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DUO  作者: 一狼
第0章 少女覚醒
2/81

1.その夢の先にあるのは冒険者

「よーし! 今日から俺は冒険者だ!

 デュオ! トリニティ! 俺について来い!」


「うん! あたしも魔術師としてソロ兄ちゃんをサポートするよ!」


「にいちゃ、ねえちゃ、まってよ~」


 3人の少年少女たちはハンドレ村の東にある森に冒険をしに足を踏み入れていた。

 この森には野生動物だけではなく、人々を襲う魔物も数少ないものの生息している。

 その為、村の大人たちは子供に決して森には近づくなと言い付けていた。


 だが少年たちはそんな大人の注意を軽んじて、森に冒険者として魔物退治に向かっていた。

 なんと少年――ソロは6歳と言う若さにして戦技を使いこなしていたのだ。

 兵士や冒険者でもなければ大の大人でも戦技を使うのは難しいとされているのを、このソロは既に幾つかの剣戦技を使う事が出来ていた。

 両親や周りの大人たちから持てはやされ、天狗になっていた。

 幼い時に見た冒険者に憧れもあり、ソロには魔物は自分の冒険譚としての美味しいエサでしかなかったのだ。

 実際、村に現れたはぐれゴブリンをソロ少年は4歳の時に剣戦技で仕留めたことがある。

 そんなソロが森に対する危機感が薄いのは仕方のない事だった。


 そして妹のデュオ。彼女もまた才能の秘めた少女だった。

 デュオは4歳にして魔法を扱う事が出来ていた。

 戦技とは違い魔法には更なる才能が必要とされる。

 それを既に4歳にして幾つかの魔法を使うことが出来たのだ。

 デュオもまたソロの影響によって冒険者に憧れ、いつしか兄妹で世界を股に掛ける冒険に出かけることを夢見ていた。

 そして今日、この森の冒険がその第1歩だった。


 末っ子のトリニティはまだ3歳と言う事もあるが、彼女は戦技にも魔法にも目覚めていない。

 いや、この場合上2人の兄と姉が凄すぎるだけでトリニティの様な子供が普通なのだ。

 だがそんな兄と姉を見ているせいか、幼いながらもトリニティはいつしか自分も戦技や魔法に目覚め大人たちに褒められることを夢見ていた。

 とは言え、流石に幼い子供には鬱蒼と茂った森の雰囲気は怖いらしく怯えながら2人に付いて行く。


 ソロは子供の背丈に合わせた木剣を持ち、腰には予備の武器としてナイフを下げている。

 デュオはその才能を伸ばそうとした両親に買ってもらった、小さいながらの杖を手に持って辺りを警戒している。

 トリニティは護身用として果物ナイフを持って怯えたように周りを見ながらデュオの服の裾を掴んでいる。


「ふんふふん~♪

 さぁ、出てこいよ。ゴブリンでもコボルトでも相手になってやるぜ」


「にいちゃ、怖いよ~」


「大丈夫よ。魔物が出てもソロ兄ちゃんがあっという間に倒しちゃうから!」


 ソロの願いが叶ったのか、3人の前に獲物が現れる。

 但し現れたのは野生の狼1匹だった。


「なんだ、ただの狼かよ」


 ソロは木剣を構えながら狼を睨みつける。


「デュオ、援護頼む」


「うん、任せて!

 ――ファイヤーボール!」


 デュオは呪文を唱えて先制攻撃として火属性魔法の火炎球を狼に放った。

 野生の動物は火を怖がると言う事を知っていたわけではないが、デュオは火炎球の魔法を選択した。

 対野生生物としての選択は間違っていないが、戦闘経験のないデュオには森での火属性魔法は間違った選択をしてしまった。


 ボヒュッ!!


