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スーパースペシャルな生徒会

【前回のあらすじ】

 生徒と教師がガチで殺り合う『国立 東京危機管理専門高等学校』入学初日から、『囚人教員』比戸曳太蔵ひとひきたいぞう永眠狂三郎ながねきょうざぶろうの二人に手を焼く穂波ほなみとアケビ。

 戦闘中に知り合った級友・武蔵野武尊むさしのたける天羽聖良あもうせいらの助力もあり、からくも撃退に成功。

 そのおかげで入学早々、史上最強の新入生として皆に一目置かれる存在となる。


 その後は入学式、そして自己紹介を兼ねたクラスミーティングと予定通りに進行。

 半日終業で放課後となるが、帰り際にクラス委員長・鳥間秀雄とりまひでおが明日からの戦闘対策について話し合おうと提案。

 しかし彼は、本日放課後は戦闘禁止という通達を無視して奇襲を仕掛けた囚人教師・薬師葛流やくしくずるにより惨殺。

 その様子を目の当たりにした副委員長・小座奈理央おざなりおも正気を失い廃人と化すなど、登校時に引き続き新たな犠牲者を出してしまう。


 そこへ穂波のスカウトに訪れた生徒会長・東道明生とうどうあきおと副会長・狩納かのうマチルダの超人的な活躍により、薬師はあえなく無力化。

 その凶行に激怒した校長・毒島権蔵ぶすじまごんぞうの鉄拳制裁により、彼もまた廊下の染みと化した。

 そして穂波は本校では友達が出来なさそうだからという哀しい理由で、あっさり生徒会入りを表明する。


 帰宅後、アパートの縁側で黄昏れていた穂波とアケビ。

 全校中に目をつけられて今となっては友達作りは絶望的だと悲観していたが…

 そこにひょっこり現れたタケ子(女装時の武尊の自称)と聖良が立候補。

 活躍不能となった前委員長たちに代わり、担任の贄野羊子にえのようこから代理就任を依頼された二人は、特別顧問として穂波を引き込むべく声をかけに来たのだった。


 そこでアパートがすっかり気に入った様子のタケ子は、自分もここに住むと宣言。

 彼に密かな憧れを抱く聖良も、穂波と二人きりにしてなるものかと同じく同居を決め込む。

 かくして初日からいろんな意味で波乱含みな彼女達の行方は…?





「いやぁ、ワンちゃんが喋るってだけでもビックリしたけど…」

「ま、まさか、あんな学校に自ら志願してくる人がいるなんて…ですよね?」


 なし崩し的にボロアパートに住むことになったタケ子と聖良の二人は一旦それぞれの自宅に戻るや、とりあえず必要なモノだけ持ってすぐに引き返してきた。

 んで、一階奥の穂波の部屋のすぐ隣には聖良が、その隣で玄関に最も近い部屋にはタケ子が入ることに。

 聖良にこの部屋割りでなきゃダメだと力説されて…。まあ他の二人には特にこだわりは無かったのですんなり了承したが。

 その頃にはそろそろ夕飯時だったので、皆で食堂に集って穂波の手料理に舌鼓を打ちつつ、それぞれの身の上話に花を咲かせていたところである。


「まぁ住人が増えるのは管理人的にはありがたいけどよ…。

 オレが喋れるってのは、他の奴にはバラさねぇことが置いてやる条件だぜ?」


 既にアケビのこれまで…過去の記憶を失い、気がついたらココに居たこと、元は人間であること…は新住人の二人に打ち明けてある。

 そもそも今朝、登校時にたまたま穂波とアケビのそばを歩いてたときに『囚人教師』比戸曳に襲撃され…

 すぐ逃げようとするも、迂闊にもアケビが喋っていることに気づいてしまったばかりに、怖いモノ見たさで穂波の後をつけてしまい…

 結局逃げ遅れてしまったことがこうして知り合うきっかけとなった。


「穂波もまさかあんなトコだとは思わなかったんスよぉ。東京でぇ、しかもタダってことしか見てなくってぇ…」


 それまでは人里離れた山奥でずっと父親と二人暮らしで、学校なんてモノにはまったく通ったことがなかったため、ずっと憧れ続けていた…と。


「仕方なかったんじゃない? 忍者なら色々守らなきゃならない秘密も多いだろうしさ」

「ん〜、そんなもんっスかねぇ…

 …って。どーして穂波が忍者だって知ってるっスか!?」


 あれだけド派手に「究極奥義・影走りっス!」とかブチかましといて、何をいまさら…と呆れるその他三人。


「ぅぅ…ホントは正体バレたら殺んなきゃなんないんスけど…お友達は殺れないっスから…

 アケビちゃん同様、他言無用でお願いするっス」


 お友達になっといて良かったぁ〜!

 ホッと胸を撫で下ろす三人だった。

 ナチュラルボーンアサシンに狙われたら命がいくつあっても足りない。

 …てゆーか今さらだけど、隠密のプロが一人称で本名バラしまくってるのってどーよ?


「…とゆーことは、お二人さんは自分で志願したんじゃないっスか?」

「そりゃあね。ボクは父に放り込まれたんだよ。いつまでもそんな軟弱な格好してるくらいなら、ココで漢らしく鍛えられてこいって…」


 あー…と全員思わず納得。

 多様性の時代になっても、巷の認識なんてそんなモノだ。


 手錠なんぞを隠し持っていることからも判る通り、武尊の一族は代々警官の家系で、父親は現役の警察庁長官。

 そこに生まれた男子ばかりの三兄弟の末っ子が武尊くん。

 しかし母親は本当は一人くらいは女の子が欲しかったらしいが、ついに恵まれず…幼い頃の武尊に女の子の服を着せて可愛がってくれちゃったのがそもそもの間違いだった。


「おかげで物心ついた頃には、父の希望で男の子らしい格好させられても、な〜んか違和感が拭えなくなっちゃってね…。

 …あ、ちなみにボクは女装が趣味なだけで、ちゃーんと女の子が好きだから♩」

「…じゃあさっきのもアウトじゃないですか…」


 聖良は、タケ子が穂波に目の前でファーストキスを奪われたことをいまだに根に持っていた。


「ダイジョブっスよ、穂波も初めてだったっスからテヘッ♩」

「ますますダメじゃないですか!? 女の子ならもっと自分を大切にしてくださいっ!」


 そう言われても、元々他の人間とほとんど触れ合わずに生きてきた穂波には、なんのこっちゃ?な感じでポカーン。


「兄さん二人はとっくに成人して、警察組織内で順調に出世していってるから、ますますボクの体たらくぶりが気になって仕方なかったみたいでね…。

 あと、もしかしたら…」


 急に哀しげな目をして、タケ子はぽつりと言い放つ。


「一向に女装をやめないボクなんかもう、どうなってもいいって…むしろそうなることを期待して、ココに放り込んだのかも…」


 いや、肉親がそんなコト考えるはずがない!

 …と否定したいのも山々だが。

 警察の高官ともなれば、あの学校がどういう場所かは重々承知のはずだから、あるいは…。

 元々あそこは問題児や不登校児、果ては囚人教員など、おおよそ我が国の国益には繋がりそうもない『不良国民』の捨て場所として用意された処分場なのだから…。


「さっきだって、ココのアパートに引っ越したいって言ったら、諸手を挙げて行ってこいって…。

 少しは反対されるもんだと思ってたんだけどな…」


 それをタケ子は親に突き放されたと…諦めから来る放任主義だと受け取ったらしい。

 だが実際には、親はまだ彼の矯正を諦めてはおらず、社会の荒波に揉まれて改善することに期待して送り出してくれたのかも…。

 いずれにせよ、彼の女装を『異常』と受け止めている時点で、双方が理解し合える日はまだまだ遠そうだ。


「…で、でもでもっ!

