16.その財宝の守護者は鬼哭く者
マザースライムを倒した後、再びセントラル城の探索を開始した一行は地下を目指していた。
噂ではセントラル城に隠された財宝は地下にあるとされているからだ。
「にしても殿下・・・じゃない、ルイン様のその目、メチャクチャ便利ッスね」
遺跡探索と言う事で、前衛のウィルと並んで罠の警戒にティシリアが先頭に立っている。
それと並行してカイン王子の真実の目で罠の警戒や魔物の探知をしていた。
もっともセントラル遺跡は殆んど暴かれた状態なので、罠などの警戒は必要なかったが。
「うむ、我もここまでこの目が役に立つとは思わなかったぞ」
「こうして見ればルイン様の目は冒険者向きですね」
「ほう、冒険者向きとな」
「ええ、盗賊に取って遺跡探索に必須の罠発見や罠の解除には持って来いですよ。後は罠解除の技術を持てばルイン様も立派な冒険者盗賊ですね!」
悪気はないんだろうが、ティシリアのセリフにデュオやハルトは頭を抱える。
小隊長のスモルタや副団長のクルサは当然の様にあまりいい顔はしない。
何も分かってない護衛のイーカナや当のカイン王子はただ純粋に喜んでいた。
「なるほど、なるほど。冒険者向きとは、この目も悪い事ばかりではないようだな」
「ルイン様、凄いッス!」
「・・・ルイン様、お気持ちは理解しますが決してそのような事はなさらないで下さい。いいですね」
「・・・むぅ、少しぐらい喜んでもいいだろう。案外スモルタも堅物なのだな」
カイン王子の立場を考えれば至極当然の事だが、しっかりしているように見えて彼はまだ5歳の子供のなのだ。
タダでさえ普段は王族と言う事で我慢を強要されるような生活をしている事を考えると、今日の様な状況でははしゃぐのは必然と言えた。
「デュオ、このまま宝物庫に向かうんでいいんだな?」
「ええ、そうね。流れている噂じゃ宝物庫の更に地下に隠された部屋があるらしいから、取り敢えずまずはそこを調べて見ましょ」
このパーティーリーダーはデュオだが、今この場に居るクラン『月下』の中で一番年上なのはハルトだ。
多少口は悪いが、見た目には冷静に物事に対処できる落ち着いた大人と言う印象を与えている。
ウィルは若さも相まって血気盛んなところもあるが、それを考慮して今回ハルトを前線メンバーへと選んでいた。
そのハルトがわざわざ確認のためとはいえ宝物庫へ向かう事を確認してきた。
デュオは何かあるのかと思い視線をハルトへと向ける。
「なに、大したことじゃねぇよ。その噂にはちと続きがあってな。
――隠されし財宝に手を付ける愚か者どもよ、己の欲望で身を破滅せよ――
って、当時のセントラル王の言葉が残されているってぇ話だ。
ま、財宝部屋には番人が置かれているのが当然だから気にすることでもないがな」
「その噂、初めて聞いたわよ。ねぇ、どこから仕入れたのかしら?」
初めて聞く噂の続きに盗賊であるティシリアが興味を覚えた。
当然デュオも初めて聞く噂だ。
このセントラル遺跡に来るに当たり一応改めて情報を確認していたのだが、そんな噂は聞いたことが無かった。
「これは昨日今日出てきた噂だから聞いてねぇのも当然だよ。
何でも最近セントラル遺跡に鬼が現れたとか、鬼が現れると同時に遺跡内に100年前の王の亡霊が現れ警告していっただとかってぇのが流れ始めているとさ。
因みに俺は見たって言う奴から直接聞いたぜ」
「鬼って何ですか? オーガのとは違うんですか?」
「いや、オーガとは違うらしい。人間でありながら人間でない・・・そんな感じの鬼だそうだ」
ハルトの言葉にウィルが疑問をぶつける。
普通は鬼と言えばオーガの事を指す。例外としては地獄に住む小鬼や大鬼、又は牛頭や馬頭が存在するが、ハルトの聞いた噂の鬼とは違うらしい。
「むぅ・・・盗賊としてその情報を仕入れてこれなかったのは痛いわねー。
信憑性の高さや裏取りが出来なかったのはちょっと厄介かも」
噂の調査不足だった事にティシリアは考え込み、う~んと唸る。
「ほう、そんな噂も流れているのか。ならば俄然隠し財産の噂の信憑性が増して来たのではないのか?
