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第五戦 【覆先(伏線)】



第5章   【覆先(伏線)】





  1




 1時間が過ぎたのか。それとも10時間過ぎたのか。どちらにしろ窓の外は夜空である。珍しくもちらほらと星がばらついて見える。

 星の数ほど世界は回る。そう誰かが言っていた。

 ならばもう、世界は回りつくしたと言う事か。もう一度ネジを巻き直さないと、世界は回らない。二度と。

 だからと言って人間が行おうとしているこの延命行為に意味はあるのだろうか。宇宙へ逃げ、事が済んだら我が物顔で帰還する。そもそも回転を無駄に早めたのはいったい誰か。全生物が満場一致で人間だろう。昔、神が生物に対して何か願い事を一つ叶えてやると言って、人間たちは何も望まなかったが他の生物は人の消滅を願い、そして人間は一人残らず消えうせた。そう言う物語を見たことがある。他の動物にも意思があるなら、おそらくこの物語は正しいだろう。人間への憎悪。人はそれを感じ取っているのかいないのか、今回の宇宙脱出計画では、多種多様の他の動物を一定だけ?選んで?連れて行くことになっている。ノアにでもなったつもりなのだろうか。今回は神の示しで人は逃げるのではない。これはただの傲慢ゆえの愚行。しかも人間が人間を選ぼうとしている。これは愚考の真骨頂。

 気付け。我等が何故逃げねばならないかを。それはこの事態が人の手には到底負えない天罰だからだ。天罰から何故逃れる。素直に受け入れろ。得意の信仰心で空を見ろ。審判の日が来ただけだ。

 道など残されていない。



 昔の私ならこんな風にこの事態を受け止めて、そしてこれを素直に受け入れて死に沈んだことだろう。死など受け入れれば楽の事だ。だけど残念だが今の私は違う。死を受け入れら無い自分がここに居る。生きたいと切なに願う私が感じられる。これが私の、本当の私なのかは自分では決められない。だがその願いが、私の隣で肩を抱いてくれている彼の存在から来るものだということは何よりもスッキリと明白。彼さえ居なければこんな感情は湧いてはこない。故に真に願うのは私の命よりも、彼の生存。

 くしくもその願いを神は受け入れてくれた。





 数年前のあの日、大将と直人が政府に呼ばれたあの日から、直人を始めとするGOWのメンバーは全員が事実を知っていた。人類の滅亡が近いことを。いや、正確にはもう少し以前から、この事態はほのめかされていたらしい。だからあの日のマリアのあの発言。「時間?そんなものは」「いずれか解るさ。あんたもあたしも、GOWに必要の無い存在だからさ。」

 彼女は直人と大将が政府に呼ばれたことで、人類の滅亡を確信したのだろう。

 そして零次が全ての事実を話したのも、この事態が解ったから故の行動。最後に自分達の存在の虚しさを私に伝えた。

 大将が私の入団試験を取りやめたのもそうだ。既にGOWは必要の無い存在。

 世界が戦争を止めたのも無駄だと解ったからだろう。幾ら奪っても、それは直ぐに無となる。


 世界は確かに変わったのだ。


 街では既に暴動が起きているらしい。TVでの実況中継は人間の醜さを刻銘に映し出す。

警察は一応動いているが、彼らの顔は既に生気を失っている。

「一ついい?直人。」

彼は私を優しく抱きとめていてくれた。小さなその体、その手でもこれほど心を癒してくれた。

「一つと言わず。幾らでも。」

私は微笑んで、彼と唇を重ねる。今はとても幸せだ。

「私を地理学者にしたのは、このため?」

彼は苦笑した。あぁ、やっぱりそうか。滅んだ地球にもう一度住み着くとなると、まずは砂漠の大地に植物を植えねばならない。それには地学の知識が必要だ。彼はなるべく私を有名な地理学者に育て上げ、そして選ばれるべき人間の内の一人にしようとしたのだろう。だが恐らくそれは無理だ。私なんてまだまだ未熟者。私より頭の切れる地理学者なんて幾らでも居る。