 それでも自分を誤魔化そうとしない武尊さんは、立派だと思いますっ!」


 そんなタケ子を励ましたのは意外にも、普段は小心者な聖良だった。


「その姿だって、ホントは男の子って説明されてもまだ理解できないくらいカンペキに女の子で、あたしなんかよりずっとステキだしっ…

 少なくともあたしは、ココであなたに出会えて良かったって思ってますからっ!」

「…アレ? 穂波とアケビちゃんは…?」


 という穂波の素朴な疑問が聞こえないほど力説して肩で息する、目尻にうっすら涙を浮かべた聖良に…


「…ありがとう。キミみたいにステキな子に出会えて、ボクも良かった…♩」

「…武尊さん…」


 体格の割には小さく震える彼女の肩を抱いて、お世辞ではなく心の底からしみじみ囁くタケ子に、聖良もすっかり夢見心地で二人きりの世界へと…。


「だから穂波とアケビちゃんもお仲間に入れてくださいっスぅ…」


 涙目で嘆願する穂波の声は、もう二人の耳には届かないよう様だった…。





「そういう聖良は…どうしてココに?」


 いつの間にか呼び捨てになった彼女の髪を指先で弄び、あたかも『事後』めいたアンニュイな雰囲気を漂わせつつ問うホスト…いやタケ子に、


「あたしは…生まれつきこの体型ですから、昔からイジメに会うことが多くて…」


 言いづらそうに視線を彷徨わせる聖良だったが、


「大丈夫…ボクも似たようなモンだし。

 …たしか朝、『好きでこんな身体になったんじゃない』って泣いてたよね…?」


 心の痛みを分かち合えそうなタケ子の囁き声に、聖良はくすぐったそうに身悶えしつつ、意を決して頷き返す。

 ちなみに穂波とアケビはもうすっかり諦めて傍観者に徹していた。


 何やら聖職者めいた響きの『天羽家』だが、実は代々その特異体質を活かして要人警護の職に預かってきた、今でいう『盾職』『タンク役』の家系だ。

 その重厚な脂肪層は筋肉にもヒケをとらない強靭性を誇り、あらゆる衝撃に耐え抜き、凶刃や銃弾を一切通さない上、高熱や極寒などの温度変化にも強い。

 だが引き換えに、肝心な脂肪の代謝が恐ろしく早く、ろくに食事を摂らないとすぐに痩せ細り、自慢の防御力も激減してしまう。

 昨日から今朝にかけては、ろくでもない学校に通うことになってしまった緊張感から飯が喉を通らず、せいぜいあの程度の効力しか発揮できなかったらしい。


「大型バイクの突進を無傷で止めといて『あの程度』かよ…」


 車両と接触すればほぼ即死な犬のアケビからすれば羨ましい話ではある。


「でもやっぱり、人間の価値観なんて『見た目が正しいかどうか』がすべてだからね…」


 どこから見ても完全無欠な女の子であるタケ子に言い寄ってくる野郎は多いが、彼が男子であると知るや、手のひらを返して大バッシングを始めることが多い。

 それは結局、彼らにとっては相手の見た目こそが重要で、中身については性別に合致しているかどうかという点しか評価していないからだろう。

 「なぜ女装するのか?」と疑問に感じる以前に、「女装はダメ」という固定観念が勝ってしまうのだ。

 同様に、聖良のような相手には、ただ太っているというだけで「忍耐力がない」「自制が効かない」「女を捨ててる」と決めてかかる。

 つまり人間は、自分の価値観や判定基準にそぐわない相手は受け入れられない生き物なのだ。

 もっと言えば、そうした相手のそばにいることで、自分の評価まで下がってしまうことが許せないのだ。

 なまじ人間社会を形成し、社会常識などという足枷を自らに嵌めてしまったばかりに…。


「そのせいであたし、小学生の頃から…ずっと不登校で…」


 自分を守るためには逃げに徹するしかないことも、人生にはままある。

 だが、たまたま上手くいった人生の『成功者』たちは、それさえも「意気地無し」「臆病者」と非難し、ますます足蹴にする。

 そうやって自分よりも下の立場の人間をこさえることで、自分はまだ大丈夫だと思い込みたいのかもしれないが…。

 そんな『勝った』自分の周りに寄ってくる人間の何割くらいが、役職や権力ではない『本当の自分』を必要としてくれているのか…成功者は知っているだろうか?

 ただ単に、嫌われて足蹴にされたくない一心で神輿を担ぎ上げてくれる連中が、いつかはその神輿をひっくり返し、上に乗る者を振り落とそうとしていることにすら気づかずに…。


「親も事情は察してくれてたから、別に咎められたりはしなかったんですけど…」


 聖良が引っ込み思案な少女だったこともあり、両親は無理に跡を継がせたり、登校を強要することもなかった。

 ただ、一般教養だけはしっかり躾けていて、学校のテストもちゃんと受けさせていた。

 彼女自身の努力の甲斐もあり、成績はかなり優秀だったため、今回もこうしてクラス委員に選出されたのだ。

 これほどまでに優秀な人材を埋もれさせてしまうイジメ行為は、国益の面から見ても実に許し難いし、親なら尚更だろう。


 このアパートに入ることをあっさり承諾してくれたのも、聖良が初めて自ら下した決断を尊重したからだろう。

 あるいは、初めて彼女を理解し、友達になってくれた同居人たちによって、彼女の境遇が少しでも変わることに期待したのかも…。


「けど、高校進学はどうしよっかな…って悩んでた時に、地元の教育委員会からほとんど強制的に、ココの学校に入るようにって指示されて…」


 教育委員会も惜しいと思ったのか、はたまた単に不登校を続けていたから目をつけられてしまったのか…。

 なにしろ親方日の丸だからして、断れば何をされるか解ったものじゃないと渋々入学を決意したのだった。

 精神的には散々傷つけられてきた聖良だが、肉体的には滅多なことでは傷つかないことを熟知している両親も同様に彼女を送り出した。


 幸い、この学校の生徒は大半が聖良やタケ子と同様な問題を抱えているし、嫌でも協力し合わねば生き残れないから、もうイジメなんて愚行に興じる暇人はいないだろう。

 事実、受験だの就職だのの時期になってもまだそんな稚拙な行為にうつつを抜かす輩は、お前と一緒にされたくはないと逆に周囲から疎まれ、社会的に落ちぶれていくハメになる。自業自得だ。

 今現在イジメで悩んでいる人も、いずれそうして自然に解放される時期が訪れるから、せめてそれまで辛抱してほしい。


「…でも、そのおかげで武尊さんに出会えて…以下略」

「ボクも、こんなに可愛いキミに会えて…以下略」

「どわぁーから穂波とアケビちゃんは以下略っスぅ!?」


 以下同文な堂々巡り。

 このままでは一向に埒があかないばかりか、放っとけば際限なくイチャコラぶっこきそうな二人にトドメを刺すべく、穂波は席を立ってこう提案した。


「お食事の後はっ! 女同士の親睦を深めるべく、みんなでお風呂っス!!」





 てな訳で、カポーーーーン…。

 何の音だか不明だが、お風呂のシーンとくればこの環境音は欠かせない。

 穂波の勢いに呑まれるまま、全員一緒に入浴した次第だが…。


「ん〜、なかなかいい雰囲気じゃない♩

 年季が入ったところが風情あって」


 湯船に肩まで浸かったタケ子はすっかりご満悦だ。

 その姿故に自宅の風呂以外にはろくに入ったことがない彼女には、かなり新鮮らしい。


「四人一緒だと、思ったより狭いけどな」


 昨日は広々して見えたアパートの共同浴室だが、所詮はミニマムサイズの穂波とアケビだけのこと。

 身体付きがすっかり大人びたタケ子と聖良まで加わると、アケビが言うように若干窮屈だ。


「ごめんなさい、場所取っちゃって…」


 恐縮して肩をすくめる聖良だが、そんなことをしても物質の体積に変化はない。

 アルキメデスの原理をガン無視して湯船に深々と沈み込もうとも。


「いいじゃないスか。女同士水入らず、遠慮は無用っスよ♩」


 いや思くそ水場にいるのにその慣用句はどーよ?

 などと和気藹々とくつろぐ四人ではあるが…

 …お気づきだろうか?


「…ひとつ、いいか?」


 ついに溜まりかねて、アケビが問う。


「オレは今、メス犬だからギリギリセーフだけどよ…。

 女同士っていいながら、モロに男な奴が一人混ざってるよな?」


 その視線の先にいるのは…もちろんタケ子。

 だが、


「いやいや、タケ子ちゃんは心はちゃーんと女の子っスよ♩」

「そーですよぉ、こんなにカンペキに女の子じゃあないですか〜♩」


 穂波と聖良がすかさずフォロー。愛されてるねぇタケ子ちゃん♩


「でもソイツ、単に女装が趣味なだけで、ちゃんと女の子が好きとか言ってたろ?」

『……!?』


 あ、バレちゃった?

 いまさら真っ赤になった穂波と聖良が慌てて湯船の端に退避するが、


「アッハッハッ…大丈夫だよ、今ちょっと諸事情で身動きとれないし♩」


 解ります、よぉ〜っく解ります。

 トランスフォーム中なのねん♩

 周りじゅう女の子だらけだったからねぇ。


「…どれどれ?」ぎゅむっ☆「あ、ホントに暴力的っスねぇ!? これはイカンっスよこれは〜♩」

「穂波ちゃん!? ちょっ、上下にさすらないでぇ〜っ!」


 押すなと言われたら押さねば気が済まないタイプの穂波が、なんかしちゃったらしいっス。擬音で察してくだされ。

 となれば聖良も負けじと手を伸ばしかけて…


「ぅぅ…ダ、ダメですぅ出来ましぇ〜〜んっ!!」

「対抗しなくていいんだよこんなコトまで!?」


 我が子の首を絞めかけた手を力なく振り下ろして号泣する母親のような聖良をついつい慰める、部分的に猛々しくも全体的には心優しいタケ子。


「でもあたし…穂波ちゃんみたく積極的になれないし…このままじゃ…負けちゃう…っ」


 すべてにおいて自信なさげな聖良だが、意地がない訳ではないし、自分で思っている以上には積極的だ。

 が、コレは確かにウブなネンネには相当敷居が高い。こゆことは段階を踏んでゆっくりと…


「それなら大丈夫かな? ボクは痩せすぎて骨張った子なんかよりも、キミみたいにフカフカふわふわな子のほうが好みだから♩」


 …ゆっくり進むべき聖良の道から、豪速球で一足飛びに連れ去ろうとする悪ぅ〜い男の娘がすぐ隣に!

 いつの間にか彼女の背後に回り込んでいた其奴は、彼女の身体を膝の上に載せて、両腕でそっと包み込んで…


「おお重くないですか!?」

「大丈夫だよ、水中では浮力が働くから」


 重いこと自体は否定しないんだな。

 押し除けた湯量の分、浮力に転換される…

 これぞまさしくアルキメデスの原理!


「それに、ほら…こんなに柔らかい…♩」

「武尊さん…♩」


 いつでもどこでもすぐに二人だけの世界にイッちゃう彼女達を止める術は、残る二人にはない。


「…てゆーか穂波、どさくさに紛れてディスられてなかったっスか今? 骨張った子って…」

「言葉のアヤだろ。お前はそこまで悪かねーよ。寸詰まりのお子ちゃまってだけでな」

「そっちの方がより酷くないスか!?」

「つーかアイツ、間違いなくデ◯専…」


 などと言い合う湯船の反対側で、


「ボクはずっと、痩せぎすなのがコンプレックスでね。こればかりはどう頑張っても本物の女の子には敵わないよ。

 ほら、聖良のお腹もこんなにプニプニ…」

「きゃふんっ☆

 あ、あの…そ、そこ…お腹じゃないです…」


 もみもみもみしだきん…♩


「…え゛っ!? あ、ご、ごめんっ!?」


 でもタケ子の手は止まらない。もみもみ☆


「…あれ? なんか…手触りに違和感が…」


 もみもみツンつくツンッ♩


「…あ、あたしも…お風呂から上がれなくなっちゃいました…」


 トランスフォーマー2!


