表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティ  作者: かいり
6/10

夜に暴かれる真実、銀狼の選択

胸の奥に、 まだ息をしている影がある。

忘れたふりをしても。 名前を変えても。 夜に逃げても。

影は、消えなかった。

これは、影と共に生きてきた 一人の女の子の物語

報告を聞いて紗羽(すずは)の目が細くなった。

その瞬間、空気がひやりと冷えた。


「……まじか。」


低く、静かで、怒りを押し殺した声だった。


夜のざわめきが遠のき、代わりに胸の奥で何かが静かに燃え始める。


団員たちは、守り担当の狼牙に囲まれていた。

しかし、その狼牙たちの肩が微かに震えている。

敵意の気配が濃く漂い、空気が重く沈んでいた。


「なに……この空気……息……しづらい……」

結凛(ゆうり)が小さく震え、瑛祐(えいすけ)が周囲を見回す。


「紗羽……どこ……?」

歩睦(あゆむ)は眉を寄せ、杉葉(すぎは)は唇を噛む。


「怖い……帰りたい……」

藍香(るか)の声はかすかに震えていた。


狼牙のひとりが言う。

「大丈夫です……絶対に……守ります……」

だが、その声も震えていた。


蓮――いや、銀狼は、現場に着いた瞬間、状況を一瞥(いちべつ)した。


「……十五人ね。」


壁を蹴る音が夜に吸い込まれ、次の瞬間には銀狼の姿が“上”にあった。

月を背負い、影が落ちてくる。

まばゆいほどの満月の光の強さに銀狼の姿は見えない。


団員たちは何が起きているのか理解できない。

ただ、空気が震え、風が走る。


そのとき、金属が空気を裂いた。

鋭い何かが藍香へ向かって飛ぶ。


狼牙のひとりが叫ぶ。

「間に合わない……!」


「藍香!!」


団員たちの叫びが重なる。


敵の肩を踏み台にし、空気を裂くように飛び込む。


藍香の視界に、銀狼の影が落ちた。


銀狼は覆いかぶさるようにして藍香を守り、背中で衝撃を受け止める。

金属が銀狼の背中に当たり、乾いた音が響いた。


「……あぶなかったな。」


低く、静かで、震えるほど怒りを含んだ声だった。


「すぐ終わらせるから。」


その言葉に、団員たちは息を呑む。

銀狼が怒っている――それだけで、空気が変わる。


音が消え、呼吸が浅くなる。

狼牙たちでさえ背筋を伸ばし、動きを止めた。


銀狼は味方を誰も傷つけないように、しかし確実に状況を終わらせるために動いた。

団員たちにはただ“影が走った”ようにしか見えない。


敵は十五人。

金属、棒、刃物に近いものまで持っている。

対して銀狼は素手。


それでも、空気の流れは完全に銀狼のものだった。


敵が武器を振り上げる。

だが銀狼は“そこにいない”。

一歩、半歩、指先ほどのズレで軌道を読み切り、流す。


敵の体勢が崩れ、銀狼はその隙を逃さない。

攻撃ではなく“処理”。

無駄が一切ない。


「なんで当たらねぇんだよ!!」


「……当たるわけないだろ。」


静かで冷たい声が返る。


銀狼は敵を倒すたびに、藍香の方を一瞬だけ確認した。

相手が藍香に手を出そうとするたび

その目は獣のように鋭く、しかし人間らしい怒りを宿していた。


「……よくも。」


その一言で、敵の背筋が凍りつく。


銀狼が怒ると、声は静かになり、動きは速くなる。

そして――終わりが近いことを誰もが悟る。


敵が十五人いようと、武器を持っていようと関係ない。

銀狼には“触れられない”。


