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Ep5-6 記念艦三笠

猿島でのクラス企画(BBQ)当日、現地集合でひとり現場に向かった英太は公園の入り口に佇む美少女に出会った――

「ぐへぇ、思ったより遠かった……」

 都心から横浜まで出てそこで三浦半島を縦断する私鉄に乗り換えてから約三十分。短いトンネルを抜けた先に横須賀中央駅はあった。

 改札口を抜けてすぐ目の前に広がる歩行者用の広場(ペデストリアンデッキ)に出てマップアプリで現在位置を確認する。

「三笠桟橋はここから徒歩十五分か」

 クラスの連中とは現地集合である。集合時間より少し早いが時間を潰せる用事があるわけでもなく、土地勘もないことだしこのまま集合場所に向かうことにした。

 複数車線のある広めの道路沿いにしばらく進み、桟橋に隣接する公園のアプローチになっている遊歩道に出る。いくつかのモニュメントが設置されており、脇に造成された水場がくねくねと曲がったり飛び石で渡れたりと目に楽しい遊歩道だ。背の高いマンションと小中高一貫校の近代的な校舎に挟まれた道の先は開けていて海が近いことを感じさせる。

 歩くにつれ、雲ひとつなく晴れ渡った夏空が広がっていく。青色が濃くて黒みがかって見えるほど眩しい。

「来週から夏休みか……」

 行く手に公園の入り口があり、少し入ったところに銅像が立つ円形の広場が見えてくる。その向こうには展示物なのだろうか、鼠色の鋼鉄製の船の上半分がのぞいている。

 と、公園の名前を刻んだ石碑の横にたたずんでいる少女が目に留まった。


 コーラルオレンジ色の花柄をあしらったミニ・ワンピースにつばの狭い麦わら帽子をかぶっている。

 ハイティーンらしい衣服とは対照的に、足下のダークブラウンのサンダルが大人びた印象を与える。

 ふわりとした涼し気な素材のスカートの裾がそよ風になびいて膝をくすぐる。

 オフショルダーの開放的なくびもとが眩しい。

 麦わら帽子に隠れて表情が見えないが、少し大きめのかごバッグからときおり片手を離して手首の時計を確認する仕草が誰かと待ち合わせをしていることをうかがわせる。


 人をあまりじろじろと見ちゃいけないよな。

 目を逸らそうとした瞬間、顔を上げた少女と目が合う。

 ほんの一瞬見えた不安げな表情が、ぱあっと明るい笑顔に変わる。

 ドキリとして思わず顔を伏せてしまった。

 えっ?片梨さん?

 私服だからずいぶん印象が違って見えたけれど、たぶん片梨さんだ。

 すぐに視線を戻すと、少女の顔の笑顔は照れ隠しのようなおこり顔に上書きされていた。

「遅い!何分待たせるのよっ!」

 あー、やっぱり片梨さんだ。

「集合時間までにはまだ十五分あるけど……。何分前から来てたの?」

「うっさいわね。あたしより早く来なさいよっ」

「そんな無茶な」

「無茶でもなんでも、あたしの指示に従いなさい。あたしのほうが先輩なんだから」

 くっ、同級生のはずなんだがチームでの序列は確かに俺が最下層だ。ここは軍隊式に従っておこう。

「イエス、マム」

 踵を揃えて斜め上を見つめつつ声を出す。

「わ、わかればいいのよ」

 片梨さんも言い過ぎたと思ったのか、帽子に顔を隠してこちらに歩み寄った。

「集合場所のチケット売り場ってあそこでいいのかしら?」

 姿勢を緩めた俺を片梨さんがうながす。

「うーん、俺もよく知らないんだ。とりあえず見に行ってみよう」

 近づいてみるとそこは『記念艦三笠』のチケット売り場だった。

「へえ、この船って軍艦だったのか。日露戦争の旗艦とかってなんか凄いな……」

 公園の一角に展示された船が、大砲を積んだ軍艦だとは思わなかった。大国ロシアを打ち破った戦争の旗艦がこんなに小さいことに驚きつつ、百年以上前のものだという事実に畏敬の念を覚える。

「現存する世界最古の鋼鉄戦艦だって。ふーん、量子結晶がたっぷり眠っていそうな遺物ね。入ってみる?」

 うーん、ロマンがないなあ。

「今は集合場所に急がないと。帰りに時間があったら寄ってみたいけど」

「集合場所は分かったの?」

「ああ。この裏の建物らしい」

「なら、さっさといくわよ」

「へぃ」


 チケット売り場の奥のほうから回り込むと桟橋に出た。他のお客さんが柵に沿って列を作り始めている。

「おー、英太。やっと来たか。みんなだいぶん集まってきてるぞ」

「オッス、カトウ。チケットどうすんの?各自で買う?」

「いや、オレのほうでまとめて買っておいたよ。取り合えずクラスのみんなと合流して……って、片梨さん?!」

「こんにちは、カワシマさん。あたしも参加して良いかしら?」

「カトウです。いいですよ。あっちにクラスの女子もいるんで」

「ありがとう。今日はよろしくね」

 かごバッグの細い持ち手に両手をそろえてぺこりとお辞儀をしたあとニコリと微笑む。

「は、はひ、こちらこそよろしく、お願いします……」

 うん、わかるぞ、カトウ。あの笑顔は反則級だ。俺たちモブ男子が逆立ちしても太刀打ちできるものではない。

「ミサキ、リオ、久しぶり」

「桔花じゃん!来てくれたのぉ。きゃー、カワイイ」

「うっ、私服の桔花ちゃん、マジ天使。萌え死ぬ……」

「エミリもおひさ。変わらないわね」

 ウチのクラスにも知り合いは居るようで、片梨さんが手を振りながら女子の集まるエリアに移動していく。それを目で追いながらカトウが俺を肘で小突く。

「おい、どうなってんだよ。我が校のナンバーツーと同伴出勤だなんて聞いてねぇぞ。いや、聞かねぇぞ!」

「同伴出勤じゃないし。すぐそこの公園の入り口で合流しただけだって」

 カトウが疑わし気な目を向けてくる。

「それにしたって、なんで片梨さんが参加することになったんだよ?」

「いや、俺が誘ったんじゃないし。鬼教官の気まぐれに付き合わされてるだけだし」

「鬼教官?まあいいや。事情はどうあれ、美人の参加は大歓迎だ。それにしても予想外だな。飛び入り参加はナンバーワンが決めて巻き返しを図るんだと思ったんだが……これじゃ同着どころか一馬身の差が生じたか……」

「なにブツブツ言ってんだ?」

「うるせー、ニンジン!おまえは荷物運びの刑だ。こっちにこい!」

「なんだよ、ニンジンって」

「ニンジンがいやなら、ドッグレースのネズミ野郎だ。いいからキリキリ働け!」

 どういうわけか荷物運び担当の男子チーム全員から嫉妬の視線を向けられた。

 理不尽だ……。

ワイワイと楽しく始まったクラス企画。レイドの下見という重要ミッションを忘れてやしないか?――

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