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ワンダフルなワンコ

 春うらら。

 桜の花も満開な穏やかな陽光の下、一台のタクシーが静かに停車した。


「着いたよ嬢ちゃん」

「ありがとっスー♩」


 初老のタクシー運転手に礼を述べつつ、少女は車窓に顔を貼り付ける。

 ここは大都会・東京…のはずだが、目の前に横たわるのは到底そうは思えないほどひなびた街並み。

 まるで昭和にタイムスリップしたような光景の一角に、いやいくら何でも今どきこれはないだろう…とツッコマざるを得ない木造二階建てのボロアパートが。

 めぞん◯刻だかラブ◯なだかを彷彿とさせる懐古的にも程がある、もはや見るからに事故物件だが、平成生まれの若人ならどっちも知らんだろうからセーーーフッ♩(何が?)


「ここで合ってるはずだけど…本当にここで良いのかい?」


 あまりにもあんまり過ぎるオンボロ光景に不安がる運転手をよそに、


「をーっ、二階建て!? さすがは都会っスねぇ!」


 …いや待て。オタクどこの時代の出身よ?

 てな塩梅に言うまでもなく、ソレが少女の目的地らしい。

 あからさまに上京したての純朴な少女の目には、見る物すべてが新鮮に映るようだが…いくら何でも二階建ての物件ぐらいどこにでもあるだろうに?

 癖っ毛が強くてあちこち跳ねまくったおかっぱ頭の彼女は、はやる気持ちでドアを開けようとするが、


「あ〜嬢ちゃん、その前に…」

「ほぇ?…あ、コロっと忘れてたっス。サーセンてへっ♩」


 あざと可愛く懐に手を伸ばした少女は、大きながまぐち財布を取り出して、


「カード使えるっスかぁ?」

「え…ソレに直接カード入れてんの?」

「そっスよー」


 変形や破損の心配などは一切していない口ぶりで当たり前のようにカードを取り出した少女は、不用心にもそれを運転手のおっさんに手渡す。


「コ、コレは…!? 長いことタクシーやってるけど、初めて見たよ!」


 最高額一億円まで使える黒いカードを目の当たりにして、運転手は目の色を変える。


「街に行ったら大事に使えって、お父さんが持たせてくれたっス♩」

「なるほどねぇ…。けど、いくらなんでもこんな幼い子に…」


 呆れた様子の運転手に少女は頬っぺたを膨らませて、


穂波ほなみはもぉ高校生っスよぉ!」

「ぇあ!?…あ、あーそーいやそんなコトも言ってたっけ、進学のために田舎から出てきたとか…」


 運転手は改めて穂波と名乗った少女を観察するが…よくよく見ても、下手すりゃ小学生にしか思えないほど小柄だ。


「…まぁいいや。コレはあんまり他人に見せびらかさないようにな」

「???…わかったっス」


 人柄がいい運転手で本当に良かったな。

 …いや、たとえ悪人でもこんなちんまい子から金品を巻き上げるのはさすがに躊躇するか。

 それでなくとも、彼的には今日のアガリは充分すぎて大満足だった。


「おいくらっスか?」

「締めて十五万九千六百三十円だよ。」


 高ッ!? タクシー料金の範疇を超えてる!

 …本当にいったい何処から来たのアンタ!?

 そんだけ長距離を一緒に走ってくれば、そりゃ会話がやたら親しげにもなるわな。


「ん〜、高いか安いかわかんないけど、ありがとさんっシター♩」

「いやいや高いよメチャクチャ。新幹線とか使えば、もっと安上がりだったんじゃないの?」

「電車って一度も乗ったことないもんでー」


 そう言って頭を掻く穂波に、そんなんでこれから東京でやっていけるのか?と不安を覚えずにはいられない運チャンだった。

 自宅を出てから遥々と駅まで来てみたは良いものの、何をどうしたら電車に乗れるかサッパリ解らず困り果てていたところで、穂波は運良くこの親切すぎるタクシーを見つけたのだった。

 今から数時間前、本日未明の出来事である。


「こっちもどうしたもんかと焦ったよ。お嬢ちゃんみたいな子が夜更けに一人きりで、しかもイキナリ東京まで行ってほしいなんてさぁ…」


 地元県庁所在地の割りかし賑わっている駅前にて、いつものように客待ちをしていた運転手は、一際目を惹くこの珍客に呼び止められた。

 その無理無茶無謀な注文に驚いた彼は、


(こんな子が東京に何を…さては家出か?)

(あるいは、まさか…この若さでタクシー強盗?)


 などという疑念にかられ、何度も自宅の住所などを尋ねたが、聞いたこともないほど長ったらしい所在地だったため終いには理解を放棄したのだった。

 お金ならいくらでも払えるからという、怪しすぎるが魅力的すぎる条件に加え、そのまま繁華街に放置しておくのがはばかられるほどあどけない可愛さに魅了されてしまった理由もあるが…。


「…ま、あの時間じゃ終電もとっくに過ぎてたしね」

「えっ、電車って門限あるんスか!?」

「…やっぱりタクシー捕まえて正解だったね」


 徹夜の運転も手伝って、ドッと押し寄せる疲れに軽い眩暈めまいを覚えつつ、


「今後また何かあったら、遠慮なく呼んでくんな。すぐに飛んでいくからよ」


 心配が過ぎて、運転手はついつい名刺を手渡した。

 なんだか面倒ごとに巻き込まれかねない危険も感じるが…これで上得意様が確保できるなら、それはそれで♩


「ホントにあんがとっシター!」


 ホクホク顔で来た道を引き返していく運転手のタクシーを見送ってから、穂波はいよいよ念願のアパートへと向き直る。

 改めて見直すまでもなく、明らかにボロい。年代物というレベルですらなく、あちこちガタが目立ち、人が住めるかどうかさえ疑わしいが…


「こんな立派なところにこれから毎日住めるだなんて、穂波は天下一の果報者っスねー♩」


 …もう異世界からの訪問者で間違いなくね、この子?





「こんちわーっス、誰かいませんかぁー?」


 さっそくアパートの敷地に踏み込んでみたものの、人の気配は一切ない。


「おかしいっスねー、今日行くって伝えたらちゃんと返事が来たんっスけどー?」


 懐から取り出したスマホの画面を何度も確認して、穂波は首を傾げる。

 てかスマホ持ってたんかい。

 こんな昭和の真っ只中な風景に、そげな最先端ガジェットが存在するのは…

 というより、いっそソレが穂波のような年代不明少女の手の中にあること自体に、甚だ違和感が…。


「…ん?」


 不意に何かの気配を感じた穂波が振り返れば…庭の片隅にある犬小屋から様子を伺う、一匹の飼い犬と目が合った。

 一見芝犬のようだが、見れば見るほど何の犬種か不明な感じの…雑種だろうか?

 幸いおとなしいワンちゃんらしく、よそ者の穂波にも吠えることはないが…番犬としてそれはどーよ?


「ワンちゃんがいるなら、やっぱり誰かいるっスよね? どこに行ったか知ってるっスかー?」


 犬小屋に名前が書かれていないからワンちゃんとしか呼びようがないが、動物は嫌いじゃない穂波がダメ元で話しかけてみると…


「…を…え? ちょっとちょっとぉ?」


 犬小屋からのっそり出てきた犬っころが、穂波の服の裾に噛みついてどこかに引っ張っていく。ちなみに首輪はしているがリードは付いてなかった。

 …どうやらアパートの中に連れていこうとしているらしい。


「わかったっスよもぉ…」カチャリ「…って、開いてる?」


 誰もいなさそうなのに、玄関に鍵が掛かってなかった。

 犬っころは開いたドアの隙間から穂波を屋内に連れ込もうとしているので、誘われるまま中へと踏み込む。

 オンボロな外観ほど屋内は荒れてはおらず、多少埃っぽいが住むには充分な雰囲気。

 年季が入っているため薄暗くて旧校舎みたいな不気味さが漂っていたが、すぐ近くに見つけた照明スイッチを点けてみたら、ちゃんと電気が来ていて蛍光灯が煌々と灯った。

 ふむ…よくよく見れば、これはこれで新築物件にはない趣きがある。

 最近の賃貸アパートとは違い、この手の激古物件は一旦玄関から入って廊下を進まないと各部屋には行けない。

 無論オートロックなど望むべくもないので、必ず管理人が常駐しているはずだが…


「なのに管理人さんがどこにも見当たらないとか、不用心っスねー…」


 さすがに不安になってきた穂波が辺りをキョロキョロ見渡す背後で、再びカチャリと音が。

 見れば、ワンちゃんが器用に後ろ脚で扉を閉じていた。


「…オレだよ。」


 出し抜けに明瞭な声が間近で上がる。

 だが、驚いた穂波がいくら見回しても、声の主はどこにも…


「だから、オレだっつってんだろ!?」


 苛立つ声色とともに、ワンちゃんが鼻っ柱にシワを寄せる。

 ここまできて、穂波もやっとその異常事態に気づいた。


「…ををー、最近はワンちゃんでも人の言葉を喋るんですねー。さすがは都会っス♩」


 が、別段驚きも怖がりもしなかった。


「アレっ? いっいやいや、こーゆー場合はどこぞの美少女戦士なアニメみたいに『犬が喋った!?』とかビビるところじゃねーの!?」

「…何のアニメっスか? 観たことないっスけど」


 世代間ギャップ…!