 狼は向かってきた火炎球を慌てて避ける。その隙をついてソロが木剣を縦に構えて振り下した。


「剣戦技・スラッシュ!!」


 振り下された木剣は見事頭に叩きつけられて狼は昏倒する。

 その間、援護もおざなりにしてデュオは自分で蒔いた種を始末するので精いっぱいだった。

 避けられた火炎球は着弾と同時に周りに炎を撒き散らしていたのを、慌てて水属性魔法のウォーターボールを撃ち出して消化していたのだ。


 だがソロは目の前の狼に集中して気づかずに、倒れ込んだ狼に止めの剣戦技・スタブソードを放つ。


「剣戦技・スタブソード!!」


 木剣とは言え、勢いのついた戦技により狼の体を見事貫きその命を奪う。

 狼の体を貫いた衝撃で血が飛び散り、ソロの体に血で濡れる。


「うへぇ、血塗れになっちまった。デュオ、水を頼む・・・って何やってんだ?」


 この時になってようやくソロはデュオが水球をばら撒いて広がろうとする火を消化しているのが目に入る。


「あはは、ファイヤーボール撃っちゃったから火が広がっちゃって。

 えーと、ちょっと待っててね」


 デュオは火を消し終わった後、生活魔法のウォーターを生成し、デュオの手からは大量の水が次から次へと流れ落ちてソロの血の汚れを落としていく。

 ソロは頭から水を被り服に付いた血を洗い流し、ついでに木剣に付いた血も洗う。

 洗い終わった後には生活魔法のヒーターで服を乾かす。


 生活魔法は魔法の才能がそれほどなくても誰にでも使えるが、それはあくまでコップ1杯やマッチで火を付けると言った程度のものでしかない。

 だが才能のあるデュオが使えばそれは便利魔法と変わる。


 その間、トリニティは血だまりに沈んでいる狼を遠目に見ながらデュオにより添っていた。

 ソロが濡れた服を乾かし終えたあたりで、ふとトリニティは何かの恐怖に怯えてデュオにしがみ付いた。


「ねえちゃ! こわい!」


「ちょっと、どうしたの?

