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DUO  作者: 一狼
第3章 遺跡探索
16/81

15.その遺跡調査の目的は噂の真偽

 セントラル遺跡の探索の準備を終えたデュオはクランの仲間を連れて王城へと赴いた。


「はぁー、何でお前の指名依頼に俺達がつき合わされなきゃならねぇんだよ」


「しょうがないでしょ。流石にこの依頼はあたし1人じゃ無理なんだし。

 それにまるっきり無意味って訳じゃないわよ。何せ王宮からの依頼だからね。少なくとも今回の依頼で王宮にも多少なりのコネが出来るわよ」


「そうですね。私は声を掛けてもらって嬉しいですよ。盗賊(シーフ)に取ってこう言った縁は貴重ですし」


 ウィルが無理やり付き合わされたみたいに言っているが、内心では声を掛けてもらえたのを嬉しく思っていた。

 そして同じクランメンバーの盗賊(シーフ)のティシリアも同様だった。


「文句を言っているのはウィルだけだから気にすんな。男のくせにグダグダと女々しいったらありゃしねぇ」


 軽装の革鎧に身を包んだ刀を差した刀戦士(ブレイドファイター)のハルトがウィルを内心を知ってか半ば呆れながら言う。


 そうこうしているうちに王城へとたどり着き、ギルドカードを門番に提示しながら集合場所の部屋へと案内された。

 王宮の方でも既に準備を終えていて、近衛騎士団の小隊長スモルタ=イオサ始め数人が集まっていた。


「お待たせしました。

 クラン『月下』からは魔導師(ウィザード)のデュオと戦士(ファイター)のウィルとハルト、あと遺跡探索には欠かせない盗賊(シーフ)のティシリアの4人がカイン王子の護衛兼冒険者指導をさせて頂きます」