最後の一人を見据え、銀狼は静かに言った。


「……終わりだ。」


夜の底に沈むような声だった。


戦闘の余韻を残したまま、銀狼は蓮へと戻っていく。

狼牙にさえもう話しかけない。

夜の灯りの中へ溶けるように歩き、さっきの店へ戻る。


マスターがすぐにカードを差し出した。

「おかえりなさい。カード、お預かりしていました。」


「ありがとう。」

少し安心したようなそんな声色だった。


蓮が歩くだけで、また声が飛んでくる。


「蓮くん〜!!」

「今日も綺麗だねぇ!」

「蓮くん、こっち寄ってって〜!」


軽く手を振るだけで歓声が上がる。

団員たちが見た蓮の人気は、ほんの一部にすぎなかった。


バーに入ると、お姉さんたちがぱっと顔を輝かせる。


「蓮くん〜!遅かったじゃん!」

「待ってたんだからね!」


「ごめん。ちょっと大事な人たちのところに行ってた。」


蓮は笑い、二人を抱き寄せた。


「さ、続きをしよ?」


店の空気が華やぐ。


その頃、拠点は異様にざわついていた。

周回メンバー以外、ほぼ全員が集まっている。


そして銀狼が戻る。


「銀狼、おかえりなさい!」

「団員さんたち、無事送り届けました!」

「さっきの件、状況まとめました!」


銀狼は手を上げ、静かに言った。

「……全員、よく動いてくれた。礼を言おう。ありがとう。」


その声だけで空気が整う。


十五人はボス級ではない。

動きも雑、武器も統一されていない。

ただ“誰かに雇われた”形跡がある。


「情報が漏れている可能性があります。」

「漏れてるのは行動予定だけで、個人情報までは掴まれていません。」

「本命は別にいると思われます。」


銀狼は静かに頷いた。

「あれで終わりなら楽すぎる。」


(らく)。15人を。楽。銀狼余裕っすね、、)


甘いものを差し出され、ひと口食べる。

「あ、うまい。」


「しゃぁぁぁぁ!!」

一言で狼牙たちは歓声を上げる。


「うるさい。」

「「「すみません。」」」


つかの間の喜びを楽しみつつ状況を整理していく。


「今回の十五人は前座。本命は別にいる。

団員たちには絶対に触れさせない。藍香さんにも。」


「「おう!」」

狼牙たちが一斉に返事をする。


全員が散り、拠点が静かになった。


銀狼は壁にもたれ、ふっと息を吐く。

(……藍香さん……怖かっただろうな……でも……守れてよかった……)


その顔は、最近あまり出もしなかった“紗羽”の顔だった。


戦闘の余韻は消え、代わりに冷静な分析が始まる。


十五人は本命ではない。

では、誰が動かした?

誰が情報を流した?

誰が団員の動きを知っていた?


団の内部――その可能性が浮かぶ。


そして、ひとりの名前が脳裏に浮かんだ。


(……杉葉さん。)


最近の練習中に動きがおかしいとと思っていたのだ。

空気が冷える。


今日の十五人の狙いは団員ではない。

“藍香”だった。

何度も攻撃を仕掛けた。


銀狼の目が細くなる。


(藍香さんを狙った……それだけは……絶対に許さない。)


怒りは静かで深く、冷たい。


杉葉が本命なのか。


最近の杉葉の行動が頭をよぎる。

妙な丁寧さ、スマホを触るときの一瞬の間、泳ぐ視線、笑顔の奥の違和感。


(……監視されてる……?脅されてる……?)


もし操られているなら救える。

だが、もし本人がボスなら――。


銀狼は拳を握る。


(絶対に守る。藍香さんも、団員たちも。)


