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DUO  作者: 一狼
第2章 第三王子
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9.その闇に蠢くは破滅への野望

デュオ、新人研修を行う。

デュオ、迷惑正義の後始末で火竜に挑む。

デュオ、凍結病の事件の裏を解決する。


                       ・・・now loading

「それでは下された神託を告げます」


 少女の言葉に男は今か今かと待ちわびた。


 小さな部屋の薄暗い中で少女と男は机を向かい合わせで座っている。

 少女は目の前の水晶玉を覗きこみ、そこから神の言葉を受け取っているのだ。


「『汝、悔い改めよ。これまでの行いを償い社会に貢献せよ。さもなくば真実の瞳によりその闇は暴かれるであろう。その先にあるのは破滅あるのみ』

 ・・・この神託をどう受け取るかは貴方次第です」


 当然この結果には男は大いに憤慨した。


「ふざけるな、何故私が破滅しなければならない!

 貴様、本当に『神託の使徒』か? 私を担いでいるんじゃないのか?」


 今さらである。

 男は神より言葉を授かることが出来ると言われる26の使徒の1人『神託の使徒・Oracle』に自分のこれからの道を示してもらうために会いに来ているのだ。

 『神託の使徒』の言葉は神託でありながら半ば予言に近いものとして周知されてきた。

 その為、男も自分の輝かしい未来を望み少女の元へ訪ねて来たのだ。

 だが結果はごらんの通りである。


「先程も言いましたが、この神託をどう受け取るかは貴方次第です。

 私は『神託の使徒・Oracle』であると同時に『正しき答えの使徒・Yes』『偽りの答えの使徒・No』でもあります。

 私の神託が正しい答え(Yes)偽りの答え(No)なのかはあなた自身で判断して下さい」


 少女はそれっきり黙り込んでしまった。


 少女の言った通り神託――予言は100%ではない。

 神託の通り行動すれば100%の事が起こるが、神託に逆らう道もまた用意されているのだ。


 男は考える。

 このままではまず間違いなく破滅するであろうことに。

 男には敵が多すぎるのだ。

 ならば男が神託に逆らう道を選ぶのは当然の事だった。


 先程少女から告げられた神託の中に出てきた『真実の瞳』。これに該当するものを男は既に思い当っている。

 このプレミアム共和国にも名が届いているほどの女神アリスの祝福(ギフト)を授かった隣国――エレガント王国第三王子・カイン。


 第三王子を亡き者にすれば男は破滅から逃れることが出来る。

 その為にも男は第三王子暗殺の為の計画を頭の中で練り始める。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 エレガント王国の北区にある小さな酒場である『木陰の猫砂亭』は、中級区商業地区でありながら客の出入りが少なく閑古鳥が鳴いている状態だった。


 店の中に居るのはカウンターに座って麦酒(エール)を飲んでいる男と、隅のテーブルで食事をしている男女のたった3人だけだった。


 そんな『木陰の猫砂亭』に新たな客が訪れる。

 革の胸当てを付け腰に短剣を下げた少女だ。

 動きやすさを重視してかショートパンツを履いており、剥き出しにされた太腿が健康的な色気を醸し出していた。


「カーライムさん、こんにちは。

 今日はスパナさんは来てないんですか?」


「よう、アルフィディナ。今日はスパナの奴は来てないぜ。

 何だ奴になんか用なのか?