「ああ、今日は宜しく頼む。

 こちらは近衛騎士団から私スモルタ=イオサ、カイン殿下の直接護衛のイーカナ、クルサ=ブレイヤー副団長の3人が殿下の護衛に付く」


 スモルタは敢えて言わなかったが、この他にもカイン王子の護衛として近衛影士が3名ほど陰から護衛する形になっている。


 デュオとスモルタがお互いの自己紹介をしていると、騎士に囲まれた後ろから小さな少年が顔を出す。

 そしてデュオの顔を見つけると嬉しそうに話しかけてきた。


「おお、デュオ殿ではないか。久しぶりだな。あの時は世話になった。我の所為で孤児院の皆にも迷惑をかけた。皆は息災だろうか?」


「久しぶりです、カイン王子。みんな元気ですよ。みんなもカイン王子の事を心配していましたよ」


 声を掛けてきたのは今回の依頼主でもあるカイン王子だった。

 だがその隣には全く同じ顔をした少年が立っていた。

 その少年からも同じ声で話しかけられる。


「おお、そうか、みんな元気か。機会があればもう一度会ってみたいものだが・・・うむ、まず暫くは無理であろうな」


「そうそう、今日の我はカイン王子ではない。今ここに居るのは冒険者志望の子爵貴族エクセレント家の子・カイル=エクセレントだ」


「そして我がカイルの双子のルイン=エクセレントだ」


 確かに双子と言われれば納得できるものがあるが、実は片方のカイン王子は王家の影武者であり『模倣の使徒・Copy』だ。

 『模倣の使徒』の正体はドッペルゲンガーであり、その特異性を持ってして影武者として王家に使える魔物でもある。

 26の使徒と言う時点で魔物とはかけ離れた存在になっているので、周囲の認識は魔物のとして忌避することはない。


「(これが『模倣の使徒』か。確かに見れば見るほどそっくりだ)」


「(そっくりじゃなくて同じなの。確かにこれほど影武者に相応しい存在はいないわね)」


 ウィルはデュオに聞こえる程度の小声で2人のカイン王子を見て感嘆していた。

 デュオの言う通り、そっくりなのではなく同じなのだ。

 『模倣の使徒』は対象相手をコピーした段階の身体能力は勿論、癖や戦闘技術、そして記憶や考え方をまるまる写し取るのだ。

 これほど影武者に適した存在はいないだろう。

 一説によれば、『模倣の使徒』は1人だけではなく、他にも数人の『模倣の使徒(ドッペルゲンガー)』が存在するらしい。

 この複数の影武者の存在が王家を外敵からの鉄壁の守護していると言えよう。


 まぁ前回カイン王子が身の危険に晒されたのは王子自らが城を抜け出して身の危険に晒したから『模倣の使徒』の鉄壁の守護の範囲外になるが。


「よし、それでは早速セントラル遺跡に向かうとしよう。宜しいですな副団長」


「ああ、任せるよ。私はお前みたいに細かい仕事は向いていないからな」


 副団長のクルサは一々自分の許可を取らなくていいとばかりに手をヒラヒラさせておざなりに頷いていた。

 クルサは女性騎士でありながらその実力を持って近衛騎士の副団長の座まで上り詰めた猛者だ。

 当然力だけで副団長の座に収まるほど簡単なものではないのでそれ相応の指揮能力や頭脳を持っているのだが、性格がかなりいい加減で大雑把なのだ。

 大抵は小隊長のスモルタに放り投げている。


 一行は王城の前にある転移魔法陣の施設に向かい、水の都市ウエストヨルパへ向かう手続きをする。

 そしてウエストヨルパに着くと直ぐにセントラル遺跡に跳ぶ手続きを行う。


 ウエストヨルパからセントラル遺跡に跳ぶ転移魔法陣の存在は公にはされていない。

 その存在を知っているのは王族・伯爵以上の貴族・A級以上の冒険者だけである。

 王族貴族はセントラル遺跡に来ることはないので、実質A級以上の冒険者専用と成り果てている。


 今回は珍しく王家が使用するので簡単な手続きで直ぐにセントラル遺跡に転移することが出来た。


 一行が転移した先はかつてその国の象徴とも言えた朽ち果てたセントラル城の傍だった。


「おお、ここがセントラル遺跡か」


「うむ、早速冒険と行こうではないか!」


 はしゃぐ王子達をしり目にデュオたちと騎士達は素早く周囲を警戒し隊列を整える。

 取り敢えず転移直後の危険はないと判断し、警戒を緩めずに武器を構えを解く。


 もっとも先に近衛影士が先行して転移魔法陣の周囲の魔物を排除しているのでそれほど危険はないが、万一と言う事も考えての警戒だ。


「さて、カイン・・・じゃない、カイル様はセントラル城に行きたいと言う事だけど・・・」


「うむ、セントラル遺跡の噂は我も聞いている。

 セントラル城の宝物庫に隠された財宝が眠っていると。我はそれを見つけてみたい」


「後は魔術師協会の跡地に古代の秘術があるとか。

 この2つを見つけて持って帰ればエレガント王国は更なる発展を遂げるだろう!」


 カイン王子(カイル)に続いてカイン王子(ルイン)が今回の探査目的を述べる。

 彼も王族らしく、少しでも王家に貢献できればと考えていた。

 だが世の中はそんなに簡単には出来ていない。


 名目上は、セントラル王国滅亡後その領地はエレガント王国へと吸収されたことになっている。

 なので本来であればセントラル城に残っていた財宝などはエレガント王国のものになるのだが、当時はエレガント王国と旧セントラル王国の間には砂漠が広がっており簡単に管理できるような状況ではなかったのだ。

 その為、野党などに荒らされるよりはとエレガント王国が冒険者にセントラル遺跡の探索の許可を与え、少しでも王国へと還元できるようにしたのだ。


 よってセントラル遺跡の中は100年前に殆んど探索され尽くしており、余ほどの事が無い限り財宝などは見つからない。

 それを分かっているデュオ達・スモルタ達はカイン王子に冒険者の現実を見せてあげようとしていた。


「了解しました。出は早速目の前のセントラル城の中の探索に行きましょう」


 魔物の対応と罠などの危険察知にウィルとティシリアを先頭に、そしてカイン王子2人を囲う形でイーカナが前、デュオとハルトが左右に、後方殿にはスモルタとクルサを配置してセントラル城へと探索に向かう。