「あ、あのぉ…お尻に硬いモノが…」

「あっ動かないで! 下手に動いたら…!」


 ぬぷぬぷ…っ。


『あふんっ♩』


 などと禁断の領域に達しようとしている二人の向こう側で、当てられっぱなしで真っ赤な顔した一人と一匹は…


「あわわわ…ヤバいっスよ、このままじゃ二人の死亡フラグが立ってしまうっス!」


 ところ構わずズンドコし倒したバカップルから殺られていく、ホラー&パニック映画の大原則な。


「なら、そろそろめとくか? だいぶん手遅れな気もするけどよ…」


 てな訳で穂波たちに無理やり引っ剥がされる、にわかパカッポーだった。ぬるスポン♩


『きゃふんっ☆』


 ほぼほぼ挿入はいってました♩





 その後は皆で食堂でくつろいでから各々の部屋に戻り、明日に備えて休むことに。

 湯上がり姿のタケ子と聖良が妙に艶めかしかったことは言うまでもない。まぁそりゃーね♩


「…そーいえば、今日は人間に戻らなかったっスね?」

「んを? そーいやそーだな」


 寝床で穂波から指摘されるまで、アケビもすっかり忘れていた。

 あの場でチンチン丸出しのオッサンが急に現れたら大パニック間違いナシだったから、結果オーライではあるが。


「てっきりエロトリガーかと思ってたが、違うのか…?」


 その手の作品でその種のシーンに差し掛かると、イキナリ主人公に秘められた能力が覚醒するお馴染みのパターンである。

 その際、現実にはあり得ないラッキースケベに巻き込まれたりするのも常套手段だが…

 約一名男子が混ざってたとはいえ、見た目かなりカワイイJK集団に取り囲まれていたにもかかわらず、何の変化も無しとは。


「なんか他に条件があるっスかね?」

「う〜ん…?」


 眠れない夜は物思いに耽れば案外よく眠れる。

 不眠とは無縁なこの二人なら尚更のこと、すぐさま深い睡魔に襲われるのだった…。





 …そして時刻は丑三つ時。


『あ…』


 ほぼ同時にトイレに起き出したタケ子と聖良は、当然のように廊下で鉢合わせた。


『…………』


 風呂場でのことが尾を引いて、いまだ気まずい二人だが…

 そこは一旦突っ走り出したら、もうどうにも止まらないお年頃。


「…後で…ボクの部屋、来る?」


 もうお忘れかもしれないが、タケ子の部屋は穂波の部屋から最も離れた玄関側だから、ちょっとやそっとの物音では気づかれにくい。

 そして、その部屋割りを強く要求したのは他ならぬ聖良である。

 まさか…単に穂波と近づけたくないだけではなく、最初からそのつもりで…?

 聖良…恐ろしい子!


「で、でも…おトイレしたら…汚れちゃう…」

「気にしないよ。ボクはありのままの聖良が見たいんだ」


 何がどう汚れるのか?

 何をどう気にしないのか?

 解らない人はお兄さんお姉さんに訊いてみよう♩


「武尊さん…」

「聖良…」

「武尊さん…♩」

「聖良…♩」


 などと往年のキックオフごっこ(知らんだろうなぁ最近の人は)にうつつを抜かすお二人さんだが…

 そんな時に限って得てして邪魔が入るのは、当然、常識、当たり前〜!

 今にも唇が触れ合いそうなほど顔を寄せ合う二人の間に…不意に何かが割って入った。


「ん…なんだコレ? くすぐったいな…」


 薄暗がりで目を凝らせば…それは一房の髪の毛。

 闇に溶け込むように真っ黒な、長い長い髪の束。

 もちろん二人のものではない。

 それが証拠に、それは二人の頭上…廊下の天井から伸びていた。

 鬱蒼と生い茂った黒髪の付け根には、透き通るように白い肌…

 …それは美しい女性の顔だった。

 真っ白い顔に微笑を浮かべて、こちらを見つめる穴のように真っ黒な双眸が…


「おイタはダメよぉ〜〜〜〜♩」


 …………。


『…ぅ…ゔわあぁあああーーーーッッ!?』


 ジョビジョバァーッ!!

 二人揃って仲良く盛大にお漏らししちった♩





「ったくよぉ。何歳いくつだよお前ら?」

「でででもでもでもでもっ!」

「見たんだよ、見ちゃったんだよぉっ!」


 ギャーギャー喚き立てつつ穂波の部屋に飛び込んだ聖良とタケ子に叩き起こされたアケビは不機嫌ブリバリ、「真夜中にやかましわー!」と見事な飛び蹴りを喰らわした。

 が、そんな二人の様子を見た穂波までもが、


「見たって…やっぱり出たっスかぁ〜っ!?」


 昨夜の記憶が突如フラッシュバックして、ジョンジョコリーン!と貰いション。

 かくしてお漏らしJK三羽烏はすぐさま風呂場へ直行となった。


「アケビちゃん、ココやっぱりなんか居るっスよぉ〜っ!」


 湯船の中で身を寄せ合って、涙ながらに訴える穂波たち。

 脱衣所では、三人の局所的に濡れそぼったパジャマがぶち込まれた洗濯機が全速力でブン回っている。

 真夜中に洗濯しても、ご近所から文句を言われないほど敷地が広いのは、このボロアパートの数少ないメリットか。


「あー…なんか居たとしても、別に何の不思議もねーだろ?

 なにせ、このオレが倒れてた場所だしな」


 言われてみれば…幽霊なんぞよりも、喋るワンコのほうがよっぽどホラーだ。


「あるいはソイツがオレの犬化について何か知ってんのかも知れねぇが…真夜中にしか出てこねーんじゃなぁ…」


 この時間帯にはたいがい熟睡しているアケビは、いまだソレらしき女性に出くわした経験がないという。


「けどま、このオレが何の気配も感じねーんだから、そんな悪い奴でもねーんじゃね?」


 動物は人間よりもその類の気配に敏感だという。

 散歩中に喪中の家の前を通りかかったとき、ペットが何もない場所をじっと見つめたり、唸ったりした経験がある飼い主は多いだろう。

 また、近年では病院でお亡くなりになってもご遺体を自宅に運び込まないケースが多いが、にもかかわらず自宅周辺の電柱にカラスが鈴なりにとまっているのを見かけることが多々ある。


 余談だが、昔、幽霊やUFOなどのあらゆる超常現象はプラズマだと言って憚らなかった某大学教授がいたっけ。

 世間では半ば小馬鹿にされていた印象もあるが、作者的には彼の説は割とイイ線いってるのではないかと思う。

 さらに言うなら、現在では当たり前に利用されている電気こそが霊的エネルギー…いや、いっそ我々生物に必要な生体エネルギーの正体では?と考えている。

 ファンタジー世界でいう魔力だのマナだのというモノに相当するのが、現実社会における電気ではないか?と。


 電気は紀元前には発見されていたが、使い道がなかったからか一般的には認知されない時期がほんの数百年前まで続いた。

 すぐそばにありながら、誰もその存在を知らなかったのだ。

 ところが今日では生活のあらゆる場面で欠かせないばかりか、我々人間の脳みそも実はコンピュータ同様に電気で機能することが判明している。

 石油だって同様で、こちらの発見は比較的最近だが、車が発明されるまではほぼ無用の長物だった。

 そしてその正体は、太古の生物の成れの果てだ。


 人間社会が繁栄すればするほど電気の使用量は激増し、資源が枯渇する。

 電気を生み出すには化石燃料を使用して二酸化炭素を排出するか、危険を承知で原子力に頼るか…現在最も効率が良い発電方法では、我々の足元を日夜侵食し続けるだけだ。

 それはつまり…生命体同士の『共喰い』に他ならない。

 心霊現象なるものも、そうした生命の浪費に対する地球からの警告かもしれない訳で…


「つまりよ、幽霊なんてモンもそうした電気エネルギーによる脳みその誤作動だって思やぁ、たいして怖くは…ってアレ?」


 風呂場から寝床まで延々聞かされたアケビの与太話がクッソつまんなかったせいか、いい塩梅に恐怖心が蹴散らされた三人は再び深い眠りについた。

 それでもやはり一人では寝付けなかったのか、全員穂波の部屋で川の字になって眠りこけているが。


「…やれやれ、世話の焼けるガキどもだぜ」


 溜息を吐きつつ、アケビも同じ布団に潜り込む。


「…幽霊でも何でもいいけどよ。なんか知ってんなら、是非ともお目に掛かりてーもんだぜ…」


 などとぼやきつつ、元々寝つきがいいアケビはすんなり眠りの淵へと誘われていった。


「…誰が電気よ。人をバグ呼ばわりしてくれちゃって、失礼な奴ね…!」


 プリプリしながらその枕元に現れたのは、先程の女幽霊。やっぱ実在してんじゃん!?


