20.その保護せし幼女は敵か味方か
ジャスティは現在の状況を打破する方法を考える。
隣には長年のパートナーのフリーダが控え、その後ろでは異世界での幼馴染のプロヴィデが結界を張っている魔動器の調整を行っていた。
「プロヴィデ、結界は後どれくらい持ちそう?」
「あー、どんなに頑張っても後30分弱と言ったところかな」
「そう・・・2日しか持たないのを3日持たせたんだからそれでもマシな方だね」
「まぁね。何せ俺の腕がいいからな。褒めてもいいぜ?」
「そうね、褒めてこの状況を解決できるならいくらでも褒めてあげるけど」
結界の外では上半身が螳螂・下半身が蜘蛛のマンティスパイダーが虎視眈々とジャスティ達を狙っていた。
このままでは結界を張っている魔動器の魔力が切れてしまい、マンティスパイダーの鎌の餌食になってしまうのだ。
何故このような状況に陥ったのか、ジャスティは3日前までの行動を振り返る。
冒険者ギルドで受けた依頼はデュアルホースの角の採取だった。
デュアルホースはザウスの森の中部に生息しており、C級冒険者の相手としては十分対処可能な魔物だ。
だが森の中部でデュアルホースを捜索しているとザウスの森では見たことのない魔物に遭遇したのだ。
ジャスティ達は森には居ないはずの魔物と言うことで下手な攻撃は危険と判断し、直ぐに撤退した。
だが、逃げた先にも居ないはずの魔物が存在した。
当然先ほどと同様に撤退した訳だが逃げた先がまずかった。
気が付けばザウスの森の深部に入り込んでいたのだ。
そして深部にも見たことも聞いたこともない魔物で溢れていたのだ。
このままではマズイと判断したジャスティは緊急避難として虎の子の結界魔動器を発動させ、一縷の望みを賭けて他の冒険者の救出を待ったのだ。
だがいくら待てど深部まで来る冒険者は現れなかった。
現れたのは見たことのない魔物ばかりだった。
幾つかの魔物は興味を失うと余所へ行ってしまうのだが、中にはジャスティ達を獲物として捕らえようと結界の外で待ち続ける魔物も居る。
目の前に居るこのマンティスパイダーもその内の1匹だ。
最初の内は結界を利用してヒット&アウェイで何とか居ないはずの魔物を倒していたのだが、周囲に散らばる魔物の死骸が他の魔物を呼び寄せてしまい悪循環に陥っていたのだ。
今では魔物が去るのを待つだけになっている。
「はぁ、何でこういう時に限って誰も来ないんだよ」
「もしかしてこの居ないはずの魔物たちが関係しているのかもしれないわね」
普段は要らない時に魔物とバッティングしたりと他の冒険者とかち合うのだが、ピンチの時には何故会わないんだとプロヴィデは愚痴を言い始める。
その様子を見ていたフリーダは冒険者が来ない原因がこの魔物そのものにあるのではないかと予想していた。
「どういう事?」
「もしかしたらだけど、ギルドで原因不明の魔物の発生に森の出入りを禁止している可能性があるわ」
「ちょっと・・・それって誰も助けに来てくれる人居ないって事じゃない」
「そうなるわね。定期的に空にファイヤーボールを上げているにも拘らず誰も来ないとなるとその可能性が高いわ」
魔術師であるフリーダは周囲に気が付いてもらえるようにと一定時間ごとに火炎球を空へ打ち上げていたのだが、今のところ誰もくる様子はなかった。
「マジか・・・マジで俺達ここで終わりなのかよ」
絶望を叩きつけられたプロヴィデはもうどうにでもしてくれと地面に横たわり四肢を投げ出す。
「まだよ。まだあきらめちゃ駄目。最後まで抵抗するよ」
だがジャスティはまだ諦めていなかった。
結界が切れたとしても何とかして目の前の魔物を屠り生き延びようと策を模索する。
「もうこうなったらジエンドだろ? 何で諦めないんだよ」
「それはかつての私達のマスターが最後まで諦めなかったからかしら?
