17.その鬼狙うは吸血鬼竜
先程まで倒れていた守護者はおもむろに立ち上がり、その身を変化させていく。
額には2本の角が生え、瞳は縦に窄まり顔には隈取の模様が浮き上がる。
髪は腰まで伸び、体つきも先ほどまでよりも重圧感溢れる肉体に変化していた。
その見た目は醜悪な小鬼や大鬼とも違い、限りなく人に近いまま鬼になったような姿だった。
『グヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッッ―――!!!!』
守護者の雄叫びがビリビリと宝物庫に響き渡る。
その雄叫びを合図にデュオは直ぐに撤退を決めた。
明らかに予測範囲外の事態だ。最初に決めていた通り依頼人のカイン王子を守るために撤退の指示を出す。
「逃げるわよ! ウィル! ハルトさん! 殿をお願い! 騎士の人たちはカイン王子の護衛を! ティシリアは先導してカイン王子を逃がして!」
緊急事態に付き、カイン王子の偽名を使う余裕もないデュオの指示を受けて弾けるように一斉に行動を開始した。
ウィルとハルトは守護者に襲い掛かり、クルサは踵を返してカイン王子の元へ駆けつける。
『ガァァァァァァッ!!!』
襲い掛かるウィルとハルトを振り払うかのように守護者はその拳を振り下しそのまま地面へ叩きつけた。
ドゴンッッッッ!!
床にクレーターが出来るほどの衝撃を受けて周囲の財宝と共にウィルとハルトは弾き飛ばされる。
「チェーンバインド!」
デュオは無属性魔法の鎖の束縛を放ち一時的でも動きを封じる。
バキンッ!
だがしかし、どんな魔物でも3分間封じると言われる鎖はあっけなく鬼と化した守護者に引きちぎられた。
「くっ!
ホーミングボルト!!」
ならばと今度は物量で動きを阻害する為、無属性魔法の自動追尾弾を撃ち続けウィルとハルトの援護をする。
その間にもティシリアを先頭にしたカイン王子一行は扉の前で立ち往生していた。
「――エラーコード881が検出されたため翔竜の間は緊急閉鎖いたします――」
宝物庫に響き渡る音声と共に部屋のあちこちからガシャンと言う音が響き渡る。
それと同時に扉からも音が聞こえてきたのだ。
「うそ!? 開かない!? さっきまでは何にも仕掛けが無かったのに!」
この宝物庫に入る時もティシリアは盗賊として罠や鍵を調べている。
その時は罠などは無く、鍵も掛ける様な仕掛けは一切なかったのだ。
「殿下、この扉を見てください!」
スモルタの指示を受けてカイン王子はハッとして真実の目で閉じられた扉を見る。
隠し扉を開けた時の要領でティシリアとカイン王子の2人で扉の鍵を開ける作業に取り掛かる。
その間にも影武者のカイン王子とイーカナ、クルサはカイン王子を囲う様にして周囲の警戒に備えた。
「馬鹿な・・・これでは、もう・・・」
「カイン王子? どうしたんですか、早く扉を開ける指示を下さい!」
ティシリアは後方ではデュオたちが守護者の足を止めているのを気にしながらもカイン王子に扉を開けるための取っ掛かりを催促した。
だがカイン王子から聞こえてきたのは解除は不可能と言う言葉だった。
「この扉には鍵は無い。守護者の緊急コードが引き金となって部屋全体が封じられる仕組みになっている。
唯一の解除方法は・・・守護者を倒すことだけだ・・・」
カイン王子の言葉を聞いたティシリア達は、守護者と戦っているデュオたちを見て絶望する。
A級冒険者が3人がかりでも全く相手になっていないのだ。
「ならば扉そのものを壊すだけだ!
