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Ep5-7 水着回?

クラスメイト達と合流していよいよ猿島へと渡航する英太たち。約十分間の船旅は青春の一ページを彩る真夏の一日を予感させた――って、レイドの下見は?

「おお、風が気持ちイイぜ」

「あれが猿島?意外と遠いのね」

「晴れて良かったよ」

「小さい船が結構いるな。あのおっさん、何やってるんだろ?」

「さあ、養殖とかじゃない?」

「へー、東京湾でもそんなことやってんだな」

「そりゃあるでしょ。知らんけど」

「知らんのかい!」

「おー、猿島って断崖絶壁なのな」

「もう着いたのか。ちかっ」

「ねえ、見て、鳥がたくさんとまってるよ」

「海鳥だな」

「何の種類だろ?」

「さー?」


 猿島航路の渡船に十分ほど揺られて猿島の桟橋に着いた。遊覧船のクルーたちが先に桟橋に停泊していたクルーザーを器用に避けてタラップのある定位置にピタリと寄せる。

 猿島は三浦半島の沖合1.5キロメートルほどの位置に海から突き出した砂岩の断崖に囲まれた全周約1.6キロメートルの小さな無人島だ。上陸できるのは砂浜のある島の西南部分だけで、周囲は岩礁に囲まれおり船舶にとっては難所になっているそうだ。海水浴場もこちらにある。パンデミックの影響で海水浴場は一時期開設が見送られてきたが、去年から再開したらしい。

「うわー、海、キレイ!」

 女子から嬌声が上がる。桟橋から見える海底は白い砂に覆われていて、浅い部分はエメラルドグリーンに輝いていた。

 東京湾というと都市部の排水で濁っているイメージだったけれど、ぜんぜんそんなことはなかった。きっと海をきれいにしようとがんばった大人たちの努力の結果なのだろう。

「上陸したら男子は半分に分かれて場所取りよろしくー。残り半分はレンタルショップでバーベキュー機材の受け取りなー。行くぞー」

「「「「うぃー」」」」

 カトウの仕切りでてきぱきとみんなが動き出す。こいつ、実はできるヤツだったのか。

 俺はカトウについて行き、ビーチパラソルを二本担がされて砂浜へと運んだ。

「オラオラ、片梨さんにいいところ見せるんだろ?キリキリ運べ」

 くそー、男子の風当たりが強い。そんな浮ついた話じゃないんだが、レイドの下見と説明するわけにもいかない。甘んじて受けるしかないようだ。これもレイダースの宿命か……。

 砂浜に着くと先に食材を運んで場所取りをしていた班が固まってなにやらモジモジとしている。

「お待たせー、どしたん?もうちょい広く場所取ろうぜ。空いてるんだし」

「おう、幹事。待ってた。実は……アレなんだけど」

 そういってカトウに顔を寄せてきた男子がこっそり指差した先に純白のビーチパラソルの下に座る白いサマードレス姿の女子がいた。女子の脇には炎天下にもかかわらずビシッと正装を着こんだ家令風の女性が立ち、身の回りの世話をしている。

「綾神さん?」

「本当に来たよ……。ほれ、生徒会はおまえの管轄だろ」

「うぇ?」

 カトウに背中をどつかれて仕方なしにパラソルのほうへ足を運ぶ。

 みんなは少し離れた場所に設営を始めた。

「こんにちは、綾神さん。先に来てたんですね」

「おはようございます。石守さん。もうしわけありません。わたくしのわがままでクラスの集まりに水を差すようなことになってしまって」

「いえ、綾神さんが機転を利かせてくれなかったら今日の集まりは副会長さんに禁止されてたかもしれないし。むしろ助け舟を出していただいてありがとうございます」

「そんな、買い被りですわ。でも石守さんの助けになったのならよかったです」

 綾神さんがあでやかに微笑む。俺は思わず耳まで赤くなってしまった。

「あのー、あっちには行かないんですか?」

 話題を変えて心を落ち着かせる。平常心、平常心……。

「まだ男子生徒しかいらっしゃらないですから。一応、水着ですし……」

 今度は綾神さんが頬を染めて視線を落とす。

「あー、いや、そうですね。もう少ししたら女子も着替えを終えて合流すると思うんですけど……。あ、来たみたいですよ。行きましょう」

「はい」

 はにかみながらすっと右手を差し出す。

 一瞬硬直した自分を何とか再起動し、そっと手を引いて綾神さんを椅子から起こした。


「お待たせー。へぇー、本格的じゃない」

「おう。荷物、ビーチパラソルの下に置いてきなよ。杉本ぉ、そろそろ火起こし始めちゃおっか。着火剤どこだー?」

「ちょっとぉ。JKの水着を前にその返しはないでしょう?」

「いや、でも、じろじろ見るのはデリカシーに欠けるっていうか……」

 カトウは砂浜に目線を落とし、もごもごと返事を返す。

「えー、なぁに?そんな小さい声じゃ聞こえないわよー?」

「カトウ、着火剤持ってきたぞ。おぉ、藤代さん、カワイイっす。美人かわいい!」

「あら杉本君ありがと。ほらぁ、カトウもこのくらい気の利いたこと言いなよ」

 胸元にフリルのついたビスチェビキニを見せびらかすようにその場でくるりと小さく回る。ミニスカートよりも短い裾がふわりと揺れる。

「くっ、杉本の裏切り者め……」

「ミサちょ、ヘタレからかうのはそのくらいにして荷物置きに行こー」

 あとから現れた莉緒リオが数歩離れた位置から声を掛ける。こちらはブルーが基調のスクエアデザインのビキニにパレオスタイルで、幅広の肩紐と胸元に透け感のあるフレアが配されていて露出控えめながらも可愛さとセクシーさを演出するデザインだ。

