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2014年/短編まとめ

図書室の主

作者: オミ

『図書室の主』


それが彼のあだ名。


役職は図書委員の委員長で、いつも本を読んでいる。


その白く細い骨ばった指先がページをめくる。


本が羨ましいと思ったくらいにその姿は様になっていた。


真剣に文字を追う瞳に魅入られたのだ。


いつもいつも本を読む。


その本はいつも異なっていて、ジャンルもバラバラだ。


少し前に彼に聞いたことがあった。


「何故、本が好きなのですか」


いつもは文字を見つめる目が私に向けられた時だった。


私を見て本をもう一度見て表紙を撫でる。


静かな図書室に響く彼の低めの声。


『本は世界』だと言った。


ガラス玉のように透明度の高い瞳は何を見つめているのか。


『本は世界』彼の言葉を反芻する。


「綺麗だろ?物語の世界は」


どこか遠くを見つめる瞳。


耳にこべりつくような彼の声。


薄く笑ったその表情が瞼に焼き付いた。


どこの世界と比べて、なんて聞く必要はなかった。


彼は自分の生きる世界を否定しているのだ。


この世界は綺麗じゃないと、醜いと、汚いと。


だから物語の世界を愛すのだ。


本が好きなのだ。


いつも違う本を持ち歩き、ヒマさえあれば文字に目を向ける。


学校内でそのスタイルなら外でもそうなのだろう。


彼は本と物語とともに生きている。


美しい世界をとどめておきたい。


どうしてもその世界に生きたい。


そう言う彼はこの世界を拒絶した。


必要ないと告げて手放すことを選んだのだ。


綺麗な世界で生きるために。


「僕は本が好きなのではなく、物語を愛しているんだ」


あぁ、と私は頷いた。


人は皆、憧れを持つんだ。


綺麗な世界に、美しい存在に。


彼もそれを手に入れたくて本を読むんだ。


ただ一つの世界のために。

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