鋼斬剛剣流・劫火剛斬剣!」
クルサは鋼斬剛剣流の技を扉に向かって放つも、扉には掠り傷が付くだけで破壊には及ばなかった。
鋼斬剛剣流の劫火剛斬剣は烈火剛斬剣の上位技で、攻撃力だけならあらゆる流派に於いて敵わない程の技だ。
だがその技でも扉には掠り傷程度にしか効果が無かった。
「無理だ。封鎖モードになった今はその扉の内部にヒヒイロカネが仕込まれている。とてもじゃないが破壊などは出来ない」
完全に閉じ込められてしまったカイン王子達はデュオたちが守護者を倒すのを願うだけだった。
だが鬼と化した守護者の力は最初の時とは何もかも違った。
宝物庫の財宝を壊さない様に守護者は武闘士にしたと思われるのだが、今の鬼と化した守護者には最早何の意味もない。
その鬼の体から繰り出される攻撃は破壊の余波が周囲にまで及んでいた。
ウィルの持っていた剣も最初の攻防であっさりとへし折られてしまっている。
辛うじて相手になっていたのは神木刀を持っていたハルトであり、最早周囲の財宝を気にしていられず強力な魔法を連発するデュオだけだった。
ウィルもハルト同様、財宝の中から剣を取出し守護者に向かうものの、攻撃は殆んど通じていない。
デュオたちの攻撃は守護者を足止めする程度にしかなっていないのだ。
『グガァァァァァァァァァァァァッッ!!』
守護者の振り回す拳がハルトを弾き飛ばし、掬い上げる様なけりがウィルの体を区の字に曲げる。
その都度デュオは治癒魔法を唱えながら追撃を封じるために魔法を放つが、ほんの数分で2人はボロボロになっていた。
デュオは今更ながらこの守護者の雰囲気に覚えがあった。
S級冒険者の『絶剣』美刃であり、ついこの間助けてもらった危険度SS級の魔物を屠ったフェルと同じ雰囲気だったのだ。
いや、今の鬼と化した守護者はそれ以上かもしれない。
流石にこれは判断を誤ったかとデュオは後悔した。
最早打つ手はなく、逃げる事すら敵わずこのまま守護者に殺されるだけだ。
だが天はデュオたちを見捨てなかった。
ドンッ! ドンッ! ガンッ!!
突如、扉の向こうから殴る音が聞こえた。
内部にヒヒイロカネが仕込まれているにも拘らず、扉に拳の形に凹んでいたのだ。
『おい! そこに人が居るんだったらどいてろ! 今から扉をぶっ壊す!』
まさかと思いつつもカイン王子達は慌てて扉から離れる。
ドゴンッ!!
次の瞬間、何者かが放った回し蹴りが扉を吹き飛ばす。
これで少なくとも脱出する道が開けた。そう思ってカイン王子達は扉を壊した人物を見たが、再び恐怖に襲われた。
何と扉から現れたのは今デュオたちが相手している鬼と同じ姿だったのだ。
身に着けている装備は違うが、姿形どころか顔まで同じだった。双子と言われれば納得できるほどそっくりだ。
「ひぅっ!」
もう1人の鬼の出現にティシリアは思わず悲鳴を上げる。
カイン王子達も悲鳴は上げなかったもののもう1人の鬼に警戒を露わにする。
特にカイン王子は真実の目で見てしまったが為に、その計り知れない実力に恐怖した。
「ちっ、まさかと思ったがマジで鬼神の守護者かよ。
カイ国王の奴やってくれるね。噂だけだと思ったがマジで複製品を作ってやがったのか」
もう1人の鬼はそう呟くと地面を蹴って守護者へと向かって行く。
「おらぁっ!
三連爆裂寸勁!」
もう1人の鬼の三連続の拳戦技・爆裂寸勁が炸裂し、そしてそのまま追撃で回し蹴りを放ち守護者を吹き飛ばす。
「おい、お前らは下がっていろ」
ウィルたちはもう1人の鬼が現れたことに戸惑いながらも巻き込まれまいと距離を取る。
吹き飛ばされた守護者は何事もなかったかのように着地し、そのまま自分を吹き飛ばしたもう1人の鬼に向かって来る。
本来であればウィルたちを排除するために戦っていたはずだが、今の守護者は目の前の敵を倒すためだけに動いているだけだった。
「ふん、動くものだけを狙って攻撃か。
鬼神化を上手く制御できてないな。ここら辺が複製品の限界ってところか。半端なもの作りやがって・・・
いいぜ、ここは一気に片を付けてやるよ。本当の鬼神って奴でな!」
もう1人の鬼がそう叫ぶとその姿が変化する。
角はさらに伸びて、顔は獣の咢の様に変化し、体は一回り大きくなり四肢は獣のように鋭くなる。
「ふぅぅぅぅぅ・・・鬼獣化・・・!」
守護者が繰り出す拳を、なんともう1人の鬼は獣と化したその咢で噛み付きそのままその腕を食い破る。
続けざまに回し蹴りで踵落としを決め、頭から地面へと叩きつけた。
『グガァァ!?』
「そのまま地面で寝てな」
そのまま地面に伏せていた守護者に連続で拳を叩きつける。
その1発1発が地面にクレーターを作るほどの威力が込められており、連撃が終わるころには地面に大穴があいたように陥没していた。
その中心にはボロボロになった守護者が横たわっていた。
『グガガ・・・ガ・・・』
それでも尚起き上がろうとする守護者を、獣と化した鬼が止めの一撃を放つ。
「流星拳!」
ドゴン!
