第9話 10個の「勇者専用特典」
ミズリムさんは机の上に勇者特典の説明が書かれた紙を置いた。
勇者は滅多に現れないらしいのに、こんなものが用意されているのは驚きだ。
「特典は全部で10種類です。
これらの特典は、
勇者の冒険をサポートする目的で
各国の協議により作られたものです。
特典を使用される場合は役場にお越しください。
手続きでお待たせはいたしません。
秒で申請は通ります……秒で」
【3人までなら誰でも冒険の仲間にできる権利】
「勇者の冒険には、
勇者を助ける仲間の存在が不可欠です。
一緒に冒険すると誓いあった者であれば、
相手が王侯貴族だろうが、
牢屋にぶちこまれてる極悪人だろうが、
昨日式をあげた新婦さんだろうが、
誰でも連れていっちゃってOKです」
「さすがに新婦さんは……。
新郎さんが不憫すぎると思いますけど……」
【未使用の土地を自由に開拓・拠点化できる権利】
「国によって土地の法律は違いますが、
勇者は魔地以外であれば自由に拠点を作れます」
「ちなみに
この国には土地に関するどんな決まりが?」
「はい、
我々がいるハーライト王国は、
この王都や、各都市から離れた場所は、
先祖代々の土地でない限り、
厳しい開拓制限があります……がっ!
……そんなの無視してください!」
「おおっ! 頼もしい!」
【薬草、農作物が最高品質に育つ神肥料の提供】
「市場には出ない特別な肥料をご提供します。
これを使えば、ただの薬草が回復量2倍に、
野菜は栄養たっぷりで美味しく育ちます」
「なんで農家じゃないのに、
こんな特典があるんですか?」
「勇者は体が資本です。
拠点によっては薬草や野菜が
手に入りづらいケースもあるので、
なるべく健康を保っていただきたいのです」
【聖域への立ち入りの権利】
「一部聖域は、
教会関係者のみ立ち入り可だったりしますが
ご自由に入っていただいて結構です。
先ほどの土地の開拓権と併用して、
聖域に拠点を作る事だってできます。
オススメはしませんが……出ますんで」
「やっぱり……出るんですか!?」
「そこそこ出ますね。
首がないのとか、足がないのとか。
神罰もあるかもなんで、自己責任でお願いいたします」
【各国の王族貴族への面会の権利】
「勇者が面会を希望する場合は、
王であっても拒否はできません。
深夜だろうが、早朝だろうが、
誕生会中だろうが、
すぐに面会が可能です」
「それって……嫌がられませんか?」
「最初は勇者に会えるって
喜んで面会するでしょうけど。
変なタイミングで何度も会いにきたら、
ずうずうしい奴だなぁ
それともいやがらせか?
って思うでしょうね。
私なら思います」
「ドラゴンのブレスよりストレートな
貴重なご意見。
ありがとうございます」
【各国城内での武器携帯の権利】
「すべての国の城内は
警護の兵を除き、
武器類持ち込みの制限があります。
しかし勇者一行は持ち込みが自由です」
……なんか、薄々思いはじめてるんだけど。
勇者特典って上手に使えば、勇者が世界を支配できそうじゃね?
それか魔王側に寝返ったら、むっちゃ魔王のサポートができる気がするぞ?
というか……そういう悪い発想ばっかり出てくるんだけど!?
みなさん、勇者を信用しすぎてませんか?
【勇者世帯の納税免除の権利】
「これはロレス様は、
まだ関係ないかもしれませんが、
ご商売をされている場合は、
国への納税が免除になります」
「でも勇者って、
冒険に出るわけですよね?
普通は商売とかってしないと思うけど」
「勇者ご本人というよりも、
配偶者……奥様が使う特典かもしれません。
勇者は冒険で家を空けがちですから、
奥様が退屈しのぎに商売を始めることもあります。
けれどなにしろ……素人商売ですしね。
失敗して、納税が滞れば勇者の名誉にも関わる。
そうなると冒険の妨げになってしまうので、
勇者世帯は特別に納税を免除されるのです」
「なるほど。
まあ、たしかに俺には関係なさそうな特典です」
【勇者家族への国家保護制度】
「魔王は狡猾です。
勇者のご家族を人質に取るかもしれません。
そこでご希望であれば
王専属護衛の王護騎士団 に守られて
ご家族は生活することができます」
「うちの父さん、
下級兵士だけど……。
それが王様専用の護衛兵に守られて生活……。
そんなのに囲まれて城下町見回りの仕事って、
……めっちゃ気まずいだろうなあ、父さん」
【住宅の探索権(但し犯罪捜査時)】
「王、貴族、平民
すべての家の
寝室からバスルームまで
自由に入る事ができます」
「ただし犯罪捜査時に……なんですね」
「まあ、どうしてもとなったら
適当に事件をでっちあげれば
よろしいかと」
「……ミズリムさん?
今しれっと、とんでもない事
言ってませんでした!?」
【重婚の権利】
「偉業を成し遂げるような男性は、
何事にも精力的ですから、
女性関係でも積極的で
あるという事が多いですし。
はぁ……良かったですね、ロレスさん」
「その好色男にあきれてる冷ややかな目はなんですか!
え? え? なにか誤解してません!?
なんで俺が使うの前提みたいになってんのよ?
使わない! 使わない!
女性に積極的じゃないですから!」
「……以上が勇者専用の、
10大特典となります。
ちなみにですが、
今すぐに使用されたい特典はございますか?」
「ええと、
ない……です、まだ」
「承知いたしました。
使いたい時は、
いつでもお気軽に申請してください」
……そう、俺はまだ使わない。
だけど最初に使う特典はずっと前から決めてはいた。
まずは……やっぱり、【未使用の土地を自由に開拓・拠点化できる権利】だ!
俺が望む、のんびり静かな生活は喧騒の王都にはない。
かといって山奥でサバイバルする世捨て人になりたいわけじゃない。
王都の便利さが利用できる、ほどほどの郊外で、ゆるゆるで快適で、ぬる〜いスローライフ生活が俺はしたいんだよ!
──それにぴったりの、最高の土地を見つけてやる!
次回『第10話 家の前には人だかりができていた』
お読みいただきありがとうございます。
次回は『アリーアがバレバレだった』というお話です。
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