銀狼は立ち上がり、鷹臣を呼び出した。


「内部の可能性がある。情報が漏れてる。動きを読まれてる。

団員たちには絶対に気づかせるな。」


鷹臣と後ろの狼牙たちは緊張した面持ちで頷いた。


その頃――杉葉はまだ知らない。

銀狼が。紗羽が自分を疑い始めていることを。


そして、銀狼が

「藍香さんを狙ったのが許せない」

と静かに怒っていることも。




数日前。杉葉が家へ入ろうと部屋の鍵を回した瞬間、空気が違うと気づいた。鍵が空いている。

いつもの静けさではない。

奥に、誰かの“気配”があった。


胸の奥がざわつく。

靴を脱ぐ前に、低い声が闇の中から落ちてきた。


「動くな。」


心臓が跳ね、足がもう動かない。

暗闇の奥から、二人の男がゆっくりと姿を現した。

スーツでも、街の不良でもない。

ただ“夜の匂い”だけが濃くまとわりついている。


「……なんの用だよ……」


声が震える。

自分でも驚くほど弱い声だった。


「ははは。お前も災難だな。銀狼がこの劇団にいなければこんな目にも会うことはなかっただろうに。」


「あの子は家族をなくしているんだ。俺達には居場所を作る義務がある。」


「馬鹿げたことを。まぁいい。」

男は笑わず、ただ淡々と告げた。


「お前、劇団の人間だよな。動き、全部知ってるよな。」


喉が詰まる。

否定しようとした瞬間、男の言葉が重く落ちた。


「情報を渡せ。」


その声音は、刃物より冷たかった。


「……なんの情報だ…?」


男は薄く笑った。


「とぼけるな。“銀狼の周りすべて”の情報だ。」


銀狼—紗羽のことだ。

胸がぎゅっと痛む。


男は続けた。


「お前の家、簡単に入れたぞ。団の動きも、お前の帰り道も、全部見てた。」


背筋が冷える。

ずっと見張られていたのだ。


「……なんで俺……?」


「お前が一番情報を持ってるからだよ。

人間観察好きなんだろう?」


確かに、杉葉は人の動きに敏い。

団員の変化にもすぐ気づく。

それが弱点になった。


「……情報なんて……渡せない……」


拒否の言葉は震えていた。


男はスマホを投げてよこす。


「渡せるよ。これに入力するだけでいい。団員の予定、銀狼の動き……藍香って女の帰宅時間もな。」


藍香の名前が出た瞬間、血の気が引いた。


「拒否したら……どうなるかわかるよな?」


静かで、本気の声だった。


逃げ道はなかった。

助けも呼べない。

団に迷惑をかけるわけにもいかない。


そして藍香の名前。


(……守らなきゃ……でも……どうすれば……)


震える手でスマホを持つしかなかった。

男たちはその後すぐにその家をあとにした。


そして現在。

杉葉はまだ知らない。


銀狼—紗羽が、

「本命は杉葉さんかもしれない」と疑い始めていることを。


そして、

「藍香を狙ったのが許せない」と静かに怒っていることも。


杉葉はただ、胸の奥で苦しんでいた。


(……あれから毎日……見張られてる……

スマホ触るときも……家に帰るときも……全部……)


(紗羽……藍香……みんな……守りたいのに……

裏切ってるみたいで……苦しい……)



数日考えて、でも

紗羽は、どうしても信じたかった。

杉葉が裏切るような人間ではないと。


だから稽古前に、わざと二人きりになる状況を作った。


静かな部屋。

外には狼牙の人間が控えている。


杉葉は落ち着かない様子で椅子に座っていた。

肩がわずかに強張り、視線が定まらない。


紗羽は紙を取り出し、さらりと書いて見せた。


「盗聴は?」


杉葉の目が一瞬だけ揺れた。

なぜ突然二人きりなのか。その意味がわかった。


“わからない”と首を振る。


その仕草が、紗羽には痛いほど苦しそうに見えた。


紗羽は無言で立ち上がり、窓のカーテンを閉める。

外の狼牙のメンバーへ手で合図を送る。


「見張れ。」


狼牙たちは即座に動いた。


紗羽はポケットから小型の探知機を取り出し、

慣れた手つきで部屋をスキャンしていく。


机の裏。棚の隙間。コンセントの奥。

次々と反応が出る。


「……こんなに……?」


「まぁね。」


淡々とした声なのに、どこか優しい。


見つけた盗聴器はすべて別室へ移され、

あらかじめ録音していた“日常会話”が流される。


完全に偽装された空間が整う。


紗羽は監視カメラも確認し、外の狼牙たちと連絡を取った。


「……よし。もう大丈夫だよ。」


椅子に戻り、杉葉の前に座る。


「話してみて。」


杉葉の喉が震えた。


「……どうして……気づいたんだ……?

俺が……怪しいって……」


紗羽は少し笑った。


「私はね。杉葉さんと同じくらい、人を観察してるんだよ。」


責める声ではなかった。

“信じている”という温度を持った声だった。


杉葉は、(せき)を切ったように話し始めた。


「……数日前……家に帰ったら……知らない男がいたんだ……

“情報を渡せ”って……

断ったら……どうなるかわかるよなって……」


紗羽の目が細くなる。

怒りではなく、理解と痛みが混ざった目。


「……藍香さんの名前も出された……

帰宅時間まで……全部……」


「やっぱりな、、」

紗羽の拳が静かに握られる。


「……怖かった……

でも……団に迷惑かけたくなくて……

どうしたらいいかわからなくて……ずっと……」


声が震え、拳が膝の上で強く握られる。


「……すまない……紗羽……

裏切りたくなかった……

でも……守りたかったんだ……

どうすればよかったのか……わからなかった……」


その言葉は、

裏切りではなく、

必死の“抵抗”だった。


紗羽はゆっくりと息を吸い、

杉葉の震える肩にそっと手を置いた。


「……話してくれて、ありがとう。」


その声は、銀狼ではなく

紗羽の声だった。

読んでくれてありがと。

この先も、いろいろあるよっ。 気に入ってくれたら、次も覗いてみてな。

コメディ要素ときどき入っちゃうからね!

感想とかあったら、遠慮せんと教えて! めっちゃ嬉しいし、まじで力になる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