地面を、いや宝物庫を揺るがすその一撃は守護者を粉々に打ち砕いた。
その残骸を見れば作られた人形――ゴーレムだと言うのが分かる。
デュオたちはこうして残骸を見て改めて守護者がゴーレムだと言う事を実感する。
それほどまでに通常のゴーレムとかけ離れた姿と性能をしていたのだ。この守護者は。
その破格の性能のゴーレムである守護者は倒れたが、デュオたちはまだ一息つくことも出来なかった。
絶体絶命の危機を結果的に助けてくれたとは言え、もう1人の鬼が自分たちの味方とは言えないからだ。
もう1人の鬼はその獣の姿を人間への姿へと変える。
その姿は守護者が最初に現れた時の人間の姿と同じだった。
「・・・貴方は何者なの? 何故あたし達を助けてくれたの?」
デュオは警戒を強めながら助けてくれた鬼に質問をする。
ウィルとハルトも助けてくれたとは言え、余りにも人とかけ離れたこの鬼に警戒をする。
一方でカイン王子達は既に守護者ともう1人の鬼の戦闘中に、破られた扉から避難していた。
最低でも依頼者――王族を逃がしてくれたティシリアに感謝しつつ、デュオはこの鬼の目的を探るため話しかける。
正直に言えばデュオもウィルたちも出来れば直ぐにでも逃げ出したかったが、下手にこの鬼の機嫌を損ねてしまえば何が起こるか分からないので慎重を期した。
「何者って言われてもなぁ・・・まぁ取り敢えず俺の事は紫電と呼んでくれ。
見ての通り普通とはちょっと違う異世界人だな」
「ちょっとどころかかなり違うと思うんだけど? と言うか異世界人? もしかしてそれ祝福だったりするの?」
「そうそう、さっきのはその祝福てやつだよ」
そうそうと言っている時点で明らかに嘘である。
それにその説明だけでは守護者と同じ姿、同じ変身能力の説明が付かない。
だがデュオは敢えてそのことに触れなかった。
「それで、助けてくれた理由は? 助けてくれたのは感謝しているけど、わざわざ隠された宝物庫まで来て通りすがりとは言わないわよね?」
「そりゃあ、ここに来たのは用があるからだよ。確かこの宝物庫に複製品だけど光の宝玉があるはずなんだ。俺の目的はその光の宝玉だな。
と言うか、かなり派手に暴れたなぁ。この守護者の奴。あ~あ、壊れてないだろうな、光の宝玉」
そう言いながら紫電は破損した財宝をかき分けて目的の光の宝玉を探し出す。
もっとも破損した財宝は宝物庫の入り口付近だけであって、奥の方の財宝は殆んどが無傷の状態だ。
そしてデュオは紫電の目的が光の宝玉だと言う事に驚いた。
光の宝玉はこの世界を支える三柱神である太陽神サンフレアを顕現させるための神器だ。
勿論、顕現させるためだけではなく、それなりに神の力を秘めている神器だ。
それが複製品とは言えこの隠された宝物庫に存在していると言うのだ。
「100年前のセントラル王国ってどんな技術を持っていたのよ。神器のコピー品って、普通あり得ないわよ」
「まぁ普通はそうだろうな。だけどセントラル王国は天と地を支える世界の中心でもあったんだ。
世界中の技術が集まってきた国でもあったんだよ。
実際、ここを守っていた守護者もその時の技術で作られたゴーレムだし」
紫電から告げられたセントラル王国の真実に言葉が無かった。
「まぁそんな訳で折角ここを見つけたのに申し訳ないんだが、光の宝玉だけは俺にくれないか?」
「助けてもらったのに駄目ですなんて言わないわよ。依頼人からも許可してもらえるでしょう」
「そっか、悪いな。
ところで・・・あんたもしかしてA級冒険者の『鮮血の魔女』のデュオか? クラン『月下』のサブマスターの。
で、こっちが同じA級冒険者『蒼剣』のウィルと『百本刀』のハルト」
一先ずデュオは安心した。
どうやら紫電はその本性の鬼と違ってそれほど凶悪な存在ではないと思えたからだ。