ディシリア殿にとってはありがたい話だとおもうのだが」
「カイル様、その噂が真実だったらそうかもしれませんが、これが流言だった場合の事も考えなければならないんですよ。
例えば偽の噂を流してカイル様をその気にさせて罠を用意した部屋に誘い込む、とか。
特に今回の場合はカイル様が出かける事を知っている人物が暗殺を企んでいるとも限りませんし」
今回カイン王子が遺跡探索に向かった事を知っている人物はエレガント国王、近衛騎士団長、小隊長のスモルタ、イーカナ、近衛影士数名、後はデュオたちだ。
とは言え、情報とは何処からともなく漏れ出すものだ。
この遺跡探索を利用してカイン王子を亡き者にしようと言う可能性は無いわけでは無い。
「むむむ、そうか、その考えもあるのか。ならばより一層気を付けねばならんな。なぁルイン」
「そうだな。この目で周囲を見極めて警戒せねば」
実はカイン王子の真実の目はその噂の真偽まで見極めることも可能だったりする。
さらにはその噂の真偽からカイン王子の暗殺計画の有無までも追跡することが可能なのだ。
それほど強力な祝福だからこそS級の称号が授けられている。
とは言え、今のカイン王子の目はそこまで使いこなせてはいない。だからこその今回の実地訓練だったりするのだ。
暫く周囲を警戒して進んでいくと目的の宝物庫へとたどり着いた。
周囲の魔物は影に隠れている近衛影士がある程度片付けていたので、ここまで来るのに左程労力を要しなかった。
ティシリアが扉の罠を警戒し調べ、それに次いで少し離れた位置からカイン王子(ルイン)が真実の目で罠の有無を見極める。
「大丈夫よ。罠は無いわね」
「よし、開けるぞ」
ウィルが先頭に立って宝物庫へ繋がる扉を開ける。
その後方には護衛対象のカイン王子2人を庇う形で陣形を密集させる。
扉を開けた先には――何も無かった。
かつては部屋全体に財宝が埋め尽くされていたのだろうが、今この部屋の中には何も無かった。
セントラル王国が滅んで100年の間に盗掘者や冒険者が根こそぎ持っていったのだろう。
「さて、噂じゃこの部屋のどこかに地下へ降りる隠し扉があるらしいんだが・・・」
「そうね。ティシリア、この部屋をくまなく調べて頂戴」
「まぁルイン様のご要望だから調べるけど・・・もう何十年も色んな盗賊や冒険者達が調べても見つけれなかったんだから期待しないで下さいね」
デュオの要請を受けてティシリアは宝物庫を調べるが、噂の隠し扉を見つけれなくても責めないでとカイン王子(ルイン)へとその言葉を向ける。
ティシリアが調べている間、デュオたちは周囲の魔物の警戒に交代であたる。
そして1時間ほど時間を掛けて調べたが、予想通りと言うか当然と言うか何も見つけることが出来なかった。
「まぁそんなものでしょう。噂はあくまで噂だったって事ね。
ルイン様もよろしいですね?」
デュオが引き上げの指示を出そうとカイン王子(ルイン)へと話しかけるが、カイン王子(カイル)が壁のある一点を見つめたまま動こうとはしなかった。
よく見ればカイン王子(カイル)の目が金色に輝いている。
真実の目が発動していた。
幾ら『模倣の使徒』やドッペルゲンガーと言えど、流石に祝福まではコピーは出来ない。なので宝物庫に入るまではルインがカイン王子本人だったはずだ。
だがいつの間に入れ替わっていたのか、今はカイン王子はカイルの方になっていた。
いつ入れ替わったのかを驚きつつも、動こうとしないカイン王子(カイル)に流石に不審に思い始めると思いもよらないことを口にした。
「ティシリア殿、何故この壁を調べないのだ?