 今日びの日本では、どんなに放送状況が悪い僻地でもネットさえ使えればあらゆる情報コンテンツの恩恵にあずかれるが、こればっかりはどーしょーもない。

 打ちひしがれる犬畜生を、穂波は興味津々に見つめて、


「ワンちゃんでもアニメ観るんスか? ウチで飼ってたのは興味無さげだったし、そもそも喋らなかったっスけど」

「だからそれがフツーなんだよ、オレが異常なだけなんだってばよ!」


 自ら異常性を認めたワンコロは頭を抱え込もうとして、四つ脚で立ってるのを忘れてたのか盛大にコケかけた。

 そんな人間らしい仕草に、穂波もここに来てようやく事実に気づいたらしい。


「人間…なんスか?」

「"だった"って方が正解だな。いったい何がどーなってんのかはオレにもさっぱりだけどよ」


 彼が言うには、ある日、気がついたらこのボロ屋の庭に倒れていたと。

 その前の記憶は何一つ残っておらず、自分が何者なのか、どこで何をしていたのかはおろか、名前すら判らないのだと。

 何から何まで曖昧だが…ただ、人語を理解できるし話せるし、自分は確かに人間だったはずだという根拠のない自信だけはしっかりあるのだという。


「とにかく食わなきゃ生きられねーからよ、最初はそこいらの残飯漁ったり、天気がいい日は近くの川で水浴びしたり…」

「めちゃめちゃポジティブっスね」


 幸い犬の身体は人間よりも強靭なのか、食当たりや病気に見舞われることはなく、残飯にもすぐに抵抗を感じなくなったが…そんな生活にも直に限界が訪れた。


「なんか役場の職員みたいな格好した連中がよ、オレを見つけるなり追っかけ回すようになったんだよ」


 おそらくは保健所の者だろう。今の御時世、首輪が付いててもリードがなければ即アウトだし。

 だが連中も人様の家の敷地内までは追ってこられない。たとえ空き家でも持ち主の許可を得ない限り立ち入れないのだ。

 そして早朝や夜間は労働基準法に従って活動できない。

 なので彼は日中はこのボロ屋に隠れ潜み、餌探しはもっぱら夜中に行うようになった。獣だから夜目も利くし。


「んで、暇に任せてこの建物ん中を物色して回ったらよ、人っ子一人いやしねーのに電気やガスや水道は全部動いてたんだよ不思議なことに。

 ログインパスワードのメモを裏面に貼り付けたまんまのPCも転がってたし、WiーFiも使えるし…ホントなんなんだよココ?」

「いや穂波に訊かれてもっス…」


 そして努力の結果、頑張ればなんとか獣脚でもPCを使いこなせるようになり、ネット経由で情報収集も出来るように。


「めちゃめちゃ器用っスね。ホントにワンちゃんっスか?」

「だから元人間だって。

 そんなこんなで思いついたんだよ。

 オレがココの管理人のフリして入居者募集して、そいつに代わりに色々やらせりゃいいんじゃね?って」


 すぐさまあちこちの賃貸物件サイトで募集をかけたが、いまどき木造・風呂トイレ共同というのがネックなのか、はたまた都心からは絶望的に離れたほぼ他県並みな立地条件のせいか、どれだけ家賃を下げても応募者は一向に現れない。

 半ば諦めかけていたところへ、募集期間終了ギリギリに滑り込んできたのが穂波だった。


「あー、それであんなにお得だったんスね?」


 東京ってだけで基本家賃は他県よりかなりお高めな上、入社や入学シーズンのこの時期には空いてる部屋なんてほとんど無い…と思ってたら、このアパートは全室もぬけのカラだった。

 しかも今どきお家賃数千円代!? たとえ事故物件だったとしても、そりゃやっぱ買いでしょ!

 って、タクシー代には糸目をつけないのに部屋代は普通にケチるとか、どんだけ電車が苦手なのよ?

 そしてこのアパート最大の利点は、それら公共機関を一切使わず徒歩で通学できるほど学校の近所にあることだった。


「ま、おかげでこっちも助かったけどよ…。

 てかギリギリすぎんだろいくらなんでも?

 暦の上ではそろそろ明日くらいから新学期じゃねーか。それをやっと前日に到着しやがって…」

「しょーがなかったんスよぉ、お父さんがなかなか許してくんなくて…。

 やっと打ち負かしてウチを飛び出したのが昨日の真夜中だったんス」


 他所よそ様んの事情など知ったこっちゃないが、ずいぶんワイルドだな。

 それでも、あんな法外な利用限度額のカードを持たせてくれるあたり、本当は最初から送り出す気満々だったのでは…?


「…で、明日からどこの学校通うんだ? 中学校か? あるいは小学校…」

「穂波は明日から高校生っス! 華のJKっスよ!!」

「あ?…ホントだ、この際誰でもいいと思って個人データろくに見てなかったわ」

「てゆーか小学生や中学生が一人暮らしする訳ないっスよね!?」


 非常識の塊のような奴に常識的に諭されてしまったが、そうは思えないほど非常識な見た目の穂波も悪い。


「んーっと…なんてトコだっけ? ここから一番近くにある高校っス」

「げ。てことはアソコか…」


 獣顔なのにあからさまに青ざめる犬畜生。

 既にご存知らしいが、どう見ても良い印象は持っていないようだ。


「くれぐれも初日でリタイアなんてことのないようにな。お前にはオレの今後も掛かってんだからよ」

「ってゆーか、学校ってトコに通うの自体初めてなんスよねー。どんなトコなんスか?」

「マジかよ…」


 山奥にある穂波の自宅付近には教育施設が一校も無かったため、今までずっと自宅で父親からあれこれ教わってきたらしい。

 最近では子供を学校に通わせず、自ら教員免許を取得して教育する親もいるというから、決して珍しい話ではないが。

 ちなみに米や野菜は自宅の田畑でいくらでも採れたし、肉や魚も自力で調達できたため食糧事情には困らなかったと…


「いや自力で調達て…」

「罠を仕掛けといて、後は首根っこをスコーン!て…慣れればクレーンゲームより簡単っスよ♩」


 やっぱワイルドすぎる野生児だス。今どき日本のどこにあんのよ、そんな原始時代な集落が?


「でもクレーンゲームは知ってんだな?」

「ネットさえ使えればどこでも不自由しないっスね。リモートだとタイムラグが酷くて取れた試しがないっスけど。

 服とかもアマ◯ンでお取り寄せっス」


 アマゾネスがア◯ゾン利用しとんのかい。さすがはZ世代。

 何から何までツッコミどころ満載だが、せっかくの入居希望者を逃す訳にもいくまい。


「…まいっかどーでも。部屋は全部空いてるから好きなトコ使ってくれていいぜ。

 風呂トイレ同様、炊事場は部屋には無いから一階奥のトコでな。自炊できんなら言うことナシだぜ。

 ついでにオレのメシもヨロシクな♩」

「…もしかして毎回タカるつもりっスか?」

「今までロクなモン食ってねーんだよ。そのぶん家賃は格安にしてやっただろ?」

「てゆーか元々ここの所有者でもないんスよね?」


 ううっ、痛いトコロを…。


「…まぁいっス。ご飯なら作り慣れてるっス」


 どーよこの物分かりの良さ。こいつはなかなかの上玉に当たったぜ♩…と内心ほくそ笑みつつ、久々の温かい飯に期待して舌舐めずりする下衆ワンコだった。





 一階最奥の炊事場に隣接した共同の食堂にて。


「…プハー! ごっそさん。メチャ美味かったぜ♩」

「全部平らげてから言うんスね。ずーっと無言で食べてるから、美味いのか不味いのか解らなくて不安だったっスよ」


 一通りの手料理を皿に盛ってもらって、犬食いは仕方ないがせめてもの礼儀として前脚で皿を抑えながら一心不乱に食べ切ったワンコロは、満足気に尻尾を振り乱した。

 まぁ感想を訊くまでもなく、ずっと無意識に尻尾を振り続けてたから、お気に召してもらえたらしいことは理解できたが…

 人語が話せるのなら、せめて、人間らしく!

 ともかく、これで金輪際食いっぱぐれは無しだ!


「にしてもコレ、誰に教わったんだ? 母親かばあさんにでも…」


 穂波の料理の手腕はかなりのものだった。

 冷蔵庫に入りっぱなしだった食材を速やかに選り分け、スマホのレシピサイトも何も見ずにアドリブで次々に料理を完成させていった。

 メニューは和食中心で、いささかシブいチョイスのものが多かったが、手作りの味に飢えていたワンコロにはそれでも大満足だった。


「ウチはお父さんしかいないっスよ。だから小さい頃から見よう見まねの独学で…」

「…そっか。悪いこと訊いちまったな…」


 マズった…と思ったが、穂波はあっけらかんと、


「物心ついた頃からお父さんしかいなくて、普通はお母さんもいるんだって後で知ったっス。

 時々訊いてみたりしたんスけど、ハッキリ答えてくんないから、もぉどーでもいっかって♩」


 …本人が納得してるなら、それでいいのだろう。

 家々の事情など千差万別な御時世だし、下手な気遣いはなおさら失礼だ。


「今度は穂波から質問いっスか?」

「ん? おぉ、何だ?」


 質問にドジった引き換えだ、なんでも答えてやろう…と身構えるワンコに、穂波は歌うように、


「アンタのお名前なんてぇの?っスー♩」


 セラムソは知らんのにトニー谷は知っとるんかい!?


「だから判んねーっつったろ?」

「でもでも、いつまでもワンちゃんじゃ困るっスよね?」

「あ、そゆこと?」


 ワンコも作者も別に困らないが、穂波が困るならそれはそれで…うむ、困ったな。


「じゃあ、勝手に名付けちゃってもいっスか?」

「ん…そだな」


 よっぽど変じゃなければ、まぁ何でも…


「じゃあじゃあ、『タマ』ちゃんで♩」

「たいして変わんねー上になんでネコ用なんだよっ!?」


 よっぽど変な上に一撃でネーミングセンス最悪と判るオチだった。


「だって男の子っスよね?」

「ぇあ?…ッ!? そーゆー意味の『玉』かよ!?」


 所々オカシイけどトータル的にはマトモな奴だと信じてたのにっ…やっぱ盛大にオカシかったわコイツ!


