# A starting point
これは、過去であり未来の物語―。
ここはとある高校の校庭。
私立であるがゆえにその耕地面積、施設はこの第7学区内でも群を抜いていた。
校庭だけでも全部で11個あるこの『国立魔術学院高等学校』は、国内でも有数な名門である。
しかし、生徒人数は高校でも多い3739人という極めて大人数である。
8割が魔術総合統一模試で偏差値が71を超えたいわゆる魔術エリートであり、一割がお嬢様、おぼっちゃま・・・・。
箸の使い方がわからない。
たった一杯で2000円という(いったい何が材料ならそんな値がつくのか逆におそろしい)紅茶を、朝、昼、晩、昼休み。
つまり、一日の紅茶の金額だけで8000円というすさまじい環境に生きている。
そんな学校である。
そして、残りの一割が海外から来た学生だ。
勿論、日本語もペラペラで、七カ国語話す奴もいるという。
しかし、これはあくまで黒冴 帳の心の中である。
帳は、頭の中で勝手に流れ出した大学ガイダンスを強制終了させた。
今は、体育の授業だ。
大学とはいえども、基礎体力の向上は国が決めたことだからしょうがない。
黒冴 帳は先生の要求であるグランド15周を汗一つ垂らさずに涼しげな顔で中央の芝生に歩いて行く。
高鳴った心臓が少しずつ、小さくおとなしくなっていく。
そして、ちょうど真ん中あたりで白いスポーツタオルで顔を隠し、肩を激しく上下させている少年の隣に腰かけた。
「まさか、このくらいでばててる?」
「うっせーよ。ったく、あいつの束縛魔法さえなけりゃこんなグランド1000周してやるのに・・・・」
「夢人の兄貴すごいな。感激だ。まあ、お前が全魔力開放して暴走するよりはましだな」
「やられるほうになってみろよ。死にかけるぞ。チョーク飛んできてもガードさえできない」
「それは飛ぶって時点で何かお前に問題ありだろ」
「見覚えないな」
まだ、走り切ったのは帳だけなようで広い芝生には事実、2人しかいない。まるでアフリカかなんかの草原に座っている気分だ。
「あれから、もう32年か」
そう。あの日から。32年。
それは長いのか、短いのか。
「そうだな」
「全く。俺は化学が得意分野だったのに・・・・。あのせいで、テストの平均点馬鹿落ちだぜ」
「馬鹿落ち・・・・なんだよの日本語」
「だいたいで理解してくれよ」
「それに、その言葉・・・・NGだ。聖府がきいたらまずい」
「あっ。そうだった・・・・」
2×××年。
日本は科学の力に翻弄された。
原発問題。環境問題。エネルギー問題。地球温暖化。エトセトラ・・・。
日本聖府は世界を驚愕させる大きな一歩を踏み出す。
それが、『魔術』による『日本国魔術再構築案』だ。
科学から魔術の世界へ。
科学から魔術の政治へ。
科学から魔術の依存へ。
まあ、こんなもんだろうか。
とにかく、日本国民は最初戸惑った。
そりゃそうだ。
科学に依存してきた人間が魔法なんていう『絵本』のような事を言い出したからだ。
しかも国を治めている『聖府』が、だ。
魔法?
なにそれ?
ハリ―何とかか?
ばかな。
できるはずがない。
あり得ない。
だが、日本の科学技術はそれを成し遂げる。
最後の科学。
最終的に科学が導き出した答えが―魔術。
具体的には、研究者が『魔術結晶』を作り出した。
その結晶からあふれ出す異様な光は太陽の光をあびることで、全日本国民を人間から魔術師へと変えた。
それが今の日本。
『魔術結晶』は全ての役割を終え、最後は消滅させられるはずだった。
しかし、『反組織』により、結晶は奪われ、今もどこかに隠されているらしい。
『魔術結晶』は人間に魔術を授けるかわりに膨大なエネルギーを発生させる。それは時間がたてばたつほど周囲をゆがませる。最終的には結晶内にたまった『魔法エネルギー』が『魔道弾』となって、食物連鎖を混乱させ、地球を破滅へと導く。
そして、その『日本国魔術再構築案』を作り出し、受理した奴こそが、現在の日本国の総理大臣。
雨月 聖夜。
――――――俺の正真正銘の兄だった。