 かつて栄華を極めた城は辛うじて原型をとどめていた。

 幾つもの外壁に穴が開いてはいるが、5階建ての建物としては健在だ。

 当然の様に中の財宝は勿論の事、豪華な家具なども全て持ち去られた後だ。


 半ば予想していたこととは言え、セントラル城の探索は何のトラブルもなく進んでいく。

 罠も無し、謎を解くようなギミックも無し、魔物に至っては近衛影士が先行して片づけているので現れるのは精々ボロボロになったスケルトンくらいだった。

 それもウィルの一撃で簡単に倒せるようなものであったため、盛り上がりが無い探索となっている。


 当然カイン王子は思っていたのと違うと不満気な表情で探索の様子を見ていた。


「なぁ、冒険者とはこんなものなのか?」


「ええ、そうですよ。確かに冒険者と言えば派手な活躍をする者と思いがちですが、そんなのはごく一部の冒険者やごく一部の冒険譚にしか過ぎませんよ。

 何より冒険の基本は生きて帰る事。自ら危険な事に飛び込んで命を晒して死んでしまっては意味が無いですからね」


「デュオ殿の言う通りです。カイル様。騎士も似たようなものです。

 騎士と言えば派手で見栄えが良く憧れの対象ですが、その実は日々の死なない様に基礎訓練に費やすものです。

 その反復訓練があってこそ有事の際には生きて帰ることが出来るのですよ。その上で運が良ければ皆が憧れる様な活躍が出来るのです」


「むぅ、なるほど。冒険者も騎士と同じで日々の生活は堅実なものなのか」


 スモルタの冒険者と騎士の似た解説にカイン王子(ルイン)は頷く。

 その折、スモルタの耳に小声で何やら囁く声が聞こえた。

 スモルタはカイン王子に悟られぬよう頷いて、さり気なくデュオの方へと足を進める。


「(デュオ殿、どうやらこの先に巨大なモンスターが居るようだ。近衛影士が捌けぬ所を見るとかなり厄介そうな魔物と思われる。頼めるか?)」


「(了解しました。カイン王子には小隊長さんとイーカナさんが付いていてください。副団長さんにはこちらを手伝ってもらいます)」


 デュオの方でも魔力探知に巨大な魔物の魔力が探知された。

 いや、巨大な魔力だけではない。他にも複数の魔力が探知される。


 デュオはハンドサインで前衛2人に警戒するように促す。

 最もウィルとティシリアにも探知系が備わっているので既に前方に魔物が存在することに気が付いている。


 まず最初に現れたのはスライムだった。

 スライムは魔法技術で生み出された副産物で、核を中心に水色の粘液の体をしている。

 一見弱そうに見える魔法生物だが、倒すにはかなりの労力が必要となり冒険者たちの間ではかなり毛嫌いされたりしている。


「げ、スライムかよ。こいつら腐食の酸があるから嫌いなんだよなぁ」


「セントラル遺跡にはスライムが居るのは始めっから分かっていただろう。文句ばっか言ってないで戦闘準備しろ」


「分かってますよ。ハルトさんの方こそあまり派手な戦技はやめて下さいよ?」


「馬鹿を言え。剣戦技の方が派手な戦技が多いじゃねぇか」


「ふむ、この魔物は攻撃力より速さと正確な一撃さを求められるんだな」


 そう言いながらも前衛2人は戦闘準備をする。

 ハルトの言っていた通りセントラル遺跡にはスライムが居ると分かっていたので酸対策に持参していた除粘液を己の武器に振り掛ける。

 同様にクルサも騎士剣に除粘液を掛けてスライムとの戦闘に対応する。


 スライムは核を壊せば倒せるが、武器で攻撃すると粘液の酸によって武器や防具が腐食するのだ。

 かと言って弱点である火属性魔法で派手にぶちかませばそれはそれで衝撃により酸が飛び散る。

 魔法で倒すとなれば衝撃の無いじわじわと押しつぶすような魔法か包み込むような魔法でなければこちらにもダメージが襲い掛かるのだ。

