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第49話 離婚

離婚の手続きのことをアリーアに伝えると、アリーアはさほど驚くわけでもなく明るく、軽い感じで承諾した。


俺たちは「市民記録課」の婚姻・離縁受付台に立ち、手にした用紙を無言で差し出した。

結婚が書類一枚であっという間だったように、離婚も書類一枚であっという間だった。


「あっ、そうだ!

 ガナール村で友達になった子に、

 手紙出したかったんだ!

 2階の郵便窓口寄ってくるね。

 ロレスはそこでのんびりしてて〜」


アリーアがそう言うので、俺は役場の1階にあるベンチに座って待った。


10分……20……30分が経過した……いくらなんでも遅い。


俺はベンチから立ち上がって階段で2階にある郵便窓口に行った。


「すいません。

 少し前に赤い髪の女の子が

 手紙を出しにきてると

 思うんですけど……」


「赤い髪の……ですか?

 いえ、来てませんね。

 あ〜でも、

 あなたと同じくらいの年齢の

 赤い髪の可愛らしい女性が

 半時くらい前だったかな?

 この窓口の前を通って

 外階段ドアの方に向かっていきましたけど」


……アリーアだ。

アリーアは外階段で役場から出たのか。


俺も外階段から役場の外に出たがアリーアはいない。

役場の正面の広場に移動した。

そこから周囲を見渡してみても、やはりどこにも姿は見えない。

どこに行ったんだ?


実家の宿屋……いや、違う。


アリーアのいる場所は、あそこしかない。

なぜか、それは確信に近かった。


俺は木のトンネルの坂道をあがっていく。

初夏でもここは薄暗い。そしてトンネルの先の明るい場所へと進む。


トンネルを抜けて──エウレカについた。




アリーアはすぐに見つかった。


この丘の中腹にあるひらけた土地の、すぐ下が崖っぽくなってる一番の絶景ポイント。

画家の絵に描かれていた、俺が一瞬で気に入ったその風景が眺められる場所。


そこに両膝を抱えて座る、赤い髪の毛の後ろ姿があった。


俺はアリーアのすぐ後ろに立った。


「アリーア。

 やっぱ、ここにいたんだ」


「……うん」


「どうしてひとりで

 帰っちゃったの?」


「恥ずかしくなって。

 あと、私ひどいから。

 なんだか

 顔を合わせられなくて」


「恥ずかしい?

 ひどい?」


「そう。

 すごく恥ずかしい。

 すごくひどい」


草にお尻をつけて座っているアリーアは、手で草をむしっている。


「私ね……。

 ひとりで浮かれちゃってたんだよね。

 税金のための結婚だったのにね。

 ……それに、実はちょっと思ってたの。

 ずっと、宿屋なんて立ち直らないままで、

 ずっと、このままでもいいなって」


「アリーア……」


「いやな子だよね。

 お父さんお母さんも

 従業員さんも

 みんな苦しんでるのに。

 うん……私ってひどい」


すうっと夏の風が吹いて、アリーアの髪がなびいた。


「実家の問題が解決したら

 こうなるってわかってたのに……。

 でも平気だよ、心配しないで」


「離婚の手続きが終わったら

 すぐに伝える事があったんだけどさ。

 アリーアいなくなっちゃって……」


「伝える?

 あ〜、ファリィ姫との結婚ね。

 ロレスとファリィ姫はお似合いだよ。

 勇者とお姫様だもん、まるでお伽話みたい。

 あ……気を遣って重婚とかいらないから。

 知ってた? 私って実は嫉妬深いの」


「違う、そんな話じゃない。

 俺の実家に結婚の報告をした帰りに

 アリーアは言ってただろ?

 ……ちょっと残念だったって」


「…………え?」


「プロポーズとか

 されてみたかったって

 アリーアは言ってたけど

 結婚してたらプロポーズできないじゃん?

 ……それにあんな結婚は俺はいやだ。

 だからちゃんと仕切り直したかった」


「え? え?」


アリーアは立ち上がった、そして振り返った。

アリーアの目の下には涙の乾いた跡が見える。


「ロレス……ええと……」


「俺は勇者に選ばれたけど

 魔王と戦うことは望まないで

 のんびりした生活を望んだ。

 そして、それを手に入れた」


「うん……」


「でもその生活で一番大切なものは

 この場所でも家でも畑でもないんだ……」


俺は生まれてから、前世のストレスを癒す方法ばかり考えてきた。

今度こそ、幸せに生きたいと思ってきた。


最初の頃に想像していたその幸せには、自分の姿しかなかった。

でもいつの間にか、幸せを分かち合いたい人がいるって事に気がついた。



「いつも一緒が当たり前の幼馴染だったけど

 おじいさんとおばあさんになっても

 当たり前のようにずっと一緒にいたい。 

 これからの未来を2人で経験したい。

 ……俺の人生には君が必要だ。

 結婚してほしい。

 大好きなんだ、アリーア」



ひとりじゃなくて、ふたりで幸せになりたい。

生まれ変わって、アリーアと出会えて良かったと思ってる。



アリーアの猫のような目の瞳孔が開いたような気がした。

その大きな目から大粒の涙がぽろぽろと溢れた。


アリーアは倒れ込むようにして俺の胸に頭をつけた。

俺の背が少し伸びたのか、アリーアは意外と小さくて華奢に思えた。





「ロレスのバカー!」


アリーアはぽかぽかと体を殴ってきた。




次回「最終回 笑顔の肖像画」

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