短い会話のやり取りだったが裏があるようには見えなかったし、どちらかと言うと頭脳派と言うよりは肉体派と言った方がしっくりきたからだ。
だがそんな安心したのもつかの間、紫電はデュオの素性を探り当てていた。
もっともデュオの姿格好を見ればおのずと予測されてしまうのも当然だったが。
「ええ、そうよ」
「そうか・・・あんたらが美刃さんのクランメンバーか。
ふむ、そうだな。ピンチの所を助けたお礼にちょっとばっかし手伝ってもらえないか?」
「それは・・・光の宝玉を譲ると言う事でお礼を果たしたことにならないの?」
悪い人ではないが、デュオは出来ればこれ以上紫電には関わりたくなかった。
あの鬼の力は美刃に匹敵するS級と思われ、その力がいつ自分たちに向くのか分からないからだ。
それだけあの鬼の力は未知数で、本当にコントロールできているのかも怪しい。
「それはそれ、これはこれ。光の宝玉はこの財宝の中の1個でしかないんだ。
ちょっとくらい助けてやった恩を感じて手伝ってくれてもいいじゃねぇか」
「・・・それ、紫電さんが言うと殆んど脅しにしか聞こえないわよ」
「心外だな。俺はただ純粋に協力を求めてるんだが。
・・・まぁ何だったらこっちから依頼と言う事で報酬も出そう。どうだ?」
「はぁ、あたし達は護衛でこの場に来ているから、依頼人に許可を貰わなければ何とも言えないわ」
デュオはカイン王子達に相談させて欲しいと言い、彼らをこの場に呼び戻すことにした。
最も助けてもらった恩+逆らえない恐ろしさにより、ほぼ紫電の手伝いは決定事項だったと言える。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「我は構わないぞ。寧ろこれほどの実力者の手伝いを出来ると言うのはいい経験になるのではないか?」
意外な事にカイン王子(カイル)は紫電の手伝いに乗り気だった。
デュオたちは再び隠し宝物庫にカイン王子達を呼び戻し、紫電へのお礼としての強制手伝いの事を伝えた。
デュオとしてはあまり乗り気ではないので何とか断れる理由が欲しかったのだが、カイン王子(カイル)は紫電に悪意が無いと分かると、逆に真実の目でも完全に見抜けないその鬼と言う未知数の力に興味を覚えたのだ。
「カイル様、ですがカイル様の身の安全は必須です。紫電殿の手伝いに付いて行くのはデュオ殿達だけで、我々はこの場で待機と言う事にしてもらいます」
「待て、それでは折角冒険に来た意味はないじゃないか。我も付いて行くぞ。
なぁ紫電殿、我も付いて行って構わないだろう?」
勿論、近衛騎士のスモルタはカイン王子を身の危険に晒すわけにもいかないのでデュオたちだけの派遣を進言したのだが、肝心のカイン王子(カイル)は付いて行く気が満々だった。
「あ~、俺としてはカイン王子のその目があればかなり助かるんだが、流石に王族に付いて来いとは言えないなぁ」
「待て、そもそも紫電殿は我々に何を手伝ってほしいのだ?」
流石に手伝いの内容が分からない状態では審議が出来ないと、副団長のクルサは紫電に差し支えなければ手伝いの内容を教えて欲しいと言う。
「あ、そう言えば言ってなかったな。
手伝ってほしいのはセントラル遺跡の魔術師協会跡地の地下にある封印された魔物退治だな。
ついでに言えば、模造品の光の宝玉が必要なのもその魔物退治に使うためだな」
「・・・何を退治するのか聞いても?」
複製品とは言え、光の宝玉を必要とする魔物だ。おまけにこの鬼が手伝ってほしいと言うほどの魔物となるとどれ程のものになるのか。
デュオはやはり嫌な予感を感じながらも紫電に退治する魔物を聞いた。
「な~に、大したことない魔物だよ。カテゴリーはドラゴン。大きさはそれほどでもないかな?