諦めない事で生きる道を示し続けたのよ。ジャスティはそんなマスターを尊敬していたの。だから私たちも最後まで諦めないのよ」
フリーダの言葉にプロヴィデは2人を導いたと言うマスターに少し嫉妬を覚える。
そのマスターと離れて長くなるのに、今ここに居ないのにも拘らず2人をなお導き続けている。
そのことに男として少し悔しかった。
そしてそれがプロヴィデの心に再び闘志の炎が灯る。
「はっ、ここに居ない奴に負けて堪るかよ。
いいか、俺がお前らを生きて王都へ連れて帰ってやるよ!」
「そう来なくっちゃ。それでこそボクの幼馴染よ」
ジャスティは剣と縦を構え、プロヴィデもメイン武器である銃を構える。
フリーダはそんな2人を見ながら援護するべく呪文を唱える。
結界が切れようとした瞬間、3人は生き延びる為目の前のマンティスパイダーに向かって行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
デュオとティティとゴウエンの3人の調査隊はザウスの森の深部まで来ていた。
深部に来るまでの道すがら、森では見たことのない魔物を狩りながらの調査となっていた。
「一体どうなってるんだろうな、ザウスの森。
ホントに見たことのない魔物だらけになってるじゃねぇか」
「だねぇ。クリスタルウルフにシャドウウルフ、ミノタウロスにサイクロプス、ゾンビナイトにデュラハン、ギガントリザードにトロールバーサーカー。どれもこんなところで見かける様な魔物じゃないもの。
しかもクラーケンなんて海の魔物まで居るのには驚いたよねぇ」
ゴウエンが思っていたよりも居ないはずの魔物が跋扈していたのに驚いていたのに対し、ティティはこれまで会った魔物の名前を上げていく。
どれもザウスの森で会うような魔物ではない。
魔物の種類をとっても氷系の魔物もいれば不死系の魔物もいる。巨体な魔物もいればティティが言ったように海系の魔物まで居る始末だ。
デュオはティティが上げた魔物の名前に何か引っかかるものがあった。
その引っかかりは大事な何かを思い出せと警鐘を鳴らしているようにも感じる。
だがその何かを思い出そうとすると霧を掴むように直ぐに霧散してしまう。
「魔物の種類もバラバラ、ランクもバラバラ、何が起こっているんだ?
こりゃあ、原因を探るのはちとムズいんじゃねぇか?」
「確かに共通点や法則が見つからないから原因を探るのは困難ね。
でももしかしたらあたし達が知らない何かがあるのかもしれないわ。取り敢えず期限いっぱいまで原因を探してみましょう」
「了解。1日で決着が着くと思ったがちと甘かったか」
「それよりも森に取り残されている冒険者も忘れないでね。ウルちゃんの鼻だと深部の方に逃げて行ってるみたいだから急いだ方がいいかも」
冒険者ギルドがザウスの森を封鎖した後に戻ってこず、中に取り残されたと思われる冒険者は3人だ。
C級冒険者で剣戦士のジャスティ、魔術師のフリーダ、魔動機術師のプロヴィデ。
冒険者ギルドから貰った資料には3人の簡単な詳細が載せられていた。
流石にC級には森の深部の魔物の相手は厳しい。
ましてや今はあり得ない魔物が跋扈している。
「そうね、急いだ方がいいわね。
そう言えば、深部の方には魔物が寄りつかないエリアがあったわね」
「あ~、あったね。確か『生きる石』の所だったけ」
「少しでも森の情報を集めていれば、C級と言えど生き延びるためにそこに向かっている可能性があるな」