 大丈夫よ、ここにはソロお兄ちゃんが居るから」


 そんな怯えるトリニティに驚きながらデュオは彼女を落ち着かせようと手を握る。

 その時、森の茂みから1匹の狼が再び現れた。


「なんだ、また狼か。トリニティ安心しな。お兄ちゃんがまた直ぐ倒してやるから」


 そう言いながら木剣を構えるが、威勢がいいのは最初のうちだけだった。

 茂みから現れたのは1匹ではなかったのだ。

 茂みの脇からも1匹、その反対側からも1匹、後ろからも1匹、と次々と狼が現れてソロたちを取り囲んでいく。


 その数、10匹。


 そして最後に現れたのは真っ赤な毛をした狼――魔物のブラッドウルフだ。

 ブラッドウルフは野生の狼が魔物の血を啜ったことで魔物へと変化したと言われる狼だ。

 魔物と化したブラッドウルフは野生の狼の群れのボスとして君臨し、その特性上血の匂いに敏感で血を好む。


 今ここには先ほどソロが倒した狼が血を流して倒れている。

 その匂いにつられてブラッドウルフは現れたのだ。

 もっともブラッドウルフが現れなくても血の匂いに釣られて他の魔物も現れていただろう。一番早く嗅ぎ付けたのがブラッドウルフと言う事だけだ。


「な、なんだ・・・あの赤い狼は・・・」


「分かんないよ。でも魔物だってことは分かる」


 デュオは魔法を扱う事に慣れてたことで辛うじてだが魔力を感じることが出来ていた。

 そしてブラッドウルフからは微力ながら魔力を感じ取っていた。


「にいちゃ、ねえちゃ、うぅ、ひっぅ、えっぐ」


 トリニティは取り囲んでいる狼の恐怖により泣き出してしまった。

 デュオはそんなトリニティを片手で抱き寄せてもう片方の手で杖を突きだして構える。


「ソロ兄ちゃん、どうしよう・・・」


「どうしようって・・・何とか倒すしかないじゃないか」


 ソロは木剣を構えるが、虚勢を張っているだけだ。

 自分の腕なら1匹や2匹の狼ごとき敵ではない。だが3匹4匹と立て続けに襲い掛かってくれば対処できるだろうか。

 そう考えるとソロはこの時になって大人の注意を無視して森に入った自分の愚かさを身に染みていた。


「ギャウ!」


 ブラッドウルフの合図とともに2匹の狼がソロに向かって襲い掛かる。

 ソロは慌てて木剣を構えて襲い掛かる1匹の狼のその口を目がけて薙ぎ払う。

 もう1匹の狼はデュオの魔法により弾き飛ばされる。


「エアロボム!」


 空気の塊を受けた狼は地面を転がり、ソロは返す刀で転んだ狼に向かって剣戦技・ダブルラッシュを叩き込む。

 放たれた二連撃は狼の頭と延髄を砕き仕留める。

 だがソロが弾き飛ばした狼とは別の狼が背後から襲い掛かり、ソロの右腕を容赦なく噛み付いてきた。


「うわぁぁぁっ!?」


「ソロ兄ちゃん!」


 デュオは慌てて援護に入ろうとするが、更に別の狼がデュオの背後から襲い掛かる。


「ねえちゃ!」


 トリニティの声で気が付き唱えていた魔法をそちらに向けようとするが、襲い掛かってくる狼の恐怖により呪文を失敗(ファンブル)してしまった。


 デュオはせめてトリニティはと抱え込み頭を伏せるが、いつまでたっても衝撃は襲い掛かってこなかった。

 恐る恐る頭を上げてみると目の前には大きな影があった。


「ふう、間一髪じゃったな。怪我はないかいお嬢ちゃん。

 おい坊主、お主は少し我慢せい。男だったらそれくらいの傷で喚くんじゃないぞ」


 その大きな影は老人だった。

 背中まである髪や長く伸びた髭も真っ白で、顔も(しわ)だらけと一目でかなりの歳だと言うのが分かる。

 そして老人とは思えないほどの身長180cmの大柄な体格をしていて、所々傷のある年季の入った鎧を着こんでいた。

 そして右手には片手剣を、左手には盾を構えて如何にも戦士と言う風貌だった。


 先ほどのデュオに襲い掛かってきた狼は盾で弾かれ、ソロに噛み付いていた狼は剣で斬り伏せられたのだ。


 ソロは苦痛に顔を歪めながら左手で右腕の傷を押さえて蹲っている。

 デュオは慌てて治癒魔法を唱えてソロの傷を癒す。


「ヒール!」


 瞬く間に傷が治っていく様をみた老人は感心してデュオを見つめていた。


「ほぅ、その歳で治癒魔法を使うとは」


 その間にも狼はソロたちを囲むだけで襲い掛かってはこなかった。

 老人の放つ圧力に怯えていたのだ。

 だが魔物であるブラッドウルフは急に現れた老人が気に食わず、残りの狼に全力で排除するように命令を飛ばす。


「ウォォォォン!!」


 群れのボスの命令により残りの8匹の狼は一斉に老人に向かって襲い掛かった。

 だが老人は慌てもせずにゆったり剣を構えて迎え撃つ。


「ワイドスラッシュ!」


 横薙ぎに振るわれた剣は5匹の狼を首を、胴体を真っ二つにし纏めて斬り伏せた。

 その隙に横からと背後から襲い掛かるが、横からの狼に対しては盾を振り回し盾戦技・シールドバッシュにより叩き潰され、後ろからの狼に対しては後ろを向いたまま逆手に剣を持ってその首に突き立てる。

