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Ep5-4 試験休み

定期考査最終日。英太のスマホに届いたメッセージは次のレイドの開催を告げるものだった――

『次のレイドの開催が決まった。日程は三日後、場所は神奈川県東部、猿島だ。詳細は明日のミーティングで伝える』

 夏休み前の定期考査最終日を控えて最後の追い込みをしていると、リーダーの玖条さんから携帯電話スマホのメッセージアプリに短い伝文が届いた。

「猿島?なんか聞いたことあるけど、どこだっけ?」

 マップアプリで検索をかける。

「へー、東京湾に自然の島ってあったんだ。史跡?」

 マップ上の観光スポットによくマーキングされている三つの点の記号表記が描かれている。ちょっとだけ調べてみるか。いやいや、明日教えてくれるっていうことだし、今は試験勉強に集中、集中……。


「英太、どうしよう。オレ、ダメかも……」

 カトウが俺の机をガタガタ揺すって自らの苦境を訴えてくる。試験が始まる前の最後の追い込みの貴重な時間だというのに迷惑なヤツだ。

「はいはい、がんばろうねー」

「冷てぇなぁ、しくしく」

「毎日同じリアクション見せられてどうしろってーの?」

「『俺も次の教科は捨てた』とかさあ、『ヤマ張ったところまとめたやつ、見るか?』とかさあ、なんかないの?」

「じゃあ、出そうなところまとめたノート見るか?」

「え、あるの?やった、ラッキー。恩に着るぜ……って、これ試験範囲範囲全部じゃん」

「全部出そうだったから選びきれなかった」

「ぐくくぅ、このぉ、優柔不断!」

 ヤマを張れないのって優柔不断なのか?まあ、そうかも。

「じゃあ……ここ。これ出るぞ。知らんけど」

「ほんとか?サンキュー。よぉし、唸れシナプス、覚醒せよ、オレの灰色の脳細胞!ぬぉぉぉっ!!」


 ***


 生徒会室では朝のミーティングが行われていた。試験期間中の朝会は出席義務はなかったが、生徒会長である綾神が必ず出席するため生徒会役員は自ずと集まっている。

「二年生の教室の掲示板張替え工事ですか」

「ええ。夏休み中に改修工事を行うそうです。昨日学校側から通達がありました」

「しかし、我々が通知して回る必要はないのでは?もともと学校側の都合ですし」

「クラス掲示板は生徒会や部活動の連絡にも使用されています。夏休み前に掲示物を撤去するようにとの学校側からの指示ですので、なるべく早く皆さんに通知してあげる必要があります」

「わかりました。ですが、会長自ら足を運ばずとも……」

「いいえ。今日で試験期間が終わり試験休みに入ります。下校時間までに二年生のクラス全部を回るには人手が足りませんもの。わたくしも行きます。橘君はA組とB組をお願いします。大月君はC組とD組ね。葵さんはG組とH組を担当してください。E組とF組はわたくしが回ります」

「そんな。会長だけ自分のクラスから遠いところを担当しなくとも……」

「大げさですね。そんなに違いませんよ。皆さんには自分のクラスと隣のクラスを担当していただきます。わたくしと橘君は同じクラスですから、あぶれるところにはわたくしが伺いますわ」

「それなら副会長である私が……」

「これは決定です。橘君」

「……はい」

「では、そろそろ時間ですね。皆さん、試験がんばってください」

「はい、失礼します」

「失礼します」


 ***


「だぁー、終わっっったぁぁぁ……」

 最後の教科のテスト終了を告げるチャイムとともに、カトウが盛大に机に突っ伏す。

 見事な散り際だったぞ。カトウ、おまえの雄姿はきっと忘れない。下校時間くらいまでは。

 試験中はロッカー保管を義務づけられた携帯電話スマホを取り出してきて電源を入れる。

 今夜のミーティングに備えてレイド会場のことをちょっと調べておきたい。

 猿島。

 海の守りの要として幕末、明治初期、昭和と三度砲台が築かれた要塞の島、か……。

 明治時代に建造されたときからすべての施設が岸壁を彫り込んで造られたため島の外からはまったく見えない、と。なるほど、猿島を紹介するサイトに載っている写真も緑の生い茂った自然の島にしか見えない。

 レイドって地下に縁があるよなあ。

「……んだけど、なにがいいと思う?」

「へ?」

 カトウが少し前から話しかけていたらしい。調べ物に集中していて気付かなかった。

「だから、期末考査の打ち上げだよ。何がいいと思う?」

「打ち上げって、おまえ、イベントじゃないんだからさ」

「え、なんで?全員強制参加の学校行事じゃん」

「そりゃそうだけど」

「さすがに中間考査は自重したんだぜ?でも期末考査のあとはもう通常授業はないじゃん?夏休みになったらみんなそれぞれ予定があって合わないだろうし、この試験休みにぱぁっと羽根を伸ばそうって話よ」

「そうだな。カトウは夏休みに補習があるだろうから、他のクラスメイトとは予定が合わないよな」

「グサッ。おまえ、えぐってくるんじゃないっつーの。なあ、最後のモラトリアムなのよ。いまが試験結果に脅かされずに楽しめる最後のチャンスなんだよぉ」

 魂の叫びである。ここは親友として何かいい案を……。

「カラオケ、とか?」

「何だよその平凡なアイデアは。もっとこう、パァッと、夏らしく弾けるような企画はないのかよ」

 夏らしく・ぱっと・弾ける?

「花火大会、とか?」

「……ちげぇよ。いや、それもいいけど、今週末なんてそんな都合よくやってないだろ?」

 確かに。

「だー、もう、スマホ貸してみ」

 自分のを使えよ。という間もなく携帯電話スマホを奪われた。

「おー、なんだよ、英太、良い案持ってんじゃん。調べてんなら言ってくよぉ。このツンデレが~」

 何のことかな?

 カトウが手にした携帯電話スマホ画面には、ターコイズブルーの海に浮かぶ緑の無人島と『家族や友人と楽しむ開放的なビーチとバーベキュー』の文字が踊っていた。


猿島へレイドの下見に行こうかと思案していた英太は、ひょんなことからクラスメイトといっしょに猿島に海水浴へ行くことになり――

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