「けど、居ないはずの魔物も『生きる石』のところに寄りつかないのかしら。
生き石の所も調査しておいた方が良さそうね」
『生きる石』と言っても、石が生きているわけでは無い。
どういう原理か未だに解明されていないが、このザウスの森の深部の一角には魔物が寄りつかないエリアが存在する。
そのエリアには3m程の巨大な石がそびえ立ち、傍には文字が刻まれた小さな石が並んでいるのだが、長年の雨風にさらされた所為か今では僅かな文字しか残っていない。
辛うじて読めるのが『 生石』と書かれているので、この魔物が寄りつかないエリアを通称『生きる石』と呼んでいるのだ。
だが魔物が寄りつかないのは従来のザウスの森の魔物であって、居ないはずの魔物たちに適用するのかは不明なのだ。
「確かこっちの方・・・あり? ウルちゃんが『生きる石』の所で何か見つけたって」
ティティは隣に立っている狼の魔物・フェンリルナイトが生きる石の方に鼻を鳴らすと、そのエリアで何かが居るのを見つけたと報告してくるのを2人に伝えた。
「もしかしたらそのC級冒険者の奴らじゃないのか?」
「可能性ありね。ティティ、『生きる石』の所までの先導お願いね」
「ほーい。ウルちゃん周囲警戒しながら行くわよ」
フェンリルナイトとティティを先頭に、真ん中にデュオ、後方警戒をしながら殿をゴウエンが務め、3人は『生きる石』の所へと向かう。
向かってすぐに新たな居ないはずの魔物の3匹のレッサーデーモンが現れたが、3人と1匹によってあっさりと返り討ちにされる。
暫く進むと目的地の『生きる石』へとたどり着いた。
心配していたのとは裏腹に、魔物が1匹もいなかった。ここは他の魔物同様、居ないはずの魔物も寄りつかないエリアであることが確認された。
だが魔物だけでなく居ると思われた人の姿も見えない。
デュオも魔力探知で、ゴウエンも気配探知で『生きる石』に人がいるのを確認していたのだが、ざっと見渡したところそれらしき影は見当たらない。
「おかしいわね。ティティ、ここで間違いないのよね?」
「そうだよ。う~ん・・・ウルちゃん、匂いはまだ残ってる?」
フェンリルナイトは鼻をひくつかせると、ティティに巨石の前に人がいることを示した。
よく見れば狐人の幼女が蹲っているのが見えた。
まだ1~2歳くらいの赤ん坊とも言える狐人の幼女はその小さな体を丸め、体の丈もある大きな尻尾で体を覆いながら寝息を立てている。
「こんなところに幼女? ・・・取り敢えず保護しないと」
「待て! こんなところに幼女なんて幾らなんで怪しすぎるだろう。無警戒に近づくな」
ゴウエンは幼女を見た瞬間からアレは本能的にヤバいと感じていた。
幾ら安全地帯とは言え、魔物の跋扈する森の中で幼女が1人だけと言うのは怪しすぎた。
周囲には大人は誰もおらず、どうやってここに来たのかすら疑問が残る。
そして幼女から感じる何かがゴウエンの本能を刺激していた。アレは人じゃないと。
それはデュオも同様に感じていた事だ。
幼女1人だけと言う状況もさることながら、寝息を立てている幼女から感じる何かが普通じゃないと訴えかけている。
だがデュオは何か普通じゃないと思うと同時に、この幼女を保護するべきだと感じていた。
「そうね、確かに状況的に怪しいわよ。でも流石にこの状況であの子をこのまま放置するわけにもいかないでしょう?」
「お前はアレを人と呼ぶのか? 俺にはどうもそうは見えない。
もしかしたらこの居ないはずの魔物もアレが原因じゃないのか?」
「あの子が魔物を呼び寄せたと言うの?