「仕方ないでしょ、あんたが起きてると出られないんだから…」


 意味深な愚痴をこぼしつつ、ぐっすり眠るアケビの頭を優しく撫でる。

 普通のワンコなら飛び起きるだろうが、アケビは電池が切れたように微動だにしない。


「…この分じゃ、元に戻れるのは当分先になりそうね…」


 女幽霊は哀しげに苦笑しつつ、その場に寝転がって健やかな寝息を立てる三人の顔ぶれをつぶさに見つめる。


「たった一日でいきなり増殖したわね。しかも揃いも揃ってカワイイ子ばっかり♩

 若さゆえの過ちは認めたくないけど、賑やかなのは嫌いじゃないわね♩」


 どこぞの赤いゴキブリ頭のようなセリフをのたまいつつ、楽しげに微笑んだ女幽霊は、暗がりに溶け込むようにスゥッと掻き消えた。

 夢か現か…どうやらこのアパートに先住者がいたことだけは確からしい。





 そして翌朝。


「…あ。思いついたっス!」


 若干、睡眠不足気味な皆が揃った朝食の席上で、穂波が唐突に叫んだ。


「…今度は何をだ?」


 もうイヤな予感しかしないが、念のためアケビが訊けば、


「このアパートの名前っス☆」


 あ…そういや作者もすっかり忘れてたねテヘッ♩

 思いついたら即実行、仕事が早い、早すぎる穂波は、早速どっかから適当な板ッキレとペンキ缶と筆を引っ張り出してくると、見事な達筆でこう書き殴った。


南賀出荘なんかでそう


 ダジャレかよ!?


「つーか朝っぱらにやることかよ?

 …けどま、お前にしてはめでたそうで良さげじゃねーか?」


 穂波のネーミングセンスが最悪なことを知っているアケビは、比較的無難にまとまったことに安堵したようだが、


「…はたしてそうかな?」

「これで事故物件確定ですよね…」


 忘れたい記憶を呼び覚まされたタケ子と聖良は微妙な顔。

 でももう書いちゃったものは仕方がないし、一度聞いたら絶対忘れず間違えようもないインパクト抜群な名前は何かと都合が良さそうだから…と、結局そのまま決定。


「んじゃ、無事に決まったところで、とっとと学校行くっスよ♩」

『早っ!?』


 さっきまで看板書いてたはずなのに、もう通学準備万端で急かす穂波に呆れる『南賀出荘』の面々だった。





 そして、何事も無かったように…

 務めて何事も無かったと思い込みつつ身支度を整えた寝小便タレ三人プラス一匹は、いつものように通学路を歩く。

 真夜中の出来事については、もう誰も触れない触れちゃいけない。

 なので話し合うのは、もっぱら南賀出荘の今後についてだ。


「三人とも料理できるってのは幸いだね♩」

「でも穂波さんほど上手く作れる自信はありませんけど…」

「だから別に穂波がずっと作ってもいいっスよ?」

「お前は生徒会の仕事もあるし、今日から忙しくなるだろ?」


 てな訳で、最初の話題は今後の食事当番について。

 三人いるのに、いつまでも穂波一人に食事を用意させるのは酷だと、誰からともなく提案したのだ。

 しかも南賀出荘に炊事場は一箇所しかないため、必然的に当番制にならざるを得ない。


「とか何とか言って、そのほうがいろんなお料理が食べれるとか思ってんじゃないスか?」

「チッ、バレたか」


 ついでに他にも掃除とか洗濯とか、決めるべきことは多い。

 だんだん話の内容が混み入ってきて、憶えるのが困難になったので…


「あたし、記録係やりますね」


 とスマホを取り出した聖良を制止して、穂波は言う。


「ながらスマホはダメ絶対!っス」

「時々妙にクソ真面目だよなお前…。

 なら、オレがやるから誰か抱きかかえてろ。これで"ながら"じゃねーだろ?」


 そこでアケビにスマホを渡し、それをメンバー中もっとも力持ちな聖良が抱きかかえることに。


「おっ、極上のクッションみてーにフカフカじゃん。イイ乳布団持ってんなお前♩」

「乳布団…。そ、そういうアケビさんも毛並みがツヤツヤで、ベルベットみたいです♩」

「ムムッ…聖良の乳布団はボクのものだからね?」

「いやいや聖良ちゃんのモノに決まってるっスよ!

 意外と独占欲強いっスねタケ子ちゃん?

 そしてこの世の巨乳はすべて爆ぜればいいのにっス!」


 などと息巻く穂波をガン無視して、


「聖良…」

「武尊さん…」

「聖良…♩」

「武尊さん…♩」

「キミの乳布団で眠らせてくれるかい…?」

「どうぞ…好きなだけくつろいで…♩」


 ま〜たコレかい。ところ構わず乳繰り合うなしパカッポー。

 そうこうしているうちにラッシュアワーに突入し人気ひとけが増えてきたので、アケビは押し黙ってひたすらスマホ操作に専念するも…


「おい、なんだあの犬?」「もの凄い速さでスマホいじってるぞ!?」「ギャルのあたいらより手慣れてる…スゴッ!」


 などと周囲が驚愕する通り、喋らなくても充分物の怪レベルである。

 そしてそれ以上に…


「あの子アレでJKか? ちっこいけどメチャ可愛いな…♩」

「その隣にいるの、モデルさん? 背ぇ高くてスラッとしてて、カッコイイ…♩」

「あのぽっちゃりした子、よくよく見るとスンゴイ可愛いよな…。おっぱいも大きいし♩」


 三つ巴美少女に賞賛の声多数。

 特に聖良の体型は、世間的には本人がコンプレックスを抱くほどの低評価ではない。

 てゆーか顔さえ可愛けりゃ多少の欠点もプラスに転じるものなのだ。

 でも漏れなく寝小便タレですけど☆


「くぅ〜っ、お近づきになりてー!」

「でも、あの制服…」

「クッソーいろんな意味で高嶺の花かよぉ!」


 危管高の制服は水戸の御老公の印籠レベルで効力を発揮するため、朝っぱらからウザいナンパに絡まれずに済むのはありがたい。

 そんなこんなでいよいよ学校に近づいてくると…


 ドォーン…チュドドォーン…

 ワァー…キャアー…


 地鳴りを伴う爆発音と、大勢の悲鳴が聞こえてきた。


「…今日も朝っぱらから元気な先生がいるようだね?」

「火薬の臭いが漂ってくるっス。花火でもやってるっスか?」

「明るい内からソレはねーだろ。十中八九、爆発物が得意な野郎だな」

「校庭で爆発とか、いいんでしょうか…?」


 手を変え品を変え…バラエティーに富む囚人教員の攻撃手段に呆れを通り越してむしろ感心しつつ、気を引き締める一同だった。





「ヒュー! 熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜぇーッ!!」


 ワケワカラン口上とともに手にしたダイナマイトを手当たり次第に投げつけているのは、花火職人のような法被はっぴを着た土方どかた風の囚人教師。

 実際に当たれば熱いどころか木っ端微塵だが、おかげで校庭はとっくにクレーターだらけだ。


「やれやれ…後始末するこっちの身にもなってほしいね」


 校庭の惨状を校舎最上階の生徒会室から眺めつつ、生徒会長・東道明生は頭を抱える。


「見慣れない顔だけど、誰だいあの傍迷惑な現場監督は?」

《今日から配属された新米囚人教師の鈍田越太どんたこすただ。担当科目は未定らしいが…アレでは使い道は無さそうだな》


 会長の問いに、すぐさま通信機越しに回答があった。

 副会長の狩納マチルダは今朝も屋上にスタンバっているようだ。


「あぁ、きのう一気に三人も殺られちゃったからねぇ…校長も大変だ。

 そのせいか…またずいぶんと効率が悪い殺り方だねぇ?

 純和風な格好の割にどことなくメキシカンだし」


 会長が指摘する通り、鈍田の武器はダイナマイト。

 接触即爆発な手榴弾とは異なり、導火線にライターで火を点け、放り投げてから爆発するまでにそこそこタイムラグが生じるため、爆破範囲は広いが割と余裕で逃げ切れてしまう。

 おまけに今朝の出陣は彼一人きりらしく、昨日の比戸曳&永眠のような連携攻撃も見受けられないため、大半の生徒が無事に生き残っている。


 実は、登下校時を狙う囚人教員は、手っ取り早くポイントを稼ぎたい新米がほとんどだ。

 新入生や新編入生が多かった初日こそ不慣れな生徒ばかりのため、雑な攻撃手段でも犠牲者続出だったが…

 そこは曲がりなりにも危機管理のプロ養成校なだけあって、次第に慣れてくるにつれて死亡率は激減する。

 こんなだだっ広い校庭で不特定多数の生徒を追い詰めるのは容易ではなく、闇雲に攻撃しても疲れるだけだし。

 また中には対抗手段として武装する生徒も多いため、下手をすれば狩られるのは教師の側になってしまうのだ。

 なのでベテラン教師ほど割の悪い早朝出勤はやめ、自らの担当科目で効率良く狩る方法を模索するようになる。

 それらを踏まえて再度、鈍田センセの仕事ぶりを拝見するに…東道会長が呆れるくらい、過去イチ頭悪いスタンドプレイだ。


「…あの人の罪状は?」

《トンネル工事中に仲違いした仲間の作業者を発破で殺害し、トンネルそのものも破壊して工期を大幅に遅らせたそうだ》

「…なんてゆーか…人材不足もいよいよ深刻だね…」


 重大犯罪者など、大半はポリシーもへったくれもない、ただのクズだ。

 犯罪を犯したからクズなのではなく、クズだから犯行を重ねるのだ。

 ニワトリが先か卵か先か以前に、元々卵を産まない役立たずな雄鶏だったのだ。

 従って、囚人教員としての役目を果たせるだけの有望株には、そう簡単には出くわせない。

 今回はハズレくじを引いてしまったらしい。


《…フム? 貴方が高く買っている『彼女達』が来たようだな》


 先に気づいたマチルダに言われて校門へと目をやれば、遠目にもハッキリ判るやたら背丈が低い女生徒と、ペットの犬を引き連れた一団の姿。


「…はてさて、お手並み拝見といこうかな?」


 ニヤリと口元を歪ませる、ほとんど悪役のような東道会長が見つめる先で…





「を〜っ、なんか面白そうなことやってるっスねぇ!? これが噂に名高いドッヂボールっスか!?」


 まあ見ようによってはそう見えなくもない。


「ンな命懸けのドッヂボールは無ぇよ、どこぞのアニメじゃあるまいし…」


 カードゲームやミニ四駆やベーゴマで殺し合うくらいだからな。


「穴ボコだらけ…超能力バトルアニメみたいになってますね」


 壁とかにメキョッと半球状にめり込む大友アニメ的な?