「今さら恥ずかしがることないスよ。さっきからずっとお尻の穴丸見えなんだし、タマタマくらい…♩」

「んがっ!? バッ、やめろっ!」


 ニマニマ笑いかけつつ、穂波は断りもなく暴れるワンコを捕まえて抱き上げる。

 さすがに日頃から野生動物相手に狩猟を嗜んでいるだけあって手慣れている。

 動物なら素っ裸で当然だし、毛皮を着てるから別段おかしくは…と思っていたのに、改めて追及された途端にメチャ恥ずかしくなってきた。

 つまり犬畜生は今の今まで「頭隠して尻隠さず」状態だったのであーるっ!!


「…あれ? タマちゃん…メスだったっスか!?」


 犬ッコロの股間に目をやった穂波が意外そうに驚くが、


「だからタマちゃんやめれ。

 …って、何ですと!?」


 ワンコの驚愕はそれ以上だった。


「いや、そんなまさか…オレは間違いなく男だったはず…」

「でもでも、タマタマちゃんもチンチンちゃんも無いっスよ?」

「タマタマはともかくダイレクトにチンチンゆーなっ!」

「代わりにカワイイおにゃのこの部分が…えいっ♩」


 ちゅぷんっ☆


「ひゃふんっ!?」


 悪戯心が芽生えた穂波にその部分を突つかれて、不覚にも変な声が漏れてしまった。

 途端に自身がメスだったという自覚が出てきて、ますます赤面してしまう。獣ヅラだから判らなくて幸いだが。

 だってアータ、オスならともかく、マッパでメスよ? これが人間だったら上半身裸のオッサンなんざ夏場によく見かけるけど、女性なら即通報モノぢゃん!?

 たしかにオシッコする時になーんか違和感あるなーとは思っていたが、犬の身体なんぞにゃ興味無いから気づかなかった…。


「なら名前も考え直さないとっスね」

「あ、ソコこだわるんだ?」

「じゃあアナちゃんで…」


 一連のやりとりを読んできた人と、ある法則で◯を三つ重ねただけで著作権が発生するような最大手ぼったくりネズミー企業にイチャモンつけられるからヤメテくださいお願いします。


「う〜むむむ…」


 なぜだかワンコロの股間を凝視したまま穂波は考え込み…


「…じゃあアケビちゃんでいいっス」

「急に普通!?」

「ならやっぱり、真ん中のケをワに変えて…」

「…アケビで決定とゆーことで。」


 やっぱトンデモネーわこのガキ。大自然の真っ只中で育ったせいか明け透けすぎる。


「ではでは、お次はぁ…台所のお片付けと穂波のお部屋探しは後回しにして、先にお風呂入るっス♩」

「え゛…まさかオレも?」

「女の子同士だから問題無いっスよね」


 まぁ理論上は確かに。片っぽ犬だし。


「だが、しかし…う〜〜〜〜む?」


 躊躇するワンコ…命名・アケビに、穂波は遠慮がちに顔をしかめて、


「前に水浴びしたの、いつっスか? なんだか犬臭いっスよ」


 そりゃ犬だしな…と思わなくもないが、下手に怒らせて飯を作ってくれなくなったら困る。


「お風呂どこっスか?」

「…この食堂の向かいだよ。トイレはその隣な」

「ぢゃあ早速、レッツゴー☆」

「…ドキドキ…☆」


 …おんやぁ?





 はてさて、場面は変わってお風呂場へと。

 ここだけはオンボロアパート内で唯一評価できる施設かもしれない。

 共同風呂だし男女の区別もないが、複数人で利用することを考えてか、結構広めに作られているのだ。

 あちこち老朽化は目立つが、それがかえって良い風情を演出しており、ちょっとした銭湯気分を味わえる。

 おかげで窮屈な思いをせず、存分に手足を伸ばして入浴できる。こればかりは最新のマイホーム風呂でも太刀打ちできまいて。


「…チクショウッ、ぬか喜びさせやがって!」


 そんな贅沢な風呂場だというに、畜生が突然不満気に吠えた。


「イキナリなんスか!?」

「JKっつーから期待してたら…まんまお子様じゃねーかッ!!」


 すっぽんぽんの穂波を指して、元からすっぽんぽんの畜生が当たり散らす。

 コンプラ抵触の恐れがあるため具体的な描写は控えるが…ツルツルぺたんツルぺたたん♩

 気持ちは解らんでもないが、コレはコレで一部に絶大な需要があるのだぞ?


「ぬはっ!? 気にしてるのにぃこん糞ワン公ッ!」


 ドッポーン! アケビの首根っこを鷲掴んだ穂波は、そのまま湯船に放り込んだ!

(※相手が人外な畜生の上、専門家の指導のもとに行なっています。普通のワンちゃんにこんなコトしたらダメ絶対!)


「がぼごばっ!? やりやがったなこんクソチビッ!」


 すぐさま湯船から飛び出たアケビは、穂波のささやかにして雄大な胸板に飛びつき、その穂先をペロリんちょ♩


「にゃはあんっ!? やったっスねぇ〜お返しにこちょこちょこちょこちょ♩」

「ふひゃひゃっ!? くすぐりとは小癪なっ、こっちも仕返しだぜっ!」

「はにゃにゃっ!? 背中は弱いっスあはソバカソ♩」


 お互い女同士ということで、気兼ねなく触りっこに興じる二人。

 とりわけ穂波は地元に同年代の女友達がいなかったこともあって、こうして他者とじゃれ合うのは初めての経験だった。

 うんうん、仲良きことは善きこと哉♩

 煩悩の赴くままに戯れてしばし…


「…ひぃひぃ…」

「…はぁはぁ…」

『ひっひっふぅ〜っ…』


 さすがにそろそろバテて、何やら妖しげな声を漏らしつつ互いの火照った身体を重ねて床に倒れ込んでいたところへ…


「…んにゃ? アケビちゃん、犬って…光るっスか?」

「あ? おう、暗い場所でも夜目が利くしな」

「そっちじゃなくて…ホラ」


 と穂波が指差す方を見やれば…彼女の胸に抱かれたアケビの股間から、まばゆい黄金色の光が溢れ出ている!?


「な…なんじゃあコリャア〜ッ!?」


 伝説の刑事ドラマのように絶叫する間にも、ますます強まる光はやがてアケビの身体を包み込んで…ズシッ。


「をぅふっ!?」


 急に重くなったアケビに押し潰されて、もう少しで具が出そうになった穂波が目を凝らせば…


「…や、やっと治まったか。何なんだよいったい?」


 唐突にどこからともなく現れた青年が、穂波に馬乗りになっていた。

 より客観的に補足すれば、下手すりゃJSにも見えかねない小柄なJKに、おおよそ未成年には見えない無精ヒゲの男性が跨っていた。

 無論、お互い全裸で。

 はいアウトォーーーーッ!!


「え…ア、アケビ…ちゃん?」


 青ざめた顔で震える指を突きつける穂波に、アケビ…だったはずのスッペラポン野郎は恐る恐る自身を確認して…


「を…ををーっ!? やった、元に戻れたぜ!

 なっなっ、やっぱ男だったろオレ!?」

「そ、それはまあ…見たまんまっスけど…」


 たしかに、顔だけ見れば凛々しい好青年。

 …だが、全裸だ。

 身体つきも程よく引き締まって、おまけに背も高い。

 …だが、フリチンだ。


「ホラホラもっとよく見てくれよぉ!」


 ぶらーんぶらーん。ビターンビタターン!

 ぱお〜〜〜〜んっ☆

 只今、非常にお見苦しい状況につき、擬音のみでお送りしております。

 全国の変態紳士の皆々様にはそれで充分伝わるかと。


「ヒッヒィアーッ!? カラダの一部分がどんどんグログロで暴力的に…顔に当たるっ、当たってるっスぅ〜っ!

 よくもこんなバイオレンスなモノでブッたっスね!? お父さんの紳士的なのしか見たコトなかったのにィーッ!」

「…それはそれでどーなんだ? 紳士的て…」

「急に冷静にならないでほしいっス、カラダは変態のままなのに!」

「変態じゃない 変態じゃない 正常なのーさー♩ ホントのこーとさぁ〜♩」


 そりゃあカワイコちゃんにガン見されちゃっちゃーね♩


「ワケわからん替え歌唄うな変態ッス!」


 元ネタは知らなくても替え歌ってことは解るのか? まぁそれ以前のネタも知ってるみたいだし。


「てゆーか早く降りて…重いっス〜ッ!」

「ぃひっ!? あ、あぁ悪い…」


 やっと状況を理解するなり猛烈な罪悪感に苛まれたアケビは、こんないたいけな幼女…ヤバっ、いや少女を圧死させてはなるまいと、なんとか穂波から降りようとするが…

 あっち持ちツルリ、こっち持ちツルリ、いーつまで経っても降りれない♩


「ちょっ、どさくさに紛れてドコ触ってるっスかぁーっ!?」

「仕方ねーだろお前、掴み所がねーんだよ!

 なのに一丁前にプニプニ柔らけーし!」

「ムッキャアーーッ!?」


 ぎしぎしガクガクあへあへズンズン。

 ドンドンぱんぱんドンぱんぱーん♩

 只今、非常にセンシティブな場面につき、擬音のみで以下略。


「ひうっひうう…お父さん、東京はとってもおっかない所っスぅ〜…!」

「いや東京あんまし関係なくね?