 そして攻めあぐねいていた狼に対して魔法を放つ。


「シャイニングレイ!」


 光属性魔法の閃光により最後の1匹はあっけなく息絶えた。


「すっげぇ・・・」


 目の前で繰り広げられる光景にソロは目を奪われる。

 剣と盾を駆使して戦技と魔法を放ち襲い掛かる群れの狼をあっという間に蹴散らした老人はソロにとって幼い時に見た冒険者を髣髴させた。


「さて、残りはお主だけじゃのう。

 悪いが出会ってしまった以上、魔物であるお主を見逃すわけにいかん。せめて苦しまずに終わらせてやるぞい」


 ブラッドウルフはそれはこっちのセリフだと言わんばかりに唸りを上げて己を鼓舞してくる。

 老人もそれに応えて剣を構えてブラッドウルフと対峙する。


「ガァァァァァァッ!」


 先ほどまでの狼と比べ物にならない程の速度で老人に接近するも、老人は慌てずに盾を構えて噛み付きを防ぐ。

 ブラッドウルフも真正面からは防がれるのを理解していて、盾の死角を利用して素早く背後へと回り込んだ。

 背後を取ったブラッドウルフは隙ありとばかりにその首を目がけて飛びかかる。


「じいちゃん! 後ろ!」


 だがソロの心配は杞憂で、老人はブラッドウルフの動きに対して反応しており唱えていた呪文を解き放った。


「バインド!」


 土属性魔法のバインドにより、地面より蔦が伸びてブラッドウルフは絡め取り動きを封じられる。

 そして素早く踵を返しブラッドウルフに剣戦技を放つ。


「スラッシュストライク!」


 老人の放った剣は一撃でブラッドウルフの首を刈り取りその命を終わらせた。

 辺りを警戒し、伏兵の狼や他の魔物が現れない事を確認してから剣を一振りして血糊を振り払い剣を収めた。


「すげぇ! すげぇよ! じいちゃんすげぇー!」


 ソロは老人の活躍に興奮して大はしゃぎしている。

 デュオは危機が乗り越えられたことに安堵してトリニティを落ち着かせていた。


「この・・・バカもんが!!」


 ゴン! ゴン!


 そんなはしゃいでいるソロとデュオに老人は近寄り容赦なく拳骨を振り下した。


「いってぇ! 何すんだよ!」


 殴られたソロとデュオは涙目になりながら老人に抗議の目を向ける。


「大人たちに森は危険だから入るなと言われておらなかったか?」


「うぐっ」


 ソロは老人に言われ自分たちが言いつけを破ったことをいまさらながら思い出した。

 そして一歩間違えばブラッドウルフや狼たちの餌になっていたことに今さらながら恐怖した。


「見ればお主らは戦技や魔法を使うようじゃが、使えたからと言って強いとは限らん。

 大の大人でも魔物と対峙すれば命を落とすこともあり得る。

 そんな魔物がうろついている森に子供たちだけで入るとは無謀としか言いようがないぞ。

 お主らは命を捨てに森に入ったのか?」


「俺・・・冒険者になりたくて、それで、その・・・力試しに・・・」


「あ、あたしも冒険者になりたいの。魔法があれば大丈夫だと思って・・・」


 子供特有の憧れを理解しつつも老人は二度と間違いが起きないようにソロたちに厳重に叱りつける。


「なればこそ、慎重にならなければいかん。

 無謀な突撃をするのが冒険者ではない。生きて帰ってこその冒険者なのじゃ。

 お主らはまだ子供じゃ。いくら戦技や魔法が使えても体が成長していないうちは体力のいる冒険者にはなれんぞ。冒険者になるのはもう少し大人になってからじゃな。

 それまでは大人たちの言う事をよく聞くんじゃ。さもなければ今日みたいな事になるからの。よいな」


「・・・うん、分かった」


「・・・はい」


 流石に狼に取り囲まれる恐怖を味わってしまっては今までみたいに豪語することは出来なかった。


「よし、分かれば宜しい。

 後は後始末をしてお主たちを村に届けるかの」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 老人は素材としてそれなりに金額になるブラッドウルフの毛皮を剥いで、他の狼たちは穴を掘りそこに集めて火属性魔法で焼却した。

 流石に子供たちを伴った状態で悠長に狼全部の毛皮を剥ぐことは出来なかったので仕方なしに焼いて処分することにしたのだ。


 ソロは狼を穴に入れるのを手伝い、デュオは火属性魔法で焼くのを手伝った。

 トリニティは大人しくして3人の作業を見ていた。


 作業が終わった後は老人はハンドレ村まで3人を届けに向かった。

 その道中、ソロはしきりに老人に冒険者としての訓練の仕方や冒険譚を聞き回っていた。


「なぁなぁ、じいちゃんってすっごい冒険者なのか? 剣を一振りであんなに斬るなんて初めて見たよ!」


「あんなのは冒険者にとっては出来て当たり前の事じゃ。

 魔物との戦闘は常に1対1とは限らんからの」


「そういやそっか。ふむふむ、冒険者は常に大勢の魔物と戦う事を考えなければならない、と。By・・・えーと、そういやじいちゃんの名前は?」


「む、儂の名前か? 儂は謎のジジイじゃ」


「え? ・・・いや、だから名前・・・」


「だから謎のジジイじゃ」


「・・・」


 ソロとデュオはお互い顔を寄せ合い小声で話し合う。


(なぁ、もしかしてボケているのか?)