「でも見たとこ、誰も死んでないみたいだね。今朝は楽勝かな♩」

「バカヤロ、迂闊に死亡フラグ立てんな!」


 楽観的なタケ子をアケビがたしなめたところで、鈍田もこちらの存在に気づいた。

 校門にいる生徒は校舎に入るべく、嫌でも鈍田に向かって行かざるを得ない。飛んで火に入る夏の虫ホイホイだ。


「勝ーって嬉しい花いちもんめっとくらぁ!」


 さっそく導火線がバチバチいってる第一球を放ってきた!

 しかし穂波が果敢に進み出ると、


「負けーたら悔しいから要らない花いちもんめっス!」


 通学カバンをバットのように豪快にスイングして打ち返した!

 ヒットしたダイナマイトは一直線に鈍田へと跳ね返り、ドカァーンッ!

 地面に新たなクレーターをこさえたが、


「うぉわっ!? やりやがったなンにゃろ!」


 しかし鈍田は爆風に吹き飛ばされつつもすんでのところで命拾いし、


「あーの子ーが欲ーしいっと!」

「あーの子ーじゃ判る気もするけど嫌っス!」


 チュドォーン!


「こーの子ーが欲ーしいってんだゴルァッ!」

「こーの子ーは嫌がってんだろっス!」


 チュドドォーンッ!!


(ゲホッゲホホッ…何なんだあのクソチビ、何発ぶつけても的確に打ち返してきやがる…!?)


 いい加減、穂波が只者ではないことに気づいた鈍田は…


「こんな命懸けの花いちもんめ、初めて見た…」

「スゴイ…!」


 などと傍観を決め込んでいたタケ子と聖良に目を向け、


「相談しーよぉっと来たもんだァーッ!!」


 いかにも運動神経が鈍そうな聖良に標的を移すや、全速力でダイナマイトを放ってきた!

 …が。


「お断りーしますっと☆」


 カッキィーン! 穂波を真似て鞄バットを振った聖良の一打が、うまい具合にクリーンヒット!


「ぉわァーッち!?」


 打球のコントロール力は穂波と比べるべくもないが、筋力が並外れているため送球力パねぇ〜!

 ピッチャーの頭上高々と打ち上がった砲弾は鈍田めがけて落下し、尚更ドデカいクレーターを穿った。


「…ス、スゴイねキミ…」

「球技は昔からなぜだか得意なんですよ、あたし♩」


 お口あんぐりなタケ子に、やり遂げた笑顔でめっちゃ爽やかに応える聖良。

 獲れないボールがあるものか、構えた乳ミットが受け止める♩

 気は優しくて力持ち、折り畳めば持ち運びカンタン、私にお電話くださいどーぞヨロシク♩


「ク、クソッタレがぁ…ならテメーはどうだオラァーッ!!」


 だがこの返球もローリングでギリギリかわした鈍田。

 もはや微塵も花いちもんめも余裕がなくなった彼は、今度はタケ子めがけてナイスピッチング!

 ちなみにクソッタレではなく寝小便タレです。


「ハハッ、これなら楽勝だね♩…っとぉ!?」


 余裕ブッこいて通学カバンを構えたタケ子は…ズルりんこ☆

 足下に孔いた穴ボコの縁に片足を引っ掛けて、盛大にズッコケた!


「っしゃあ貰ったァーッ!!」

「しまった…!?」

「だからみだりに死亡フラグ立てまくるのはよせっつたろ!?」


 アケビの忠告も虚しく、倒れたタケ子にジャストミートでダイナマイトが降りかかる!

 今さら非難は間に合わない!

 万事休すか…!?





「武尊さんっ!?」


 その直前、飛び出した聖良がタケ子を突き飛ばし、代わりに飛んできたダイナマイトに覆い被さる!

 戦争映画でたまに見かける、自身の肉体を盾代わりにして手榴弾の爆発を防ぐアレだ。

 だが敵の殺傷を目的とし、周囲に金属片を拡散するための手榴弾とは異なり、ダイナマイトは主に土木工事で硬い岩盤を吹き飛ばす用途なため爆破威力が桁違い。

 到底、生身の人間に耐えられるはずが…!


 ボフンッ!!


 くぐもった爆発音と共に波紋状の衝撃波が辺りを揺らし、聖良の身体が大きく跳ねた。

 嗚呼、やはり死亡フラグの呪縛からは誰も逃れられないのか…?


「聖良ッ!?」


 慌てて駆け寄ったタケ子たちが、丸まったまま動かない聖良を介抱する。

 …と、驚いたことに、あれだけの威力にもかかわらず、何処にも傷一つ付いていない。

 しかも、まだ息がある…生きてる!


「…ぉ…」

「お? 何のこと聖良、しっかりしてっ!」

「…お腹…空きました…」


 特殊な細胞組成であらゆる衝撃を余すことなく吸収しきるが、引き換えに電池切れが異様に早い聖良の身体が、一瞬でしゅるんっと縮み、いつもとは真逆のほっそり美少女に豹変した。

 若干腰砕けなタケ子たちだが、予断は許さない状況だ。

 ひとまず意識はあるし、食欲はそれ以上に旺盛で一安心だが、身動きできないところからみて脳震盪くらいは起こしているかもしれない。後で医者に診せないと…


「な、何だコリャ…何なんだお前らぁ!?」


 お得意の発破攻撃がまるで通じない聖良たちに本能的な恐怖を覚えた鈍田が喚き散らす。

 それを睨みつけながら、タケ子はゆっくりと立ち上がり…


「…許せない…聖良の仇はボクが討ち取る!」


 てゆーかそもそもアンタがしくじったせいでこーなったんだからね?

 だがその心意気や善し♩


「チキショオッ、こうなりゃ破れかぶれだッ!」


 鈍田が法被をはだけると、その裏地には無数のダイナマイトがくくり付けられていた。道理で一向に弾切れしなかった訳だ。

 だがしかし、それを見たタケ子は何か思いついたようにニヤ〜リと悪どい笑みを浮かべ、


「穂波ちゃん、ちょっとお願いできるかな?」

「なんスか?」


 二人して何やら打ち合わせるなり、穂波にもニヤ〜リと悪どい笑みが伝染する。


「…オモロそうっス、ヤリましょっス!」

「何をごちゃごちゃ抜かしてやがんだゴルァーーーーッ!?」


 痺れを切らした鈍田はダイナマイトを数本一度に引き抜くと、その全てに着火して一気に放り投げてきた!

 なるほど、これなら全部打ち返されることは無い。てか何で最初からコレをやらなかったのか?


「ソレを待ってたんだよッ!」


 だがタケ子は慌てず騒がず、あえて鈍田に向かって猛ダッシュ!


「ヌゥオッ!?」


 慌てた鈍田が次弾を装填するよりも早く、タケ子は懐をまさぐり、数本の手錠を引っ張り出した。

 そして鈍田の周囲を走り回りながら、輪投げのように次々投げつける!

 手首、足首、それらを繋いだ手錠同士…

 すべての自由を奪われた鈍田は、なす術なくその場に転がるしかない。

 が、奴が放ったダイナマイトはなおもこちらめがけて飛び続けている。

 このままでは大惨事確実だが、一本ずつ打ち返していたのでは到底間に合わない…!


「究極奥義…旋風大車輪せんぷうだいしゃりんっス!!」


 そこで穂波の忍術が発動。

 扇風機の羽根のように傾けた通学カバンをグルグルぶん回すことによって、周囲の空気を圧縮し、秒速三十メートルもの猛烈な暴風と化して前方へと一気に吹きつける!

 こちらへ飛来してきたダイナマイトはすべて押し戻され、ピッチャーへと逆戻り…!


