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第8話 500人の前で叫ぶのは、恥ずかしかった

誰かが大声で叫んだ。


「勇者だ! 世界が待ち望んでいた勇者だ!」


すると、それまでの驚きのどよめきは、「おおおおおおーーーっ!」という大歓声に変わった。


「ロ・レ・ス! ロ・レ・ス!」と、まるで王の戴冠式みたいなコールがはじまった。

拍手喝采だ。興奮して椅子から立ち上がる者までいる。


王都議礼院(おうとぎれいいん)」は揺れた。


しかし、貴族の子たちはその大歓声に加わってはいなかった。

そこには困惑やいらだち……憎しみの表情さえ見えた。


「あ……ありえない!

 こんなものはインチキだ!」


貴族席の2列目中央に座っていたギミリットはそう叫んで立ち上がり、壇上に上がってきた。


「鎮まれ、平民ども!

 耳障りな声で馬鹿騒ぎをするな!」


大歓声は止まった。


「ロレス、どんな小細工をした!?

 大典卿(たいてんきょう)

 この薄汚い平民は

 ペテンで神聖なる「才覚の儀」を汚しました!

 兵はいないか!? この平民を捕えろ!

 抵抗するようならば情けはかけるな!」


すると、壇上の左右に立っていた甲冑兵士たちが突然動き出した。


「平民ごときが

 勇者などありえんのだ!

 しかもだ!

 我がラインゼイル家の犬……

 デリクの息子が勇者だとぉ?

 ははははっ……笑わせるな!

 ははっ……え?」


四人の兵士はギミリットを取り囲んで槍を伸ばし、ギミリットの首元に四方から槍先を突きつける。

どうやら大典卿(たいてんきょう)が兵士に指示をしたらしく、伸ばした人差し指と中指をギミリットに向けていた。


「な? は?

 お……おいおい」


っていうか、あんたたち兵士だったの? まったく動かないし甲冑の置物だと思ってたよ!

6時間以上直立不動ですか……ずっと座ってるくらいでしんどいとか思って、ごめんなさい。


大典卿(たいてんきょう)! 

 どういう事ですか!? この兵たちは!?

 私の父上は王の懐刀と呼ばれた……」


「貴族の子として生まれたにすぎぬ身でありながら、

 勇者殿に対して数々の無礼……。

 この大典卿(たいてんきょう)が証人となる。

 ……裁き次第では

 命で償うことになるやもしれんぞ」


「え?……うそ。

 あ……あの……ちょっと……」


「あ……あのう。

 俺は別に気にしてないんで、

 彼を許してやってください。

 命で償うとか……あの。

 正直めっちゃ後味悪くなるんで!

 お願いします!」


「頭を上げてくだされ!

 勇者殿がそこまで言われるのなら、

 不問とするしかないが……。

 貴様、勇者殿のご慈悲に感謝するのだぞ!」


ギミリットの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。


「ずずず……

 ずびばぜん

 でしだ。

 ありがじょごじゃりましゅ」


甲冑兵士たちは槍を下ろし、ギミリットはその場にへたり込んだ。


大典卿(たいてんきょう)は俺のすぐそばまで来た。


「勇者殿はお席には戻らず、

 この建物にある特別室に、

 わしと一緒に、来ていただきます。

 色々と細かい手続きや説明がありましての」


「あ……そうなんですか。

 でも……」


俺はここに集まっている500人の方を見た。

この建物の中は暗い。

後ろの方に座らされている平民の顔なんて見えない。

俺はアリーアを見つけることはできなかった。


「なんか用事があるみたいだからー!!

 それが終わったら一緒に帰ろー!! 

 でも遅くなっちゃたら、先に帰っちゃってー!!」


俺は大声で500人の方に向かって叫んだ。

ちょっと恥ずかしかった。


用事がすべて済んだらアリーアと帰りたくなったんだ。

王都学舎から一緒に下校してた時みたいに。


俺は特別室に入った。


特別室はそれほど広くはなかったが、机、椅子、その他置かれているものがすべて立派で、城下町では見ないようなものばかりだった。


まず大典卿(たいてんきょう)は「勇者と魔王の関係」について俺に説明した。


「ご存知でしょうが、

 魔地には魔王がおります。

 勇者が倒すたびに、

 新しい魔王が“ポンッ”と出てくる仕組みになっておる。

 ……まあ、いわば交代制みたいなもんですな。

 しかし今の魔王は引きこもり気味で、

 城から出てこないのです。

 なので戦争にはなってないというワケですな」


「じゃあ……

 今の世界は、一応“平和”ってことですよね?」


「そうともいえるのですが、

 やはり勇者というのはですね、

 魔王を倒すために天に選ばれた存在!

 過去の勇者が果たせなかった、

 絶対的勝利を目指して頑張ってもらわねば!」


いや、どうなんでしょう、それは。


平和なんだし、無理して魔王討伐とかしなくていいよね?

ていうか、下手に倒して、次の魔王が世界征服ガチ勢だったらマズイじゃん!


そして俺は、大典卿(たいてんきょう)が持ってきた大量の書類一枚一枚にサインをさせられた。


「勇者認定証にはフルネームで

 署名してくだされ。

 あ、そっちじゃなくて

 こっちですじゃ……そうそう」


「はいはい、

 ロレス……ランドベクト……と」


「押印は魔力印でお願いいたします。

 なんと? やった事がないと申すか?

 やり方は指先に魔力を込めて……

 ああ! そうではなくて! もっと魔力を練って!

 ……ええと、じゃあ普通の母印で結構です」

 

他にも勇者専用銀行口座の開設手続きに、勇者バッジ受領サイン(再発行に時間がかかると注意された)など、まあ色々と面倒だった。


引っ越し後の市役所の手続きかよ! 勇者ってこういうもんなの!?


「……失礼します」


ちょうど手続き関係が終わったタイミングで特別室に女性が入ってきた。


背がすらっと高く、青みがかった黒髪ロングヘアーでタイトなスーツを着ている。

年齢は20代中盤くらいなのかな? むちゃくちゃ綺麗な人だけど、性格はキツそうでクールなキャリアウーマンって印象だ。


「そうそう、ロレス殿、

 勇者になると

 国から様々な権利が与えられる

 勇者専用特典というのがあっての」


────きた! ついにきた!

 

「特典の説明を担当する、

 ミズリムと申します。

 ……とは言っても

 説明をするのははじめてですが。

 なにしろ勇者が選定される事は、

 あまりにも稀な事なので」


まあ、そりゃそうだよね。たしか100年ぶりくらいだったと聞いた気がする。

ミズリムさんは俺の向いに座って、書類を机の上に置いた。


「……それでは、さっそく。

 勇者専用特典について、

 ひとつずつご説明いたします」


「はい! よろしくお願いします!」




次回『第9話 10個の「勇者専用特典」』

お読みいただきありがとうございます!

次回は

「勇者専用特典って、具体的にどんな感じに使うの?」というお話です。


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!


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