まぁ特殊能力として吸血鬼の血が入ったヴァンパイアドラゴンってだけだ。まぁこれも100年前の技術で作られた複製品だけどな」
聞かなきゃ良かった。
デュオはそう思いながら思わず頭を抱えた。
ヴァンパイアドラゴンはかつて夜の王国で封印されていた魔物であり、王族の1人の吸血鬼が竜の血で変化した魔物とも言われていた。
それを倒したのが七王神の4人である巫女神、時空神、闘鬼神、大賢神と言われている。
つまり相手は複製品とは言え七王神に匹敵する強さを持った魔物と言う事になる。
「おおお、ヴァンパイアドラゴンが相手なのか! それは是非ともこの目で見てみたい!」
「マジか! あの伝説のヴァンパイアドラゴンが相手か! こりゃあ相手にとっては不足が無いな」
「お? 2人ともドラゴンに興味津々か?」
何故かウィルとカイン王子(カイル)は手伝いの内容がヴァンパイアドラゴン退治と聞いて色めきたった。
「あの七王神が相手した伝説のドラゴンだぜ! 俺の実力が何処まで七王神に通じるのか図るのに丁度いい相手じゃないか」
「ドラゴンと言うよりヴァンパイアドラゴンだから興味があると言ったところか。
まだ未熟なれどこの真実の目でそのヴァンパイアドラゴンを見極めたいな」
無論、ウィルも己の実力が七王神に近いとは思ってもいないし、ヴァンパイアドラゴンに敵うとも思ってもいない。
実力未知数の鬼である紫電と一緒だからこそ、このような大口を叩いているのだ。
「ちょっと、ウィル。何無茶な事っているのよ」
「いいじゃないか。どのみち紫電の手伝いはするんだろ? カイル様も乗り気のようだし」
「よし、行こう、直ぐ行こう」
今にも乗り込んでいきそうだったが、そこはスモルタが止めた。
「カイル様、申し訳ないですがやはりこの場で待機してもらいます。
現場では何が起こるか分かりません。先ほどの様に閉じ込められてしまわないとも限らないのですよ」
そう言われてしまえばカイン王子(カイル)も納得せざるを得なかった。
とは言え直ぐに納得は出来ず、説得するのにしばらく時間を要した。
結果として、紫電のヴァンパイアドラゴン退治に付いて行くのがデュオとウィルとハルトの3人。カイン王子と影武者、クルサとスモルタとイーカナ、そしてティシリアの6名はこの宝物庫で待機と言う事になった。
待機組はまっている間、この宝物庫で持ち出す財宝の選別をすることになる。
ただでさえ屋敷が入るほどの広い宝物庫一面に敷き詰められた財宝を一挙に持ち出すことは出来ない。
取り敢えず王国に報告を兼ねた財宝を数点選別する必要があるのだ。
その後で改めて調査部隊が組まれてセントラル遺跡に派遣と言う形になる。
「ジャドが居れば半分くらいは持ち出しできそうなんだけどね。こんな事なら彼も連れて来ればよかったかしら」
「まぁあいつなら可能だけど、荷物持ちとして呼ばれるのが一番嫌がるぜ」
ジャドは闇属性魔法のシャドウゲージが使え、大量のアイテムを持ち運ぶことが出来るクランメンバーなのだが、ウィルの言う通り荷物持ちとして呼ばれるのが何よりも嫌いなのだ。
ジャドは元々古式戦技・忍術を使う忍者の一環として闇属性魔法を覚えたのだが、そのシャドウゲージの便利性に戦闘よりも荷物持ちとして呼ばれることが多々あった。
なので荷物持ちとして呼ばれることに何よりも嫌がるのだ。
「まぁそれは兎も角、あたし達は紫電さんの手伝いに行ってくるからティシリアはカイル様をお願いね。
もしあたし達が1日経っても戻ってこなかったら直ぐに王都に戻って美刃さんに連絡をしてね」
「気を付けてくださいね」
「よし、準備が出来次第行くぞ」
財宝の一部を先払いと言うことで、ここで装備を整えることにした。
ウィルはオリハルコンで出来たバスターソードなどを。ハルトは守護者戦で手にした神木刀ユグドラシルを。
ついでに紫電も守護者が使っていたヒヒイロカネの手甲を。(紫電の攻撃でボコボコになっていたが)
デュオは自前の装備で事が足りたので特に武具の変更はなかったが、代わりにチャージアイテムやらポーションやらの道具を揃えた。
そして全ての準備が整い、紫電の掛け声とともにデュオたちはセントラル遺跡・魔術師協会跡地へと向かった。
次回更新は5/10になります。




