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第6話 卒業の日と青い屋根瓦の宿

【15才】


俺とアリーアは下校は一緒にする事が多かったけど、登校は別々だった。

だけど、今朝はアリーアの希望で一緒に登校する事になった。


俺もアリーアも普段よりはよそ行きな感じの黒っぽい服装だ。


「ついに卒業だね、ロレス」


「卒業式の後にガイナスから、

 最後の決闘を申し込まれそうだなぁ」


「あははっ!

 最後くらいは本気でやれば?

 ロレス、絶対に勝てるもん!」


「どうだろうなぁ。

 でもそれもいいかも……んん?

 あれって……」


「あの人……デリクさん?

 ロレスのお父さんだよね?

 ……何やってるのかな」


父さんを含めて、大勢の中年男たちが膝を地面につけてお祈りをしていた。

祈りを捧げているのは、広場の中央にある女神像だった。


「父さん……。

 みんなで、なにやってるの?」


「おお、ロレスか!

 もうすぐ「才覚の儀」だからな!

 こうやってアマテ様に祈りを捧げてるんだよ、

 自分の子に良い職業を選定してくださいって!」


アマテ様というのは、この世界で戦いを司っている女神様だ。

というか……俺を転生させたあの人だ。顔が一緒だもん。


日本からインドくらいの範囲と、この異世界の一部範囲を担当している神様なのかもしれない。

ただし女神像は、俺が会った女神様とは違うところがあった。


年齢が実物よりも若い……というか若すぎる。


っていうか、なんで女児像なんだよ!!??


「な……なんていうか、

 みんな目が血走ってて、

 怖かったね、ロレス」


「卒業シーズンの風物詩らしいね……」


「もうロレスとは、

 あまり会えなくなっちゃうのかな……」


「なんで? そんな事ないよ!

 同じ城下町に住んでるんだし、

 卒業してもいつでも会えるよ!」


「…………うん」



そして王都学舎の卒業式が終わり、アリーアと一緒に下校して途中で別れた。

ガイナスから決闘を申し込まれなかったのは、ちょっと拍子抜けだった。





家までの道をひとりで歩いていると、馬車の御者同士の会話が聞こえてきた。


「……ったくよ、聞いたか?

 4年くらい前に新街道ができたワケ。

 どっかの貴族様が、郊外の愛人宅に早く行きたいからだとよ。

 でもよ、無駄な道なんて作ったら責任問題だろ?

 だから“新街道を通らない商人は信用できねえ”って圧力かけたんだと」


「なるほどね。

 それでみんな新街道を通るようになって、

 作った貴族様のメンツは守られたわけか。

 だけど旧街道の宿場は一気に客足が減っちまって……」


「青い瓦屋根の宿、知ってるだろ?

 あそこが一番キツいらしい。

 場所が悪くて人の流れから外れたんだ。

 代々続いたイイ宿だったのになぁ」

 

……青い屋根瓦の宿?

それって……アリーアの実家の宿じゃないか?


胸がざわついたけど、まだ深刻な話じゃないと自分に言い聞かせた。


「大丈夫だろ、あの宿は評判いいし……なんとかするはずだ」


でも心の奥に、薄い不安の影が残った。



家に帰った俺は日用品の買い物に行き、そのあとは母さんと一緒に夕飯の準備をした。


「卒業式の日なんだし、

 手伝わなくていいのよ、ロレス」


「いいから、いいから」


今夜の食材はいつもよりちょっと良いものだった、きっと卒業式の日だからだ。

そしてちょうど父さんが仕事を終えて帰宅したタイミングに完成した料理を、テーブルに並べた。


ローズマリーなどをすり込んで焼いた香草ローストポーク。

じゃがいもとチーズの重ね焼きグラタン風。←俺の大好物。

玉ねぎ・人参・セロリなどを干し肉の出汁でコトコト煮込んだスープ。

焼きリンゴに蜂蜜をかけたデザート。


美味しい。どれもレストランの味とは違う、家庭の味だ。


前世では実家にいた時も一人暮らしの時も、料理なんてしなかった。

作るものなんて、インスタントラーメンくらいだった。


でもこっちに来てからは積極的に料理を手伝って、学んでる。

元々は自分が目指すスローライフ生活に料理知識が必要だと思ったからだけど、今はただ単純に自分ができるレシピが増えるのを楽しんでいた。

母さんにはまったくかなわないけどね。


食器を洗った後、俺は自分の机で手帳を広げて、これからの予定を見た。


さて、あとは職業が選定される「才覚の儀」を待つだけだ。

その日は、俺の誕生日の翌日だった。


俺は「その日」を、16年待ったんだ。


女神様の消し忘れで、前世の記憶はフル残り。

でも16年もこっちの世界にいたから、細かい固有名詞や技術はボケてる。


便利知識より、“二度と無理しない”って価値観だけが残った──それで十分だ。




次回『第7話 16才……俺は勇者に認定された』

次回は、

ついに勇者に選定されるというロレスの人生にとって重要なエピソードになります。でも彼は冒険に行く気はないです。

ここまでお読みいただきありがとうございました! 


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマで応援して頂けると作者はうれしいです!

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