どう見ても赤ん坊と変わらないのにそこまで知能があると思えないわよ」
「別に知能は必要ないさ。存在そのものが魔物を引き寄せる何かかもしれない」
ゴウエンの言わんとすることも分かる。
己の意思とは関係なく魔物を引き寄せる体質や魔物に好かれる体質の者がおり、それが高じて従魔師や召喚師になる者もいる。
あの狐人の幼女もその類いのものではないのかとゴウエンは疑っているのだ。
ただこの状況を鑑みれば、その体質が異常なまでの魔物の引き付けと言う事になる。
「従魔師のティティから見てあの子はどう感じる?」
「う~ん、何ともいえないね。
少なくとも魔物に好かれる感じじゃないかな? ウルちゃんが警戒しっぱなしだし」
「見ろ、最上位種であるフェンリルナイトですら警戒してるんだ。アレはヤバい。寝ている今のうちに殺しちまうぞ」
ゴウエンのいきなりの討伐宣言にデュオは驚愕する。
「ちょっと! いきなり何を言い出すのよ! まだあの子が原因と決まった訳じゃないでしょう。もしこれであの子が全く無関係だったらどうするのよ」
「デュオこそ分かっているのか? アレが原因で王都が魔物に蹂躙されたらそれこそお前が責任を取れるのかよ」
「・・・王都の住人の為にあの子1人の命を犠牲にしろって言うの?」
「そうだ、アレの命一つで王都が救われるんだ。
時には犠牲も必要だ。少数の犠牲で大勢を救う。上に立つ者はそう言う決断も必要になる。デュオもクランの上に立つ者だ。俺の言う事も分かるはずだ」
「いいえ、分からないわ」
「この分からず屋め」
デュオとゴウエンは意見を譲り合わずにお互い暫し睨みあう。
とは言えいつまでも睨みあう訳にもいかず、3人目の意見としてティティの考えを聞いてみた。
「あたしとしてはあんな可愛い子を殺すなんてしたくないなぁ~
ゴウエンの言う事も分かるけど、まだあの子が原因って決まった訳じゃないし」
「後になってからじゃ遅いんだぞ」
「そうならない様に動くのがあたし達の仕事じゃない? 殺すのは別として」
「今のうちに殺すのがベストなんだがな」
「そうやって簡単な方法を取って間違ってたら後悔すると思うよ?」
ティティの言葉に納得がいかないながらもゴウエンは己の軽率な行動が間違っているのか考え込んでしまう。
「いつまでもここで結論が出ない討論をしている暇はないわ。悪いけど調査隊のリーダーのあたしの意見を最優先させるわよ」
そう言ってデュオは巨石のまで寝静まっている狐人の幼女の元へ歩いて行く。
ゴウエンは警戒を最大にし、ティティは成り行きを見守る。
人が近づく気配を感じたのか、幼女は眠たそうな目を開け周囲をきょろきょろと見渡す。
「あら、起こしちゃったかな? おはよ」
幼女はデュオの姿を見つけるとじーっと見つめたまま首をコテンとかしげる。
思わずつられてデュオも首をかしげてしまう。
デュオは話しかけたのは良いものの、この赤子と言っていい幼女は言葉を理解しているのかと今更ながらに考える。
「言葉分かる?」
「うー?」
「自分のお名前言える?」
「あぅー?」
どうやら言葉による意思の疎通は出来ないようだ。
そう判断し、取り敢えず保護して王都に連れて帰ろうと抱き寄せると、それまでじっとデュオを見ていた幼女が歓喜の声を上げた。
「マー! マー! まぅー!」
「え? マー? ・・・ってママって事!?」
突然、ママ呼ばわりされたデュオは狼狽えてしまう。
どんなデュオをお構いなしに幼女は母親に甘えるように歓びながらじゃれついてくる。
「ちょっと、あたしはママじゃないわよ」
「マー! むぃむぃ~」
「ああ、ちょっと、あたしはおっぱいは出ないわよ!」
抱きかかえられた幼女はデュオの胸に顔を埋めておっぱいを要求するも、当然妊娠すらしていないデュオの胸からミルクが出る事はない。
「あはは、この子デュオの事母親って思ってるみたい。刷り込みってやつじゃないかな~」