 アルフィディナはスパナが来てないと分かると少し困った顔をしたので、カーライムは少し気になったのでどうしたのかと尋ねてみた。


「えーと、スパナさんに今月分のノルマ納めに来たんだけど・・・困ったなぁ、ノルマの期限今日までなんですよ」


「あん? ノルマって何のノルマだ?」


「何のって、上りの分のノルマですよ」


 実はこの酒場、盗賊ギルドの猫――スリの拠点の一つだ。

 王都には盗賊ギルドの拠点が幾つもあり、それぞれの猫や鼠、兎や狐たちの拠点が存在して盗賊ギルド員同士でお互い連絡をとりあっているのだ。

 拠点によっては日ごとに場所が変わるため、巧妙に隠された符丁を探し当てるのも一苦労するものもある。

 因みにこの酒場の符丁は実に分かりやすく、主に新人盗賊(シーフ)の拠点となっている。


「お前何言ってんだ? 上がりは1年以内に納めればいいんであって、毎月納めるなんて決まりはねぇぞ?」


「は? えっとスリで稼いだ上がりって1か月ごとに支払うんじゃないんですか?」


 カーライムの思いがけない答えによりアルフィディナは思わず呆気に取られた顔をしてしまう。


「かかかっ、なるほどなぁ。そりゃあお前スパナの野郎に騙されてんだよ。

 因みにノルマはいくらだ?」


「え? えっと、3,000ゴルドだけど・・・」


「そりゃあまた豪勢なノルマだなぁ。アルフィディナ、それ1年分のノルマだぜ」


「え? え? ちょっとまって、じゃあ何? 3,000ゴルドを1か月以内じゃなく1年以内に納めれば良かったってワケ?」


「そう言うこった」


 1年以内にノルマを納めればよかったと言う事実を突きつけられ、これまでにスパナに騙されて取られていた金額に思い至りアルフィディナは頭に血を上らせた。


「信じられない! あいつ人が一生懸命頑張って稼いだ金を横から掻っ攫って行ったの!?

 今度会ったらぶっ殺してやるわ!」


「まぁまぁ落ち着け。そりゃあ騙されたお前が悪いよ。もう少し考えを巡らせれば気が付いてもおかしくない額だぜ?