「それじゃ、もう一つ。」

「あれ?一つだけじゃなかったのか。」

彼は不敵に笑った。私は冷笑する。

「いいじゃん。別に。」

「ま、いいけど。」

「政府はGOWに何を言ったの。」

その質問を思い切って繰り出した時、彼は一瞬呼吸するのを忘れたかのように止まった。やっぱり私の考えは図星のようだ。GOWが日本に捧げた功績は計り知れない。ならばそれなりに恩赦があるのも道理。おそらく日本政府がGOWに対して出した褒美はタダ一つ。それは命。

「あなた達は選ばれたのね。生存者に。」

直人は首肯する。直人も大将も零次もアルもマリアも、全員生き残る。だけど私だけは――生き残れない。

 涙は自然と溢れてくる。零れる。誰にも止める事は出来ない。直人にさえも。

 彼は精一杯私を抱き締めてくれた。思いっきり私は泣く。声が嗚咽に変わっても泣く。

 

今が幸せだから。





























 治安は既に無い。当然である。だがこのままでは、隕石がぶつかる前に世界は滅びるのではないかと思ってしまう。

 世界が滅びると知ったとき、人間は何をするのだろうか。心理テストでよくある、世界が明日滅びるなら貴方は何をしますか?世界旅行。買いたい物を買う。好きな人と一緒にいる。など等様々であるが、この中で唯一まともなのは好きな人と一緒に居るという回答だろう。誰も世界が滅びる前に旅行や買い物なんてするわけがない。世界が滅ぶ前に行きたい場所など思いつくはずも無い。買う前に奪うことを考える。それが思考の流れ。それを押さえつけられる人間は強い人間。

 だから私は強いのかと言うと、そうでもないけど。

 


 

 久しぶりにGOWのメンバーが集った。任務なんてもちろん無い。今回はただプライベートで集ったのだ。

 そしておまけ、ではないが比奈と竜太郎。そしてあかりを私は連れてきた。世界が滅ぶ日は既に正確に決まっていた。後半年後である。

 暴徒は東京では激しかったが、福井県のここら一帯はまだ落ち着いている。何故福井かと言うと、そこはあまり気にしないで欲しい。

「おうっ、なんだ随分可愛い幼女だな。名前、名前なん言うんだ?」

早速アルがあかりを虐めていた。今更だがこいつロリコンらしい。あかりは当然あの性格だ。こんなゴツイ男にいびられて平気で居られるわけが無く。さっそくウルウルしている。私はとりあえずアルを制した。

「へぇ、お前の職場の人って個性的なのな!」

竜太郎は刺青大将を見ても驚かないどころか、なんと大将と友好関係を深めようと自ら話しかけている(しかも既にお前呼ばわり)。大将もさすがにこの坊やには驚き、呆れているようだ。

「これがお前の友達か。似合わんぞ。」

と言われてもどう返せばいいのか。

 比奈はと言うと。……口説かれていた。零次に。

「やぁやぁお嬢さん。以前お目にかかった時よりもまた一段とお美しく。どうやらあなたも変わったようだ。どうです、あんな名前に郎が付きそうなやつより、僕とエレガントな余生を楽しみませんか。」

しかも口説き方が訳解らん。てか竜太郎もほっとくなよ。

 だけどそう言えば、確かに私と直人の結婚式の時に全員顔は合わせているのだったな。赤の他人と言うわけでもない。

「とりあえずは全員揃ったようだな。いやー愉快なメンバーだな。」

直人はそんな呑気な事を言って笑っている。確かに愉快なメンバーだ。既に4組(アルとあかり、竜太郎と対象、比奈と零次、直人と私)のペアが無理矢理にも出来ていることから見ても、なるほどそれなりに相性がいいのかも。