(おじいちゃん、かなりの歳だしボケるのは仕方のない事かも)


「お主ら何か失礼な事を考えておらないか?」


 そんな2人を余所に、トリニティは最初は戦闘の気迫で怯えていた老人に慣れてきたのか懐いていた。


「じーちゃ、だっこー!」


「おー、トリニティはあの2人みたいになるなよ~?」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 村に戻ると3人の行方が分からなくなっていたので大騒ぎになっていた。

 そこへ謎のジジイが3人を引き連れて戻って来たので村人たちは安堵するとともに、森に腕試しで入ったと言う事情を聞いて驚いていた。

 特に3人の両親は驚くとともに、親に心配をかけた事、言いつけを守らなかった事、命を危険に晒した事で激怒していた。


「この馬鹿者が! 親に心配をかけるとは何事だ!

 確かに戦技が使えるから凄いと褒めたのは私が、だからと言って命を危険に晒していいとは一言も言っていないぞ!」


「ご、ごめんなさい・・・」


 謎のジジイに続いて父親にも拳骨を食らい、ソロは少し理不尽を感じながらも涙目になりながら黙って叱られていた。

 その隣ではデュオが母親に優しく抱きしめられている。


「もう、心配したんだから。あなたが凄いのはよく分かっているわ。だけどあなたは女の子のなのよ。冒険者なんて危険な目に遭うのになるのはお止めなさい。ね?」


「あぅ・・・お母さん、心配かけてごめんなさい。

 でも・・・冒険者になるのはあたしの夢なの。今はおじいちゃんに言われた通りまだ無理だけど、大きくなったら冒険の旅に出たいの。だから・・・お願い」


「・・・もう、頑固なところは誰に似たのかしら。冒険者になるのは大人になってから・・・約束よ?」


「うん、約束するよ」


 完全に懐いてしまったトリニティを抱いた状態の謎のジジイに、村長が近づいてお礼の言葉を述べる。


「ご老人、子供たちを助けていただいて感謝します。子供たちは村の宝だからですから。

 それにソロたちは将来が有望な子供です。いまここで失うには惜しすぎますから」


「助けたのは運が良かっただけじゃ。偶々用事があってこの村を目指しておったからの。

 まぁ、村長の言う事はよく分かる。子供にしては才能が有りすぎるくらいじゃ。育て方を間違えなければS級冒険者になれるかもしれん器じゃ」


「・・・それほどの才能を秘めている、と?」


 村長は謎のジジイの言葉に驚いていた。

 S級冒険者とは世界でも片手で数えるほどしかいない存在だ。

 ソロたちはそれほどの力を秘めていると言われているのだ。


「なに、ジジイの戯言じゃ。幼い時は神童と言われても大人になると平凡になるものじゃ」


「そう・・・ですね。よく言われますね。あまり期待しすぎるのも善し悪しですね。

 それはそうと、この村に用があって訪れたと」


「ああ、そのことなんじゃが、ちと聞きたいことがあっての。場合によっては数日やっかりになりたいのじゃが・・・」


「じいちゃん! もうしばらく村に居るのか!?」


 父親の説教を終えたソロは耳ざとく村長と謎のジジイの会話を聞き取り、暫く村に滞在する事を喜んでいた。


「こら! 村長たちの邪魔をしてはいかん。おじいさんと話をしたければまた後にしなさい」


「は~い。じいさん、また後でな!」


 父親に注意され、ソロは渋々引き下がった。


「おじいちゃん、あたしも魔法の事とか聞きたい! 後で聞かせてよ。絶対だよ!」


 デュオも謎のジジイに聞きたいことがあった。

 村では生活魔法を除いた所謂戦闘系魔法を使うのはデュオしかいない。そのため魔法を使える謎のジジイに魔法の事について聞きたかったのだ。


「分かった、分かった。そう焦らんでも教えてやるわい。

 今日みたいなことが無いように冒険者のイロハを徹底的に、な。覚悟しとけよ?」


 ソロたちにとっては望むところだが、謎のジジイの無駄な笑顔に少々ビビってしまう。


「それでは私の家で話を聞きましょう」


 村長は謎のジジイに詳しい話を聞くため、自宅へと招く。


「じーちゃ、ばいばい」


 抱っこしていたトリニティを母親に返し、村長へと付いて行く。

 謎のジジイの目的を達する為――いや、ある者の望みを叶える為に。






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