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9.それ、痛そうですね。

くそう。友情なんてそんなもんだ。あっさりと友を見捨てたロウを恨む。……忠告はしてくれていたけど、この際関係ない。あいつ覚えてろよ。

「で、なんなんですか?」

振り返ると、フランツは柔らかい笑みを浮かべた。どうもこの笑顔が好かない。胡散臭い。

「我々とヤマト殿の関係をご説明しましょう」

立ち話もなんだと、部屋の隅にある席に案内する。

フランツの連れにも声をかけたがが「我々は結構です」といって断られてしまった。座した背後に控える3人組は『何かしたらただじゃおかない』オーラを発している。

気まずさ極まれり、だ。

観念して、向かいの席に腰を下ろした。

「ありがとうございます」

「いや、茶もないんで。気になさらず」

「違いますよ。あなたは我々の勇者を助けて下さいました。感謝してもしきれません」

なんだ、そっちか。

「成り行きですから、別に」

あっさりと返すと、隣のヤマトがなぜか眉を寄せた。

「で、あなた方とヤマトの関係とは?」

「ヤマト殿はアイゼンの勇者です」

先ほどまで、しょげていたヤマトが勇者と呼ばれて少し頬を染めた。勇者とは、照れるようなことなのか?

だが、くるくると表情が変わるところは変わっておらず、ほっとした。

「それは、ロウから聞きました。勇者が、魔族に対抗する唯一の手段だってことも」

我々とヤマトの関係、と言われてもこれ以上の情報はどこにあるんだ?

「そうですか。じゃあ、私はこれーー」

「ヤマト殿の気配が違うとおっしゃいましたが、薬司には分かるんですか?」

逃げ出すきっかけをフランツはあっさりと摘む。やっぱりこいつ嫌いだ。

さて、どう答えるべきか。少し悩んでから答えた。

「私には分かります。ツェルトにいた頃と今のヤマトは別人に見えます。コールブランドというのはあの刀のことですか?」

薬司が、という部分を誤魔化して、別の話をふった。

「はい、あれが勇者の剣です。今はヤマト殿の身体の中にありますからお見せ出来ませんがね」

「「「えっ!」」」

「……」

いや、あんたらが驚くとこじゃないでしょが。声を上げた3人組へ冷たい視線を送る。

まさか、そんな衝撃の事実を知らされてなかったのか?

フランツは相変わらず胡散臭い微笑みを浮かべている。気に留めるそぶりもみせず、話をつづけた。

「召喚者はコールブランドと一体になって初めて、力を得るそうです。私も正直この目で見るまでは信じていませんでしたが」

フランツは隣のヤマトに微笑みかけた。当の本人は身体の中に刀があると言われたくせに、ケロリとしている。

ふと、ひとつのことに思いあたった。

「あんた方が来る前はヤマトは言葉を話せませんでした。もしかして、ヤマトが言葉を理解できるようになったのも、その刀が関係していますか?」

「鋭いですね。そうです。恐らく、それもコールブランドの力なんでしょう。まぁ、そうではない事例が過去になかったので確かではないですが」

歯切れの悪い回答に首を傾げる。

「ここからは、少し立ち入った話になります。いいですか?」

なぜ、今更了解がいる?

とりあえず、こくりと頷く。

ん?

今、こいつ笑った?

一瞬、フランツの口元がめ緩んだように見えた。

瞬きしたときには、またあの胡散臭い微笑みに戻っていた。見間違いか?

「そもそも勇者とは、アイゼンだけが約百年に一度だけ呼ぶことのできる人類の希望です。アイゼンには歴代の勇者の記録が残っていますが、全て異界からの召喚者でした。勇者の振るうコールブランドは魔族にとって唯一の天敵なのです。コールブランドは魔を遠ざけ、焼き払います。歴代の勇者によって、魔族は勢力を抑えられ人々は平穏な暮らしを守ってこられたのです。

今回も勇者の召喚は神の信託により事前に知らされていました。

いつも勇者はアイゼンの王宮にある神殿に召喚されるのです。ところが正にその日、神殿に思わぬ魔族の襲来がありました。王宮に魔族が現れることは数十年にあるかないかです。ましてやそれが勇者の召喚の場なんて、偶然の訳がありません。手段は分かりませんが、結果として召喚者の出口が変わってしまったのです。そんな先例は一度もありません。言い伝えでは、剣を持たぬ勇者はただの器でしかなく、生きることはできないとされてきました。今すぐコールブランドを勇者に捧げなくては、次の百年まで我々は魔族に対抗できるすべを失う。一刻も早く勇者を見つけなくてはいけませんでした。かろうじて、神官の力で召喚者がリャンにいることが分かったので、我々が派遣されたのです」

ここまできてフランツは息を吐いた。

一度に得た多くの情報に頭が混乱する。

その中でも、『器』という表現に妙に納得した。初めて見た時のヤマトはからっぽの『器』だった。満たされることを待つ『器』だった。

授魂が成功したことも、ヤマトが核を求める『器』だったからなのか。私の与えたものが、本来の核とは異なるから、言葉の理解もできない未熟さが残ったのだろう。

コールブランドを得てようやく勇者は完成したのか。

性格が変わったように思うのもそのせい?

核とは、その人を形作る本質だ。召喚者が器に過ぎないなら、勇者の本質はコールブランドにあるということか。

しくみは分からないが、授魂と似た術であることだけは間違いない。

なるほどーーつまり、アイゼンの勇者召喚とは、リャンにおける禁呪に他ならないんだ。

「シェンナさん」

ん?

「あぁ、すまない。考え事をしていた。お話をまとめると、コールブランドが勇者を動かす核であり、それをヤマトに授けるために、あなた方は遥々アイゼンからやって来られた、というわけですね?」

「そうです」

満足げにフランツは笑う。

「コールブランドが失われると勇者は消えてしまうのです」

「死ぬってことですか」

刀が核なら、そうなるか。

フランツは静かに首を横に振った。

「伝承には消えた、としか記されていません。それが死なのか、それとも帰還を意味するのかは分かっていないのです。しかし、役目を終えた勇者が神官によって還されることを考えれば、それが異例なことには違いありません……」

そんな、重い責任を負っていたのか。平然と話を聞いているヤマトを凄いと思う。勇者とは、人並みならぬ資質があるのだな。

「我々はこれからアイゼンへと帰還し、魔族の討伐へ向かいます」

ま、なにはともあれ私のお役はお終いだ。

ええどうぞ、どうぞ。世界の平和のために存分に戦って下さいな。


「それで、あなたにも御同行を願います」


「は?」


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