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Ep5-22 選択のとき

 トントン、トントンと深夜に相応しくないノックの音が響く。うら若き女性の寝室ともなればなおさらだ。

「どうぞ」

 だが夜も更けた時間にもかかわらず部屋の主は起きていた。綾神静音は身支度をしたままの状態で椅子に座っており、脇に置かれたテーブルには先ほどまで読んでいた本と眠気覚ましのコーヒーカップが置かれている。

「失礼いたします」

 銀髪の女性家令が引く扉の向こうでスーツ姿の男が首を垂れていた。

「おひいさま、緊急のご報告がございます」

「その呼び方はやめてください。後藤さん」

「はっ、急ぎのため謝罪はのちほど。さきほど米軍第七艦隊司令部からレイド運営本部に入電が」

「確かに今回のレイドは米軍基地に近いため注意が必要ですが、先方とは昨日の会談で調整済みのはずです」

「ですが、結界の外で想定外の事態が発生しまして。実は……」

 後藤と呼ばれたスーツ姿の男が静音の耳元に口を寄せて他者に聞こえないように小声で伝える。

「三笠が?」

「はい。あれはワシントン海軍軍縮条約で正式に廃艦が決まった艦船です。ことが公になれば条約違反として国際問題になるのは必至かと」

「わかりました、すぐに通信室へ向かいます。お父様にも召集を」

「はっ」

「今日のレイドにはノクターナルが参加していましたね。石守様と桔花さんに大事が無いといいのですが……」

「お嬢様。身びいきはなりません」

「わかっております」


 移動した先の通信室はさながら作戦本部の空気をはらんでいた。大画面の先にはレイド運営本部が映し出されており、人々が連絡作業に追われている。

 合衆国のエージェントからはすでに連絡が入っていた。

 曰く、第七艦隊は横須賀基地極至近距離のテロ行為拠点を看過できない。速やかに無力化をせしめ、そののちに日本国政府に説明を求める。作戦実施時刻は○二〇〇(マルフタマルマル)時。攻撃手段はバンカーバスターによるピンポイント爆撃。目標は猿島要塞。

『ずいぶんと手回しがいいですね』

『米軍は事前に知っていたんじゃないか?そうじゃないとこの反撃速度は説明がつかんぞ』

『自作自演ってことは無いにしろ、あちらさんにもなにか不都合なことがあって証拠を隠滅したいんじゃないのか?』

『しかし、無人島とはいえ本土と言っていいエリアです。爆撃を許しては面子が立ちません』

『馬鹿野郎、軍縮条約違反なんだぞ。とっくに面子は丸つぶれしている』


「運営は蜂の巣をつついたような騒ぎですね。それにしても艦砲射撃に本土爆撃ですか。どのように収めたら良いのか。悩ましいですね」

 眉を寄せて右往左往する運営の映像を見つめていた静音のそばに銀髪の家令、水野が近づきメモを渡す。そこにはノクターナルからの情報で猿島要塞地下に小型原子炉発電所が設置されていることが告げられていた。

 静音が鋭く息を飲む。

「運営はこのことを?」

「通知はいっております。ですが、情報が混乱して運営本部にはまだ伝わっていない様子ですね」

 ノクターナルからの情報ということは、目標にもっとも近い地点に英太と桔花がいるということだ。

 静音は思わず強く目を閉じた。

 次に目を開いたとき、静音の表情は少女のそれではなく、責任を背負った当主の顔になっていた。

「ことはレイドの領分を越えました。国の護りの任を得ている者として、その責務を果たします」

「はっ」

「水野さん、術式の用意をお願いします。後藤さんは運営に通告を。初音、夕顔、みそぎを手伝ってくださる?」

「ははっ」


 ***


「くそっ、どうなってやがる。急に圧力が増してきたぞ」

 ラグナロクの野口が苛立ちを無意識のうちに言葉にして吐き出した。

 要塞の司令座下にある部屋で地下へ降りる隠し階段を見つけたところまでは良かったが、そこを開けるのに手間取ったのが痛い。新しい靴跡がそばにあったから他のチームのヤツらが先に入ったのだろう。うかうかしていられないと先を急いだが、地下の通路で無限に湧いてくるフナ虫型ドローンに足止めをくらっていた。

 こいつらは近づくと相当な爆風を巻き起こして自爆する。爆発に金属片を仕込むような非人道的な仕様ではないから防御術式を展開した俺たちには実害がないが、いちいち数メートル吹き飛ばされて後退するから全然前に進めない。まるでこちらを倒すのではなく押し戻すことに専念しているようだ。

「なめやがってぇっ!」

 三発固め打ちした拳銃がフナ虫型ドローンの甲殻を粉砕する。途端にドローンが爆風を吹き上げ、手前に居たドローンごと野口の顔に叩きつけてきた。

「はぶっ」

 ゴロゴロとでんぐり返しの逆回しになって後ろに弾き飛ばされる。

「わぁっ」

 後ろに並んだ隊員も巻き込まれて転倒した。

「ちくしょーっ」


〔つづく〕

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