の獣人だと言うが、この急成長具合は最早普通とは言えない。
やはりクオにはまだ何かがあるのだろうか。
「おい、デュオ! ゴウエンや王都の事は俺達に任せろ! お前はあの腐れ野郎を追うんだ」
束縛魔法の効果が切れ始め拘束から逃れようと暴れるゴウエンに対峙しながらウィルはこの場を任せろと言ってくる。
「こういう時こそクランの仲間を頼れ。
そして俺達だけじゃない。王都には他のクランもいるし、大勢の冒険者が居る。
これくらいでへこたれる王都の冒険者はいないぜ」
「ウィル・・・」
「おら、さっさと行け! もたもたしてたらあの腐れ野郎を逃がしちまうぞ」
「分かった、ここは任せるわ。いい、無茶はしないでね!」
「へっ、俺を誰だと思っているんだ。『月下』の『蒼剣』だぜ」
デュオは滅多に使わない古式魔法の飛翔魔法・レイウイングでクオを抱えたまま空を飛び、アレストを追いかける。
滅多に使わないのは未だに制御が不安定だからだ。
暴れる風の魔力を制御し、クオがアレストの魔力が見えると言う方向へ強引に軌道修正する。
「おし! まずはゴウエンを多少手荒でもいいから取り押さえるぞ!
その後でもう既に他のクランも動いていると思うが、『月下』も他のクランと協力して魔物の討伐に向かう。
ウルミナはまずはピノを捜して状況を説明し指示を仰いで『月下』の全メンバーを動かさせろ!」
ウィルはデュオを見送った後、残りのメンバーに指示を出してこの状況をさっさと片付けようと奮闘する。
次回更新は6/30になります。




