Ep5-16 侵入
展望広場から旧要塞の通路に沿って司令座阯を目指すノクターナルは――
ダダダダダダダッ
「二時、二十メートル、機銃」
木の幹を遮蔽にして様子をうかがいながらリーダーが指示を出す。
ポコン、ポコン、ポコン
隣の木から少し気の抜けたような射撃音が鳴る。連装式グレネードランチャーの発射音だ。
ドゴーン、ドゴゴーン
「十一時、十五メートル、ランチャー」
ポコン、ポコン……ドゴゴーン
「クリア。前進する。ついてこい」
「了解」
俺はリーダーの指示で立ち上がり、背中を追って走る。
銃はもっていない。この短期間では術式の練習で手一杯だった。シロウトに銃器を持たせると同士討ちの可能性があると言われた。だから当面は無手で防御担当だ。
森の中は見晴らしが悪い分、要塞の防衛装置の密度も低い。古い通路跡に沿っていくつも機銃が設置されているが木々が遮蔽になって集中砲火を浴びずにすんだ。ラッキーだ。
ダダダダダダダッ
「うわっ」
少し開けたところに出ると同時に左右前方二方向から機銃掃射を喰らう。
「ショーは右を。俺は左をやる」
銃撃を受けているのにリーダーは姿勢も変えず涼しい声で指令を出している。先頭のリーダーの数メートル前で銃弾の雨が見えない壁に進路を逸らされていくのだ。まるでモーセの紅海のシーンだ。左右に逸れた銃弾が後方の木々を穿つ鈍い音が絶え間なく響く。
「了解」
返答を待たずにリーダーとショーさんがそれぞれのターゲットに向けてアサルトライフル型デバイスを撃つ。今回、敵に人間はいないから最初から通常弾が入っている。フルオートをリズムよくオンオフしながら弾丸を送り込んでいく。
俺はというと、尻餅をついて両手をクロスした隙間から二人の後姿を見つめていた。射撃越しに要塞の入り口脇で火を噴く機銃から目を離せない。
「ちんたらしてたら夜が開けちゃうわよ!」
最後尾を固めている片梨さんの声とともに二つの火球が機銃目掛けて迸る。
カッ
着弾と同時に黄味がかった閃光が弾ける。
銃撃は止み、後には熔けて半壊した鉄の塊が残されていた。
要塞からの攻撃が止んで、一人だけへたり込んでいた俺にショーさんが手を差し伸ばす。
「す、すみません」
尻の汚れを払いながら起き上がり、一人だけ伏せていたことに恥ずかしさを覚える。
「すごいな、英太。おまえがいれば銃撃戦は楽勝だな」
がははと笑いながら大きな手で背中を叩く。
「英太はレイドのゲームチェンジャーになるかもしれん。あまり目立たせないようにしないといけないな……」
「そんな。俺なんかビビってへたり込んでただけで……」
「7.62ミリNATO弾を至近距離で防げる防弾術式だぞ。通常のレイドで飛び交う拳銃弾なんか豆鉄砲みたいなもんだ。チート過ぎて運営から禁止されるかもな」
「英太は攻撃力皆無なんだから、防御力で役に立ってもらわないとね」
片梨さんにもパシンと背中を叩かれる。
「ああ、がんばるよ」
リーダーは先行して要塞の開口部に近づいて中の様子を確認している。
「ここが入り口のようだ。枯れ葉で偽装しているが間違いない。通路の防衛システムは生きている」
照明は点いていない。ヘッドギアのバイザーを暗視モードして狭い通路に入っていく。
一列縦隊で先頭がリーダー、次に片梨さん、俺の順で、殿がショーさんだ。
落ち葉に覆われ、古く朽ちかけたモルタルの床や壁がすぐにしっかりとした近代的な内装に代わった。メンテナンスされている証拠だ。
「む?」
先頭を行くリーダーが何か異変を感じ取ったみたいだ。
「感圧センサーだ。何か来るぞ」
床に電子的な圧力センサーが仕込まれていたようだ。常人では感知できない床の違和感を感じ取って漣が警告を発する。
ガコン
天井から円形の金属が頭を出す。
「ガスか!」
「防御します!」
すかさず術式を発動し、通路の壁と天井、床を三センチメートルの厚みの空気の層で覆う。
「そこねっ」
片梨さんがガスの噴出口を火弾でピンポイントに攻撃する。ガスの噴出口が即座に赤熱する。
「押さえます」
えいっ、という身振りで右手を開いて上に突き出すジェスチャーをする。空気の固まりで熔けかけの金属をぐぐっと押し込むイメージ。柔らかくなった金属がぐにゃりと曲がり、ハンマーで叩いたように平たく潰れる。こうなったらもうガスは噴出しない。
「正面警戒、飛行タイプのドローンが来る。ショーは後方を」
フィィィィンという甲高い風切り音が複数聞こえてくる。
「チェック。クリア」
タタタッ、タタタッ
リーダーが前方に向かって撃つ。だが、的が小さく小刻みに回避行動をとるせいで弾が当たらない。
「英太!」
「了解、押します」
俺はガスの拡散を防ぐために形成していた空気の壁をそのまま前方に滑るように押し出す。
小型のマルチコプター型の飛行ドローンは空気の壁に押されてあえなく姿勢を崩し、互いにぶつかって薄い羽根を損傷、そのまま墜落していく。落ちたところにリーダーの銃弾が降り注ぐ。
「なるほどね。飛行ドローンは風に弱い、か。空気を操れるって便利ね」
「リーダーの作戦勝ちだよ。狭い空間でのドローン対策を練習したから」
本番で上手くできてほっと胸をなでおろす。
「上出来だ。本来なら麻痺性のガスを注入した後ドローンで攻撃する二段構えだったのだろう。まともに喰らっていたら高レベルのチームでもダメージを免れないところだぞ」
そうですかぁ。役に立ってますか。へへ、そんなに褒められたら調子に乗っちゃいますよ。もう。
「無駄口を叩くな。次が来るぞ」
マルチコプターの残骸が上げる煙の向こうからカサカサ、カチャカチャと嫌な音が聞こえる。
「うわっ、キモッ」
大型のフナ虫のようなドローンが天井を這って姿を現す。
体高が低く天井にへばりつくように張り付いている。あれは空気では押し戻せない。
「ショー、スイッチだ」
「了解」
リーダーとショーさんが前後の位置を交代し、ショーさんがアサルトライフル型デバイスを構える。
ドゴォォォン、ドゴォォォン、ドゴォォォン、ドゴォォォン、ドゴォォォン
銃身の下に備え付けられたオプションからショットガンの弾が撃ち出される。
フナ虫型ドローンが粉々にはじけ、次々に撃ち落されていく。
ガチャ
ドゴォォォン、ドゴォォォン、ドゴォォォン……
ショーさんがショットガン弾倉を取り換える間にも床の積み上がった残骸を乗り越えてフナ虫型ドローンが接近してくる。
「キモイって言ってるでしょっ!」
それを片梨さんが炎のクナイで床に縫い留めていく。回路が焼き切れたドローンは即座に停止した。
「ふう、多かったわね」
「次から次へとまあ」
「油断するな。まだ終わりではないかもしれん」
「了解」
少し行った先に小部屋があった。猿島要塞が現役だったころの司令座跡だ。中央に螺旋階段が見える。
「この下だな」
全員が無言で頷いた。
英太の活躍で司令座へとたどり着いたノクターナルは人工知能コアを目指して階下を目指す――