ここに扉らしき枠が見えるのだが、何故手を付けないんだ? 先ほどから素通りしているから他に何かあるのだろうと見守っていたのだが・・・」
その言葉にティシリアは改めてカイン王子(カイル)に指摘されてた壁を見てみるが、どこをどう調べても何も変哲もない壁だった。
「カイル様、何もないですよ?」
「いや、あるだろう、ここに枠が。溝の様な隙間が見えないのか?」
壁を触れど見れど溝の隙間などは見つけられなかった。
だが流石にここまで言われればこの壁には何かあると信じざるを得ない。
なにせカイン王子の真実の目によって隠された仕掛けが見抜かれているのだ。
何かしらの仕掛けによって見ても触っても分からないようになっているのだろう。
「カイル様、もう少し詳しく見ることは出来ませんか? まずはこの枠の見えなくなる仕掛けなどが何処に隠されているのかなど」
「うむ、ちょっと待ってくれ。むむむむ・・・まずはそこの隙間の奥に取っ掛かりがあって・・・」
ティシリアは改めて気合を入れて、盗賊ツールを広げて隠し扉の仕掛けの解除に取り掛かった。
見ることも触ることも出来ないのでカイン王子(カイル)からの補助を受けながらと言う形にはなるが。
隠し扉の解除をする2人を見てデュオたちは俄然色めきたった。
何せ噂の隠し財産が真実味を帯びてきたからだ。
「よし、そこを抑えてこちらを回せ。そうすれば鍵穴らしきものが現れるはずだ」
カイン王子(カイル)の指示の元ティシリアは壁の溝(今のティシリアにはただの壁にしか見えない)へ刺した細い棒を捻る。
すると誰の目から見ても分かるように壁に扉の様な溝が見えるようになり、取っての部分が小さく開き中に魔法陣が見えた。
「ふぅ、ここからが本番ね」
まだ鍵穴を開いたばかりなのだが、ティシリアの額には汗がびっしり浮かんでいた。
この鍵穴を開くための仕掛けを外すのだけでかなりの神経を使っていたのだ。
「ああ、ここからが本番だな。よし、ティシリア殿、まずはこの魔法陣の第2層3節に魔力を流して・・・」
「そこのバネに引っかけているフックを外して代わりにこっちのフックを掛けろ」
「その蓋の魔法陣の第3層5節には気を付けろ。魔物召喚の罠が潜んでいる。蓋の裏に付いている紐にも気を付けろ。それも罠を誘発させる魔法陣が引っ付いている」
隠し扉は機械仕掛けと魔法の両方のギミックが仕込まれていて、解除するのだけでかなりの時間を要した。
全ての仕掛けの解除が終わるころにはディシリアは精根尽き果てていた。
カイン王子(カイル)も同様に、真実の目の長時間の使用に目頭を押さえていた。
だがその甲斐あって、扉の向こうには地下へと続く道が目の前に現れていた。
「マジか・・・マジで隠し財産があるってのか」
「凄いッス! 流石はカイル様ッス!」
「これは・・・本当に隠し財宝が見つかるとすれば王国にかなりの利益をもたらされるのでは」
「ふむ、これは中々面白いことになりそうだな」
ウィル、イーカナ、スモルタ、クルサは扉の向こうにある地下への階段を見て興奮していた。
無論デュオもハルトもこの先にある財宝に期待を寄せていた。
だがそれと同時に警戒もしていた。
明かりの魔法を灯し、薄暗い階段をひたすら降りる。
時間にして10分程度だったが、代わり映えしない階段を下りるのは随分長く感じた。
一番下まで降り立ち目の前にある扉を開けると、そこには広大な部屋を埋め尽くすだけの財宝があった。
「信じらんねぇ・・・マジで財宝があったよ! うひょ――――――! これだけの財宝・・・一生遊んで暮らせるぜ!」
「凄いッス! 凄いッスよ! カイン殿下! 俺ら物凄い事をやったんスね!」
「おおお・・・これ程とは・・・!」
「おおお!? これは神木刀ユグドラシルじゃないか! まてよ、こっちは英霊の聖鎧だと!?
