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Ep5-13 強襲揚陸

猿島東岸から侵入を試みる不正入場のレイドチーム。そして南岸の砂浜には、いよいよ本命のランクAチームが姿を現す――

 25時05分 猿島東岸沖


 観音崎方面から一隻の漁船が猿島に接近していた。使い古した船体が出せる最大速度で真っ直ぐにレイド境界を突破する。

「ほら見ろ、大丈夫だったろう?結界といっても心理的なもんだからな。おかじゃ難しいがこうやってブレーキじゃ止まれない船で突っ込みゃ、勢いで突破できンだよ」

 乗っているのは正規の参加申請をしていないランクCのレイダースチームだ。

「おぇぇっ、ぎもぢわ゛りぃ。レイド境界を無理に越えたせいだよ。おえぇぇっ」

「ばーか、おまえのはただの船酔いだよ」

「なあ、リーダー。どういう作戦でいくんだ?いくらランクAのレイドは実入りがいいって言ってもその分お宝をゲットするのが難しいんだろう?」

「なあに、簡単なことよ。連中が互いにドンパチやってりゃ、お宝を手に入れるころにゃあボロボロよ。そこを陰に潜んでピンシャンしている俺たちが襲って全力で叩きつぶす。少ない労力でちゃっかりターゲットを手に入れるって寸法よ」

「だけどリーダー、そううまく行くのか?それってお宝持った連中が出てくるところを待ち伏せするってことだろ?どこで待てばいいんだ?」

「俺の勘だと島の北の端にある洞窟が怪しいと睨んでる」

「そうなのか?」

「猿島には一度遊びに行ったことがあるんだ。あそこは縦に通路が伸びてる。他の連中は馬鹿正直に南の端から上陸するみてぇだが、それだと順番に進んで北に向かうしかねぇ。お宝をゲットした後もライバルチームが後ろに控えてるんだ。そっちに戻る選択肢は取れないだろ?だから必然的に北に進むことになるわけだ」

「なるほどぉ。リーダー、天才だな」

「……そんな簡単な話ならほかの連中も気づいているんじゃないのか?」

「回りを見ろ。どこかに他の連中がいるか?全員南の浜に向かったのを見ただろう?」

 リーダーが顎をしゃくって示した方角では早くも激しい銃撃音が響いていた。

「こっちを避けた理由があるんじゃないか?」

 疑り深いメンバーの一人は断崖の上に鬱蒼と茂る自然林から今にも砲弾が飛んでくるのではないかとびくびくしている。

「心配性だなぁ、おまえは。あそこに砲台が並んでいたのは戦時中の話だぞ?ほれ、何にもないだろう?」

 リーダーが差し出した双眼鏡は民生用としては高級品だったが暗視機能はないため夜の森の状況を見るには足りなかった。

「暗くてよく見えない……」

「こっちだと多少は見えるぞ」

 そういってチームメイトが差し出したのはアサルトライフル型デバイスに取り付けられたレーザーサイト付きのスコープだった。

 今も騒がしいエンジン音を立てて全速で進む小さな漁船から赤いレーザー光が猿島に向かって伸びる。スコープ越しに赤い点に照らされた周囲がほんの少し見える気がする。

「おい、そんなレーザーなんか当てたら敵に気づかれるぞ」

「わはは、誰が見てるっていうんだよ」


『観音崎方面から接近中の船舶よりレーザー照射を確認。敵対行動と見なします。迎撃態勢に移行』

 猿島要塞の迎撃システム内で状況評価の結果が次の行動へと進行して行く。

 ズズズ、と猿島砲台址のコンクリートが円形に沈み、変わって中から多連装ロケット砲が姿を現した。

『近接信管を最大距離に設定。敵船舶の進行方向前方に照準合わせ。発射します』

 オレンジ色の炎を引いて、三発のロケット弾が飛翔した。


「わっ、なんだ、ありゃあ」

「ミ、ミサイルだよ」

「ほら、言わんこっちゃない」

「バカ言ってないで逃げろぉ」


 それ以上速度の上がらない漁船を気合で押し出そうとするようにバンバンと船体を叩くがどうにもならない。多連装砲台から放たれたロケット弾はほんの一呼吸で漁船に喰らいつき、進行方向前方で激しく炸裂した。

 三発のロケット弾の爆炎が収まるころ、煙の中から操舵室を吹き飛ばされ、船体のいたるところが裂けた満身創痍の漁船が現れた。エンジンだけは生きているのか緩い弧を描いて猿島に近づく進路を取っている。が、やがて徐々に船体が沈み始めると同時に船足も落ちていき、最終的には海の藻屑となって沈んでいった。


 25時10分 猿島南岸浅瀬


 ブオォォォォ

 静かなままの海面にV型水冷ディーゼルエンジンのけたたましい咆哮が響き渡る。

 砂浜の銃撃音に紛れてつい今しがたまで耳に止まらなかった騒音が、無視できない圧力となって迫ってくる。が、騒音の聞こえる方向にはさざ波ひとつ立たっておらず凪のように穏やかな水面に街の夜景が映るほど静かだ。