「ほーい。じゃあ料理人ども、準備よろしくー。戻ってきたときコメント期待してるから、ね」

 美咲さんがうつむいたままバーベキューコンロに炭を並べているカトウの顔を覗きこむようにして囁くとパラソルのほうに駆けていった。

「ぐはっ、かわいいかよ!ヤバいって」

 膝から崩れ落ちるカトウ。

 遠ざかる女子達のわちゃわちゃとした会話はカトウの耳には届かなかった。

「あんた、いくらアイツに早く見せたいからって勝手に行かないでよね」

「そ、そんなんじゃないし。先に場所を確保したかっただけだし」

「ルカぽんも言ってやってよ」

「好きにすればいいと思いまーす」

 小胸セクシーな袖付きビキニトップにライラック色のハイウェストのショートスカートタイプの水着を合わせた小柄な女子が興味なさげに答える。

「ごめんて」


 三三五五と集まり始めたクラスメイトの中に綾神さんをエスコートしていく。なんで俺がこんな役目に?

「おーい、カトウ。綾神さん連れて来たぞー」

「おう、英太。そろそろバーベキュー焼き始め…る……」

 トングをカチカチと鳴らしながら忙しく動かしていたカトウの手が止まる。

「皆さん、お邪魔いたします。本日は生徒会長ではなく、一個人として参加させていただきます。カトウさん、勝手な申し出に快く応えてくださり感謝いたします」

 両手を揃えた丁寧なお辞儀にカトウが直立不動になる。

「い、いえ。綾神さんに参加いただけて光栄です!」

 場の空気が固まる。

 まあ、致し方ないよなぁ。

 綾神さんはホルターネックになった純白の水着をまとっていた。ブラとショーツがつながったモノキニスタイルで、タイトに巻いたパレオが足首近くまで覆い、そのままパーティにも出られそうな優雅な雰囲気を醸し出している。が、女性らしい曲線を描く胴体の部分は天使の羽根をモチーフにした繊細なレースになっており、背中部分は大きく空いている。腰に巻いたパレオも同じくレース地で、すらりと伸びた脚を隠しつつ美しく魅せている。

 まさしく、息を飲む美しさだ。

 そんな沈黙を破ったのは我がクラスのヒエラルキートップたちだった。

「すっごい、キレイ!」

「素敵!憧れちゃうわぁ」

「ねぇ、こっちにきてきて。そんなに綺麗な肌が日焼けしたら大変よ」

 莉緒さんと美咲さんがきゃいきゃい言いながら綾神さんを取り囲む。ふう、どうやら綾神さんが孤立する心配はなさそうだ。

 そういえば何か忘れているような……。

「あーっ、静音!なんであんたがここにいるのよ!」

 遅れてきた片梨さんがみんなに取り囲まれている綾神さんを指差して声を上げた。

 片梨さんの水着は柔らかなパイル素材のビキニにスポーティなハイウエストのショートパンツスタイルだった。くしゅっとしたギャザーの肩紐が大人っぽいカジュアル感を出している。快活な片梨さんによく似合っていた。

「あら。片梨さんこそ、どうしてここに?わたくしは教室での参加者募集の折に申し込みましたけれど、確かあなたはいらっしゃらなかったわよね?」

「ぐぬぬぬ」

「まさか当日になって飛び込みで参加されましたの?」

「英太に……そう、英太に誘われたのよ!」

「えっ?」

「えぇっ?」

「マ?」

 三者三様の驚きの声が上がる。

 ちなみに一番最初の「えっ?」が俺の声だ。

「そうなのですか?石守さん」

「そうよね?英太」

「えーと、ほら、こういうのは多様性があったほうが楽しいでしょ?ラブ・アンド・ピース?」

 戦争反対。世界が平和でありますように。

「おーい、カトウ。追加の木炭、もらってきたぞー。なんだ、まだ焼き始めてないの?空焚きしてたら燃料足りなくなっちゃうよ。あれ?綾神さんじゃん。なんとお美しい。片梨さんも健康的でキュートですね。いやぁ、こんなに美人ぞろいで眼福だなぁ」

「杉本ぉ」

「へ?」

「いや、いい。さあ、みんな始めよっか。各自好きな材料を焼いてけー」

「なに?どうしたの?」

 杉本……。おまえ、めっちゃすげぇヤツだったんだな。



修羅場をなんとか回避して楽しい浜辺のBBQが始まりほっと胸をなでおろす英太は目立たず騒がず背景モブに徹することを誓うのであった――

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