 な、泣くなよ、今すぐどくから…」


 と身体をズラしかけたところで、またもやアケビから金色の光が溢れて…


「…戻った!? そっか…戻っちまったか…」

「…ちゃんと元のメス犬っスね」


 せっかく人間に戻れたかと思いきや、再びワンコに逆戻りしたことを残念がるアケビに、その身体をあちこち確認した穂波がダメ押しする。


「そういう嬢ちゃんは元からお嬢ちゃんだな♩」

「穂波のカラダの確認はいいんスよ!」

「そうは言っても、せっかく目の前にあるモンはじっくり堪能しないとなゲヘヘヘヘ〜♩」

「ううっ…さっきはお子様って散々バカにしたのに…っ」


 そうは言っても、そこはやっぱりオニャノコですから。据え膳食わねば何とやら♩

 ワンコ相手では穂波も抗いようがないのか、すっかり諦めモードだ。


「ボリューム的には色々とお寂しい限りだが…ま、タダならこんなモンだろ?」

「こっちはケチつけられながらタダ見された上に家賃まで取られてるとか…納得いかないっスーッ!」


 本人いや本犬の申告通り、元は人間のエロエロ男性だったことが明らかとなったアケビだが、


「…思ったほど落ち込んでないっスね?」

「ま、お陰様でな」

「???」


 今まで何をどーやっても元に戻れなくて、ひょっとしたら自分は本当に犬だったのでは?…などと思いかけていた矢先だった。

 しかし、これで一時的にせよ人間に戻れることが判明したのだ。

 いったい何がトリガーなのかはいまだ不明だが…


「鍵はおそらく…穂波、お前だな」


 そうだ。今日彼女に出会ったばかりだというのに、もう幸先よく劇的な変化が訪れた。

 これを契機に色々と検証を重ねていけば、いずれ完全に戻れる日が来るだろう。


「…穂波はそのたんびに貞操の危機に陥るっスか?」


 ご心配なさらなくても現状では性欲よりも庇護欲のほうが勝っているため、滅多なことにはなるまいが…アケビだって時々は男の子だモン♩


「ならいっそ、オレの女になんね? そんなら無問題モウマンタイぢゃん♩」

「…カノジョならいつでもヤレルって発想がサイテーっスね」


 くうっ、正論だ。ちっこくてもやっぱり女ってか?


「って、普通ならそこでお断りじゃねーのかよ?」

「そ、それは、まぁ…っス」


 よくよく考えたら、あながち悪い条件でもない。

 さっきは怒涛のインパクトを誇る彼の『分身』のせいでほとんど印象に残らなかったが、『本体』のほうもけっこーイケメンだったよーな気がするし。

 年上のイケメン彼氏なんて漫画みたいなシチュエーションが、よもや自分にも訪れるとは…!

 そして日頃は同性の可愛いワンちゃんなのだ。嗚呼なんというミラクル。

 ここまでハイパーハイブリッドなワンダフリャ彼氏には滅多に巡り合えまいて。


 それに…知り合いが一人もいない東京に出てきたからには、しばらくは孤独な日々を覚悟していたのに…

 初日からこんなにもユニークな話し相手に恵まれた。しかも決して他人に知られてはならない、穂波だけのスペシャルフレンドだ。

 この際、性別だの交際だのは傍に置いといても、こんな千載一遇のチャンスを逃してなるものか!


「…とりあえずは様子見っスね。せいぜい穂波を失望させないように努力してほしいっス」

「ずいぶん上から目線じゃねーかオイ?」

「餌にお散歩、お風呂、その他諸々…アケビちゃんの生殺与奪権は穂波が握ってるっスよ。フフリ♩」


 …ヤッベ、このアマけっこー腹黒だぞ!?

 だが、そんな穂波の衣食住はアケビがいなければ成り立たない。

 そして何と言っても、アケビが人間に戻れるか否かは穂波にかかっている。

 いわば二人は『運命共同体』であり、誰にも言えない秘密を共有する『共犯者』だ。


「チッ。金もらってんのはこっちなのに、高くついちまったぜ」

「ではでは改めまして、今後ともヨロシクっス♩」


 こうして利害関係の一致をみた両者の契約は成立した。

 お互いすっぽんぽんのままで。





 程々で風呂を上がった頃には、頭上にあった太陽はいつしか西に大きく傾いていた。

 全て空き家のアパートということで部屋はよりどりみどりだったが、穂波は結局、一階奥の角部屋に決めた。

 ここなら炊事場や風呂トイレにも近いし、西と南に二面ある大窓の一方から、アケビの犬小屋に出ることができる。

 という訳で、お次は引越し荷物の整理だが…


「お前の荷物、それだけか?」


 穂波が持参したのは、中身がパンパンに詰まった、小柄な彼女の背丈ほどもある大きなスーツケース一つっきり。

 これが二、三日の旅行ならともかく…後ほど引越業者や宅配便が来ることもないらしく、なにかとかさばりがちな女子の荷物にしては驚くほど少ない。


「中身はほとんど制服とか教科書とか学校関係のモノばかりっス。足りないモノはこっちで現地調達っスね」


 なかなかサバイバルスピリットに溢れた潔さだ。身の回りのモノにあまり執着しないタイプなのだろうか。

 まあ資金なら潤沢にあるし、心機一転を図るならそれもまた善し。


「とゆー訳で、御夕飯の買い出しついでに街を散策しつつ、アケビちゃんのお散歩に行くっスよ♩」

「先に風呂入ってから散歩か? 順番デタラメだなお前」


 呆れ返りつつも、アケビの晩飯がかかっているとなれば従わざるを得ない。

 しかしまあ、犬畜生の日課として散歩は欠かせないが、ここ数日は人目を忍んで深夜にしか出歩いてなかったから、気になるっちゃあ気になる。

 いささか屈辱的ではあるがリードを着けてもらい、必需品であるマナー袋(要はう◯こ入れ。アケビは道端ではしないが一応)も装備して、


「いざ、出発ー!っス♩」


 久しぶりに明るいうちに見る街並みは、アケビにとっても新鮮だったが…


「をを〜さすがは東京、人もお店もいっぱいっスねぇー!」


 おのぼりサンの穂波には見るモノすへてが驚きらしい。

 しかし此処はそんな大都会のド外れ。市外局番も東京03ではない地域(以外に知られていないが)。

 人口だけなら周辺の地方都市のほうが遥か上だろうし、下手すりゃ他県よりも鄙びている。

 それに伴って店舗数も少なく、しかも午後七時以降はほとんど閉店してしまうので、お世辞にも利便性が良いとは言えない。


「それでもお店なんて一軒も無かったウチよりはよっぽどマシっスよぉ〜♩」

「…ホントにどこの田舎に住んでたんだよ?」


 都会生活が長いらしいアケビは知らんだろうが、実は車社会な地方では人口や店舗がより地価の安い郊外に集中し、中心地が空洞化するドーナツ化現象が見受けられ、かつては繁華街だった駅周辺ほど過疎化が進んでいる。

 なので店が無いイコール田舎とは限らない…が、穂波の実家は間違いなく山奥である。

 以上、作者の原生地も含めた地方の名誉のために解説してみますた。


「にしても…すげぇなコイツ」


 そうやってアケビが小馬鹿にしていた穂波のコミュニケーション能力は驚異的だった。


「こんちわーっス♩」


 などと誰彼かまわず片っ端から気さくに挨拶を交わしては、ものの数秒ですっかり打ち解け親しくなっている。

 それどころか、


「おやおやカワイイお嬢ちゃんとワンちゃんだねぇ♩」

「ほうほう今日からこっちに引っ越してきたのかい?」

「それならオマケしとくよ。これからご贔屓にネ♩」


 などと行く先々でモテモテで、あっという間に持ちきれないほどのお土産をせしめ、すっかりご近所のアイドルと化していた。


「東京は怖いとこだって聞いてたけど、みんな親切でイイ人っスね〜♩」

「そりゃ、お前がイイ人すぎるからだろ…」


 思えば初対面の、しかも喋るワンコなんぞとも不気味がらずに親身に接してくれたりと…お人好しにも程がある。


「??? 普通に挨拶しただけっスけど?」

「普通の奴は道行く人すべてに挨拶しようとは思わねーだろ?」

「人に会ったらご挨拶するのは当たり前じゃないっスか?」


 よし、話にならんからもう放っとこう。

 これで自分の特殊能力じみた魅力にまるで気づいていないとか、無警戒すぎてこっちが不安になってくる。


「ハァ…そんなんでお前、あんな学校でやっていけんのか?」

「あ、そういや学校のコト知ってんスよね。最後にソコ案内してくれるっスか?」

「…だな。そろそろ授業も終わってる時間だろうし」


 あの学校の敷地は以前に何度か通りがかって、こんなトコもう二度と来るものかと固く心に誓ったが…

 そんな人外魔鏡にこれから毎日通う奴と同居することになるとは、なんたる運命の悪戯か。


 …とか何とか回想してるうちに、ほどなく件の校舎にたどり着いた。

 街中からは完全に外れた郊外の、背後の山肌が崖になってグルリと周囲を取り囲む、天然の城壁に守られたその中心に、極々普通の三階建ての校舎がひっそり佇んでいる。


「う〜ん、なんか…めっちゃ普通っスね?

