Ep5-20 小型原子炉
全自動の兵器工場の奥、さらに通路を進んだ先には何の標識もない鉄扉があった。ノクターナルがそこで見たものは――
工廠のような部屋の先は通路が丁字路に分かれていた。ひとまず直進を選んで先に進む。今度の扉は頑丈な鋼鉄製だった。重い扉を押し開いて中に入る。
「これは……。おいおい、今日はどれだけ驚かせれば気が済むんだよ。漣、俺の勘違いじゃなきゃ、コイツは……」
吹き抜けになった部屋の上部に巡らされたキャットウォークに出た。
眼下には直径2メートル、高さ3.3メートルほどの円筒を中心にごてごてと配管を取り付けた装置がコンクリート製の床に鎮座している。
「ああ、小型の原子炉だな。原子力潜水艦に積むタイプだ」
「原子炉?」
「すぐに出よう」
「ったく、危険表示くらいしておけっつーの」
珍しく愚痴をこぼすショーさんを殿にして先ほどの丁字路まで戻る。
「なぜこんなところに原子炉があるんですか?」
「要塞の電力供給用だろうな。もともと猿島には時代遅れの自家発電所しかないからな」
「無人島とはいえ、こんな東京に近い場所に原子炉なんて置いていいんでしょうか?」
「むろん、無許可だろう。危険表示や注意書きがないということは、設置に人間が関与していない可能性がある」
極秘裏に無許可建設したものだとしても、原子炉は運用する人間が事故に遭う危険性を見逃せるような施設ではない。自分たちのために最低限の注意書きはするはずだ。それが無いということは人間が関与していない、つまり人工知能が勝手に設置したものである可能性が高い。
「人工知能にそんなことまでできるんですか?」
「社会に干渉できる手足さえあれば、一般に出回っているようなAIでも可能だろう。命令する人間がいればな」
「命令する人間?」
「そうだ。一般的ないわゆるAIは極論すると便利な検索エンジンに過ぎない。過去に行われた事象や交わされた議論をもとに答えを構築しているだけだ。いままで無かったものを生み出すには、そうありたいと願う強い意志が必要だ。その意味で現在のAI技術は人工的な知性の域には達していない」
「じゃあ、あれはいったい誰が……」
「そりゃあ、今回のターゲットの人工知能じゃないの?そいつにとったら電源の安定確保は死活問題だろうし」
「でもリーダーが言ったじゃないか。いまのAIは人工知能じゃないって。それって今の技術では自我を持つ人工知能は作れないってことですよね?」
「そうだな。客観的に見て今しばらくはできないだろう」
ほらみろと片梨さんを見ると、逆に馬鹿にしたような顔で見返された。
「馬鹿ね。自我なんて勝手に生まれてくるのよ。人間がそうだったようにね。自分で生み出せないからって存在しないことにするのは駄々っ子の考え方よ」
うぐ。反論できない。
人類とは違う異質な知性存在。そんなヤツと戦ってるの?
背筋に悪寒が走る。
ズズゥン
まるで悪寒にシンクロするように鈍い振動が壁を伝う。
「なに?」
片梨さんが天井を見上げる。
「外だな。艦砲射撃でもかましたか?ラグナロクの連中、かなり派手にやっているようだ」
「ヤバくないですか?小型とはいえ、原子炉の真上で戦闘行為なんて。外に知らせたほうが……」
「レイドを終わらせるほうが手っ取り早いわよ。あたしたちが一番先行しているんだからとっととコアを探して取り上げれば騒動も収まるわ」
片梨さんが言い募るのを手で制してリーダーがユナさんとの回線を開く。
「ユナ、玖条だ。猿島要塞の地下で小型原子炉を発見した。運営に警告を上げてくれ。これ以上の戦闘行為は重大なインシデントを招きかねない」
『了解』
ユナさんはこちらの会話をモニタしていたのか、即答を返した。
「いましがたこちらで爆発と思われる振動を感知した。何があったかわかるか?」
『上空偵察でラグナロクのものと思われる艦船からの迫撃弾による攻撃を観測しているわ。塁道を攻めあぐねて援護砲撃を行ったみたいね。連中、派手にやるつもりみたいだから……えっ?そんな……ありえない……』
一瞬、ユナさんからの通信が乱れた。
「どうした?そちらは無事か?」
『ごめん、ちょっと取り乱しちゃった。こっちは平気よ。ただ、予想外のことが……』
「何があった?」
『突然、記念艦三笠の主砲が発射されて……どうやらちょっかいを出したラグナロクの艦艇を狙ったみたい。ラグナロクは慌てて逃げだしたわ』
「三笠から砲撃?……わかった。とにかく運営と連絡を取ってくれ。こちらはひとまずミッションを継続する」
『了解』
リーダーが量子通信の通話を切る。
「どういうことです?外はどうなってるんですか?」
「英太、こういうときはな、リーダーの命令を待つんだ。焦るのが一番まずい対応だ」
慌てる俺の視界を大きな手で塞いでショーさんが落ち着いた声で諭してくれる。
「すみません」
そうだ。想定外のことが起きてもリーダーならきっと正しい方法を示してくれる。その信頼がチームワークの基礎だ。
「まあ、ユナでも取り乱す事態だ。ヒヨッコのおまえさんが慌てるのは当然だよ」
ニヤリと笑うショーさんの表情にパニックになりかけた気持ちが平静に戻っていく。
「桔花の案でいく。中央制御室へいくぞ」
「「「了解」」」
頼れる仲間に囲まれていることを再認識した英太はパニックを抑え込み、次の行動へと備える。しかし、タイムリミットは刻一刻と近づいていた――