「刷り込みって最初に見た者を親と思っちゃう、あれ?」
「そう、その刷り込み。
最初に見たのがデュオだから母親だと思い込んじゃったみたいだね」
「生まれたての雛鳥ならまだしも、人の子供が刷り込みなんてあるの? しかもどう見ても1歳か2歳の成長した子供よ」
「さあ? でも現にその子デュオに懐いちゃってるよ」
さっきまで眠っていた為か、今の幼女は元気溌剌で抱きかかえられたデュオの腕の中で暴れ回っている。
「そんな事よりこの後どうするんだ? ソレを連れたまま調査するのかよ」
ゴウエンの指摘にそう言えばと気が付く。
この幼女はもとより今森の深部には3人のC級冒険者が彷徨っているのだ。
「こ、この子はこのまま連れて行くわ。大丈夫よ。足手まといにはならないようにあたしがしっかり持ってるから」
そう言いながらデュオはバックの中から布を取出し、幼女が落ちないように自分と結ぶ。
ゴウエンは「そんな事を聞いたんじゃねぇ」と呟きながらも黙ってデュオに従って行方不明の冒険者を捜す準備をする。
「デュオ、ウルちゃんが更に奥の方に誰か居るのを見つけたわ。数は3人。多分、行方不明の冒険者だと思う。
ただ・・・冒険者の他にもかなり強めの魔物が一緒に居るみたい」
「っ! なら急がないと! ティティ、ウルちゃんに乗って先行して!」
「了解~!」
ティティはフェンリルナイトに跨り、冒険者が居ると思われる方向へ向かって駆け出す。
デュオとゴウエンも後からティティの進む方向へ追いかけて行く。
デュオとゴウエンが追いつく頃には戦闘が終わりかけていた。
襲い掛かっていたのはB級の魔物で名前はマンティスパイダーと言う。
上半身が螳螂で下半身が蜘蛛と言った昆虫系の魔物で、蜘蛛の糸で獲物を捕獲し、両手の鎌で切り刻んで食い殺すと言う狂暴な魔物だ。
だが、そのマンティスパイダーは既に満身創痍で、自慢の鎌も片腕しか存在しない。
フェンリルナイトが前面に立ちマンティスパイダーと対峙し、ティティが冒険者と庇う形で立っている。
冒険者の方もボロボロだが見たところ大きな傷を負っている様子は見えない。
途中でティティが助けに入ったとは言え、B級魔物相手にC級冒険者が健闘したと言えよう。
デュオの見立てでは特に剣戦士の腕が余程よかったのではと見当を付ける。
フェンリルナイトが素早くマンティスパイダーの懐に飛び込みその咢を持って脚に噛み付く。
マンティスパイダーはそれをさせまいと残りの鎌を振るうが、後方からティティが無属性魔法のリープスラッシュでエネルギーの刃を撃ちだし攻撃を妨害する。
脚を引きちぎったフェンリルナイトはそのまま背後に回り、上半身と下半身を繋ぐ腰の部分に再び噛み付きを行う。
「ブラッドファング!」
そこへティティの獣化付与魔法が飛ぶ。
それによりフェンリルナイトの牙に赤い光が灯り、噛み付き能力がアップする。
『ギギギギギギッギギギッギギギギギッ』
強化された噛み付きを受けたマンティスパイダーはそのまま上半身と下半身を分断され倒れる。
そしてティティは持っている短剣でマンティスパイダーの頭を短剣戦技のヴォーパルスタブで貫き息の根を止める。
昆虫系の魔物は体を切断しても暫くの間生きているのでキッチリ止めを刺すのだ。
「あ、デュオ、ゴウエン、遅いよ~もう終わっちゃったよ」
デュオたちに気が付いたティティが少々不満そうに文句を言う。
これでも全力で走ってきたのだが、ティティにとってはそれでも遅かったらしい。
もっともフェンリルナイトの足と比べること自体が間違っているのだが。
「それで、彼女たちが行方不明の冒険者で間違いないのね?」
「そうみたい。あたし達が来るまで魔導器の結界でこれまで凌いでたみたいよ」
現在は魔力切れの為沈黙している結界魔導器とその周辺の魔物の死骸を見てティティは感心する。