 漫画やアニメに出てくる普通の学校よりもフツーって感じっス」


 よーワカランがよく解る意見だ。要は、今まで学校というものに通ったことがない穂波にもごく普通の校舎に見えるらしいが、


「普通の学校がこんな辺鄙な場所にあるもんかよ。ナメてかかったら痛い目見るぜ」


 たしかに奇妙すぎる。

 普通の学校ならばこの時期、この時間帯でも部活動に励む生徒の姿が目に付きそうなものだが、人っこ一人いやしないとは…。

 そんな不自然さに気づくはずもない穂波を嗜めたアケビは、そのまましばらく校舎を凝視して…


「…よし。明日からオレも一緒に通うぞ」

「へっ!?」

「ペット同伴可だろココ?」


 アケビが言う通り、確かにこの学校はペット連れでの登校が可能という世にも珍しいシステムになっている。

 それはペットが生徒達の『相棒』たり得る存在であるからだが…この場でウダウダ説明するよりも、明日実際に来てみたほうが早いだろう。


「いいんスか!? アケビちゃんがそう言うなら、是非お願いするっス♩」


 内心かなり不安にかられつつも平静を装っていた穂波は、一も二もなく了承した。

 道連れは一人…いや一匹でも多いほうがいい。ここはそんな場所だから。


「そうと決まりゃ長居は無用だ。とっとと退散するぞ」

「わわっ待ってくださいっス!?」


 なぜだか急かすアケビに服の裾を引っ張られて、穂波は仕方なく来た道を引き返しつつも、


「これからヨロシクお願いしまっス!」


 なんとか首だけ振り向いて、律儀に頭を下げていった。

 …そんな二人を校舎の屋上から監視する者の存在に、アケビだけは気づいていたようだが。


「…対象者は撤退した。どうやら興味本位で訪れただけらしい。敷地内への侵入の意志はなかったようだから追撃は無用だろう」


 屋上に寝そべって長距離狙撃ライフルのスコープを覗き込んでいたその人物は、どこへともなく報告しながら身体を起こした。

 四月頭の夕暮れ時にもかかわらず、関東ではとっくに陽気で汗ばむ時期だというに、全身をスナイパーマントですっぽり覆っているため人物像までは判らないが…。


「…了解。これより帰投する」


 何者かの指示を受けて手早く荷物を片付けたその者は、校舎の陰に溶け込むように忽然と姿を消した。

 夕闇に浮かぶ校舎は沈黙を貫いたまま、次第に山影に呑み込まれていった…。





 帰宅した二人はさっそく豪勢な夕飯を平らげてから、別室に放置されていたテレビを穂波の部屋に運び込んでレクリエーションタイムを満喫。

 液晶ではなく今どきブラウン管だが、地デジチューナーも付いてたので現行放送もなんとか視聴できる。


「なんでこんなに至れり尽せりなんだ、このアパート?」


 不審がるアケビの隣りで、穂波は初めて観る据置型テレビのチャンネル数の多さに圧倒されていた。

 田舎の実家ではそもそも放送電波が届かなかったため、スマホ動画ばかり観ていたらしいが…なぜテレビ受信不能な地域でスマホは問題なく使えたのだろうか?

 些細な疑問はさておき、スマホよりは大画面(まぁブラウン管だし)で観る動画は格別なようで、多少の不鮮明さ(まぁブラウン管だし・パート2)が気にならないほど画面に釘付けになっていた穂波だが…


「でもなんか、どのチャンネル観ても同じよーな芸人さんが同じよーな番組やってるっスね?」


 まぁ地上波だし。てな訳で飽きるのも早かった。

 そんなこんなで明日からいよいよ通学なので、早めに休むことにした二人は部屋に布団を敷いて…


「ってなんでナチュラルにオレまで同じ布団で寝てんだ? 犬小屋で充分だろ…」


 寝場所にはこだわらないアケビがそそくさと布団から抜け出そうとするが、その尻尾を穂波がむんずと鷲掴んで再び布団に引き摺り込む。


「痛てて痛てぇって、尻尾はやめれ尻尾はっ!

 まさかその歳で一人じゃ寝らねーとか言わねーよな?」

「さすがにそれは無いっスけど…いいじゃないスか初日ぐらい」


 昼夜を問わず静まり返った山奥で、父親と二人きりの家に住んでいた穂波だからして滅多なことでは怖がらないが…

 初めて自宅以外で過ごす夜は、誰でも少なからず不安を覚えるものだ。

 そんな時にアケビの温もりとフサフサな毛触りは、孤独を癒すにはもってこいである。


「オレ、いちおー男だぜ?」

「今はおにゃのこのワンちゃんっスよ♩」

「それでも…色々気まずいだろが?」

「お互いのカラダを隅々まで見といて、何を今さらっス」

「…だな。しとどに濡れそぼった蜜壺の奥深くまで」

「いやそこまでは見せてないっスけど」

「…こんなふうにエロエロだぜ、オレは?」

「知ってるっスよ。お風呂で押し倒されてチソチソ押し付けられたっスし」


 ウブなネンネかと思いきや、割りかしドギツイ話題にもしっかりついてくるし。


「…そこまで覚悟決めてるなら、もう何も言わねーけどよ」


 抵抗はムダと悟ったアケビは、穂波のそばで丸くなる。

 それを穂波が抱き寄せて、ぬいぐるみのように胸元へと…。


「…お前、寝る時はノーブラ派か? 小さいくせにすんごいプニプニなんだが…」

「いつもしてないっスよブラなんて。どうせそこまでおっきくないし…」

「…せめて外出する時ぐらいは着けろ現役JK。じゃないとオレが落ち着かん」

「独占欲強いっスね♩」


 とりとめのない会話を繰り広げるうち、どちらからともなく心地よい眠りの淵へと沈んでいった。





 …が、いくら熟睡できていようと、目覚めねばならないタイミングは朝を待たずして訪れる。

 具体的にはトイレとか。

 枕元の目覚まし時計は丑三つ時を指している。

 熟睡しているアケビを起こさないよう、そっと布団から抜け出した穂波は、部屋を後にして真っ暗な廊下へと踏み出した。

 たわんだ床板がギシギシ鳴って、多少なりとも恐怖感を煽る…が、目指すトイレは目と鼻の先だ。

 実家のトイレは昔ながらの和式トイレで、しかも汲み取り式のいわゆるボットン便所だったが、このアパートのものは近代改修済みなのか水洗タイプの座式だった。これだけでも気持ちが和らぐ。

 照明は切れかかって薄暗い蛍光灯だけだが、裸電球しかなかった実家よりはよっぽどマシだ。

 しかも今夜は月明かりが煌々と窓辺を照らして、足下までスッキリ見えるからより安心だ。

 速やかに用を済ませて手を洗っていると…


「…!」


 不意に視線を感じた。

 驚いて振り向くが…周囲には誰もいない。

 自室のドアが開いた気配はなかったから、アケビが起き出してきた訳ではなさそうだし…

 となれば、現状二人しか住んでいないはずのアパートにおいて、第三者の視線を感じるなど本来はあり得ないことだが…?


(…不審者…っスか?)


 前述のように孤独な生活には慣れている穂波なので、この程度ではビビらない。

 チキンな若造ならすぐ幽霊だの何だのと怯えるところだろうが、彼女の場合はまずそれ以外の可能性を考慮し、信じないモノは信じない。

 恐る恐る廊下に出て、辺りの様子を伺うが…やはり誰もいない。

 普通ならここで思い過ごしかと安堵するだろうが、人の気配に敏感な穂波の場合はそちらのほうがますますあり得ない。

 おとなしく自室に戻るフリをして、ドアノブに手を掛けた…ところで、またもや視線が!


(あっちは…玄関っスね?)


 すぐに後を追ったが、もちろん誰もいない。

 だが…背後にかすかな風圧を感じて振り向けば、そこには二階へと通じる階段が。


(あっ…!?)


 階段の先に、何やら白いモノがスゥッと引っ込んでいくのが見えた。やはり気のせいではなかったようだ。

 そして二階へはこの階段以外の連絡手段がないから、これで追い詰めたも同然…しめた!

 古い造りの急階段を二段跳びで駆け上がると…


「…あらら、見つかっちゃった♩」


 いきなり白装束の女性がそこに待ち構えていた!

 肌白の長い黒髪の美人だが、もちろん初対面に違いない。

 にもかかわらず、なんだかどこかで見覚えがある気が…?


「だ…誰っスか?」

「ウフフ、さぁ〜て誰でしょう?」


 青白い顔でおどけるように微笑みつつ、年上と思しき長身の彼女は断りもなく穂波を優しく包み込む。

 たしかに触れ合っているはずなのに、まるで現実味がない。

 肌の温もりを感じる代わりに、そよ風のようにひんやりした空気が身体を包み込んで…。


「…今夜はここまで、ね。どうせまたすぐに会えるわ♩」


 そんな触れ合いもほんの一瞬。

 すぐに穂波を解放した彼女は、バイバイと手を振りながら滑るように廊下の奥へと消えていく。


「あ…ま、待つっスよ!?」


 慌てて追いかける。

 一階と同様に廊下は途中で折れ曲がって、その先は…


「へゔんッ!?」


 …行き止まりだった。

 立ちはだかる壁に鼻っ柱をしこたまぶつけた穂波は、涙をちょちょ切らせながら辺りを見回す。

 このボロアパートは昔の日本家屋のように二階が一階よりも一回り狭い造りになっているため、通路の奥行きが浅いのだ。

 廊下の片側には一階のように空き部屋が何室か並んでいるが、経年劣化で建て付けが悪いドアや窓を開けるには少々手間が掛かるため、追手をかわして逃げ込むだけの余裕はなかったはず。

 ならば…あの女性はどこに行ってしまったのか?


