005
二人の戦いは終わらない。アメリカに平和と安息が訪れるまで……。
深夜二時頃、ジョセフはお持ち帰りした同僚の女刑事を家に連れ込み、一夜を明かそうとしていた。
「ねえ、ジョセフ。私の何処が好きなの?」
「顔だよ。モロタイプだぜ」
「えー、顔だけなの。なんか寂しいな」
「嘘嘘。性格も好きだよ」
二人が全裸でキスを交わし、本番に臨もうとした時だ。携帯電話が鳴り、ジョセフは舌打ちをしながら電話に出た。
「なんだよ、こんな時間に!」
「私の電話は不快かね?」
電話をかけてきたのは署長だった。
「あ、すみません。署長だとは知らずに」
ジョセフはとたんに平謝りとなる。
「まあ、いい。事件が発生した。場所はハーレムの住宅街で、オークが家に押し入って人肉パーティーをしているようだ」
「署長、なんつう事を言うのですか」
胃に入った焼肉が戻りそうになる。
「人食いオークに人権は無い。君の好きな方法で殺処分してくれたまえ」
「んな事言っても、こっちは大事な用事が」
「玄関でカレン君を待たせている。早急に現場へ行き、対処したまえ」
「あ、ちょっと署長」
反論しようにも、既に電話は切られていた。
「どうしたの?」
「署長からだ。ハーレムで人殺しだとよ」
「大変ね。それじゃあ、私も帰るから」
「え」
「貴方がいない部屋に用はないわ。それじゃあ」
女は服を着て家から出て行ってしまった。
「嘘だろ。おい……」
だが、悲観してはいられない。ジョセフはクローゼットで私服に着替えた後、家の扉を施錠して、カレンの車に乗った。
「くそくそくそ」
ジョセフは助手席で唸る。
「どうしたよ、さっきの彼女に振られたのか?」
「違う。そうじゃない、そうじゃないんだ。合体まであと一歩の所だったんだ。そんな時に署長から緊急電話が入ってきてよ。おわずけになっちまったぜ」
「羨ましいな。オレには相手する女もいないぜ」
「こうなったらオークの野郎に、怒りをぶつけてやる」
怒りに燃えるジョセフを連れて、カレンはウエスト・ハーレムに車を飛ばした。通報があった場所は、四階建ての大豪邸であり、政治家が住んでいると有名な家だった。
「おいおい。もしも政治家がミンチになっていたら、俺達おしまいだぞ」
「停職じゃすまないかもな」
二人は不平不満を呟きながら、中に入って行った。豪邸の中では政府関係者のパーティがあったようで、文字通りに人肉パーティとなっている。
「おいおい、白い壁が血のペンキで塗られているぜ」
「凄い死臭だな」
「奴さん、肉を残すことなく食べてやがる」
「行儀のいいオークさんだぜ」
二階に上がっていくと、一番奥の部屋で物音が聞こえる。二人は部屋の扉を蹴破ると、一匹のオークがクローゼットを開けようと必死になっていた。
「動くな、警察だ!」
「両手を上げろ!」
無論、モンスターに人語は分からない。オークは片手にハンマーを持ち、二人に向かって襲いかかってきた。
「畜生、俺の時間を返しやがれ!」
ジョセフは叫びながら、拳銃を発砲した。何回も何回も発砲し息の根が止まったと分かっていても発砲は止まらなかった。
結局十六発の弾を使い果たした後で、拳銃の弾が無くなって、ジョセフの暴走は止まった。
「大丈夫ですか?」
カレンは蜂の巣になったオークの死体を乗り越えて、クローゼットの中を開けた。中にはニューヨークの知事が怯えた様子でガタガタと歯を震わせていた。
「ありがとう、ワシは大丈夫じゃ」
「ここで何があったのですか?」
呆然自失のジョセフに変わって、カレンが聞いた。
「ワシの家で政府関係者を招いてパーティを開いとったのじゃが、いきなりオークが家の門を破壊しての、家に侵入してきたのじゃ」
「知事以外に生き残りはいますか?」
「恐らくおらんじゃろ。ワシはクローゼットの中で秘書や教え子の悲鳴を聞いた。ワシにはどうすることもできなかった」
「そうですか」
カレンは振り返って、ジョセフを見た。
「モンスターは恐ろしい野郎だ。絶対に許したらいけねえ」
「ああ。俺達はアメリカからモンスターを全て駆除するまで闘い続けるぜ」
この事件で、二人はモンスターの凶暴な性格を再認識したのだった。