結界があったとは言え、C級の冒険者が森の深部の魔物や、未知の魔物に対しこれだけ応戦していたのだ。
デュオの剣戦士の腕がいいのではと言う見立てはあながち間違いじゃないのかもしれない。
「そう、無事なら良かったわ。取り敢えず今日のところは調査を終わりにして王都に戻りましょう。ゴウエンもそれでいいわね?」
「流石に足手まといを抱えたまま調査を続行しようとは思わねぇよ。
つーか、マジにソレ王都に連れて行くつもりか?」
ゴウエンは未だにデュオの懐ではしゃいでいる幼女を胡散臭げな目で見ている。
胆が据わっているのか、それともやはり何かあるのか、幼女は目の前で繰り広げられた魔物との戦闘を怖がりもせず楽しそうに見ていたのだ。
「大丈夫よ。確かにこの子には“何か”があると思うけどゴウエンが心配するようなことはないわよ。
ね~? キミは魔物を呼んだりする体質じゃないわよね~?」
「あぃ~♪」
デュオの言葉を理解しているのか幼女はうんうんと頭を縦に振る。
「ちっ、まあいい。もし何かあった時は責任を取ってもらうからな」
「ゴウエンもいつまでも突っかからないの~
それこそ王都に連れて帰れば分かる事じゃない。この子の素性も王都に変えれば詳しく調べられるんだし」
不満を隠そうとせずデュオに突っかかるゴウエンをティティが窘める。
ゴウエンもこれ以上何か言うつもりはないのか黙って帰還の準備をする。
デュオも行方不明だった冒険者たち――ジャスティ達に無事であったことを喜んでこのまま一緒に王都へ戻れることを告げる。
そのことを告げると魔導機術師のプロヴィデなどは生き延びたことに大喜びをし、魔術師のフリーダも気が抜けたのか地面へとへたり込む。
そして剣戦士のジャスティが代表してデュオに感謝を述べる。
「ありがとう。ボク達もうだめかと思ってたんだよ」
「間に合ってよかったわ。今この森は少しおかしくなっててね。現在冒険者ギルドで森を封鎖しているのよ。
あたし達はその原因の調査をしに来たんだけど、冒険者ギルドからまだ森から戻ってきていない貴女達の捜索も頼まれていたの」
「そう・・・だったんだ。ボク達は運が良かったんだね」
「運も良かったんだろうけど、貴女達の腕も良かったからだと思うわよ?」
そう言いながらデュオは周辺の魔物の死骸を見渡す。
と、そこで赤い装備に身を包んだジャスティをどこかで見たことがあるのを思い出した。
「あ! どこかで見たことがあると思ったら風月さんの店で剣の手入れをしてもらった人ね。
そっか、風月に認められた人かぁ。何か納得」
「・・・ああ! あの時の! って、確かあの時風月は貴女の事デュオって呼んでいたよね・・・? もしかして美刃さんのクラン『月下』のサブマスター『鮮血の魔女』のデュオ!?」
お互いが風月の店で見かけたことを思いだす。特にジャスティに至っては助けに来てくれたのが有名クランのサブマスターだったことに驚いていた。
「今回は事が事だからA級冒険者で調査隊が組まれたのよ。まぁ兎に角無事で何よりね。
取り敢えず今は王都に戻ることに専念しましょう」
「うん、そうだね。家に帰るまでが冒険だからね。
・・・ところで、その胸の所で包まっている子供はデュオの子供だったり? こんなところまで連れて来るなんて凄い英才教育だね」
「ちょっ!? 違うわよ!? あたしの子供じゃないから! 第一あたしはまだ16歳よ! 子供がいる歳じゃないから!」
ジャスティの思いがけない一言でデュオは大いに慌てる。
慌てふためきながらもデュオは言い訳をし、これまでの経緯を説明すると少々不審な目で幼女を見られるが、ジャスティは何も言わないでくれた。
ザウスの森の異変の原因がはっきりしない中、不安要素を抱えたままデュオたちは一度王都エレミアへ帰還する。
次回更新は6/26になります。
 