「あれ、そう言えばマリアはどうしたの?」

あのポニーテールが今日は見当たらない。まだ来ていないのだろうか。しかし直人は「全員揃ったようだな」と言った。彼が彼女の存在を忘れるわけがない。

「マリアは来ないよ。あいつは余生実家で過すって。」

実家。それはまたなかなかの親孝行。私にゃ考えられないことだ。あれ、でも余生実家で過すって。

「マリアも選抜生存メンバー(?)に選ばれてるんでしょ?」

すると直人は難しい表情をする。うむ・・・・・・どうやら私の予想が当たってしまったようだ。その表情は雄弁に肯定を示している。

「彼女は拒否ったよ。っていうか、GOWの奴らは殆ど全員。この世に未練のある奴なんて居ないからな。生い立ちが生い立ちだけに、マリアみたいに身寄りが居る奴も少ないし。」

その考えは分らなくもない。死んでもかまわない人生。幾らでも転がってる事だろう。私もそうだったが、だけど。

「直人は?」

ここでこんな事を聞いても仕方がないのは分っているが、それでも聞かなければいけない、のだろう。

「直人は死ぬの?」

彼はニヒルに笑った。

「オレは生きるよ。」





 まぁ。まぁ予想通りの王道の展開と言えばそうだが。出来ればこんな面倒な事態は避けたかった。

 現在私達はカラオケボックスの中に居る。適当にブラっと買い物をして、日が暮れだした所でここにたどり着いた。誰がこんな王道な場所に行きだそうと言ったかと言うと、これまた王道(なのかどうか実際のところ知らないが)竜太郎である。全員特に断る理由が無かったし、なによりこの竜太郎の性格を全員が理解してしまっていたので、誰も拒否しなかった(私は大将が何を歌うのか聴いて見たかったという好奇心もあったが)。

で、かれこれ2時間。あれこれ2時間。

 酔いつぶれ。額の地獄絵図。

王道にも限度があるじゃないか。特に竜太郎とアルフレッド、驚く事にあかりが!ベロンベロンに酔っ払っている。比奈も零次も大将も、そして直人までもがほろ酔い状態。いやこいつ等現在進行形で酔っている。まだ飲むぞ。

「ダー!ダダー!ダダダダダダダダダ!アァダダダー!!!ダダダアダダアアア!!!ダッッダァーーーーーーァアアダダ!ダアダダアダダダダダダッダッッッッ――――――ッダアアアアアア!!!!!ダダン!」

誰だこんなとんでもない歌を歌っているのは。アルと竜太郎のデュエットだ。やかましい。とくにアルの声がガンガン容赦なく轟く。これはもう歌声ではなく爆音だ。と、私が幾ら五月蝿いと怒鳴っても、この爆音じゃ風前の灯(違う?)。虚しく掻き消されてしまう。

「――――――ァアアアアアアアア!ババン!」

……どうやら終わったらしい。

「いやいや、俺に負けず劣らずの美声じゃないか若造。」

「おいおい、オレが実力を出せばあんなもんじゃないぞい。」

二人は肩を組んでどっこいしょと腰をすえる。剛田武のたわ言も、この二人の前では意味をなさぬことだろう。ってことは私の役回りはスネ夫か!?

「次、誰だ次。」

ボックスは次の曲を流し始めた。

「あぁ、僕だよ僕。」

お、零次だ。そうだ彼もいったいどんな曲を歌うのだろう。ん?しかしこの前奏聴いたことがあるぞ。

デデン、HEY!デデン、HEY!デデン、HEY!……

 ……もしや。

「you built me up with your wishing hell I didn't have to sell you……。」

ま、マリリンマンソン!

い、いやまぁ彼の思想を考えれば分らなくも無いが……。流石にこいつ等を歌いだすとは驚いた。しかも曲は『Antichrist Superstar』。まさかこの中にキリスト教の狂信者は居ないだろうな。戦争やってたんだから居ないとは思うが。

「お、おい零次。お前何歌ってやがんだ!」

・・・・・・居た。アル。アルフレッド=ブラッディ!

