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第5話 突然の雨でびしょ濡れの2人

【12才】


今日は「幼馴染」のアリーアの実家……街道沿いにある、青い屋根の老舗宿屋に来た。

青い瓦屋根は、宿場ではこの宿屋だけだった。


ここには何度も遊びに来ていたから、アリーアのお母さんやお父さんともすっかり顔馴染みだ。


「やあ、ロレスくん!

 筋トレはやってるかい?

 このたくましい上腕二頭筋を見てくれ! 

 筋肉に乗せてファイアボールを投げれば、

 メテオになるんだぞ!

 さあ、腕立て伏せを僕と一緒に!」


「こんにちは、ゴテムさん。

 ……相変わらずの脳筋理論ですね」


宿で働く人たちとも仲良くなり、その中でも一番気が合ったのは、旅人や行商人の馬を預かる馬番をしてるゴテムさんというマッチョベリベリなお兄さんだった。


腕立て伏せの勧誘からなんとか逃げ切った俺は、2階奥の窓付き小部屋に入った。

部屋の中でアリーアは椅子に座って本を読んでいた。


窓から街道の様子見る。


これは気のせいだろうか? はじめてこの窓から街道を見たのは5年前くらいだと思うけど、去年くらいから極端に人通りが減っているように感じた。


王都学舎ではいつも髪を後ろで一本にまとめているアリーアだけど、部屋ではほどいていた。

本を読みながら、長い赤い髪をかきあげる仕草にちょっとドキっとする。


アリーアは読み終わった本を膝の上に置いた。


「ねえ、ロレス。

 王都学舎を卒業したら、

 すぐに「才覚の儀」ってあるでしょ」

 

「そうだね、あと……4年後くらいかな?」


「ロレスは、

 なんの職業に選定されると思う?

 剣が得意だと、だいたい剣士に選ばれたりするけど、

 でもロレスって何でもできるじゃない?」


「俺の……職業?」


「もしかしたら勇者に選ばれちゃったり?

 でも勇者って100年以上出てないし。

 そもそも平民からは無理かぁ。

 あはははは」


「……そ……そうだね。

 あはは……」


俺が選定される職業は運命で「勇者」と決まっている。

だけど普通は、「才覚の儀」の日までどんな職業になるかわからない。


「才覚の儀」では水晶玉に手を当てて、浮かび上がった職業名が読み上げられるらしい。


「才覚の儀」は、あなたにはこの職業がオススメだよ! という天啓がもらえるイベントで、べつにその職業に就く義務はない。

でも世間体や権威は絶大だから、事実上ほとんどの人は天啓通りに進む。


何が選定されるかは王都学舎の成績である程度事前に見極める事ができた。


でも魔法の成績が良くても「あなたには魔法の伸び代はない」と別な職業を天から勧められたりする可能性もあるわけで、合理的だけど、残酷なイベントでもあると思う。


「別になんでもいいかな。

 天啓に従うよ」


「私はなんの職業が選定されるのかなぁ……」


「でもアリーアはこの宿を継ぐんでしょ?

 だから別になんでもいいんじゃないのかな」


「それは……そうだけど……」



そしてアリーアが宿屋に飾る花を摘みたいというので、王都郊外の花がたくさん咲いている場所に一緒に行った。


競うように花を摘んで、それなりな収穫となった帰りだった。

急に空が暗くなって大粒の雨が降ってきた。


俺とアリーアは放棄されている農家の納屋に飛び込んだ。


「あはははっ

 私もロレスもびしょ濡れー!

 ……くしゅ! ぶるっ。

 ちょっと寒いね」


「待ってて!

 ここに炉があるから、

 服と体を乾かそう!」


干し草や古い薪もある……ちょっと拝借しちゃいますね。


俺は火の魔法で干し草に着火し、奥に積んだ薪に燃え移らせた。


昔使われていたらしい石組みの小さな炉の炎は納屋の中を温めた。


アリーアは赤い髪をわしゃわしゃさせながら、濡れた服をぎゅっと絞っている。


……服、なんか……ヤバい見え方してるんだけど!?


「ちょっと、ロレス?

 なんでそんなに顔赤いの?」


「いやいやっ!

 なんでもないっ!

 火が熱いからだよ!」


服の中まで雨で濡れていた。

俺たちは薄い肌着姿になり、脱いだ上着と靴は炉の前に並べて乾かした。

俺は上着を脱ぐ時も、体を乾かしている今もアリーアから必死で視線を逸らした。


アリーアは炉に正面を向いて体を乾かしている。

俺はその背中に対して背を向け、少し横にずれて座った。

……こうすれば、横目で見ようとしない限りはアリーアの体は視界に入らない。


俺の背中を、アリーアは指でつついてきた。


「ひいっ!

 なにすんだよ!」


アリーアは子どもみたいにケラケラ笑った。


「ロレスって、

 昔から変なとこで真面目なんだから。

 ……でも、なんか安心する」



強い雨音と薪のはぜる音に包まれながら、俺は思った。


立派な家なんかなくたって、屋根があって、風が通らず、夜に震えずに眠れたら

──それだけで、じゅうぶんだ。


なんか……しあわせだ。

ずっとこのまま、ここにいて、火にあたっていたい。


自分の求めていた、ゆったりした時間って……こんな感じなのかもな。



──しあわせなのは、アリーアがとなりにいるから?



次回『第6話 なぜか少女の女神像を拝んでる父さん』

お読みいただきありがとうございます!

次回は

「ロレスとアリーアが王都学舎を卒業する日に父親がおかしな行動をしている」お話です。

2025年9月23日。夜22時頃にアップします!


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!


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