Ep5-4 試験休み(2)
「へー、海水浴場かあ。お、バーベキューもあんじゃん。手ぶらプランだと?最高かよ!」
「えー、なになに?海行くの?」
「おう、バーベキューも予約できるってよ」
「へー、いいじゃん。わたし行きたい。リオちんも行くよね?」
「いくいく。エミたそも行こ?」
「まあ。ミサちょとリオちんが行くなら……」
「おーっ、エミリさん来てくれるの?ラッキー!こりゃ男子の参加率上がるぞー」
「あー、それってセクハラ。バカトウ、出席禁止!」
「そんなあ。幹事が出禁って、そりゃないよー」
あっという間にクラスで部活の予定がない(サボり含む)ヤツのほぼ全員が参加することになった。とくに女子の参加者はこのあと水着を買いに行こうという話になって盛り上がっている。
やれやれ、こういうウェイ系のノリにはついていけないね。
俺は教室の真ん中の机を寄せ合って即席の会議卓を作るクラスメイトの輪を離れた席から頬杖をついて眺めた。そろそろ携帯電話返してくんねえかなあ。
願いが通じたのか、中心で大袈裟な身振り手振りで話をしていたカトウがこっちに戻ってくる。
「英太はどうする?肉コース?それともシーフード?」
「え?俺も行くの?」
「え?行かないの?」
「参加するとは一言もいってないぞ」
「なんでだよー。高二の夏の思い出づくりだよ?灰色の受験生活を前に、青春の一ページを刻もうとは思わないのかよ?」
猿島へはレイドの下見に行こうと思っただけで目立つ行動は避けたいんだが……。
「いや、でもそんなみんなで行くのはちょっと……」
カラカラカラ
俺の返答は教室の前扉が開く音に語尾が掻き消された。
「はあん?クラスのみんなとは行きたくない?……ってことは、おまえまさか、誰かと二人っきりで海水浴デート……はっ、片梨さ(もがもが)」
「海水浴デート?」
良く通る透明感のある声が教室内に響く。
決して大きな声ではなかったが、買い物に行く話で盛り上がっていた女子も、バーベキューの具材で喧々諤々の議論を交わしていた男子も、瞬時に黙り込んだ。
教室の前扉に目を見開いた表情の綾神さんが立ち尽くしている。自分の声に驚いたのか、口元に手を当てていた。
しんとした教室の中に綾神さんの後ろから背の高い男子がずいっと入ってきて後ろ手に姿勢を正して声を上げる。
「海水浴とはどういうことだ?校則ではきらびやかな場での交遊は禁じている。そのような場所でクラス行事を行うなどもってのほかだが?」
綾神さんの斜め前に半歩踏み出し、彼女を守るような立ち姿で教室内を威圧する姿は生徒会というより護衛騎士を思わせる。
薄い眉が器用に片方だけ持ち上げられてクラスメイトを見回す。
首謀者を探すような空気になってみんなが生徒会役員の男子生徒から目を逸らし、無意識に言い出しっぺの中心地に向けられる。。
鋭い視線がカトウに注がれる。
「ぴゃっ」
カトウが思わず首をすくめる。あーあ、そんな反応をしたら一発でバレちゃうぞ。
去年の未公認ミスコンの件もあるし、カトウは生徒会に目をつけられていそうだからな。次に何かしでかしたら厳重注意では済まないとか言ってなかったっけ。
などと他人事のつもりで状況を眺めていた俺に注がれる視線があることに気づく。
ちらりと視線の先に目をやると、綾神さんがじっとこちらを見ていた。
「また君か」
声を放ったのは綾神さんの横に立つ生徒会役員のほうだった。
え?俺?またって、なに?
「君が企画したのかと聞いている」
「あ、ええ、まあ。企画というか、猿島いいなぁって話をしていたら有志のみんなで行こうかなって話になりまして」
まあ、嘘ではないよな。あえて主語は出していないが。
「来年に受験を控えた大事な時期にそのような浮ついたことをするのはいかがなものかと思うが?」
「ええ。でもまあ、定期考査が終わったばかりだし、夏休みが始まる前の一日くらい、羽を伸ばしてもいいのではないかと……」
「そのような気の緩みが!」
「橘副会長。そのへんにしておきましょう」
「会長……」
「本来生徒会は生徒個人の自由時間にまで干渉するものではありません。そうでしょう?」
「ですが会長、校則が……」
「校則を厳格に守ることだけが生徒の自治活動ではありませんよ。そんなに心配なら生徒会も参加すればよいではありませんか、有志として」
「な……」
「石守さん、猿島へはいつ行かれるのですか?」
「あの、明日、ですが……」
「あら、残念ですね。橘副会長は教育委員会が主催するリーダーシップ研修に参加する予定でしたね。仕方がありませんわ。わたくしが代わりに海水浴のほうへ参加いたします」
「いえいえ、会長。代わりというのであればリーダーシップ研修のほうに会長が……」
「あら、わたくしはその研修会には春に参加済みですわ」
「あ、う」
「いけませんわね、生徒会の用事で来たのに雑談で皆さんのお時間を奪ってしまいました。せっかく橘副会長がいらしてくれたのですから、連絡事項の伝達をお願いしてもよろしいかしら?」
「はい」
副会長が掲示板の改修工事について伝達している間、にこにこしながらこちらを見てくる綾神さんの視線に振り向かないようにと、俺はぎゅっと手を握り締めたまま真っすぐ正面を見据え続けた。
猿島ビーチでのバーベキュー大会になぜか生徒会長の綾神さんまで参加を表明することに。なにやら波乱の予感……