 ブラボーチーム隊長が発電所爆破の指示を出したちょうど同じ時刻、凪の海の夜景を突き抜けて鋼鉄製のクジラに似た形の何かが現れた。力強いウォータージェット推進が巻き起こす泡立つ波はすぐ後ろでぷっつりと途切れて凪の夜景へと切り替わっていた。

 書き割りの夜景を突き抜けて同じ車両がもう一台現れる。先行した一台が車体の三分の二を水面から現わして、なだらかな浜を突進していく。無限軌道キャタピラーの履帯が力強く砂をかき上げる。

 ハッチから顔を覗かせて現場を見極めていた指揮官らしき男が銃塔にいる砲手に告げる。

「十一時の方向、管理棟上階。固定銃座だ。黙らせろ」

「ラジャー」

 自動擲弾銃から40ミリグレネードが目標に吸い込まれるように撃ち込まれ、炸裂する。

 続いて二発、三発、四発。

 連続するグレネード弾による砲撃が近接防御火器システムを沈黙させる。

 さらに、位置が明らかになっていた散弾砲台を12.7ミリ重機関銃で無力化していく。他にも森に隠された対人用機関銃からの攻撃があったが、水陸両用強襲輸送車の装甲を脅かすものではなかった。あとから到着したもう一台も加え重機関銃の斉射やグレネード弾の集中攻撃で判明していた敵の銃座を順次潰していった。

 その間も水陸両用強襲輸送車の後部ハッチが開いて中から次々と兵士が現れ、車体を掩蔽物として隊列を整えていく。


「なんだよ、AAV7を持ち込むなんて反則だろ。クソッ、こっちは紙みたいな防弾服一丁だってのに」

 散弾砲台にいいようにあしらわれて撤退作業を続けるチャーリーチームのメンバーが遠目に眺めながら愚痴をこぼす。

「あいつら、ラグナロクだよ。聞いちゃいたが本当に軍隊と変わらねぇな。あんな装備引っ張り出したんじゃ、成功報酬をゲットしても赤字じゃないのか。どうなってんだ?」

「ランクAの依頼ってのはいつもこんななのか?資本力がモノをいうのが現実だってんなら裏社会も表となんも変わんねーじゃねぇか。けっ、割に合わねぇぜ。話に乗るんじゃなかった」

「一攫千金なんて夢のまた夢だな」


「上陸地点の制圧完了。これより要塞内部の攻略作戦に入る」

「了解」

 上陸した小隊があらかじめ決められていた作戦に従って移動を開始する。

 強襲輸送車(AAV7)の役目はほとんど終わったようなものだ。操縦士が近くの仲間に話しかける。

「強襲揚陸なのにヘリコの一機もいないのはさみしい限りだな」

「東京湾で戦争をおっぱじめる訳にはいかないって」

「わかっているさ。それに、近接航空支援は不要だったしな」

 振り向いた先には先ほどまでと全く変わらない夜景の海が広がっている。

「これも光学迷彩っていうのかな?」

「迷彩っていうより映写だな。上が運営にねじ込んでレイド境界の結界に景色を投影する術式を組み込ませたそうだ」

「差渡し五百メートルの3 D映像か。豪儀なもんだ」

「反対側にはいつもの猿島が映し出されているんだと」

「なるほど。本土側の目隠しにもなるってわけか。運営側にもメリットを提示するなんてウチのトップは有能だねぇ」

「ああ、有能だぞ。作戦中に雑談しているような奴にはレイド中でも解雇ファイヤーの連絡を入れるらしいからな」

「ひっ」

 上司には聞こえていないと思っていた二人は首をすくめて作業に戻った。


 強襲輸送車を橋頭堡として砂浜に残し、歩兵戦力二個小隊七十名の戦力が進攻する。

 見えていた主要な要塞側の兵器は無力化済みだ。ラグナロクはよどみなく発電所の残骸まで進んだ。そこにはうめき声を上げるブラボーチームの残骸が転がっていた。

「チェック」

「重傷者多数。死亡者はいない模様」

「よし、出血がひどい者だけ応急処置をしておけ。他はそのままでいい」

「しかし、この至近距離でよく20ミリバルカンの斉射を耐えきりましたね」

「敵性勢力が保有するのは通常兵器のみというのは本当のようだな。この連中もギリギリで物理障壁術式の展開が間に合ったのだろう」

 間に合ったという表現が正しいかははなはだ疑問に思われる光景だが、死者が出なかったという意味ではその通りだ。加えてラグナロクが速やかに敵側の機関砲を破壊したこともブラボーチームにとっては運がよかったようだ。とはいえライバルチームである。救護活動をする義務はない。

 ラグナロクは崖を巻いて登る坂に向けて隊列を組みなおし、速やかに進攻を継続した。

圧倒的な戦力で砂浜を制圧したラグナロクはさらに奥へと侵攻を開始した――

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