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Ep5-17 殲滅の罠

正面突破を図るラグナロクの進攻。もっとも敵の防衛が厚い部分を力でこじ開ける戦略は――

 完全武装の二個小隊が発電所の残骸を回り込むようにして坂を上る。

 鈍角になった角を曲がる前に先頭の隊員が崖を背に観察用のカメラをそっと突き出して塁道の様子を探る。

「左右壁の上部二ヶ所に金属反応」

「よし、ロケット弾!」

 小隊長の命令に二人がかりで四角い筒状の武装を運搬していた隊員が荷物を下ろしてセッティングを行う。

「目標情報を送ります」

 カメラで観察していた隊員が手首のタッチキーを操作する。電源が入って淡い光を放っていたロケットランチャーの操作パネルからピピッという確認音が漏れる。

「目標設定完了。発射します」

「後方確保、チェック」

「発射っ!」

 ボシュウゥゥゥ……、ボシュウゥゥゥ……

「命中。目標クリア」

「警戒しつつ前進」

 三人ずつ横並びでアサルトライフル型デバイスを構え左右と上空を警戒しつつ隊が前進していく。

 ときおり塁道を構成する壁の一部がカコンと開いて銃座が現れるが、散発的に浴びる軽機関銃の銃弾程度であれば常時展開している防御術式で十分防御可能だ。前衛の隊員が即座に対処して機関銃を黙らせる。

 塁道の左右に点在するレンガ造りの旧弾薬庫屋内からの攻撃を警戒したが、内部に動きはなく観光客に見せるのと同じにがらんとしていた。

「兵装は壁の上部に集中しているな。人の手が届かない位置に制限しているようだ」

「はい。観光客が触れる部分にはとくに仕掛けはないようです」

「挟撃されると厄介だったがこの程度であれば問題なさそうだな。さっさと抜けるぞ」

 塁道は細長いので部隊を展開できず上空から狙われたら隠れ場所もないため不利な予想だったが、前面の防御術式を厚くすれば押し切れそうだという判断だ。が……。

 ガコン

「!」

 塁道は観光客が歩きやすいようにボードウォークになっていた。その中央に一か所、旧弾薬庫の遺構を避けるようになっている場所がある。何ということはないコンクリートの基部に泥が詰まっただけのくぼみではあるが、縦長の四角いスペースが踏み込めないように確保されている。そこが割れた。

 ボードウォークの中心に重機関銃の銃身の長い巨体が姿を現す。

「退避ぃーっ!」

 ヴヴヴゥゥッッッ

 弾帯を送るモーター音が重く響く。銃撃音はあまりに大きすぎて聞きとれない。周辺は一瞬にして鉛の洪水があふれ返った。

 カラカラカラ……

 永遠にも思えた弾丸の嵐が止んだ。

「ううっ」「ゲボッ」

 塁道の板の上には多数の隊員が打ち倒され、うめき声を上げていた。幸いというべきだろうか、大きすぎる重機関銃は俯角を取れないらしく、人の胸の高さくらいに射線が制限されていた。第一撃を何とか防御術式と優秀な装備で防いだ隊員たちは突き飛ばされ床に転ったことでそれ以上の致命傷を受けずに済んだ。

 重機関銃は左右の射角も制限されているようで、遺構のくぼみやレンガの入り口の陰に隠れた隊員は攻撃から逃れることができた。だが、一歩でも出ようとすると容赦なく銃弾が降り注ぐ。ラグナロクはこの斉射で隊員の三分の一を失い、塁道の半分の場所で釘付けにされた。

「なぜこんな場所に重機関銃を設置したのか。AIの考えることは分からんな」

「しかし、これ以上進めないことは確かです」

「そうだな。仕方ない。援護砲撃を依頼しろ」

「はっ」

 観測手が通路の床に現れた重機関銃の正確な座標を測量し、無線でどこかに送信する。

「三分後だそうです」

「うむ。全員、旧弾薬庫内に退避。負傷者の回収を急げ」


 塁道の擁壁の向こう、真っ黒な海の上をディーゼルエンジンの力強い音が低く響く。やがて何もない海の景色を割って、フリゲート艦が姿を現した。

 フリゲート艦は素早く猿島の北西岸壁に接近すると、迫撃砲の発射体勢に入った。

 バシュッ、シュルルルル

 暗闇の中、オレンジの炎が糸を引くよう弧を描いて猿島の上空へ進み、落下する。

 ボンッ

 猿島の森が一瞬明るく照らし出され、黒い土砂が真上に噴き上げた。

「命中!目標物の破壊を確認」

 最大の障害を排除したラグナロクは残りの戦力を率いて一気に塁道を進攻した。


 ***


 侵入者の防御力が標準値よりも明らかに高い。通常の対人機関銃ならまだしも、重機関銃の直撃でも致命傷にならないのは物理法則に反するレベルである。

 やはり『彼』の情報の通りであったか。侵入者はいわゆるオーバーテクノロジーを使用している。だが観測結果からその技術も電子制御に頼っていることが判明した。ならば対抗はできずとも無効化は可能だ。