 そうして苦労して倒しても残るのは小さな核だけと言う、割に合わない魔物だったりするのが毛嫌いされている理由だったりする。


 武器に除粘液を掛ければほぼ酸には対応できるのでスライム退治には必須アイテムだ。

 ウィルとハルトは除粘液を掛けた武器でわらわら集まってくるスライムに斬りかかる。

 因みに最初に前衛だったティシリアはスライムが現れたと同時にハルトと入れ替わり後方へと待機している。


 次々スライムを屠る姿を見ながらカイン王子は興奮していた。

 ようやっとの事望んでいた冒険者の姿を見ることが出来たのだ。


「のう、デュオ殿。デュオ殿はA級冒険者だがウィル殿とハルト殿もA級冒険者なのか?」


「ええ、そうです。カイン王子の護衛と言う事で『月下』でA級の戦闘力を誇る2人を連れてきました。

 ティシリアはB級冒険者ですが、遺跡探索に欠かせない盗賊(シーフ)としての能力は一級品ですので今回の探索メンバーに加わってもらっています」


「ふむ、S級冒険者の美刃殿は来れなかったのだろうか?」


「彼女は異世界人と言う事で中々こちらと都合が付きにくい時があります。

 残念ながら今回は都合が付かなかったと言う事でご容赦いただければ」


「ああ、何も責めているわけではない。ただ世界で片手で数えるくらいしかいないS級冒険者もみて見たかったと言うだけだ」


 十数匹のスライムが相手と言うことでウィルとハルトの2人で対応してもらい、残りのメンバーは他の魔物の奇襲に備えて周囲を警戒していた。

 カイン王子2人は興奮した面持ちで前衛2人を見ながらもデュオに思いのままに質問をぶつける。

 2人の使った戦技は何だとか、魔法で戦うとすればどうするのだとか。


 そんな質問タイムも3人の戦闘が終わると同時にカイン王子2人も口を閉ざす。

 戦闘から戻ってきたウィルとハルトの表情が先ほどまでと違っていたからだ。


「この後に控えている魔物は厄介だな。スライムを倒しても次から次へと湧いてきやがった」


「ああ、多分後ろで控えているのは気配探知の大きさからいってもマザースライムだろうな。あれは下手すれば全滅の危険性もある魔物だぞ。どうする?」


 スライムの繁殖方法は核の分裂によるものだが、分裂した分粘液が半分になり弱くなる。

 元の大きさに戻るにはその分、粘液の酸による捕食で体積を増やすのだが、スライムのボスとも言えるマザースライムにはその繁殖方法は当てはまらない。

 (マザー)と言うだけあって、マザースライムは核や粘液を減らさずに無限にスライムを生み出すのだ。

 その為マザースライムを倒すのにもたつくとスライムに囲まれてあっという間に全滅すると言う危険性があるA級の魔物だ。

 もっともその核はスライムとは比べ物にならず人の頭ほどの大きさもあり、かなりの高値で売買されている。


「護衛対象を敢えて危険な目に遭わせるわけにはいかないわ。ここは一度引きましょう」


「いや、待ってくれ」


 デュオは暫く考えて護衛と言う事を鑑みて安全方策を取ることにした。

 だがそれに待ったをかけたのはカイン王子(ルイン)だ。


「この先に待ち構えているスライムは無全増殖をする魔物なのだろう? ならばここで放って置くのは些か危険ではないのか?

 増えた魔物が遺跡内部に溢れ出れば冒険者どころか近隣の民まで被害が及ぶのでは?」


「何も今すぐ危険なほど増殖するという訳ではないです。今は引いて、後日他の冒険者に討伐を依頼すると言う形になります。ルイン様ご理解下さい」


「この手の魔物は油断していたら手遅れになると聞いたことがある。今すぐ危険じゃないから大丈夫だと思っているうちに増殖していたら目も当てられないぞ。

 それに話を聞くところによるとそのマザースライムとやらはA級魔物で退治できる者も限られているだろう。

 丁度ここにA級冒険者が3人も揃っているのにそれでは時間の無駄ではないのか?

