Ep5-24 崩壊熱(2)
撤退したはずのレイダース・チームの残党と鉢合わせした二人。だが、原子炉が制御不能になるタイムリミットは刻一刻と迫る――
「手を上げてゆっくりとこっちを向け」
どうする?時間がないのに。
焦りつつ隣に並んだ片梨さんを見る。彼女は憎らしいほど落ち着いた顔をしていた。
「まったく。こんな非常時に」
首だけをわずかに巡らせて横目でアサルトライフル型デバイスを構える男を見る。
「ラグナロクね?あんたたちに構っている暇はないんだけど」
「背中のアイテムは人工知能コアだな?それを置いて行けば見逃してやる」
「まだレイドを続ける気なの?タイムリミットはあんたも聞いてるんでしょう?」
「命の保証はないっていうヤツだろ?はっ、運営もふざけてるぜ。レイダーがそんなことくらいで引き下がるワケないだろうが。人工知能コアには仲間たちが散々世話になったんだ。コケにされたまま手ぶらで帰れるかよ」
「あ、そ。じゃあ好きにすれば。うちらも忙しいんだ」
そういってゆっくり手を下ろすと前に歩き始めた。
「動くなと言っている。お宝を背負っているからって撃つのを躊躇すると思うな」
「こっちが銃ごときでビビると思ってんの?あんたは知らないだろうけど、この先の扉の中で原子炉が今にも暴走寸前なんだ。うちらの邪魔をしないで」
「なんだと?わけのわからないブラフを……」
「嘘だと思うならいっしょについてくればいいじゃない。あ、そうだ。放射線遮断の術式を持っていないなら部屋には入らないほうがいいわよ。さ、いこう、英太」
「お、おう」
今度は堂々と急ぎ足で扉に向かう。片梨さんってやっぱ心臓に毛が生えているよなあ。
「ちっ」
こちらの意に介さない態度にラグナロクの男も銃口を外して背後からついてきた。
発電室の扉を開ける。中は中央制御室と同じように赤色灯が灯っており、回転する光が禍々しく原子炉を照らしていた。
「なんだこれは……」
ラグナロクの男が絶句する。それを放っておいて、俺たちはベント用の手動ハンドルに向かった。
「時間がないわ。あんたの準備ができてなくてもベントを実行するわよ」
「大丈夫だ、間に合わせるさ」
あのパイプだ。あの中を炉内の蒸気が通り抜けるのだ。
パイプを含む空間を空気が動かないように固定する。次に酸素を選択的に操作する術式の一部を反転して酸素分子だけが動けるように術式を重ね掛けする。次に水分子、窒素分子、二酸化炭素分子と順に五重に術式を重ね掛けする。
「いくわよ、五、四、三、二、一、強制排気!」
片梨さんがぐいっと鎖の先に着いたハンドルをぶら下がるようにして引き下げる。
どこか上のほうの地上でブシューッと水蒸気が噴出しているのだろう。目の前の排気管の中を空気が勢いよく流れているのを感じる。
不安定になりかける術式を力で抑え込むイメージで維持する。
息を飲む長い時間が続き、M-13号からの声がインカムに流れる。
『圧力が基準値に復帰しました。低圧注水系の作動を確認』
「閉鎖!」
片梨さんがハンドルを離して大きく息を吸う。さすがに彼女も緊張したようだ。
術式は期待通りに機能しただろうか。本当に放射性物質の排出を抑えることができたかどうかはあとでニュースなどで確かめるしかない。が、いまやれるだけのことはやった。
自然と安堵の笑みがこぼれる。
「おっと、ゆっくりしている暇はないわ。出口のあいつを撒いてここから出ないと」
『この下に別の出口があります。海底洞窟ですが』
「それしかないようね」
「ああ、行こう。どのみち選んでいる暇はないし」
カンカンカンと金属の梯子を下りて発電室の底に下りる。M-13号の案内に従って進んだ先に鉄の扉があった。
途中、リーダーが切断した電力母線を見たが、ひとかかえもある銅線が赤銅色の断面を見せて真っ二つになっていた。どうやったらあんな風に切れるんだろう?
「こっちね」
扉の先はすぐに自然の洞窟になって奥へ下へと俺たちを連れて行く。
「ここで爆撃をくらったら生き埋めだな」
「直撃なら埋まる前に蒸発するわよ」
ひえっ、おっかない。
「本当に出口があるのかしら……って、ここは……」
M-13号に導かれてきた先は、海底洞窟の中にある潜水艇用のウェットドックだった。
桟橋のようなプラットフォームがあるほかは岩壁に囲まれた水面がのぞいているだけだ。
『干潮時には水面が洞窟より低くなります。現在は出口は海面の下ですが、成人男性であれば泳いで通過できます』
M-13号ってスパルタだなあ。考え方がちょっと漣さんに似ている気がする……。
「えー、濡れるのは嫌よ。どうせその先も水中を行かないと合流地点に行けないんだから、あんた例の術式でまた潜水艇を出して」
「でもあれは筐体が無いと形を維持しにくいんだ。骨格みたいな感じでさ。支えがないと外形を保つのがまだ難しくて……」
「しょうがないわねぇ……、あら?あれは使えないかしら」
〔つづく〕