何と言う事だ、これは宝の山じゃないか!」
部屋を埋め尽くす宝石や金の延べ棒、そして魔剣や魔力を帯びた武器防具、魔道具などの宝の前にウィルたちは大いに興奮していた。
「嘘みたい・・・! ホントに隠し財産があったんだ・・・!」
「これが冒険か! 何とも素晴らしいじゃないか!」
そして隠し扉の罠を解除して疲れていたティシリアとカイン王子も、この宝の山の前に先ほどまでへばっていたのが嘘のように興奮している。
「ウィル、はしゃいでいるところ悪いけど、この財宝はあたし達の物にはならないわよ。
ここにある財宝は全部依頼者であるカイル様達の物になるわ」
「何だとっ!?」
デュオの思いもよらない発言にウィルだけではなくティシリアもこちらを振り返っていた。
「ここに来る前にも言ったわよね? あたし達の任務はカイル様たちの護衛。遺跡で得られた宝や戦利品は全部カイル様達の物。但し宝や戦利品の額に応じて1割の報酬金額が追加されるって」
「え? ちょっと待てよ。つまりここの財宝の1割は報酬に追加されるけど、ここにある武器やマジックアイテムは手に入らないってことか・・・?」
「ええ、そうなるわね」
流石にデュオもこの財宝を目の前にしてて1つも手に入らないのは残念だが、依頼を受ける時の契約で決めていた事なのでどうしようもない。
まさか本当に隠し財宝を見つけられるとは思わなかったのだ。
「うそおおおおおおお!? ちょ! カイル様! ちょっとだけ! ちょっとだけでも財宝を分けてもらえませんか!?」
「そう、そうよ! 扉を開けるのに苦労したんだもの! ちょっとだけならいいでしょ!?」
ウィルとティシリアは必死になってカイン王子(カイル)に縋り付く。
最早相手が王族だと言う事もお構いなしだ。
カイン王子やスモルタも流石に可哀相だと思ったのか、追加報酬の1割を金額ではなく品物で譲渡すると言う事にした。
その報を受けてウィルとティシリアはこぞって報酬の財宝の吟味を始めた。
もっともウィルとティシリアだけではなく、イーカナやクルサの2人も財宝の吟味を始めていたりする。
そんな6人を尻目にデュオとハルトの2人だけは辺りをより一層警戒していた。
「デュオ、お前も不審に思ったか?
確かにあの隠し扉はおいそれと見つけれるわけじゃねぇ。だが、幾らなんでもすんなり来過ぎてらぁ」
「ええ、そうね。従来通りならここには守護者が存在するはずなのよね・・・」
その2人の言葉通りに財宝の向こうから1人の男が現れる。
黒髪で中肉中背の革鎧を身につけていた。
但し腕に付けた手甲だけはヒヒイロカネの金属を用いており、一際異彩を放っている。
突如現れた男に、流石にウィルたちも財宝漁りを止め距離を取って警戒する。
「100年も隠された部屋に人が居る・・・?」
「100年も居ると言う事は長生きなんスね!」
「いやいや、人は100年も生きられないから。生きていたとしてもあんなに若くはないぞ」
まずティシリアがこの隠し宝物庫に人がいたことに驚いた。
何せ今まで誰も見つけれなかった部屋、つまり誰も入ったことが無いはずなのにここに人が居ることが信じられなかった。
そしてウィルの言う通り目の前に居る男は人ではなかった。
それを裏付けるかのようにカイン王子(カイル)が真実の目で目の前の男の正体を見抜いた。
「・・・信じられん。こやつこのなりでゴーレムだと? まるで人ではないか」
カイン王子(カイル)は目の前の男の正体を信じられない面持ちで見ていた。
「ちょ!? マジかよ・・・どんな技術を使えばここまで人に似せられるんだよ」
「凄いッス。昔のセントラル王国の技術はもの凄かったんスね」