「……REPENT, that's what I'm talkin……ん?なんだいアル。僕は僕の信仰心に乗っ取って最後の聖歌を気持ちよく歌っているところなんだが。」

こ、こいつ確信犯だな。

「なにを、我等が父を購読するのか!出ていけ悪魔め!おい若造、悪魔祓いだ聖水を持って来い!」

聞き逃しそうだったが、購読じゃなくて冒涜の間違いだろう。いや確かに神様を買って読むのも罰当たりではあるけど・・・・・・てか意味分らんか。

 で、竜太郎は聖水ビールジョッキに注いでアルに渡す。そしてアルはそれを零次にぶっかけて、唱える

「難妙法蓮華異郷……。」

あんたキリスト教じゃなかったのかよ!

「南無阿弥陀仏……アーメン。」

あ、アーメン・・・・・・なるほど宗波がごっちゃなのか・・・・・・日本に居るだけのことはある。

「the moon has now eclipsed the sun the angel has spread its wings」

そして零次は見事なまでのあざやかなシカトで歌い続ける。

「おい友恵。コラ。お前さっきから何ボサっと気取ってんだ!おら飲め。ウォッカだ。」

「ど、どうも……。」

そういや比奈って酒癖悪かったなぁ(遠い目)。今日は一段とはちゃらけている。

「ドゥ・・・デベノ・・・、ノスタレィ・・・??ハ、ハ・・・ァフフ。」

あかりはいつの間にか零次にドュエットを強いられ、訳の分らん言葉を唱えている。あかりは英語大嫌い。

 で、直人は。

「がー・・・・・・ぐー・・・・・・ガー・・・・グー・・・。」

寝ていた。

ええい、こうなりゃやけだ。やけっぷち崖っぷちだ!飲んでやる。私も飲んでやる!

「はい、一気一気。」

私は比奈の手拍子と共に、ウォッカを一気飲みした。

 その後は、語るまい。














 日本政府が一般市民から生存者を選抜したのは数日前のことだ。その方法はとてもじゃないが平等とは言い難いが、仕方の無いことだろう。対象となるのは5歳以上60歳未満の人間。あとは機械がランダムで規定人数分選び出す。選ばれる確立は、決して高くは無く。選ばれなかった物は運命だったと諦めるしか他無い。

 だからと言って素直に「はいそうですか」と吹ける人間が居るかどうかは、怪しい。

 私も例外なんかではない。

 生存メンバーに選ばれた人間の元には、今朝封筒で伝達が来る手はずになっている。つまりその封筒が届かなかった人間は死を覚悟するしかないわけだ。

 そしてこのモノクロハウスに、その封筒は届かなかった。直人は前もって通知が来ているが、当然私には国家からなんの知らせも無い。まぁ単純に考えて、私は運に見放されたわけだ。