 3,000ゴルドともなれば1か月で稼げと言われれば新人にはかなりキツイ額だからな。

 そもそも新人どもの稼ぎを根こそぎ掻っ攫ってしまえばお前らの生活もままならないだろうに。ギルドがそんなことして新人を減らしても損するだけだろ?」


「そ、そりゃあ少しはおかしいな思ったわよ。とてもじゃないけどスリだけで稼ぐなんてとてもとても・・・

 それでスパナに勧められて案内人ギルドの仕事も始めたんだけど・・・それすらあいつの策略だったってワケね・・・」


 カーライムに諭され少し頭を冷やしたアルフィディナはこれまでのスパナの言動に色々罠が潜んでいたことに気が付いて自分はどんだけ・・・と落ち込んでしまった。


「ああ、新人どもに案内人ギルドの仕事を掛け持ちするやつが多いのはそのせいか。

 確かイーサン、サンパテ、スーザン、それから・・・」


「ウーガランド、リューセイバ、トリニティですね」


 思い当たる新人盗賊(シーフ)を上げていくカーライムに、アルフィディナは自分と同じ被害を受けた仲間の名前を上げてく。

 もし機会があれば皆でスパナを袋叩きにしようと。


「かかかっ、そんだけ人数騙していれば黙っていても遊んで暮らせるわな。いいねぇ俺もあやかりたいものだ」


 おどけて言うカーライムにアルフィディナは思いっきり恨みがましい目を向ける。

 冗談だよと肩をすくめ、ジョッキに残った麦酒(エール)を飲み干す。


「さて、俺がこうして教えたおかげで子猫ちゃんはこれから余計な出費をしなくて済んだてぇ訳だ。

 世の中の勉強代として少しおじさんに1杯奢ってくれると嬉しいなぁって思う訳だが」


「くっ、分かったわよ。1杯奢らせていただきますよ」


 そう言ってノルマを納めるつもりで持ってきたお金の中から1杯分の代金をカウンターの上に叩きつける。

 アルフィディナは用が済んだとばかりにさっさと酒場を後にした。


「かかかっ、若いねぇ」


 カーライムはカウンターの向こうの女店主から新たな麦酒(エール)を受け取り口を付ける。

 そして先ほどまでとうって変わった真面目な顔をして女店主の方へと向けた。


「姐さんは今の話どう思います?」


「そうね、少し気になるわね。そのスパナって羽振りの方は良さそうなのかしら?」


「少なくとも俺が知っている限りじゃそんな風には見えねぇです」


「7人もの新人からそれほどの額を集めておきながら行動に変化なし・・・ただの小悪党とは違うみたいね」


「そこは俺も感じましたね。

 小悪党にありがちな小金を稼いでばら撒いている風でもないんですよ。なら集めた金は何処へ行っているのか・・・少し調べてみましょうか?」


 女店主は少し考えた後、首を横に振った。


「それはこちらで調べておくわ。

 貴方には新人たちのフォローをお願い。滅多なことは無いだろうけど、やけを起こして周りに迷惑を掛けられたら猫の立場も悪くなるからね。

 ただでさえ、ギルドへの上納金の額が少ないんだから」


「だったらノルマの額を上げたらどうですか?」


 たった今しがたそのノルマで騒動が起きているのだと言うのにカーライムは冗談交じりに進言する。

 猫は主な収入がスリと言う事で大金が動くことは稀だ。

 中には盗賊ギルドの保護を受けていない貴族の屋敷に盗みに入る盗賊(シーフ)もいるが、それこそそんなことの出来る腕前を持つ盗賊(シーフ)は一握りだ。


 カーライムの目の前にいる女店主もかつては大怪盗として王都に名を馳せた『クリンベリル』として活躍していたが、今では猫の頭領としての立場があるため簡単に大きな仕事出来ずに猫の収入は大きく激減している。


「冗談でもバカなことは言わないで。これ以上新人が減ったらどうしてくれるのよ」


 猫は新人の出入りが激しいのだ。

 生半可な腕では直ぐに衛兵に捕まってしまい、そのまま盗賊(シーフ)を止めてしまう者もいるからだ。


 女店主――猫の頭領のマリートワネットはカーライムを嗜めながらスパナの調査を誰に頼むか頭を巡らせる。

 彼女の勘ではスパナは只者ではない様に感じたのだ。

 スパナに感づかれず身元の調査となると―――




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 デュオは久々に自分の育った孤児院へと足を運ぶことにした。


 4歳から13歳までの9年間とそれなりに世話になった訳だが、3年前に冒険者になるために孤児院から独り立ちしたのだ。

 孤児院では15歳になったら孤児院から出て独り立ちするのが通例であるが、何とデュオは持ち前の魔力を磨き上げ2年も早く冒険者として孤児院から独り立ちをしてしまった。


 当初は孤児院の院長も冒険者ギルドの職員たちも早いのではないかとデュオを諭そうとしたが、彼女の意思は固く周囲の反対を振り切って冒険者として活動を始めた。

 そして周りの不安を余所にデュオは瞬く間にランクを上げていき、たった3年でA級冒険者として名を馳せるまでに至ったのだ。


 そしてデュオは冒険者をするかたわら、その稼いだお金の幾らかを孤児院へと寄付をしている。

 今まで寄付をする都度にわざわざ足を運んで届けていたのだが、最近ではクラン『月下』の名も有名になりクラン運営が忙しく中々自分で寄付金を届けることが出来なかったのだ。


 この前のチギラギ医院の事件の事もあり、久々――半年ぶりに孤児院の様子を伺う為デュオはサウザルト孤児院へと向かう。

 寄付金を届けるための訪問目的でもあるが、幼い頃一緒に孤児院へ預けられたトリニティへ会いたいと言うのも目的の一つだ。


 デュオは早い段階で孤児院から独り立ちした為、残された幼いトリニティを心配して冒険の合間合間に会いに行っていた。

 その度に冒険譚を聞かせていた為、トリニティも早く冒険者になりたいと言っていたのをデュオは思い出して微笑む。

 もっとも冒険者と言うのは命懸けの活動でもあるので、トリニティにはもう少し大きくなってから我慢するようにと、それまでにその覚悟があるのかを決めるように考えなさいと口を酸っぱく言っていた。