イーカナは何処か場違いなセリフを吐くが、スモルタやクルサは警戒を最大限に上げていた。
「いや、そんな事よりゴーレムがこの部屋に居ると言う事は・・・!」
「イーカナ! 戦闘準備だ、殿下を守れ!」
流石にスモルタやクルサは目の前の男が財宝を守る守護者だと言う事に気が付いてそれぞれの武器を抜き放ち構える。
デュオたちも男を正面に構えて陣形を組む。
遺跡内で組んでいた陣形――ウィル、ハルト、クルサを前衛に、後方にはデュオとティシリア、最後尾には影武者を含んだカイン王子2人をスモルタとイーカナが守る形に。
「ようこそ隠された間へ。と言いたいところだけど、この部屋に入るには資格者か入室許可証を提示してもらわなければならない。
さもなくば強制退室をさせてもらう」
守護者はこの部屋への入室許可証を求めてきた。
資格者ならば最初から入室の許可は出ているので、守護者が求めてきているのは入室許可証だろう。
無論デュオたちはそんなものは持ってはいない。
「申し訳ないんだけど入室許可証は持っていないわ」
「ならばこの部屋から退室を願おう。さもなくば強制退室をさせてもらう」
「・・・分かったわ。直ぐにこの部屋から出るから待ってもらえるかしら」
「ちょ!? デュオ!?」
財宝を目の前にして撤退を決めたデュオに思わずウィルは非難の目を向ける。
とは言え、流石に目の前の守護者を相手取るには強さが未知数なのでウィルは素直に撤退を開始する。
それに伴いスモルタ達近衛騎士も隠し宝物庫から退いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一行は最下層の階段の踊り場まで引き返していた。目の前には隠し宝物庫へ繋がる扉がある。
「で、どうするんだよ? まさかこのまま本当に撤退するわけじゃないよな?」
流石にあの財宝を目の当りにしてこのままじゃ引けないと、ウィルはこの後どうするかをデュオに聞いてくる。
「出来れば穏便に済ませたいんだけど・・・カイル様、あのゴーレムの性能は何処まで見ることが出来ましたか?」
「いや、ゴーレムだと言う事は分かったのだが、戦闘能力ともなるとそこまで見ることは出来なかった。
ただのゴーレムや亜種のゴーレム程度なら見抜けるんだが、未熟なれど我の目をもってしても解析できぬともなればあれはかなりの未知数の力を秘めておるだろう」
この隠し宝物庫を守るほどの守護者だ。
カイン王子(カイル)の言う通り、かなりの未知数の技術が使われているのは間違いない。
とは言え、あれほどの財宝を目にして引くことも考えずらいのも事実だ。
「マザースライムの時と違って今回は強行する理由はないぜ? あいつはただこの部屋を守っているだけに過ぎねぇ。周りに迷惑をかけることはないからな」
「ハルトさん、流石に宝を目の前にして引くなんて冒険者らしくないですよ」
「ケドあのゴーレムの実力は未知数なのよ? 確かに悔しいけど欲をかいて全滅したら目も当てられないわよ」
ハルトが撤退を推奨するのに対してウィルはこのまま押し切ろうとする。ティシリアは気持ちはウィルと同じなのだが流石に命は惜しいのでハルトと同じ撤退を考えていた。
「デュオ殿はどう考えているのだ?」
「うーん、あたしとしてもここは一時引いた方がいいと思います。流石にあのゴーレムを相手にどこまでやれるか分かりませんし」
スモルタの問いにデュオも撤退を指示する。
冒険者チームはほぼ撤退を決めているのだが、依頼主であるカイン王子率いる近衛騎士チームはどうだろうか。