 (M-13号)は急ぐことなく次の作戦を実行に移した。


 ***


 長い塁道を走り、鈍角になった角の向こうにレンガ造りのトンネルの入り口が見える。

 数メートルごとに現れる機関銃の銃座をグレネードやショットガンで処理しつつラグナロクの隊がトンネルの入り口に近づく。

 ヒュィィィン

 トンネルの奥から甲高い風切り音と同時に無数のマルチコプター型ドローンの編隊が現れる。小型のそれは銃などの飛び道具は備えていないようだ。

「くたばれっ!」

 真っすぐ向かってくるマルチコプターを隊員の一人がショットガンで迎撃する。

 飛行ドローンは空中で激しく爆発した。

「ちっ、特攻兵器か。量産型はコスパ重視ってか。気に入らねぇなっ」

 愚痴をこぼしながら隊員たちは次々と飛行ドローンを撃墜していく。

「むっ?」

 隊員の一人がボードウォークの端から地面に足を下ろして違和感に気が付いた。

「霧?」

 谷のように掘られた塁道だ。地面が湿っぽいのは分かる。が、真夜中とはいえこんな暖かな気温で霧が発生するはずはなかった。軍靴でかき乱した空気が鼻にツンとした刺激臭を運んでくる。異臭に気付いた隊員が反射的に声を上げる。

「ガス警報!」

 隊長がハッとした顔で下を見る。いつの間にかボードウォークの下に白い霧が充満している。身に着けたガジェットには高濃度の塩化水素が検出されていた。

 擁壁上部の銃座や上空の飛行ドローンに気を取られている間に擁壁の下部からガスが散布されていたのだ。だがここは塁道とはいえ天井の空いたオープンスペースだ。ラグナロクの装備には毒ガスを除去する機能も当然搭載されている。塩化水素などという原始的な化学兵器では足止めにもならない。

「全員、マスク着用だ。頭を下げ過ぎるなよ」

「了解」

 国内では化学兵器は調達できなかったのだろう。無人島で自作できる毒ガスなどこの程度のものだ。隊長がそうたかをくくって前方に視線を戻したときだった。

 フィィィィ

 マルチコプターの風切り音が高音をあげて飛行ドローンが一斉に高度を上げる。

 次の瞬間、無人島の塁道を青白いスパークが走り抜けた。

「あがぁっ」

 谷間の湿気を含んだ空気と混じり合った塩化水素は塩酸となり、高い導電性を示すようになる。そこに擁壁下部に隠されていた電極からティザー銃に匹敵する五万ボルトの高電圧が印加された。

 隊員たちの間を紫電が駆け抜ける。

 運の悪いものは筋肉を硬直させてその場に倒れ込んだ。

 だが半数以上の隊員はビリッとした感電を体感したものの、武器を取り落とすほどではなく耐えきった。

「なんだ、今の攻撃は。殲滅を狙ったものにしては弱かったが……」

 若干、痺れの残る指先を気にしながら隊長がつぶやく。

「隊長、通信機がやられました。その他の電子機器も軒並み破壊されています」

「ちっ。銃は使えるか?」

「射撃は問題ありません。ただ、ロケットランチャーなどの電子制御がいる兵装は全滅です」

 静電破壊か。本部と連絡が取れないのは痛いが銃器が使えるなら問題は軽微だ。隊員もまだ半数が残っている。こんな奇襲は二度は通用せん。このまま押し込んで一気にサーバールームを制圧する。

 隊長が号令をかけようとした矢先、副長が焦りのにじんだ声で告げた。

「ガジェットも故障しています。防御術式が使用不能!」

「なにっ」

 ガシャ

 擁壁の上部に新たな銃座が口を開ける。

「くそっ、撤退っ!」

 ガガガガガガ

「ガッ」「ひぃっ」「ぐふっ」

 術式による防御結界を失ったラグナロクは対人機銃の斉射に次々と打ち倒されていった。三分後、猿島の塁道に立っている者はいなかった。


量子結晶技術の優位性を砕かれたラグナロクは予想外の敗北を喫した。生き残りのチームが絞られる中、事態はM−13号の思惑通りに進行していく――

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