 デュオが孤児院の門を潜ると玄関先までの庭で子供たちが遊んでいた。

 庭に居たのは7歳くらいまでの年少組の子供たちで、デュオが孤児院の敷地内に入ると如何にもやんちゃそうな男の子3人組が目聡くデュオを発見する。


「あーー! デュオ姉ちゃんだ!」


「何!? 野郎ども、フォーメーションFだ!」


 背の小さな男の子――スピネが叫びを上げると年の割にはがっしりとした男の子――ジャックが手の持っていた木剣をデュオへ向ける。

 ジャックの号令と共にスピネとひょろっとした男の子――ノルトも木剣を構える。

 どうやら3人でチャンバラごっこをしていたようだ。と丁度そこへデュオが現れたので仮想敵兵として目標を定めた。


 ジャックとスピネが木剣を振りかぶり攻撃を仕掛けるも、デュオは手に持った赤色の杖を使いいなしていく。

 数合打ち合いをした後、ジャックとスピネは距離を開けチラリとデュオの後ろに目線を向ける。


「よし今だ、やれ! ノルト!」


「やぁぁぁぁぁぁ!」


 ジャックの掛け声とともにいつの間にかデュオの後ろに回り込んでいたノルトが木剣を振り下す。

 だがデュオはノルトが後ろに回り込んでいたのに気が付いていたので難なく木剣を躱す。

 そしてすれ違いざまに杖を頭上に振り下す。


「あいたっ!?」


 必殺のフォーメーションが躱されてジャックは驚いた表情を向けているところへデュオの杖がノルトに続いてジャックとスピネの頭へ振り落される。


「ぐわぁ!」


「いったーっ!」


 思ったより痛烈な攻撃によって3人組は頭を抱えて蹲る。


「目立たないノルトを背後に回すのは上手かったけど、それでわざわざ掛け声を上げてちゃ意味ないでしょう。

 ノルトも不意打ち掛けるのに声出してちゃバレバレよ」


「ちぇー、上手くいくと思ったんだけどなぁ」


「掛け声を上げるんだったらせめてそれをフェイントに使いなさいよ。

 視線と声で後ろに相手の意識を向けさせその隙を突くのよ。そう言った意味ではさっきの後ろに下がるのは頂けなかったわね」


「そっか、フェイントと言う手もあるのか」


 デュオの指摘にジャック、スピネ、ノルトはそれぞれ頷き合う。

 やんちゃ3人組はデュオに憧れて自分たちも冒険者になるべく自己訓練をしている。

 そしてデュオが来るたびに攻撃を仕掛け自分たちの成長を見せると共に挨拶代わりにしていた。

 3人組は挨拶は終わったと言わんばかりに今度はデュオへ纏わりついて土産話の催促をする。


「なぁなぁ、折角久しぶりに来たんだからまた冒険の話を聞かせてくれよ!」


「はいはい、冒険話は院長先生に挨拶が終わってからよ」


 デュオは3人組を後にしながら孤児院へと入って行く。

 孤児院の中では年長組がそれぞれの仕事をしていてその内の1人、システィナが、3人組以外の年少組がデュオを来訪を告げていたので仕事の手を休め歓迎してくれていた。


「デュオお姉ちゃん、久しぶり」


「久しぶり、システィナ。元気そうで何よりだわ。

 まだ孤児院に残っているのね。もうそろそろ16歳になるんじゃなかったっけ?」


 システィナは年長組の一番上で今年15歳となり独り立ちの年齢に達している。

 デュオの1つ下と言う事もあり、システィナはデュオを姉のようにしたい、デュオもトリニティと同じくらいに妹の様に可愛がっていたのだ。


「うん、再来月で16歳になるわ。

 一応住み込みで飲食店で働くことになっているけど、最後まで孤児院のお手伝いをしたくてね」


「よくお店側が待っててくれるわね」


「お店側もちょうど再来月にウエイトレスが1人結婚して止めちゃうからあたしは丁度その代わりね」


「なるほどね。ああ、ところでトリニティはいるのかしら?」


 話題がトリニティへと移るとシスティナは少し気まずげな表情でデュオを見てきた。


「あ~、そのあたりの事は院長先生に聞いてもらえるかな・・・?」


「? そうね、まずは院長先生に挨拶をしてからの方がいいわね」


 デュオはシスティナの表情に少し疑問に思ったが、まずは院長先生に挨拶が先だと思い院長室へと歩を進める。


 ドアをノックして院長室へと足を踏み入れたデュオは久々の院長の顔見てホッとした気持ちになる。

 独り立ちしたとは言っても、この孤児院はデュオの第2の家でもあり院長は育ての親でもある。


「やぁ、デュオ。久しぶりだね。随分と活躍しているみたいだが無茶はしていないかね」