「なぁ、確かに未知数のゴーレムだが、向こうは1匹だ。こちらは我を除けば7人も居る。しかもA級冒険者が3人もだ。数で押し込むことは出来ないのか?」
「まぁ確かに数は力ですからやりようによっては倒すことは出来ますが・・・あたしとしては未知数の相手に下手に手を出したくないのもあります」
「ならば我が必ずあ奴の能力を見抜いて見せる。だからあ奴を倒して財宝を手にすることは出来ないだろうか?」
「カイル様はこう言っているけど、近衛騎士としてはどうなのですか?」
「我々としてもカイル様を危険には晒したくはないのだが・・・当初の目的である真実の目を鍛えると言う点ではこれほど適した場面はないだろうな。何よりカイル様がやる気になっている」
本来であれば近衛騎士としてデュオたちの様にここは撤退するのが正しいのだが、スモルタの言う通りカイン王子(カイル)がやる気を出しているのが成長に繋がると考えたのだ。
「カイル様は自分が絶対守るッス! だからカイル様の望みを叶えて欲しいッス!」
「そうだな。我々とA級冒険者のデュオ殿達が居れば突破できるだろうと思うのだが」
スモルタに続き、イーカナやクルサまでも近衛騎士チームは守護者の撃破を望んでいた。
「う―――――――ん・・・・・・
分かりました。カイル様は絶対小隊長さん達の指示に従って危険が迫れば即時撤退してください。
攻撃にはあたしとウィル、ハルトさん、副団長さんの4人で当たります。これも敵わない、不測の事態が起こった時点で即時撤退しますのでそれで良ければ守護者を撃破します」
デュオは暫く考えた末に守護者を倒すことにした。
但しどちらかと言うと何かあれば撤退を視野に入れた消極的なものだったが。
だがカイン王子にはそれでも喜ばしいものだった。
身の危険ではあるが、これこそが冒険者だと言うのが実感できたからだ。
作戦会議を終え、デュオたちは再び隠し宝物庫へと足を踏み入れる。
今度は直ぐ目の前に守護者の男が居た。
「おや、また来たのか。と言う事は入室許可証を持ってきたのか?」
「いえ、残念ながら入室許可証とやらは持ってないわ」
「ならば入室は許可できない。退室願おう」
「いいえ、悪いけど押し通るわ」
「・・・そうか。では力ずくでも退室願おうか」
守護者は素手のまま構える。
どうやらそのヒヒイロカネの手甲が示す通り守護者は武闘士のようだ。
だが考えてみればある意味宝物庫の守護者として適正な職業なのかもしれない。
今この場での強力な武器や派手な魔法は財宝等に傷が入ってしまうからだ。
そう考えれば一番強力なデュオの魔法はほぼ封じられているようなものだ。
デュオはそのことを考慮しながら使う魔法を選択する。
まずはほぼ間違いなく守護者を狙える魔法――無属性魔法の自動追尾弾を先制攻撃で放つ。
「ホーミングボルト!」
無数のエネルギー弾は守護者に迫るも、殆んどがその手甲で弾き返してしまう。
流石神鋼と呼ばれたオリハルコンよりも軽くて丈夫な金属で出来た手甲だ。あれだけの魔弾を弾いたにも拘らず傷一つ付いていない。
その隙にウィルたちが守護者に肉薄する。
ウィル、ハルト、クルサの3人の囲いによる攻撃にもかかわらず、守護者は全て手甲で弾いていた。
「烈火竜撃羅刹陣!」
守護者の拳戦技・二連撃から爆拳・崩拳・会心拳の複合技の竜拳、そして蹴り戦技の旋風脚と拳戦技の爆拳、最後に蹴り戦技の竜昇脚と戦斧脚の連続技を叩き込みウィルたちを弾き飛ばす。
特に最後の竜昇脚と戦斧脚の連撃を食らったクルサのダメージは大きかった。
デュオはすかさず治癒魔法を掛ける。
その間にもカイン王子(カイル)が真実の目で守護者の弱点を探る。
「くそっ! これならどうだ!
