Ep5-12 止まない砲撃
混成チームの砂浜からの上陸作戦は続く。果たしてどのチームが生き残るのか――
「アルファがやられたか。こちらは今のところ動きはないな。近寄らなければ見逃してやるということか」
浜辺に立って状況を見定めていたチャーリーチームのリーダーが双眼鏡を下ろしてつぶやく。
「隊長、全員揃いました!」
「よし、足下に気をつけろ。地雷が埋設してあるかもしれん」
「はっ」
「第一目標はあの発電所だ。まずは動力を潰していく。その後、順次進攻して拠点を制圧しつつターゲットを捜索する」
「イエッサー」
隊員の返答がきれいにそろう。
「よし、開始!」
チャーリーチームは隠れた機銃と地雷原を想定し砂浜一帯に散開して前進を開始する。とはいえ、遮蔽物の無い砂浜だ。できるだけ広がって敵の狙いを絞らせないようにしつつ一気に突っ込むという単純な作戦を取る。装備の防弾性能を術式で底上げしているという防御力頼みの単純な戦術は市街戦中心のレイドではよくある戦法である。
それを横目に見ながらブラボーチームは桟橋の反対側の端、管理棟などの建物から一番離れており、かつ崖が遮蔽になる位置に集結する。崖側に隠れた銃座があるならチャーリーチームがあぶりだしてくれるだろう。もっとも、一番怪しいのは管理棟だ。民間施設だが表に見えている姿だけが本当だと考えるのは甘すぎる。
ブラボーチームのリーダーがほくそ笑みながら見守る中で、チャーリーチームが展開を終えて一斉に突撃を開始する。
砂に足を取られながらも十分な速度で前進を始めた三歩目のことだった。
ガコンガコンガコン
シャッターの閉じた管理棟の足下から重い音が響き、マンホールのような円形の筒の上部がいくつも飛び出す。奥に隠れた短い砲身がオレンジ色に光るのが見えた直後、兵士たちが一斉に倒れ伏した。
「うあああ」「うぐぐ」
対上陸用の散弾砲台だ。
無数の粒上の金属散弾が砂浜の斜面に沿って撃ち出される。強化した防弾装備を貫通するほどの威力はないが、隙間に喰らった散弾が肉を割き骨に食い込む。咄嗟に伏せて急所をガードした隊員も細かい裂傷を負って無事では済まないようだ。それでも前進しようとする隊長以下数名が立ち上がる瞬間を狙って第二射が発射される。
「あぐっ」
一歩も進めずその場に頭を伏せる。
低い弾道で扇状に撃ち出される散弾は個々の兵士を狙うのではなく面で周囲をカバーして敵の侵入を阻止することを企図したものだった。
複数の砲台から交互に撃ち出される散弾の雨に全員が釘付けにされる。頼みの防弾装備もいつまで持つか。
「撤退っ!」
チャーリーチームは動けないメンバーを庇いながら這いずるようにして波打ち際へと撤退していった。
「射撃のタイミングは完璧だな。誰かが指示を出しているのか?自動制御と聞いたが」
ブラボーチームのリーダーがニヤニヤ笑いながら状況を検分する。
「だがあの程度の火力なら塹壕を掘るほどのことも無い。所詮平和ボケの国の兵器だな。例のものを出せ!」
「はっ」
特殊な複合素材でできた防弾盾が用意される。全身が隠れるサイズだ。これを全隊員が持ち、三列縦隊で突撃する。射線が一方向からなら短時間の射撃には耐えられるだろう。最悪、一列目が抜かれても二列目、三列目が目標地点にたどり着ければ十分だ。
「進攻!」
準備ができたブラボーチームが盾を横に構えて低い姿勢で駆けながら崖沿いを進む。
すぐに迎撃の散弾砲台が回頭して射撃を開始する。
一斉射が終わるまで足を止めて斜めにした防弾盾に身を隠す。丸い散弾はいなされ弾かれ、ブラボーチームは傷を負うことなく進んだ。
「進め!進め!豆鉄砲など怖くもないわ!」
盾で弾きながら散弾のシャワーの中を前進する。
「イケるぞ」
だが隊長のほくそ笑みはすぐに引っ込んだ。