「久しぶりです、院長先生。まぁ無茶はしていると言えばしていますが・・・」


 いきなりの挨拶にデュオは少々気まずげに顔を逸らした。


「わはは、なぁに、こうして無事に姿を見せてくれればそれで十分さ」


「無事に生きて帰るのも冒険者の仕事ですから」


 サウザルド孤児院院長は初老に差し掛かる年齢でありながら精力的な肉体をしている。

 髪は白髪が目立ち顔は皺だらけだが、その体は細身でありながら屈強な肉体を保持している。

 サウザルド=ルーディオン院長は若い頃は冒険者としてA級の戦士として活躍していたほどだ。

 足の怪我を理由に引退した時、世界を巡った時に魔物に両親を殺され孤児になってしまった子供たちを多く見たのを嘆いて孤児院を設立したのだ。


「院長先生、これ今月の寄付金です」


 デュオは背中のバックパックから銀貨の入った革袋を取出しサウザルド院長へと渡す。


「毎月すまんな」


「いえ、この孤児院はあたしの家でもありますから」


 冒険者のランクが上がって収入が安定し始めた頃は金貨を寄付金として渡そうとしていたが、サウザルド院長に押し止められていた。

 寄付金を納めに来ているのは何もデュオだけではなく、他にも孤児院を独り立ちした卒業生からも寄付金を受け取っている。

 なので少しでもデュオに負担を掛けない様にしたサウザルド院長の配慮でもあったりする。


「そう言えばトリニティは元気にしてますか?」


 そう聞かれるとサウザルド院長はシスティナと同じように気まずげな表情をしていた。

 何かトラブルでもあったのだろうかとデュオは心配するが、サウザルド院長から告げられた言葉にデュオは驚愕した。


「半年前に独り立ちして冒険者になった!?」


「ああ、どうしてもと聞かなくてな。

 デュオの時と違ってトリニティはそれほど冒険者向きとは言えなかったんだが・・・」


「え? ちょっと待ってください。トリニティは商売をしたいからっていろいろ勉強をしてどこかの店で住み込みをするって言ってたんじゃ・・・」


「うむ、実はその商売の勉強と言うのが魔物の買取価格とかの市場調査で、冒険者の売買のイロハを勉強していたみたいなんだよ。

 どうも反対されているのが目に見えていたので密かに準備をしていたらしくてな」


「はぁ、あの子ったら・・・冒険者になるんだったらあたしに一言言ってくれればそれなりに手伝ったのもを」


「あ~、トリニティはそれが嫌だったらしいぞ。自分の力で冒険者として成功して見せるって息巻いてたしな」


 随分と無茶な事をとデュオは思った。

 確かに自分はA級冒険者まで上り詰めたが、最初から1人で何でもできたわけじゃない。

 ここに居る元冒険者のサウザルド院長の協力や、院長の人脈を使っての手助けなどがあったからこその今のデュオが居るのだ。

 何のコネも無しに1人で最初から始めるには並大抵の努力が必要になる。

 しかもトリニティは自分の力でと思い込み、周囲の協力を拒んでしまっている。

 それでは冒険者としての心構えとしては最初から躓いてしまっているのだ。


「と言う事は、冒険者ギルドでもあたしの事は避けている・・・って事ね」


「まぁそうだろうな。お姉ちゃんの名前で威を借りたくないってのがトリニティの言い分だしな」


 確かにデュオの妹と言うだけでそれなりに注目を浴びるのは必須だろう。

 その注目を避けるためにもトリニティはデュオの協力を拒んでいるのだ。


「はぁ、まぁ冒険者になってしまったのはあたし達兄妹の宿命だから諦めるとして、あたしを避けるのはちょっといただけないわね」


「まぁこちらから強引に近づいても逃げられるから、陰ながら援護してみたらどうだ?」


「そう、ですね。そうしてみます。取り敢えず今トリニティが何処に居るかシフィルに調べてもらって・・・」


 サウザルド院長のアドバイスをもらってこれまでのトリニティの同行を調べるべく頭を巡らせていると、部屋の外が騒がしくなる気配がした。

 そして大声を上げながら誰かが駆けつけてくる足音がする。


 何事かとデュオとサウザルト院長が顔を向けると同時に、院長室の扉が大きく開かれシスティナが息を切らしながら声を上げる。


「院長先生、大変です! 子供たちが誘拐されました!」








次回更新は3/2になります。

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