「ヒッ…ギャアァアちゅドドドドォーンッッ!!」


 鈍田の断末魔と大爆音が渾然一体となって轟き、彼の身体は原形を留めることなく粉々に吹き飛んだ…。


「をを、やった…やったぞ!」「またあの三人組か!?」「スゲェぞアイツら!!」


 居合わせた生徒達の大歓声とともに、穂波たちへの大絶賛が寄せられる中…

 辺り一面にバラ撒かれた肉片が鮮やかな紅色に咲き誇るお花畑で、恋人達の抱擁が続いていた。


「…聖良…仇は討ったよ」

「武尊さん…」

「キミを傷つける者は…誰だろうとボクが許さない…っ!」

「武尊さん…っ!」


 ヒシッと抱き合う二人を見て、その他大勢のギャラリーは思った。

 金輪際、あの二人の仲を邪魔することだけは避けよう…と。

 さもなきゃマジで指一本残さずこの世から抹消されかねん。


「…つーか今回も主戦力は穂波じゃねーか。まんまと手柄を横取りしやがって…」

「まーまーいいじゃないスか。穂波もこれ以上目立ちたくなんかないっスよ♩」


 タケ子たちの抱擁を見つめながら、心地よい疲れと達成感に酔いしれるアケビと穂波だった…。

 てな訳で、生徒会室からこちらの様子を観察し続けていた東道会長の視線も…今回は穂波ではなく、タケ子のほうに注がれていた。


「生徒名簿にその名を見つけたとき、まさかとは思ってたけど…

 キミもココに通っていたとはね…『ミカ』。」

《『ミカ』?…現存する生徒にはそのような名前は見当たらないが?》


 通信機越しにマチルダ副会長が疑問を呈するが、会長の耳には入らない。


「これぞまさしく『運命の再会』ってヤツ…かな♩」

《…キモッ。》





「とりあえず、異状が無くて良かったね」

「はむはむ…はい〜♩」


 朝礼を欠席し、保健室で健康状態を調べてもらった聖良たちは、ついでに購買に立ち寄り、店内のイートインスペースにて腹ごしらえを済ませていた。

 周囲に店など一軒もない危管高の購買はコンビニ並みの品揃えを誇り、早朝の登校時から放課後の下校時まで常時オープンしている。

 経営にはモノホンのコンビニ企業が参加。親方日の丸ですから♩

 商品代金は現金やカード、ネットマネーなど大抵のモノで支払える他、囚人教員の討伐で獲得できるポイントも利用可能だ。

 そんな訳で朝っぱらから大量の食料を買い込み、上機嫌で頬張る聖良の様子に、タケ子の頬は緩みっぱなし。


「可愛いなぁ…♩」

「むぐっ!? ちょ、ちょっと食いしん坊サンでしたか…ね?」


 おっかなびっくり尋ねる聖良を、傍で半ば呆れつつ眺めていたアケビと穂波は、


「…アレでちょっとだとよ。末恐ろしい嬢ちゃんだぜ…」

「それは言わないお約束っスけど…聖良ちゃんの場合はお腹を空かせたままだと生死に関わるっスからね」


 既に必要充分なカロリーを摂取した聖良は、すっかり元のボリューミー体型に戻っている。

 それでも、この学校では油断は禁物だ。

 登下校時以外は不意打ちを食らう危険性が少ない…とはいえ、昨日の囚人教師・薬師のような抑制が効かない輩にいつ出くわさないとも限らない。

 いくら注意してもし過ぎることはないのだ!


「ん〜…でもよ、さっき診てもらった保険医。あのアマも『囚人教員』だぜ?」

「ブほぉーーっ!?」


 お口いっぱいに頬張っていた菓子パンを思くそリバースする聖良の周囲で唖然とする一同。


「ど、どこからそんな情報を…?」

「さっき学校のサーバーにハッキングして全職員の情報を仕入れといたぜ。敵のネタは事前に下調べしとくに限るだろ?」


 タケ子の問いに平然と答えたアケビは、まだ預かったままだった聖良のスマホで得た情報を見せびらかす。

 ソレはソレでどーやってんのかと小一時間問い詰めたくなるほどスゴイが。


「道理で…なんか変な先生だったんスね。メチャクチャ美人だったっスけど…」

「他のトコはそっちのけで、おっぱいばっかり触診してましたしね。すんごい幸せそうに…」


 囚人看護教諭・今和美都里いまわみとりは変態である!!

 が、かつては某国立医大で勤務していた超天才大物医師でもある。

 天才はもれなく変態、これすなわち真理!

 一見すると知的で優しげでセクシーというステレオタイプな女医だが、未成年女子にことさら執着する困ったちゃんである。


"こ、これはっ!?…なんってカワイイ子なのハァハァハァハァ☆"

"万一ってコトもあるから、入念に調べとかないとねムヒョへヘヘ♩"

"本当にイイお乳してるわねぇあなたデュフフフフたまんねーぜ♩"

"他のカワイコちゃん達も、何かあったらすぐに診せてネ。ちぎれた手足の一本や二本や十本くらい、秒でくっつけたげるからウフフ♩"


 思い返すもことごとくアウトな変態行為の数々。そりゃもーこの学校以外に雇い場所ねーわ。


「胡散臭さはハンパねーが、あんなんでも腕は確からしいぜ。医師免許も本物だしな」


 一般的な養護教諭は必ずしも医師免許を所持している必要はないが、この学校では必須だ。

 その特質上、大怪我で担ぎ込まれる者や、心肺停止状態…てゆーか誰がどう見ても死んでるが、医師による速やかな死亡診断が必要とされる急患が後を絶たないからである。


「しかも、囚人教師の中では珍しく殺人は犯してねぇ。それどころか息があるうちに担ぎ込まれた患者は全員命を取り留めてやがる」

「へぇ…そんなに優秀なお医者様が、なんでまたこんな所に?」


 まさに医者の鏡のような今和の功績に感心したタケ子だったが…


「勤務先で気に入った多数の小児患者におクスリ盛って自宅にお持ち帰りしてイタズラし倒した挙句、薬物違反や診療違反、未成年者略取に監禁容疑…その他諸々な罪状でしょっ引かれてんな」

「…殺人犯のほうがまだマシじゃないかなソレ!?」


 人間の風上にも置けない真性のクズだった!


「幸い、ココはアイツの大好物の未成年者と合法的かつ物理的にいくらでも触れ合える極楽浄土だからな。

 少しでも長く居座り続けるためには、殺人なんかにゃ絶対加担しないだろうぜ」


 一口に囚人教員といっても、その傾向や目的は様々だ。

 さっさとポイントを貯めて釈放されるべく、生徒を片っ端から殺める奴もいれば…

 むしろ殺人そのものが目的なサイコ…

 または自身の主義主張を無理やりにでも世に広めるために、生徒達を洗脳する奴…

 そしてこの今和みたいに矯正不能な地雷系。

 奇人変人大集合、まさに廃人の坩堝るつぼだ。


「…あたしもそのうちお持ち帰りされちゃうんですかね…?」


 口の周りを食べカスだらけにしたままブルブル震えて、ついでにおっぱいもプルプル揺らす聖良の両肩をガッシリ抱いて、


「大丈夫、ボクが絶対そんなことはさせないから…!」


 などと励ましつつ、揺れるおっぱいを間近でガン見する煩悩剥き出しタケ子に、


「あ、ありがとうございますブルブルプルプルもぐもぐ…」

「怯えるか食うかどっちかにしろや。てかこの状況でよく飯が喉を通るなお前?」


 アケビが思わずツッコムくらい、心配事と食欲は実は無関係だということを体現してみせる聖良だった。

 小心者に見せかけといて、実はけっこー大物じゃないのかコイツ?

 まぁ、エエカッコしぃな割に実はドジっ子キャラな化けの皮が剥がれつつあるタケ子とは、案外良いコンビかもしれない。


「…今の天羽くんの不安について補足させてもらえば、安心してもらって良いと思うよ?」

「囚人教員は全て、この学校付属の教職員寮で徹底管理されている。自由意志による外出は一切禁止だ」

「曲がりなりにも『囚人』だからね。勝手な行動はできない仕組みさ」


 という割には学校内ではメチャ勝手気ままに暴れ回ってる気もするが…。

 そんな訊いてもいない解説を披露しつつ、どこからともなく東道会長と狩納副会長がフラリと現れた。


「今朝の闘いぶりは見せてもらったよ。今のところ、キミたちは無敵だね♩」

「ありがとさんっス〜♩…って今日は穂波、なんもしてなかったっスね」


 愛嬌たっぷりに応える穂波とは裏腹に、


「…そんなコトを言うために、あなた達もわざわざ授業をサボったんですか?」


 会長に向けるタケ子の態度はなぜだかトゲトゲしい。


「そんな邪険にしないでくれよ、キミに逢うためにやむなくそうしたんだからさ…ミ〜カたんっ☆」

『ミカたん…!?』


 いきなり砕け切った態度でタケ子に言い寄った会長と、その口から飛び出した耳慣れない呼び名に一同驚愕。


「…お、お知り合いなんですか?」


 二人のただならぬ関係性を察知して、あからさまに警戒する聖良に、


「ただの腐れ縁だよ。幼い頃に、ちょっとね…」


 すぐさま否定して安心させつつも、なにやら急に歯切れが悪くなったタケ子だが…


「つれないことを言わないでくれよ。

 お互い『プロポーズ』し合った仲じゃないか♩」


 そこへ東道会長がジャブにしては重すぎる先制パンチを打ち込む!


『…プロポーズ!?』


 一瞬遅れて騒然となる一同。

 特に聖良はこの世の終わりのように顔面蒼白となり、普段はポーカーフェイスな副会長までもがぽかーんと素で呆けている。


「やめろ人聞きの悪い! アンタが一方的に言い寄ってきただけだろ…っ?」


 購買の店員までもが興味深げに聞き耳を立てているのに気づいて、気が気ではない様子のタケ子に愉快げに微笑み返した会長は…


「続きは生徒会室で話そう。そのほうが、もっと落ち着いて食べられるだろ?」

「うぐっ…」


 ほんの数年早く生まれただけで、もう大人の余裕を漂わせる紳士的な東道にすっかり形無しな、にわかカップルの聖良とタケ子だった。





 タケ子と東道の馴れ初めは、互いに年齢一桁台の幼少期にまで遡る。

 当時から長期政権を維持する父親・東道総理が主催するレセプションパーティーに、これまた当時から警察庁長官だった武蔵野氏も家族全員で招待されていた。

 そこで後の生徒会長・東道明生は運命的な出会いを果たす。

 華やかなパーティー会場の豪華な料理や装飾すらも霞ませる…まるでビスクドールのように着飾った、武蔵野武尊の一分の隙もない、完璧すぎる可憐さに…。

 当時はまだ息子を可愛く着飾ることに全身全霊で情熱を傾けていた母親渾身の一作だった。

 まさに一目惚れだった。

 ので、即座にその場で膝を折った。


「僕と結婚してくださいお願いします聞いてくれなきゃあなたを殺して僕も死ぬ!」


 子供にしては思い詰めすぎた彼の異常な懇願ぶりに、武尊のみならず両家の家族全員が狼狽した。

 子供の願いはなるだけ叶えてやりたいが、これはさすがに性急すぎる。中世貴族でもあるまいに。

 それ以上に長官にとっては、下手すりゃ自身の信頼丸潰れで破滅へと繋がりかねない。

 だが相手は首相閣下の御子息、そう無下には扱えない…。


 そこで彼は、あろうことか武尊が男子であることをひた隠し、末娘の『ミカ』だと紹介してしまったのだ!