「逃したっスか…こんな痛い思いまでして!」


 壁にぺちんっと八つ当たりすると…返ってきた手触りと反響音に違和感が。向こう側に空洞があるらしい。

 壁に見えたソレは、ドアノブの無い隠し扉になっていたのだ。


「はっはーん。ココっス…ね!?」


 期待して一気に開け放つ。

 …が、中は小狭い物置きになっていて、掃除道具や不用品が詰め込まれているだけだった。

 当然、人が隠れられるようなスペースなど無い。

 つまり…あの白い女性は、この場で消えたことになる。

 物音も立てず忽然と…暗闇に溶け込むように…。


「…っ!?」


 穂波は生まれて初めて得体の知れない恐怖を感じた。

 野生動物すらものともしない彼女の本能が、これ以上は危険だと告げていた。

 きびすを返して猛ダッシュし、一目散に階段を駆け降りて自室へと転がり込む。


「ぉわっ!? 何だっ、何があった!?」


 叩き起こされたアケビが寝ぼけまなこで布団から飛び出すが、穂波はそんな彼…今は彼女を羽交締めにして、再び布団に頭からくるまった。


「ア、アケビちゃん…ココって、『出る』っスか…!?」


 ガタガタ震える穂波にガチガチ噛み合わない口調で問われたアケビは、


「んお?…まぁ、出るっちゃ出るだろうな」

「あひぃ〜っ!?」

「ボロい建物だし、ネズミやGキBリくらいは…ゲポッ」


 後半は穂波の耳には入らなかったようだが、とにかく疲れていて睡魔に抗えなかったアケビは、ビビりまくった穂波の締め技が見事にキマって再び健やかな寝息を立て始めた。


「ぅぅぅ…初めて見ちゃったっスよぉ。あんな本格的なの…さすがは東京っスぅ…」


 なんでもかんでも東京のせいにすんのヤメレや。

 そもそも目の前で消えた訳でもないのに幽霊扱いするのはいかがなものか?(公式ヒント)


「アケビちゃん…起きてくださいっスよぉアケビちゃあ〜ん…」


 無理やりアケビを起こして道連れにしようとするも、完全にオチたワンコが再び目覚めることはなかった。

 それでもそのベルベットな肌触りと湯たんぽのような温もりに癒され、穂波もようやく眠りに堕ちることができたのだった。





 寝れば前日のアレやコレやはすっかり忘れる性質たちの穂波は、翌朝はアケビよりも早く目覚めて身支度を始めていた。


「…なんだそりゃ?」


 遅れて布団から起き出すなり奇っ怪な光景を目撃してフリーズしたアケビに、


「おはよっさんスー♩ どーすかコレ!?」


 姿見の前でクルクル回りつつ穂波が披露したのは、JKファッション…のモノマネ。

 パッツンパッツンに短いスカート、胸元が大きく開いた着崩し制服、そして全身にワケわからんアクセサリーがゴマンとひしめく悪趣味全開なテンプレスタイルだが…

 それをちんまい穂波がやると、どう見ても姉の服をコッソリ着込んでイキってる小学生そのものである。


「…ププッ。やめとけやめとけ、そんなんで登校したら初日から目ぇつけられまくるぞ」


 アケビにしては極力抑えた批評に留めたつもりだが…内心、腹の皮がよじれるから一刻も早くやめてほしかった。


「えー? でもその初日が肝心って…マウント決めるなら今しかないじゃないスか?」

「転校初日にパツキンだのツンツンヘアーだのにイメチェンしてイキナリ最強伝説こさえるとか、大昔のファンタジーかよ…」

「どこのツッパリコメディーっスかソレ?」

「知ってんじゃねーか、初出がソレより新しいセラムソは知らねーくせに!?」

「どっかの配信サービスで観たっス」


 だからレトロ関連知識が異様に偏ってんだな、最近の若人は。

 ああいうサービスは注目作はトップに表示されるが、過去作は検索しない限り埋もれたままだし。


「わかったっスよもぉ…あ、朝ご飯できてるっス」


 いつの間に。メチャメチャ要領いいなコイツ。

 ブツクサ言いながら制服を直し始めた穂波を尻目に、食堂に向かったアケビは、ボウルに用意されていた犬マンマをさっそくペロリ。

 …うむ、相変わらず美味い!

 などと感動しているこのワン公、実はペットフードも案外イケるクチなので食い物にこだわりは無かったりする。

 だが、穂波が作る飯は絶妙な味付けで、ほとんど味がしないペットフードや、逆に味が濃すぎる市販の惣菜よりもすんなり喉を通る。


(…まったく、こいつはイイ飼い主サマをゲットできたもんだぜクックック♩)


 …事実上の野良犬生活でひもじい思いを経験してきたアケビは、プライドなどとっくにかなぐり捨てていた。

 毎日これだけ美味い餌にありつけるなら、ペットだろうが肉奴隷だろうが構わん!

 いくらでも飼われてやるから、せいぜい存分に甘やかしてくれるがよい!

 とかやってるうちに身支度を整えた穂波も食堂に現れ、二人揃って食事を摂る。


「…昨夜、なんかドタバタ騒がしがったけど、何やってたんだ?」

「…さぁ? 夢見でも悪かったっスかね?」


 ホントにすっかり忘れていた。というか昨夜のアレは穂波の中では夢として処理されてるらしい。ストレスを溜め込まないお得な性格でらっしゃる。


 腹が膨らんだら戸締りをして、二人揃ってアパートを出る。

 通学の道すがら、昨日出会った街の人々に出くわすと、


「おはよーざまっス♩」

「ああ、おはよ…ってアンタ、もしかして高校生だったんかい?」


 …どうやら皆、穂波は小学生だと認識していたらしい。

 そしてそれ以上に、


「お嬢ちゃん、もしかしてその制服…!?」


 服装を見ただけで顔色を失う人々。

 どうやらあの学校は近隣でも一目置かれているらしかった。


「…無理するんじゃないよ、逃げるときは逃げな!」

「絶対、生きて帰ってくるんだよ!」


 そんな人々の心配が杞憂ではなかったことを、穂波はすぐに思い知ることになる。


「その前に、ちょっとコンビニ寄ってくっス♩」

「ガクッ。緊張感ねー奴だな。今日は入学式諸々で終わりだから弁当は要らねーだろ?」

「買い食いっスよ。一度やってみたかったんス〜♩」


 まぁ、今までコンビニはおろか店が一軒もない山奥に篭ってたから、気持ちは解らんでもないが…何も朝っぱらから実践しなくても。

 コンビニ前にアケビを繋いだ穂波は鼻唄混じりに店内に消えて…

 すぐに戻ってきたかと思えば、手には小さな紙パック入りの野菜ジュースが握られていた。


「わざわざコンビニに寄らなくても、自販機ならそこら中にあるだろ?」

「この辺のは缶とペットボトルばかりじゃないっスか? 学校周辺にはゴミ箱が無かったから、捨てるときに困るっスよ」


 昨日、学校の下見でしっかりチェックしていたらしい。

 ゴミ箱や自販機ぐらい校内にもあると思うが、律儀な奴。





 朝の街の喧騒が遠のくと共に、穂波と同じ制服を着た生徒達の姿がちらほら目につくようになった。

 やはりペット連れもOKらしく、犬や猫、鳥に魚に…なんだか得体の知れない怪物を引き連れた者までいて、穂波は内心ホッとしていた。

 だが…在校生ならば新学期早々にもかかわらず、どいつもこいつも死んだ魚のような眼をして重い足を引きずり…

 新入生はそれ以上に顔面蒼白で、晴れの入学式だというのに誰も晴れ晴れしてなーい!

 普通の学校ならば必ず同伴するだろう父兄の姿もないし…これは一体全体?


「…飲まねーのかソレ?」


 そんな周囲の異常な様子とは無関係に、アケビは穂波が手に持ったままの紙パックジュースが気になるようだ。


「んー、周りじゅう誰も立ち食いとかしてないし、お行儀悪いっスよねーやっぱ?」


 興味本位で立ち食いなどという小学生ならば許されざる悪事を働いた穂波だが、元が善人すぎてそれ以上は悪に加担できないようだ。


「…もしかして、欲しいんスか?」

「元々肉食の犬に野菜ジュースなんか勧めるなよ。食物繊維が多いのは苦手なんだぜ?

 …ま、オレは何でも食っちまうけどな」

「ほぇ〜、勉強になりますねぇ♩

 …あっ、見えてきたっスよ!」


 葬式のように静まり返った周囲からは完全に浮いてる陽気な穂波が指差す先には、昨日も訪れた校舎がそびえ立つ。

 それ以上に背景の崖が壮観すぎて印象はイマイチだが…なぜにこんな学校がそこまで恐れられているのか?

 ゾンビの群れのような生徒達がゾロゾロ吸い込まれていく校門の列に、穂波とアケビも…


「来たぞォーッ!」「逃げろォーッ!」


 ザワッ…!?

 突然周囲で上がった悲鳴に全員が総毛立つ。

 続け様に、ブロロロォーッと、何処からともなく爆音が轟いて…


「ヒィ〜〜ッハァーーーーッ!!」


 大型バイクに跨った、まんまどこぞの世紀末映画か漫画で見たようなモヒカン暴走族が校舎の陰から飛び出してきた!

 繰り返すが、"校舎の陰から"出てきた。

 当然のように校内は部外者立ち入り禁止だ。

 ということはコイツ…『学校関係者』!?


「ギャアーッ!?」「ヒィ〜ッ!?」


 モヒカン野郎はアクセル全開なまま、呆気にとられて立ち止まってしまった生徒達を次々跳ね飛ばしていく!