重星轟剣斬!!」
ウィルは剣戦技の菱形に斬り裂くスクエアを連続で放つ鋼斬剛剣流の技を放った。
流石にこれは手甲では捌けなかったらしく、守護者は両腕をクロスして防御に徹して凌ぐ。
その隙をついてハルトも横から刀戦技の突き技から薙ぎ払いの閃牙咆哮を放った。
「甘い! 牙折り!」
守護者は器用にもウィルの攻撃を受けながらも拳戦技・鉄牙による肘打ちと蹴り戦技の膝蹴りの複合技・牙折りでまるで獣の咢で噛み砕く様にハルトの刀を叩き折った。
流石に武器を失ってしまってはどうしようもない。ハルトは直ぐに離れ、その穴を埋めるかのようにクルサが入り攻撃をする。
戦いはお互い一歩も譲らなかった。
いや、どちらかと言うと守護者の方が少し有利だった。
ウィルとクルサの攻撃を手甲で弾きながら守護者は的確にその拳又は蹴りを当ててくる。
デュオはその都度治癒魔法で回復するも、このままでは決定打に欠ける。
――強い。
流石に予想はしていたが、デュオは前線で戦う様子を見てそう思った。
魔法で援護しようにもこうも密着してしまえば中々攻撃も出来ない。
今のデュオに出来ることは決定的な隙が出来るのを待つことだ。
「ハルトさん、これ!」
武器を失ったハルトにティシリアが素朴ながらも神々しい輝きを放つ刀を放り投げた。
神木刀・ユグドラシルだ。
ティシリアは戦闘が始まるとすかさず気配を消しこの宝物庫にある武器を漁り始めたのだ。
再び隠し宝物庫に入る前にティシリアが提案した作戦は、折角だから宝物庫にある武器をちょろまかして使ってはどうかと言うものだった。
これほどの武器ならば実力が未知数だろうが守護者にも一太刀どころか一撃殺もありうるんじゃないのか。
それどころかこの宝物庫にある武器の性能を知っているのならば守護者の方にも隙が生まれるのではないかと言う期待もあった。
そしてティシリアの考えの通り守護者にも隙が生まれた。
「なっ!? ユグドラシルだと!? と言うか、まさか財宝の武器を使うとは――!?」
ハルトが手にした神木刀の威力に脅威を感じたのか、財宝の武器をちょろまかしたのに驚いたのかは分からないが、決定的な隙が生まれた。
ゴーレムなのになまじ人間に近いせいかその心までもが人間だったのがその隙を生んだのだ。
「グランドプレス・デスロック!」
土属性魔法の空間一点発動型圧縮式の魔法を小規模に4つ、対象者の手足に掛けて動きを封じるデュオのオリジナル魔法だ。
土属性魔法によって現れた石や岩の圧縮により守護者の手足が潰され動きが封じられる。
もっともゴーレムである守護者にはグランドプレスの圧に耐えられているみたいだが。
だがこれは一斉攻撃のチャンスでもある。
ウィルは自分の最も攻撃力のある剣戦技のバスターブレイカーを。
ハルトは神木刀を刀戦技の居合技・居合一文字を。
クルサは騎士団でも推奨して教えている鋼斬剛剣流から最大筋力で放つ基本技・烈火剛剣斬を。
「ぐふっ・・・!!」
3人の技をそれぞれ受けて守護者はその場に崩れ落ちた。
特にハルトの持つ神木刀の威力が一番物凄かったみたいだ。
残心のまま3人、いや全員が守護者を見守る。
暫くしても動かないのを確認したところで一同は一息をついた。
「ふぅ、どうやら何とか倒せたみたいだな」
「ティシリアの作戦が思いのほか上手くいったみてぇだ。こいつ余程驚いてたみてぇだし」
「うむ、ハルト殿の言う通りかなり驚いてたな。だからこそ隙が付けたのだが」
ウィル、ハルト、クルサの3人は対戦していた守護者を無事倒せたことに一安心していた。
一方でカイン王子(カイル)の方では――
「カイル様、残念でしたッス。戦いが終わるまで弱点を見極めることが出来なかったッスね」
「イーカナ、お前わざと言っているのか? ・・・いや、お前はそんなことを言うほど嫌味が言える人間じゃなかったな」
「カイル、気にするな。たまにはそういうこともあるさ」
「ルイン、慰めになってないぞ。ここは我が真の真実の目の力が目覚めるところではないか」
などと、すっかり気が抜けていた。
デュオはそんなみんなを尻目に魔導師らしく守護者であるゴーレムを調べるべく近づいていく。
だが、その前に守護者から再び声が聞こえてきた。
但し、その声は先程までの人間らしい声ではなく、機械的な声だった。
「――迎撃戦闘モード強制終了――」
「――エラーコード881を検出――」
「――最終戦闘モード:鬼神強制機動――」
再び立ち上がった守護者はその姿を変え雄叫びを上げた。
『グヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッッ―――!!!!』
次回更新は5/8になります。




