表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/50

第7話 16才……俺は勇者に認定された

若草月(4月)の最初の日。


「才覚の儀」は貴族の居住区内にある「王都議礼院(おうとぎれいいん)」で行われる。


俺は他の平民の十六歳期生と共に「銀獅子門」を抜けて貴族の居住区に入った。

貴族の家は一軒一軒が大きく、庭が広く、植木は綺麗に手入れされていた。


そして到着した「王都議礼院(おうとぎれいいん)」は、城下町では見たことないような立派で荘厳な建物だった。


建物の中は天井が高く、ステンドグラスも贅沢に使われている。

教会というよりは、イベントホールに近い印象だった。


奥には少し高くなっている壇上があって、その壇上に近い長椅子には貴族の子が座り、その後ろの長椅子には平民の子が座る。

平民と貴族の割合は95:5くらいだろうか……。


人口7万人の王都の、今年の十六歳期生は約500人。

……その全員がここにいた。


「……才覚の儀とは、

すなわち天が授ける啓示。

人が己を知り、

己が歩むべき道を()るための、

尊き導きである。

剣を授かる者は驕らず。

杖を授かる者は侮らず。

鍬を授かる者は恥じず。

いずれも天の定めし尊き役目であり……」


「才覚の儀」は朝7時から行われる。

まずはこの「才覚の儀」の実行委員長的な、長い白髭の大典卿(たいてんきょう)による、天から適職を告げられる意味などの、ありがた〜い話を延々と……延々と聞かされる。


そして8時くらいから貴族の子からひとりづつ壇上にあがって、水晶玉に手を触れていった。

その水晶玉に浮かんだ文字を白い服の男性が見て、大きな声で発表していく。


「マイス・ハンセルホーン……職業……魔導士(ウィザード)!」


「おお! やったなマイス!

 希望通りじゃないか!」


俺はその時になってやっと気がついた。

このイベントが朝の7時からはじまった、その理由を。


今年、ここで職業を授かるのは約500人。

ひとり1分かかるとして500分……。


……全員が終わるまでに8時間以上かかるじゃん!


そして職業選定が終わった者も帰る事は許されず、座ってた場所に戻る。

もっとさ! なんとかならなかったの、運営の人? 何日かに分けるとかさ!


短い昼休憩の時間になった。まだ半分も終わってない。

しんどい……これは、そうとうにしんどい……。


俺はアリーアを探した。

どこかにいるはずなんだけどな。しかし、さすがにこんなに混雑してると……。


すると後ろから俺に話しかけてくる声が聞こえた。


「……お前がロレスだな。

 平民の王都学舎の

 今年度主席卒業者だそうじゃないか」


振り返ると、高級なんだろうが正直あまり趣味がよいとは思えない派手な礼服を着た貴族の男が、2人の貴族を従えて立っていた。

なんていうか、すご〜くわかりやすいお坊ちゃんという雰囲気だ。


「……頭を下げろ」


「え?」


「お前はデリクの息子だろ?

 デリクは我が父上の部下……我が家の犬だ。

 お前がいくら優秀でも、父親と同じ平民。

 将来、お前も俺の犬にしてやるから、

 いまのうちに頭を下げる練習を、

 させてやるって言ってるんだ」


「そうだそうだ!

 犬みたいにぺろぺろって

 ギミリット様の靴でも舐めとけよ!

 平民!」


「主席卒業者ぁ?

 お前ごときはさ、

 地べたを這いつくばって生きるのが

 お似合いだよ!」


「俺の事は何を言っても

 構わないです。

 けれど

 父さんのことをあまり……」


「それ以上

 ロレスとその父を

 侮辱するのなら

 俺が許さない!」


俺の言葉にかぶさり、消してしまうような声がきた。


その声の主は……ガイナスだった。

ガイナスは俺の隣に立った。


「なんだ、貴様は!?

 王の懐刀と謳われたラインゼイル家、

 その嫡男のギミリットだと知らないのか?」


ガイナスは貴族の子を無言で睨んでいる。


「後で父上に言いつけてやる……後悔しても遅いぞ」


そんな捨て台詞を吐いた貴族の子は、取り巻きと一緒に去っていった。


「ロレス、お前のためじゃない。

 あのクソ貴族が、

 許せなかっただけだ」


「だけど、

 ああいうのに目をつけられると

 この王都で暮らすのが

 大変そうだけど」


「俺は「才覚の儀」が終わったら、

 すぐに冒険者になって王都から出る。

 だから、あんな奴はどうって事ない」


ガイナスは天井を見上げ、ゆっくりと言葉を続けた。


「お前がずっと眩しかった。

 俺には持ってないものを持っているように見えた。

 もしかしたら俺は、

 本気で戦うお前に叩きのめされたかったのかもしれないな。

 ……俺は強くなって戻ってくる。勝負しろ。

 その時は手加減すんなよ」

 

ガイナスはそれまで合わせていなかった目を一瞬だけ俺と合わせて、薄く笑った。

そして自分の席の方へ行った。


午後の部が始まった。

俺より先に壇上に上がったガイナスの職業は戦士(ウォーリアー)だった。

ガイナスは喜ぶでも残念がるでもない無表情で、発表の声を聞いていた。


……そして、ついに俺の番になった。


俺はこれからどうなるか16年前から知っているけど、本当に勇者認定されるのかは、ちょっとだけ疑っている。


……だって、あの女神様ってポンコツですから。

俺にカバディの才能を与えて日本に生まれさせるわ……前世の記憶を消し忘れるわ……。

俺の剣や魔法の能力値はたしかに高い……でも、いまいち信用ならないんです。


勇者じゃないなら計画が色々とパーになるけど……まあ、その時は、その時だ。

別な方法で、快適スローライフを目指すしかない。


俺は水晶玉に手を触れた。遠くからではわからなかったけど、水晶玉の中は光が生きているように動いていた。

発表係の白い服の男もさすがにおつかれの様子で、だるそうに水晶玉を覗き込む。


貴族の子が座る席に視線を移動させると、さっきの貴族のお坊ちゃんのギミリットがニヤニヤとした下衆な笑顔で俺の事を見ていた。


「ロレス・ラン…………えっ?」


職業発表係の白い服の男は固まり、そして壇上の後ろの方に向かって叫んだ。


「たた……大典卿(たいてんきょう)

 こちらにいらしてください!」


壇上の後ろの方にずっと微動だにせず座っていて、もしかして死んでる? と思っていた大典卿(たいてんきょう)が立ち上がり、白い服の男のそばに寄った。白い服の男は白髭の老人の耳に小声で話している。


大典卿(たいてんきょう)は水晶玉をしばらく、じっと覗き込んだ。

そして「ふーむ」と言いながら、自分の長い白髭を触っている。


「わしが……変わろう」


大典卿(たいてんきょう)が職業を発表するらしい。

どういう事だと500人は隣と顔を見合わせている。

発表役が喉でも痛めたか? というささやき声も聞こえる。


「ロレス・ランドベクト……」


大典卿(たいてんきょう)は俺の顔をちらっと一度見て、そして500人が座る方を向き、大きく息を吸った。


「職業は……」


ざわ……ざわ……。

全員の息が詰まり、視線が一点に集まる。





≪ ロレス・ランドベクトォ! ―― 職業、勇者(ブレイヴ)!!!!!!!!! ≫





会場は一瞬、静寂に沈み……

次の瞬間、爆発するようなどよめきが巻き起こった。



次回『第8話 500人の前で叫ぶのは、恥ずかしかった』

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

続きも丁寧に描いていきますので、よかったら「評価」や「ブックマーク」で応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