「オラオラァーッぼやぼやしてる奴ァ轢き殺しちまうぜェーヒャハハァーッ!!」

「ぅ…わぁーッ!?」「止まるなっ逃げギャア〜ッ!?」「アヒィーッ!!」


 校門前は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 背後からタイヤにどつかれて倒れ伏した生徒の上をバイクが背骨をへし折りながら縦断し、血反吐を撒き散らしてのたうち回るその頭をUターンしてきたバイクがひしゃげたトマトのようにグチャリと轢き潰す。

 そんな、まるで車に轢かれてアスファルトにへばりついたカエルや猫のように無様な死体が、校門周辺に彼岸花のように咲き乱れる。


「…やっぱハンパねーなココは」


 その様子を校門の塀の上から窺うアケビと穂波。

 相手の得物がバイクと判った時点で、容易には轢かれない高所に飛び乗ってやり過ごしたのだ。


「な、なんなんスかココ…?」

「ココはこーゆー学校なんだよ、知らずに入ったのか?」

「一応ネットでは調べたっスけど、上司ここまでとは…。

 お父さんがなかなか許可しなかったワケっスね」


 ネットだろうと他のメディアだろうと、最近はコンプライアンスがどうこう言いつつ、肝心な情報をぼやかしがちな傾向にある。

 大衆が好まないネタは誤魔化せばいいとか思ってると、こんな場合に困ることになるのは結局ユーザーなのだ。

 そんな曖昧な情報だけで、周囲に踊らされてバッシングに加担する大衆も大概だが…

 ハッキリ言って、ココではその程度の付和雷同な連中はまず生き残れない。


 穂波達は確認する暇もなかったが、校門の表札に掲げられた校名はコレだ。


『国立 東京危機管理実習高等専門学校』


 なんともお堅い上に長ったらしい校名ではあるが、その中身は一目瞭然。

 あらゆる危機管理から身を守る術を実践(あるいは実戦)形式で覚えるのである。

 まぁ大半の生徒は覚える前にご覧の通り御陀仏だが。


 こんなトンデモ学校が誕生した経緯には、昨今の世相に合わせて近年改正された憲法ならびに法律の影響がある。

 日々凶悪化の一途をたどる犯罪や、日本に不利益を被らせる恐れのある海外の敵性国家に対抗し、我が国は厳罰化および実戦を許可する方向へと舵を切った。

 だが…その結果は惨憺たるものだった。

 長期間に渡る平和な時代に慣れ親しみすぎた国民は戦闘能力を失い、出動した警察官や兵士は成す術なく蹂躙され、大量の殉職者を出すに至った。

 さらにはその後継志願者も激減し、日本はいまや犯罪行為の無法地帯と化してしまった。


 そこで、短期間での戦力増強を図るべく試験的に設立されたのが本校である。

 表向きは高等専門学校と同等の扱いであるため、入学者の年齢層も概ねそれに因んでいるが、実は日本国籍保有者ならびに日本国への永住希望者であれば年齢・国籍・職業等の資格を問わず入学可能。

 そしてその教育方針は、端的にいえば「死んで覚えろ」。

 いや実際、死んでしまえば元も子もないが、既にご覧の通り、そんな理不尽がまかり通る場所である。


 校風からして血気盛んな生徒が多いが、生徒同士の私闘は校則により厳密に禁止されている。

 だが、それ以外ならばお咎め無し。

 すなわち…教育者による生徒の殺傷、またはその逆が許可されているのだ!

 正規の教員免許を所持し真っ当な教育に携わる教員もいる一方で、死刑相当の凶悪犯罪者までもが教員登録されている。

 彼ら『囚人教員』はここで数多の生徒を殺害するほど減刑が進み、果ては恩赦というトチ狂ったシステムが導入されているのだ。


「ヒャハハァーッ死ね死ね死ね死ねェーッ!!」

「ヒギャア〜〜〜〜ッ!?」


 例えば今現在、逃げ惑う生徒達を片っ端から轢き殺して回っているのは、そんな『囚人教師』の一人『比戸曳太蔵ひとひきたいぞう』。

 かつて日本中を震え上がらせた広域暴走族の幹部である。

 大概の走り屋は就職して社会に出れば自然に矯正されるものだが、彼はそうはならなかった。

 暴走行為がもとで少年鑑別所に服役歴があった彼の身柄を引き受けてくれた、大恩人である地元町工場の社長に、不道徳かつ不摂生極まりない生活態度を注意されたことに腹を立て、大型バイクで工場内に侵入し、他の従業員もろとも轢殺、逃走。

 その際、人を轢き殺す快感に目覚めてしまい、全国各地を逃げ回る道すがら老若男女問わず追いかけ回しては無惨にも轢殺する愚行を繰り返し、総勢百名余りを殺害したところでようやくお縄となった、筋金入りの極悪人である。


 …ところで、彼らの『狩り』の時間は登下校時と担当教科の時限のみに限定されている。

 四六時中殺戮を楽しまれてはキリがないし…各授業の厳しさはこの比ではないためだ。

 因みに比戸曳の担当教科は『機械工作』である。


「でもでも、あんなに殺しまくってたら、すぐに生徒がいなくなっちゃわないっスか?」

「ココは腐っても『国立』だぜ?」


 それが『国立』ならではの強みである。

 政府は全国の都道府県に入学者の斡旋を義務付けており、連日新たな新兵あるいは犠牲者が強制的に編入させられてくるのだ。

 そんな事情だからして、実際に送致されるのは方々の学校の鼻つまみ者である不良や不登校などの問題児である。

 彼らがここでの矯正に成功し、将来的に祖国に貢献するのであれば万々歳。

 仮に失敗してその命を散らそうとも、国家にとっては害悪でしかない『不良品』が取り除けるのであれば、それもまた善し。

 さらには本校生徒には生命保険への加入が義務付けられており…つまりはどちらにすっ転ぼうが、国や各種業界にとってはメリットしかないのだ!


「うーわー胸糞っスねぇ」

「むしろ、お前みたいに自ら志願する奴のほうが珍しいだろ」

「入学試験も学費も不要って触れ込みだったもので…見事に騙されたっス」


 そんなオイシイ話がそうそう転がってる訳がない。ていのいい詐欺である。

 無論、当初はこのような非人道的な行為に異論を唱える有識者も決して少なくはなかったが…

 ある者は政府の圧力によりマスコミをはじめとする公の場での活躍の機会を失い、またある者はある日を境にプッツリと消息が途絶え…そして誰もいなくなった。

 日本という国は諸君が思っている以上に恐ろしい処なのだよ…クックック。





 さて、そんな地獄曼荼羅じごくまんだらを校舎の屋上から冷静に見つめる者が。


「二年三組十六番『中村武志なかむらたけし』、三年一組五番『香村翠かむらみどり』、新入生二百五十四番『江藤次郎えとうじろう』脱落…」


 構えたスナイパーライフルのスコープ越しに、殺害された生徒を次々カウントしていくマント姿の人物。

 本校が誇る凄腕スナイパーにして現生徒会副会長、『狩納かのう』だ。

 そう…昨日、校舎の下見に訪れた穂波たちの様子を窺っていた狙撃手である。

 本校生徒に常時携帯が義務付けられている生徒手帳にはGPS発信器が仕込まれており、その動向は校内のモニターにて常に監視されている。

 だが、発信電波が届かない場所にいたり、不慮の事故に巻き込まれるなどして機材に不具合が発生した場合には、このように直接目視で確認したほうが手っ取り早い。

 そして狩納はスナイパーに必須とされる抜群の記憶力で、本校生徒や教職員全員の顔と氏名をすべて暗記している。


 ライフルの照準は、基本的には『囚人教員』の比戸曳を追っている。

 教職員・生徒を問わず、学校関係者以外に危害を加える行為は厳禁だが、連中が凶悪犯罪者である以上、時々タガが外れて凶行に及ぶ者がいないとも限らない。

 また時々…


「もぉイヤだァーッこんな学校ぉ〜!」


 こんな具合に脱走を企てる生徒も出てくる。

 駄々っ子のように泣き喚きつつ街の方角へと逆走し始めた男子生徒が、あーこりゃもう学校に戻る気ねーな、と解るくらい校門から遠く離れたところで…タンッ! プシュッ!