「うわっ」「ぎゃっ」
前方から硬質な銃弾の音と隊員の悲鳴が響き、隊列の前進が止まる。
「どうした、進まんか!休んでいいなどと言った覚えはないぞ!」
「機銃です。ターゲット背後の崖上に隠されていたようです」
対人機銃による十字砲火で隊列の先頭が足止めされている。
「このままでは持ちません!」
「防御盾を前方に集中させろ」
目標の発電所までは緩い上り坂になっている。散弾砲台は浜辺を上がってくる兵士の足下に向けた俯角になっているようで、砂浜を越えることで弾幕が薄くなる。その分の防御力を前方に向けてじりじりと前進する。
「ダメです、リーダー。盾が持ちません」
「ちぃっ、第一小隊はここで囮になれ。第二小隊と第三小隊で一気に進む。前進!」
脚を切り離して逃げるバッタのように、一番外側の盾を残して残り二枚の盾が目標に向かって突進する。一瞬の遅延のあと抜け出した部隊を機銃が追撃するが、攻撃目標が倍加したため攻撃密度は半減し突進を押しとどめるには至らない。
「よし、イケるぞ」
先ほど聞いたような台詞だが、今度の一言には焦りと願望が含まれていた。
「気を抜くな。全周防御隊形!進めッ!」
発電所は猿島要塞にとって最重要防衛拠点だ。当然近づくほどに攻撃も苛烈になる。だが守るべきものがあるということは死角もあるということだ。
二重の全周防御が一枚ずつはがされていく。が、何とか発電所に取りつくと要塞からの射撃が止んだ。
「はっはっは。見ろ、俺の勝ちだ!」
「リーダー。静かすぎます。次の迎撃システムが迫っているかもしれません」
「う、うむ。対人ドローンがあるかもしれん。工作班!速やかに爆破準備!」
「ハッ」
複数人がバックパックから工作用爆薬を取り出しモルタルのはがれかけたレンガ造りの建物に素早く設置していく。崖上の銃座は死角からはみ出した者には容赦なく攻撃を再開するが、工作担当者を守るように防御盾を構える兵士がカバーをして実害はでない。
「準備できました」
「よし、全周防御隊形で崖際に退避、安全距離まで離れたら即座に爆破だ!」
再び盾の殻を作って移動し、爆破の影響を受けない坂道側の壁を背に防御を厚くする。
「爆破っ!」
合図とともに起爆装置のスイッチが入れられる。
ドォーン
対象が脆いレンガ造り建物なので爆薬量は少なく設定した。なので爆発も戦場にしては控えめなものだ。
もうもうと立ち昇る粉塵を前に崖上の銃座が沈黙する。
「自動迎撃システムなんぞこの程度のものよ。わっはっはっ」
「しかし、脆いですね。最重要防衛拠点の発電所が補強もせずに古いままだなんて、日本人は何を考えているんでしょうか」
「ふん、おおかた物には魂が宿るとかなんだとか、世迷言を信じているんだろうさ」
「……隊長、あれ……」
別の隊員が震え声でリーダーを呼ぶ。
「なんだ?」
しかし隊員はリーダーの呼びかけに振り向きもせず背後を指差した。
そこは管理棟の最上階部分だった。平時は遺構の資料や写真などを展示しているスペースがいつの間にか金属の塊に占拠されていた。
管理棟の開口部からデッキ部分にせり出してきた台座には冷たく突き出た六本の砲身が束ねられている。一本一本が機関銃と言えるサイズではなく、金属装甲をやすやすと打ち抜くような機関砲そのものだった。
重々しい旋回音を鳴らして砲身がこちらに向けられる。
「電力は断ったはずだ……」
キュィィィィ
回転するモーター機構が死のカウントダウンを奏でる。
「たっ、退避ぃぃぃぃっ!」
もはや要塞の兵器がかばうべき歴史的建造物はなく、身を護る死角を失ったブラボーチームは無情の弾丸の雨に押し流されていった。
要塞の厚い守りになすすべもなく粉砕された混載チーム。だがレイドはまだ終わらない。挑み続けるチームがいる限り――




