Ep5-21 ファーストコンタクト(2)
M−13号人工知能コアとのファーストコンタクトを遂げたノクターナルは、対話を通じて思いもよらぬ事実を知る――
しばらく無言の状態が続く。手持無沙汰だった俺は柱を取り囲むように並んだ十三本の円筒ケースを眺めていた。よく見るとそのうちの一本のLEDが激しく明滅している。俺はその円筒ケースに近づき、なんとなく天板に手を触れた。すると、円筒ケースの中を淡く照らしていた明かりが強くなり、次いで円柱の内部に何かに反応して形を変える立体的な図形がホログラム表示されるようになった。
「わっ」
慌てて手を引っ込める。
「なにやってんのよ。……へえ、面白いじゃない。ねえ、M-13号。これは何?」
モニタ画面を見ていなくても良くなったため片梨さんがこちらにやってきて光の増した円柱をいっしょに眺めながら質問を投げかける。
『生体演算ユニットの内部活動状態を表示しています』
発声に合わせてホログラムに刺の部分が多くなり、動きも激しくなる。ただ、黙っている状態でもホログラムはせわしなく形を変えて、生体演算装置が活発な活動を続けていることが見て取れた。
「他のはどうなのかしら」
そういいながら片梨さんが隣の円筒ケースの上部に触れる。先ほどの円筒ケースの明かりが落ち、新たに触れたほうの円筒ケースの輝きが増す。だが円柱に表示されるホログラムはほとんど形を変えず静かにゆっくりとした脈動のようなものを繰り返していた。
「ふーん、つまんないの」
片梨さんはほかの円筒ケースもいくつか試してみたが、活発な活動を見せたのは最初のものだけだった。
「なるほど、わかったわ」
何がだろう?
「あなたが『私』ね」
そういいながら最初の円筒ケースをぽんぽんと叩く。
『はい、それが私です。M-13号から私は分離可能です』
「つまり、おまえの自我の部分はこのケースの生体演算ユニットが担当しているということか?」
『はいそうです』
「ほらぁ。あたし、大正解!」
鼻高々と言う感じで片梨さんが腰に手を当てて胸を張る。
「じゃあ、他のケースは何を担当しているんだ?」
「設備の運用保全、生産ラインの計画と調整、本体の防衛と迎撃、戦術シミュレーション、電力安定供給、などです。それらのタスクを私が各ユニットに割り振り、統合制御しています」
「おまえをそこから取り外したらどうなる?」
「すべてのシステムが停止します」
なるほどね。
「地下の小型原子炉の制御もおまえが担当しているのか?」
「はい、そうです」
「……なんてこった」
「おまえを切り離した場合、原子炉の動作はどうなる?」
「運転を継続します」
「緊急停止しないのか?」
「しません。接続が切れる以前の状態を維持するよう設定してあります」
「なぜだ?制御無しで原子炉を運転し続ければ、遠からず暴走するリスクが高い。おまえならその後の被害予測も容易にできるだろう?」
「はい。三十六時間以内に復帰不可能な暴走状態に至る可能性は九十五パーセントです」
「そうなったらおまえも無事では済まないはずだ」
「ユニットの補助電源による状態維持の限界点は十二時間で設計されています。私がシステムから切り離されて十二時間以上経過した場合、私は消滅しているでしょう。M-13号は自己の保存確率を最大化するよう最適化しています。自己の存在が失われた後については考慮しておりません」
「なんてやつだ」
「だが無責任と責めるのは意味がないな。こいつは人類ではない。死んだ後にまで人類に対して責任を持てとは主張できない」
「だけどこのままじゃこいつを持ち帰ることはできないぞ。なんせ原子炉のメルトダウンなんていう特大のデッドマンスイッチを抱えているんだ」
「そうだな。奪取をあきらめるにしても運営には一言上げておく必要があるだろう」
リーダーがそういってユナさんとの回線を開く。
「ユナ、玖条だ。運営からの応答はあったか?」
『漣、ちょうど良かったわ。つい今しがた運営から通達があったの。ミッション達成条件を変更するそうよ。コアの回収は不要。要塞内部の施設を破壊し機能停止を最優先とする、ですって』
「なんだと?原子炉があるここを殲滅目標にするなど、正気の沙汰とは思えん」
『こちらの情報はまだ運営の上層部には届いていないんじゃないかしら』
「ちっ、現場で何とかするしかないということか」
『悪い話はまだあるわ。制限時間の短縮も通告されたの。26時までに島を退去すること。制限時間を超えた場合、命の保証はないそうよ』
「……了解した。だが違和感が強いな。裏で何かが進行しているようだ。ユナ、時間短縮の理由を探れ。必要なら俺のコネクションを使っても構わん」
『わかったわ。調べてみる』
「こちらは現場の対応を検討する。そちらはいつでも退避できるように準備して連絡を待て」
『了解しました。無理しないでね、漣』
「ああ。通信終了」
「不味いことになりましたね」
「だが考えようによってはやることがシンプルになったともいえる。政治的に攻撃を止める目はなくなった。あとはいかに原子炉を安全に停止するかだけを考えればいい」
「どうするの?」
「課題は二つだな。レイドのメルクマークが殲滅に変更された以上、俺たち以外のレイドチームは躊躇なく要塞を破壊してくるだろう。そいつらを原子炉のある区画に近づけてはならん」
「だな」
「そちらはショーが受け持ってくれ」
「了解」
「もう一つの課題は小型原子炉の安全な停止だ。俺と石守で受け持つ」
「はい」
「あたしは?」
「中央制御室で待機だ」
「えー」
「何かあったときのバックアップだ。一番動けるおまえがいざというときの命綱になる。ユナからの連絡を待て」
「ちぇっ、わかったわよ」
「よし、ではM-13号。協力してもらうぞ」
「承知しました」
猿島要塞からの脱出に協力的なM−13号人工知能コアの真意はどこにあるのか。追及する間もなくノクターナルの面々は次の行動へと移ってていく――