「グペラッ!?」


 その頭部が突然ザクロのように弾け飛び、死体はそのまま路上に寝転がった。


「二年二組三十番『五木鰤生いつきぶりお』逃走、射殺。」


 このように、脱走者は発見しだい弾丸の餌食となる。

 正当な理由なく不登校を繰り返した生徒にも同様な処分が下るため、本校に不登校児童は一人も存在しない。


「…ム?」


 そんな監視者のスコープが、校門の塀の上に避難している穂波とアケビの姿を捉えた。


「あの者は、昨日の…。新入生だったのか。

 逃走の意思は無さそうだが…要領が良いな」

《へえ? キミが特定の生徒に興味を持つとは珍しいね》


 すかさず通信機越しに通話が届く。


「嫌でも目を惹く対象者なものでな。生徒名簿に記載が無ければ、到底我が校の生徒には見えん」


 名簿には顔写真と個人データは記載されていたが、全身写真は無かった。

 あんなチビっ子だったとは、実際こうして目にしても信じられないほどだ。


《…誰だい?》

「三百五十六番『霧里穂波きりさとほなみ』。極めて珍しい『入学志願者』だ」

《…霧里…?》


 通信機の向こうで、その名を反芻するなり黙り込む通話者。これまた珍しい反応だった。


「思い当たるフシが? 会長。」

《…いや、ちょっとね。監視を続けてくれたまえ》

「…了解。」


 ここへきてようやく穂波のフルネームが明らかになったが、同時になんだかキナ臭さも増したようである…本人の預かり知らないところで。

 そして、そんな穂波たちに興味を持ったのは彼らだけではなかった。


「…!? み、見ろアレ!」「そうか、塀の上なら轢かれないぞ!」


 校門の上に陣取っていた穂波たちを見つけた他の生徒達がわらわらと押し寄せてきた。

 押し合いへし合い、他人を蹴落としてでも我先によじ登ろうとする、さながら『蜘蛛の糸』のような様相を呈している。

 切羽詰まった状況下では人間のエゴが剥き出しになる描写から、逆説的に譲り合い精神の大切さを説いた先人の警告も、この場ではまるで無意味だ。

 そんなことをしていれば、当然のように落伍者を狙った『鬼』も寄ってくる。


「チクショウ邪魔だテメーらどけっ! どきやがれぇーッ!!」


 罵詈雑言を浴びせかけながら他者を踏み台にし、その背中をよじ登っていた男子生徒の背後で、何かがギラリと閃いた途端…

 急に押し黙った彼の視線がグラリと大きく傾いた。

 いや…傾いているのは彼の頭だ。

 身体の向きとは真逆に折れ曲がったかと思えば、そのまま首根っことおさらばした生首が、背中伝いにゴロゴロ転がり落ちてくる。

 それでも頭部を失った身体はなおも、下敷きになった生徒の制服を鷲掴んで登り続けようとしていたが…

 突然ブシュウッ!と傷口から噴水のように鮮血を噴き上げると、その勢いで頭が転がる地べたの血溜まりへと滑り落ちていった。

 その背後には…大振りの日本刀を構えたサムライが冷酷な笑みを浮かべて佇んでいた。


「浅ましいウジ虫めが…何たる醜さか。

 嗚呼、この世に美しいものは無いのか…?」


 やたら時代がかったセリフとともに、次の犠牲者めがけてジリジリと歩を詰める似非侍エセザムライ

 二人目の『囚人教師』、『永眠狂三郎ながねきょうざぶろう』だ。

 元は由緒正しい剣術道場の師範だったが、趣味で収集した刀剣の妖しさに見せられた挙句、指導に真剣を用いて門下生を死傷させるという事件を起こす。

 さらには収監された刑務所にて、自身のプライドを貶めたという理由で看守を作業場の鉄パイプにて完膚なきまでに叩きのめし人間もんじゃをこさえてしまったため、矯正の可能性は皆無として死刑宣告された。

 このように一人目の比戸曳よりは幾分シンプルな罪歴ではあるが、その残忍さは見ての通りもはや手がつけられないレベルである。


「指導! 指導ッ! 指導ォーッ!!」

「ひぎぃ!?」「あごぉあっ!?」「ぐきゃあァーッ!!」


 指導と断りつつも振り下ろされた刀身に、ある者は串刺しにされ、またある者は袈裟懸けに一刀両断され、挙句にはその場で三枚にスライスされ人間お造りが完成するという…。

 目も当てられない残虐さだが、踊るようにリズミカルに血飛沫が狂い咲くその光景には、ある種の様式美すら感じられる。

 …あ、因みに永眠の担当は『美術』だよん。

 片っ端から無秩序に轢き殺している美的センスゼロの比戸曳よりはマシかもしれないが…

 どちらも殺戮に魅入られ引き返せなくなった血の亡者であることに変わりはない。


「ぅひいーっマジヤバっスよこの人!?」

「こんな奴を人間扱いすんな。これこそ掛け値無しの『畜生』だぜ…!」


 畜生に畜生呼ばわりされた永眠は、塀の下に群がる生徒達を片っ端から斬り殺していき…最後に残った穂波とアケビに狙いを定めた。


「ほほぉ…人語を解する獣とは、これはまた面妖な…」

『!?』


 あれだけの生徒を血祭りに上げつつも、永眠は二人の会話にしっかり聞き耳を立てていたらしい。腐っても元師範は伊達ではないようだ。


「…バレちまったら仕方がねーな」

「ど、どーするんスか?」

「『殺る』しかねーだろ」

「…そっスね」


 教師が生徒を殺して良いなら、その逆もまた然り。

 ただし殺害可能なのは『囚人教員』のみで、普通に授業を受け持つ『一般教員』は対象外である。

 つまり『囚人教員』は基本的に生徒達に殺害…すなわち死刑に処されることが前提となっており、だからこそ生き残るべく毎日の指導にも熱が入ろうというものだ。


「ってな訳だから、あとヨロシク♩」

「えっちょっ、丸投げっスか!?」

「いや〜思わずココよじ登っちまってから気づいたけどよ…犬って高いトコ苦手だったんだわガクガクブルブル」


 とゆー訳でアケビがドロップアウト。


「うわ使えねーっス!

 でもでも、あのセンセだってあんな長ドス持ってこんな場所には登れっこない…」


 日本刀は長くて重いのでかなりかさばり、斬り合い以外ではまさしく無用の長物である。

 とりわけ最も苦手とするのが高低差のある場所移動であり…ドスッ。ピョーン☆


「ってえ゛え゛え゛!? 簡単に飛び乗ってきたっスよ!?」


 なんと、永眠は腰にぶら下げた刀のさやを棒高跳びの要領で駆使し、塀の上に難なく飛び乗ってきた!

 剣術だけではなく体術にも長けているとは…

 だが受け持ちは『美術』!!


「クックック…これぞまさしく『鞘上がり』なり。」

「いや本来の意味と全然違うっス!」


 意外に勤勉な穂波が指摘する通り、本来の意味は「通りすがりに武士の鞘同士がぶつかったことから争いに発展するように、些細なことで喧嘩する」ことを言う。『鞘当て』と同意。


「クックック…国語はちと苦手でな」

「そんな古式然とした格好して意外っス!」


 だから受け持ちは『美術』!!


「さぁ、おとなしく我が刀の錆に…ムゥ?」

「ひっ!?」「ヒィ〜〜ッ!?」


 悲鳴を上げたのは穂波ではなく、永眠の足下の植え込みの陰に隠れていた二人の女生徒。

 片や、なんでこんな学校にいるのか不明な、いかにも優等生然としたスラリと背の高い眼鏡っ子。

 片や、その体型でよく今まで隠れてるのがバレなかったなとツッコまざるを得ないほどボリューミーなぽっちゃりサン。

 塀の上と下それぞれを見比べた永眠は…


「…こちらの方が斬り捨て甲斐がありそうだな」


 ニヤリとほくそ笑むなり、女生徒二人に狙いを定めた。

 断面積の多さでより楽しめそうな方を選んだらしい。


『ヒッヒィーーーーッ!?』

「ま、待つっスよ!?」


 自分から狙いが逸れたのはありがたいが、目の前で他人が傷つくのは我慢ならない。

 なんとも損な性分の穂波である。


「よ、良かったじゃねーか。この隙に逃げろ…ついでにオレも連れてけガクブル…」


 この期に及んで日和やがったクズ畜生に、穂波タンついにプッツン。


「…え? ちょっ?」


 足下にへばりつくアケビをベリリと引っ剥がして身構えると、永眠めがけて、


「良いわけ…あるかァーーーーッスぅ!!」


 投げたァーッ!


「ムゥッ!?」


 眼前に迫るワンコ球に、永眠センセは日本刀をバットのように振りかぶって、


「…成敗ッ!」

「ドッッッぎゃアあァ〜〜〜〜ッス!?

 動物虐待ハンターイッ!」


 嗚呼、絶体絶命アケビたん!?

 どうする憐れな女生徒たち!?

 別にどうもしない穂波!(投ーげーたーだーけー♩)

 もぉどうにも止まらない鬼畜永眠!!

 疾風怒濤の次回に刮目すべし!!!




【第一話 END】

 てなわけで新シリーズ『SHYなワン畜生(仮)』の幕開けです。

 タイトルからして何かのモロパクなので、怒られたらすぐに変更できるように(仮)を付けてます。

 日和見主義なあたくち♩


 現在まだ継続中の前作『野性刑殺』が終盤に差し掛かった時期に、おぼろげながらアイデアが降ってきまして。

 オモロそうだけど、そいつを前作に含めるのはちーと無理そうだったので、それなら独立してもう一作でっち上げてみようかな?…と。

 んで、前作そっちのけで(ぉぃ)もうちょい構想を練ってみよっかなーと思ったものの…

 ちまちま企画を詰めるより実際書いてみたほうが早いなコリャ…とゆーその場の勢いで、さっそく第一話を書き上げてみましたぜぃ(笑)。


 『野性刑殺』がスケールを壮大にしすぎたせいで散々苦労させられたので、今作では比較的小規模なお話にまとめています。

 ヒロインも前作では長身巨乳美女の靖利やすりを用意しましたが、色々バカデカ過ぎて若干扱いづらかったので、今回は逆にミニマムサイズJKの穂波ほなみにバトンタッチ。

 初回はまず人物像をしっかり描写することを心掛けて書き進めました。

 …んが、冒頭パートのほのぼのムードとの落差が凄まじすぎる終盤パートの状況説明が思いのほか大変だったので、さほど活躍させないまま次回までお預けにしてしまいました。

 ただでさえお腹いっぱいなところで、さらに無茶苦茶やらかすと収拾つかなくなる恐れが多分にありましたし、程々のところで(汗)。


 のっけから伏線だらけな塩梅ですが、実はこれも現時点ではまだキッチリとはオチを決めていないものばかりで、今後どうスッ転んでいくのかは作者にも解りません。

 …いつもそんな無計画な作り方してるから、後々回収がスンゴイ大変なんですケドね(汗)。

 『野性刑殺』も執筆中ですので、当面は二作品を同時進行で…などという器用な真似は自分には不可能ですんで、勢いで一気に書き上げた方から先に掲載していくことになりそうです。

 ええ、勢いがなきゃ〜こんな酔狂なモンはなかなか書けませんて(笑)。

 けどハリキリすぎて少々タガが外れ、だいぶん赤茶けた汁気が多いお話になってしまいましたが…。

 次回からはたぶん平常運転に戻れるかと思いますので、せいぜい頑張ってついてきてくださいませ(汗)。

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