「なんでかなぁ。」

真っ白な天上を見上げてぼやいてみる。愚痴ではないが、だったら独り言かと言われると違うかもしれない。

「リビングデッドって、今の状態なのかな。」

少し違うかも知れないが、多分そうなのだろう。

 なんのやる気も起きない。魂が抜けた奴なんて生きていても死んでもし等しいと、まぁそんな駄文が合いそうな状態だ。

 暴徒の数も激減したらしい。もうどうあがいても無駄だったと悟ったのだろう。

 死神が居るとするなら、焦らさないでとっととこの首を刎ねてくれ。しかも唐突に、今のボーっとしてるような状態の時に狩りとって欲しい。

「おい、生きてるのか。死んで無いだろうな。おい。」

後ろから肩を叩かれた。

「いっそ殺して。」

直人に愚痴っても仕方が無いのは分かってるが、やはりどこか妬ましい。

「馬鹿言うなよ。おいおい、そんな面してんなよ。」

「どうでもいいよ。本当にもう。なんだっていい。」

言葉を選ぶ事すら鬱陶しい。

「・・・・・・オレは用事があるから出るが、その間に死んでたりするなよ。」

「努力する。」

しかしこんな事態の時に何の用が在るというのだろうか。

「どこ行くの?」

「ちょっとな。それじゃ行って来る。」

ま、彼なりにこの地に思いいれがあるのだろう。ドライブでもしてくるのかもしれない。私は言及せずに、彼を見送った。


 リミットまでもう数ヶ月。



































 街は大分騒々しい。何故かと言うと生存メンバーに選ばれた方々が宇宙ステーションへと向かうため、スペースシャトルのあるアメリカを始めとする各国に移動するためだ。ッ誰がどの国のスペースシャトルに乗り込むかは既に決定していることで、もちろん日本から飛び立つ者も居る。だがそれらのスペースシャトルが見事に月面まで迎えるかとどうかと言うと、保障できていない。発射に失敗し大爆発の可能性も充分ある。運良く生存者として選ばれたのに、それではあまりにも酷だがまたそれも運に尽きる。そもそも人類が宇宙に出るなど、まだ早すぎる。

 とまぁ考え事をしていても私には関係の無いことだ。私ぼんやりテレビを見ながらくつろいでいた。そのテレビに映っているのは、これまたデカイ隕石である。いや正確に言うなら数個小さい隕石を引き連れているので隕石群が正解だ。そしてこれが、今回地球の引力に寄せられてしまった隕石だ。そう、その姿は既に観測できる位置にまで来ていたのだ。予定よりもわずかばかり衝突時期は早まり、私の命もあと僅か一週間である。僅かと言ってもこの一週間はかなり長い一週間になりそうだが。

「友恵!居るか。つーか起きてるか!」

乱暴にドアを開けて来るのは、まぁこの家には他に直人しか居ないのだが。しかしなんだこの慌てよう。

「朗報だ。」

彼は息も切れ切れに私の隣に座る。朗報?私の知り限りじゃ、その言葉の意味は良い知らせだったと思うが、この事態で良い知らせとは何か?まさか土壇場になって私が生存メンバーに入ったとか、そんな事は無いだろうな。

「これを見ろ。」

彼は一通の手紙を私に手渡した。そこには日本語で数行の文字が書かれていた。私の語解力が正しいならこう書いてある。


?702251 雪野友恵 TOMOE YUKINO

 日本国承認 種の選抜印

 スペースシャトル マリン24号

 発射日時 X月○日 △△時  所 アメリカ合衆国○○州


 その後にもつらつらと数行何か書いてあるが、銃なのはこの4行だけだった。

 どうやら本当に・・・・・・選ばれてしまったようだ。

「え?・・・え?なんで?どうして?」

戸惑う私の背中を彼が叩いた。

「なんだろうと別にいいだろうが!生きれるんだよ、お前は!」

見ると彼はニッと笑っていた。本当に満面の笑みだった。

 急すぎる希望の到来。

 だけどそれは疑うべき物ではない。

 都合が良すぎるけれども

それでも疑うべきではない。

 今は素直に喜ぶべきだ。いや喜ぶ事しかできないはずだ。だから私はこの時泣いていたのだろう。自分でも分るくらい涙を流して、だけどもそれが本当に嬉し涙なのかは分らなかった。彼と共に生きられるのは嬉しい。そこは断言できるくらい、嬉しい事だ。この生きていた時間で、一番嬉しい一瞬。

 だけど、私の涙は果たして嬉し涙かと聞かれたなら、私は素直に肯定できなかっただろう。

 どこか感じてしまった疑問。不信感。不安。誰に対して?何に対して?そんなの直人に決まっている。だけど何を不安がっているのか、その根拠はもどかしくも分らず、私はただ彼の言われるままに、その承認証を握り締めて身支度を始めた。

 このスペースシャトルが出る日は、隕石衝突の前日。場所はアメリカ。

 奇しくも彼と同席だった。


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