 これは我からの正式な依頼でもある。このまま進んでマザースライムを倒すのだ」


 確かにこの手の話としてはまだ大丈夫と高をくくって油断していると痛い目にあるのが殆んどだ。

 カイン王子(ルイン)の言う通り今のうちに倒すのがベストなのだろう。


 依頼主の意向ともあり、デュオは仕方なしにマザースライムを倒すことにした。


「カイル様とルイン様は決して前線には出てこないで下さい。小隊長さんとイーカナさんの指示に従って下さい。いいですね」


「なに、我はこう見えても最低限己の身を守るすべは身に着けている。デュオ殿達は魔物を倒すことに集中してくれ」


 そう言いながらカイン王子(カイル)は腰に下げた剣をポンと叩く。


周囲を警戒しながら大型の魔物が探知される方向へ進むと、そこには3m大ほどの強大なスライムが佇んでいた。


「でっか・・・」


「こりゃあ稀に見る大きさだな」


「なぁウィル殿、ハルト殿。これは流石に剣で倒せる範疇を超えてはいないか?」


 流石にここまでの大きさのスライムは見たことが無いので、前衛を務めていたウィルとハルトは警戒を強めていた。

 クルサも大抵の事は剣で解決してきたのだが、流石にこの大きさのスライムともなると剣では解決するのは難しかったらしい。


 先ほども述べたとおりスライムを倒すのには核を壊すのが一番なのだが、このマザースライム、核を覆う粘液が大きすぎて核までの攻撃が届かないのだ。

 その分厚い粘液が核を護っていて武器は勿論の事、魔法でも粘液を剥すのは容易ではないので倒すのにはかなりの労力がいるのだ。

 しかも魔法の加減を間違えれば大量の粘液の酸が飛び散るうえ、威力を間違え核そのものまでもが破壊されてしまってはタダ働き同然だ。


「俺達は生み出されるスライムに注意しながらデュオに一任だな」


「ですね。あ、周囲のスライムの警戒も忘れないで下さいよ、ハルトさん」


「はぁ~、これ一撃で倒すのはムズいね。周囲の粘液を削る形で大技を何度かぶつけて・・・」


「「いや、これを一撃で倒そうと考える方がおかしいと思うのだが」」


 思わずデュオに突っ込みを入れるクルサとスモルタ。

 なまじ魔力があるだけに大抵の魔法一撃で片を付けてきたデュオは、世間一般の魔法使いとは常識が少しズレていた。


「これから何度か大技を連発します。周囲の警戒を。

 暫く魔法に集中するので無防備になりますから、副団長さんはあたしの警護をお願いします」


「了解した」


 デュオは赤い杖・静寂な炎を宿す火竜王(フレアサイレント)を掲げ呪文を唱える。

 魔力の高まりを感知したのか、マザースライムが十数のスライムを生み出してきた。

 デュオに魔法を撃たせまいと迫りくるスライムをウィルとハルトが斬り伏せていく。


 その間にデュオは呪文を完成させ魔法を解き放つ。


「ゲヘナストーン・ペンタグラム!