 名前については"タケル→タケミカヅチ→ミカ"という咄嗟の発想らしい。

 そしてなんと、その場は明生に上手く合わせておくよう武尊…いやミカに厳命した。

 そしてほとぼりが冷めた頃に…これまた非情にも程があるが…ミカは流行り病で突然死したことにして、まんまとけむに巻こうと画策したのだ…!


 だが子供ながらに良心の呵責に耐えかねたミカは、いつまでも明生を騙し続ける訳にはいかないからと、自分が男であることを白状した。

 当然のようにショックを受ける明生。

 しかし、ミカのショックはそこからだった。

 それでも明生は執拗に食い下がり、真剣な眼差しでこう言ったのだ。


「それでも構わない。

 僕が好きなのは男でも女でもなく…

 ミカたん、キミなんだ!」


 なんという清々しいまでのふっきれ方!?

 そして彼はこうも言った。

 いずれ自分が首相の座に着いて法律を改正し、性別を問わず誰でも自由に結婚できるようにするから…と。

 その時に改めてプロポーズさせてもらうから、それまで楽しみに待ってて…と。

 時代を先取りしすぎた並々ならぬ決意だった。


 大いに困惑したのはミカ…いや武尊のほうだ。

 単に女装が好きなだけ…というより、それが常識だと思っていた彼には、もちろん男色の気はない。

 というかむしろ、女子そのものが好き過ぎて、そんな憧れの対象と並び立っても遜色ないようにしたいから女装に熱を入れているのであり、断じて女そのものになって男達にチヤホヤされたい訳ではないのだ!

 そこへ、あらゆる常識をかなぐり捨ててまで添い遂げたいと願い出た明生という非常識極まる存在に、武尊が感じたのは底知れない恐怖だった。


 その場はなんとか逃げ延びた武尊は、以来、明生を徹底的に警戒し、彼と同じ公の場には絶対に姿を現さないようにしたばかりか…

 痺れを切らした彼が同じ学校に転校までしてくれば、武尊のほうが慌てて他の学校に転校するなど、ひたすら距離を置き続けた。

 ここまですれば、いいかげん彼を避けていることに気づいてくれても良さそうなものだが…。

 ずっとそんなことを続けていたから学校にも馴染めず、武尊の良き理解者はついに一人も現れることなく、今の今まで友達など皆無だった。


 さらに深刻なことに、この問題は武尊の家族にも多大な影響を及ぼす。

 さすがにこれはマズイと今さら気づいた母親は、手のひら返して彼の女装をやめさせようとしたが、今さら引き返せるはずもなく…

 全然言うことを聞かない武尊に愛想を尽かした彼女との仲は最悪となり、「こうなったのもお前のせいだ!」と夫婦仲まで険悪になった。

 そのうえ兄達までもが、なんで武尊ばかりが親の愛情を独占するのか!?とお門違いなジェラシーストームを発動。

 ただ単に手間が掛かりすぎる末っ子にかまけて、何の手間も掛からない上の子達には安心しきっていただけなのに…子育ては実に難しい。


 しかしそれ以上に決定的となったのは、武尊と父親との確執である。

 息子に本名を名乗らせなかったばかりか、あくまでも形式上とはいえ、その存在を葬り去ろうとしていた父親に対する武尊の不信感は、これ以上ないほど増大していたのだ。

 彼が武尊の女装を快く思っていないことには幼心に気づいていたが、女房の機嫌を損ねたくない一心で放置し続けたことにも、ずっと釈然としないものを感じていた。

 子供なら誰しも親に認められたいと願うのに、はなからそれが叶わない現実…。

 なのにいざとなったら、あっさり態度を覆して、徹底的に蹂躙してきた。

 しかも武尊だけではなく、明生の幼い恋心をも無惨に踏みにじろうとしていたとは…。

 我が身を賭してでも国民の安全を守るべき警察官の頂点が、こんな己の体裁しか考えていない卑劣極まる男ではイカンだろう!と。

 もう、こんな父親の何をどう信じろというのか…?


 そんな塩梅でもはや崩壊寸前な家族にはほとほと嫌気がさしたタイミングで、幸か不幸か危管高へ強制的にブチ込まれる運びとなったため、心機一転を図るつもりでやってきたというのに…。





「…なんでよりにもよってキミがココにいるの?」


 生徒会室に通されるなり、真っ先に武尊から飛び出した疑問がコレだった。

 首相閣下の御子息ともあろうやんごとなきお方が、よもやこんな生き地獄で生徒会長として務めていただなんて有り得なさすぎるシチュエーション…まさに青天の霹靂だ。

 すると明生はふんぞり返った会長席から身を乗り出し、


「いわゆる武者修行ってヤツだよ。

 これくらいの難局を乗り越えられないようじゃ、総理大臣なんて到底務まらないからね♩」


 ビクンッ!?と来賓席のソファーで逆に身をすくませる武尊。

 しばらく会ってなかったから、ついに諦めてくれたかと安堵していたのに…

 むしろ明生は、己の野望を叶えるべく着々と地盤を固めていたのだ。

 現状では一部の自治体でしか認められておらず、巷の偏見もまだまだ根強い『同性婚』を全国区で根付かせ、武尊を嫁に迎え入れるために…!


「それにしても…しばらく顔を合わせなかったうちに、ますます見違えちゃったね♩

 昨日は穂波ちゃんの活躍が目覚まし過ぎて、全然気づかなかったけど…」


 座ったばかりの会長席を蹴って立ち上がった明生は、そそくさと武尊へとにじり寄ってきた。相変わらずフットワークが軽い。

 それも無理はないだろう。高校生となった武尊の『化け方』はいよいよ真骨頂の域に達していたのだから、間近で堪能したくなるのも当然だ。

 一方、昨日の武尊は、こんな危機的な状況に陥りたくない一心で、極力明生の視界に入らないよう努めていた。

 なのに彼はすぐ隣にいた穂波にさっそく目をつけ、スカウトすべく向こうから新入生の教室を訪れるなど、ニアミスが多くてヒヤヒヤしていたが…ついに年貢の納め時か。


「…キミが僕を避けているのは百も承知さ。

 なのにこんな場所で鉢合わせるなんて…まだ希望はあるのかなって、期待してしまうだろ?」


 武尊が座るソファーの端に無遠慮に腰掛けた明生は、流れるように艶やかな武尊の髪(ちなみに地毛)を指で掬っては絡め取りつつ、恨み言を囁きかける。


「好きで来た訳じゃないよ。キミがココにいるのだって本当に知らなかったんだ」


 迷惑そうに答えつつも、武尊は明生の手を跳ね除けたりはしない。


「ただ…ボクは父のように、はなから相手を拒絶するつもりで卑劣な希望を持たせたくはないんだ。

 …そろそろ諦めてくれたかと思ってたんだけどな」


 だから武尊はずっと明生から逃げ続けてきた。

 しかし、それは…


「…残酷だな…キミは」

「え…?」

「そうやってハッキリ拒否しないから…僕もいつまでも諦めきれないじゃないか…」


 優しげに微笑みかけつつも、どこか寂しげな影が漂う明生の言葉に…

 武尊はようやく、今までの煮え切らない自分の態度が悪手だったことに気づいた。

 けれども今さらどうすれば良いのか、咄嗟には思いつかない。

 救いを求めるように視線を彷徨わせた武尊は…


「ハァハァ…♩」


 隣のソファーから身を乗り出して、こちらのやり取りを興奮気味にガン見していた聖良に愕然となった。


「あの…聖良さん?」

「…え!? あっ、いえ、その…あたしにはお構いなく、どーぞ続けて…」


 どうやら此奴、そげな趣向にも造詣が深かったらしい。元引き篭もり、侮り難し!


「じゃなくて! そろそろめてくんないかな?」

「へっ!? あああたしごときに尊きお方達の尊きご交流をお止めする資格など、とてもとても!」

「だってボクのカノジョでしょキミ?」

『…………。』


 暫しの時間停止。ザ・ワールド。


「え゛え゛っ!? あ、あたし…カノジョさんだったんですか…?」

「少なくともボクはそのつもりだけど?」


 じゃなきゃ先チョンしといて平然となんてできない、責任感の強い武尊クンだった。


「な…なん…だと…!?」


 一方の明生は大いにショックを受けたご様子で、芝居掛かった仕草でよろめきつつ後退あとずさり、元の会長席に倒れ込んで頭を抱えた。


「僕というものがありながら…キミがそんなふしだらな子だったなんて…!」

「それ以前にボクとキミがいつ交際したのかな!?」

「ゆ、許さん…お義兄にいちゃん許さないよっ!?」

「誰がお義兄ちゃんだ赤の他人だろアータ!?」


 なんだか収拾がつかなくなってきたが、ますますオモロ…いや新たな火種が爆誕しちゃったらしい。

 そんな感じで修羅場ってる三人組の対岸では…


「こっちのお菓子もどうぞ。ワンちゃんもお気に召しただろうか?」

「をを〜っ、ケーキなんて生まれて初めて見たっスよ! ねーアケビちゃん♩」

「ワフンッ(んな奴ぁお前だけだよ)。」


 てな塩梅に、穂波とアケビがマチルダ副会長から手厚いおもてなしを受けていた。

 日頃は鉄仮面ばりに感情を表に出さないマチルダだが、いつになくはしゃいでるのは誰の目にも明らか。

 どうやら穂波のように(見た目は)幼い美少女や、アケビのように(見た目は)愛らしいワンコなど、カワイイものが本当は大好物らしい。

 そういや穂波たちを屋上から初めて見かけた時にも執拗に観察し続けていたし、生徒会にスカウトしに向かった時にも、明生に誘われるまでもなく自ら率先して同行していたし。


「ちょっとマチルダ、キミからも何とか言ってやってくれたまえぃ!」


 寝耳に水の入学早々成立バカッポーに慌てた明生が、マチルダをも自陣に引き込もうとするが、


「私は関係ない。勝手にやってろ」

「ってキミまで何だねお義兄ちゃんに向かってその口の聞き方は!?」

『…お義兄ちゃん?』


 さっきは武尊以外まるで無反応だったその単語に、今度は誰もがツッコむ。


「ああ、今はワケあって彼の家に身を寄せている」


 さほど気にする様子もなくあっさり暴露するマチルダだが、周りの者は気にしない訳にはいかない。

 こんな変態会長の…ということは現役総理大臣閣下の御自宅に、こんなハーフ美女が同居しているとは…どゆこと?