 サンダーストーム・ゲヘナプリズン!」


 マザースライムを六芒星の形で囲むように6つの石柱が地面から現れ、石柱内で雷の嵐が吹き荒れる。


 デュオがマザースライムを倒すのに選んだ魔法は雷属性魔法だ。

 火属性魔法だと衝撃で粘液の酸がはじけ飛ぶのに加え、タダでさえ室内での戦闘だ。炎の熱でこちらまで火傷を負う可能性もある。

 氷属性魔法や土属性魔法だと分厚い粘液を抜けて核を攻撃できるかもしれないが、それでは核が手に入らない。

 水属性魔法だとスライムの粘液の体積を増やす形になりかねないのでこれは論外。

 聖属性魔法や光属性魔法、闇属性魔法ではデュオの手持ちにマザースライムを倒すほどの魔法は無い。


 よって選ばれたのが雷属性魔法で粘液を焼ききると言う方法だ。

 土属性魔法の6つの石柱で雷の嵐を内部に閉じ込める事によって、雷を周囲に漏らさない様にしたオリジナル魔法と言うおまけ付きだ。


 雷の嵐が終わるころには体積は1/4ほど減っていたマザースライムが居た。

 粘液の表面は焼け焦げてはいたが、デュオの予想していた通りマザースライムは健在だった。


「あー、やっぱり。流石に核までは到達しないか。続けていきまーす」


 再び呪文を唱え始める。

 2発目の雷の嵐・石柱囲いverを放つと、流石にマザースライムの大きさも最初の半分になっていた。


「この調子だとあと2発当てれば倒せるんじゃない?」


 周囲を警戒しながらマザースライムを観察していたティシリアが言ってくるが、それにカイン王子(ルイン)が待ったをかける。

 カイン王子(ルイン)の目の色が茶色から金色に変わっていた。

 真実の目(トゥルーアイズ)だ。


「いや待て、様子がおかしい・・・む、これは・・・周囲のスライムだ! 周囲のスライムを取り込もうとしているぞ!」


 いつの間にか集まったスライムが次々マザースライムへと飛び込んでいった。

 スライムを取り込んだマザースライムは再び大きさを最初の3mへと取り戻す。


「ちょ?! 警戒してって言ったでしょ!?」


「おいおいおい、襲ってこないのまで警戒しろって言うのかよ」


 ただの八つ当たりなのだが、デュオは思わずウィルに文句をぶつけた。

 ウィルも周囲にスライムが居るのは探知していたが、襲ってくる気配は見せずにいたのでマザースライムに警戒を集中していたのだ。


「と言うか、スライムの合体なんて初めて見たぜ。この特性知ってたやついるか?」


 デュオですら知らなかったのだ。魔法関連(魔法生物)に詳しくない他のメンバーはハルトの問いに応えれる者は誰もいなかった。


「むむむ、このマザースライムは『スライム増幅』の他に『スライム吸収』の特性を持っているみたいだな。

 む、どうやら希少(レア)個体のマザースライムだ」


「ルイン様、もしかしてこのマザースライムの情報を真実の目(トゥルーアイズ)で覗いてたりします?」


「ああ、少しでも役に立てればと思って目を使ってみたのだが・・・何故もっと早く気が付かなかったんだろうな」


「まさかと思いますが、もしかして弱点も見抜けたり?」


「む? 弱点・・・おお見えるぞ! こいつの弱点は酸だ! スライムのくせに酸が弱点とは」


 カイン王子(ルイン)の答えにデュオは思わずどっと脱力する。

 デュオはカイン王子(ルイン)の言う通りに何故最初から真実の目(トゥルーアイズ)の事に気が付かなかったのか、と激しく後悔していた。

 少し考えれば戦闘に応用できるのは当然だ。

 と言うか建前上はカイン王子の冒険ごっこだが、真の狙いは真実の目(トゥルーアイズ)を鍛える事だったはず。

 今さらながらにその事実を思いだしデュオや小隊長、副団長は力なく項垂れた。


「あ~、ちゃっちゃと片付けるわよ」


「あ、どうせだからそのマザースライムの特性を利用して周囲のスライムの駆除もしたらどうかな。その分核も大きくなるみたいだし」


 流石は盗賊(シーフ)と言うべきか。ティシリアの意見を採用して核を大きくしてマザースライムを倒すことにした。


「アッシドクラウド」


水属性魔法の酸の雲でマザースライムの粘液を溶かし、それを補うためマザースライムは周囲のスライムを取り込む。だが纏わりつく酸の雲によって再び粘液が溶かされまたスライムを取り込むと言う循環を繰り返していく。


 デュオはただ1度だけ酸の雲の魔法を唱えるだけで良かった。

 後は手ごろな大きさに縮まったころにウィルが剣で残りの粘液を削ぐだけでかなり大きめなスライムの核が手に入る。


 最初の苦労?を思いながらもパーティーメンバー全員は真実の目(トゥルーアイズ)の力の有用性に改めて思い知ることになった。


 その真の力の凄さに未だ気づいていないのはカイン王子本人だけだった。








次回更新は5/6になります。

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