「そのへんを詳しく言うことはできんが、諸君が気に病むことはない。

 明生は変態だが紳士だからな」


 これ以上ないほど的確な説明だった。

 どこぞの即日手を出しちゃった煩悩剥き出しな男の娘とは大違いである。


「加えて、マチルダが好意を寄せる人物は他にいるようだしね♩」

「…それこそ無関係だろう?」


 仕返しとばかりに義妹の恋愛事情を暴露した明生に、マチルダはバツが悪そうに照れてみせた。

 互いに気が置けない様子を見るに、確かに仲睦まじくはあるものの、男女仲というよりは完全に兄妹のじゃれ合いといった印象だ。

 『同居』イコール『年頃の男女のアレやコレや』といった発想にすぐに思い至ってしまうのは、それこそマンガ脳であり危険な兆候かもしれない。


「でもマチルダ先輩、ココだと割と饒舌なんスね。昨日はあんまし喋んないから怖い人かと思ってたっス」


 率直な意見を漏らす穂波にウンウン頷いて同調する新入生たちを見て、


「こ、怖くないよー優しい先輩だよー信じて…!」


 慌てて涙目で釈明するマチルダに、あーこりゃ人付き合いが苦手なだけだな…と一同納得。

 と、そこで唐突に生徒会室のドアがガラッと開いて、


「…キミ達、授業はどうしたのかね?」


 開いた隙間からヌゥッと顔を出した毒島校長が、至極当然な疑問を投げかけた。

 相変わらず遠近感狂いまくりな巨漢のため、戸口はくぐり抜けられそうにもない。他の部屋に出入りするときはどうしているのだろうか?


「はい、昨日入会した新入生たちに早急に説明すべき事項がありましたので、申し訳ありませんが欠席させて頂きました」

「フム、それなら致し方ないが…諸君らの本分はあくまでも学業であるからして、決しておろそかにせぬようにな」


 しれっと大嘘こいた明生の弁解に納得しつつも、校長は極めてマトモな忠告をしながら室内を見渡し…

 穂波と目が合うなり、何やら意味ありげにしばし沈黙したが…

 それもほんのつかの間、すぐにきびすを返して立ち去った。

 のっしのっしと関取のように重々しい足音が廊下の向こうに遠ざかっていく…。


「…あービックリしたっス。何度見てもスゴイ迫力っスね…」


 遅れて冷や汗をかく穂波たちに、明生はクスッと笑って、


「だろう? とても一般教員には見えないよね」

「え?…あの人そうなんスか!? いや、てっきり…」

「まあ、その印象は当たらずとも遠からずだよ」

「????」


 明生の回答に顔じゅう疑問符だらけな穂波たちの様子を見て、


「彼はかつて日本中を震撼させた巨大暴力団『毒島組』の組長。

 過去の抗争で構成員・民間人問わず多数の犠牲者を出し死刑宣告を受けたが、その圧倒的な統率力を買われて司法取引でウチの校長に着任した」


 人間データベースのマチルダが明瞭簡潔に解説した。

 道理で途轍もない『逸般人いっぱんじん』オーラを放っている訳だ。


「…さて、注意もされちゃったことだし、僕らもそろそろ授業に戻るとしようか?」


 明生が渋々腰を上げると、皆も揃ってお開きムードに。


「んじゃ、また遊びに来るっスよ♩」

「いや次からはキミにも仕事してもらうよ、もう生徒会メンバーなんだし」


 まだまだ新入生気分が抜けない(って二日目なんだから当たり前だが)穂波を嗜めた明生は、武尊と聖良にも、


「あ、キミ達もメンバーだからね」

『え゛!?』

「当然だろ、キミ達の戦闘力は現時点で群を抜いてるんだから。正直、二〜三年生にもキミ達ほどの者はいないよ」


 まあ、忍者だとか忍犬だとか、手錠を輪投げにする現代版銭形平次だとか、ダイナマイトでも吹っ飛ばされないスライムJKだとかはフツーおらんわな…。

 どうやらココの生徒会メンバーは生徒達の投票によってではなく、純然たる実力者のみが選出される仕組みらしい。


「今年は一挙三人も入会だなんて、異例中の異例だよ。こりゃ〜将来が楽しみだね♩」


 こうしてなし崩し的に今年度の生徒会メンバーが決定したのだった。




【第三話 END】

 矢継ぎ早に第三話をお届けします。

 今回までで主要メンバーはほぼ出揃いましたかね。

 物語の勢いを削がないように、ここいら辺までは一気に進めてしまおうと当初から考えとりました。

 穂波以外のキャラの素性がある程度判明し、タケ子すなわち武蔵野武尊と生徒会長・東道明生の意外な関係が捻り出されたりと盛り沢山な内容になっとります。

 恒例の囚人教員との闘いもしっかりちゃっかり入ってはいますが、それよりも日常生活のほうがメインですかね。

 ずっとアクション一辺倒じゃ疲れちゃいますからね。一休み、一休み〜♩


 すんごい余談ですけど、作者も散々ネタにするほど大好きなハリウッド映画が、日本国内での人気に翳りが見えてから結構経ちますね。

 事実、作者も最近の、特にアメコミヒーロー作品はほとんど観てない…てか観る気が起きないから、全っ然知りまへん。

 某絵札大統領閣下はなんでウケなくなったのか、皆目理解できてないご様子ですが…

 作者は正直、アメコミ嫌いなんスよ。勧善懲悪すぎて(笑)。

 実は全然正義の味方じゃないバットマンシリーズしか観てないとゆー。しかもティム・バートン版の方ね。

 でもそれ以外の作品も軒並み低調ですやね。

 今や動画配信サービスであらかたの作品が観られるにもかかわらず、たま〜に旧作を視聴する程度だし。


 昔と何が一番変わったかといえば一目瞭然、「シリアス一辺倒で笑いどころやツッコミどころが一切無くなってしまった」ことです。

 つまりは『娯楽性の欠如』ですね。

 過去の人気作のリブート作品を例に挙げれば一番解り易いかと。◯ボコップとかロ◯コップとかロボ◯ップとか。

 欧米人特有の「コレは真剣なお話だから笑いを入れちゃイケナイ」とか「この設定は笑えるけど、ツッコまれると嫌だから外しとこ」的な糞リアリズムが最悪な方向に作用しちゃってる感じですかね。

 お笑い要素が強かったからこそトンデモネーエログロ描写でも鑑賞に耐えたものが、最近のはツライばかりで見るに耐えなくなっちゃってんスよね〜。

 スター◯ォーズは一度観てもすぐに何度でも観たくなるけど、エイリ◯ンは一度観たらお腹いっぱいでしばらく食指が動かなくなるじゃないですか。死亡率や悪虐非道ぶりでは前者の方が断然高いのに。そんな感じ。


 たぶんもうプロジェクトが大きくなり過ぎて、監督個人の意見が通る現場じゃなくなっちゃってるんでしょうね。巨大組織で少数意見がないがしろにされがちなのは何処も同じですけど。

 だから作品の個性もまるで感じられなくて、判で押したように似通った筋書きにしかならない。試写会でリサーチした客にウケるお話しか採用しないからね。日本映画みたいなバッドエンドはあり得ないし。

 「ほらほらスンゴイCGでしょ!?」「このアクションは誰にも真似できないでしょ!」って意気込みは感じるけど、ただそれだけ。それが見せ場のすべて。

 観客へのサービス精神が微塵も感じられないから記憶にも残らないし、解り易すぎて議論も巻き起こらない。

 それでもマニアは必ず観に来てあーだこーだと勝手に盛り上がってくれるから、彼ら向けな人気作の続編しか作られなくなる…。

 これじゃあ規模が縮小する一方で発展性皆無ですやね。

 かつて一世風靡した低予算スプラッタホラーや、日本ではスポンサーが要らないOVAが持て囃されたのも、そうした風潮への反発からじゃないですか?

 あそこには確かに、誰にも文句を言わせない!的な自由と個性がありましたし。


 あとね〜、アクション映画で三時間は長過ぎますよ(笑)。九十分前後じゃないと観てる方もダラけちゃうに決まってるじゃないスか?

 なので、本作ではいかなる場面でもあえてギャグ要素てんこ盛りにして、しかもあまり長引かせないよう、サクサク進めるように心がけてます。

 真剣勝負だからってクソ真面目にしなきゃイケナイなんてルールはありませんしね。

 え、人命の扱いが軽すぎる?…ケッ(笑)。


 同様に、今までの自作にはメインキャストとしてはまず出てこなかった武尊のような男の娘や、聖良のようなぽっちゃりサンも、正直、苦手意識はありましたが面白そうなので出してみました。

 するとこれがまた、かな〜りイイ味醸してるんでないかい♩

 てな塩梅に、今回は自他ともに固定観念に果敢にあらがい続けとります。

 ただ明生との絡みは個人的にさすがにキツいので、片っぽ女装させちゃいましたけど(笑)。


 さて、前作『野性刑殺』もまだ未完のままなので、そろそろ何とかしたいところですが…

 本作『SHYワン』も次々とネタが思い浮かんでますんで、忘れないうちにカタチにしたいですし…

 う〜ん、どーしましょ?

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