第42話 応接の間
ここじゃ誰に聞かれるかわからないからと、俺とアリーアとガイナスは人目につかない裏通りに移動した。
「ラインゼイル侯爵って
私でも知ってるくらい偉い人よ。
なんで女神像を集めてるんだろ?」
アリーアの質問に「目的はわからない」と答えながら、ガイナスは旅の荷物を地面におろした。
そして水筒の水を一気に飲み干してから自分の知っている情報を話し始めた。
「大昔の勇者が作った女神像が
他にもあるのを知った俺は、
もしかして……と思って
見て回ったんだ。
そしたら案の定なくなっていた」
女神像調査の旅はそうとうにハードだったのだろう。ガイナスの顔には疲れが出ていた。
「じゃあ盗まれた女神像はどこにって
古物商とか情報屋を当たってみたら、
“どこかの偉い貴族が、似たような像を集めてる”
って噂が出てきた。
で、その取引に関わったって商人が
ポロっと言ったんだ……」
ガイナスは俺の目をじっと見つめる。
「 “あの仕事は王の懐刀のお偉いさんの案件だった”ってな」
「……そっか。
だけど侯爵が盗んだという
決定的な証拠はないんだね」
「ああ、
それに相手は侯爵だ、
平民の冒険者が仕入れた情報なんて
誰にも相手にされない!」
ガイナスは裏通りに置かれていた古い樽を拳で殴った。
ガナール村の魔獣と戦った俺としても、なんとかしたいというガイナスの気持ちはよくわかった。
俺も……自分ができる事をしないといけない。
「今から
ラインゼイル侯爵に会ってくるよ」
「……ロレス」
「本当に侯爵が女神像を集めているのか
真偽がわかるかもしれないし、
もし集めていたとしても
被害がおきているのを知ったら
戻してくれるかもしれないからね」
「ねえ、ロレス。
今からって、
それはさすがに無理じゃない?」
俺はアリーアとガイナスに勇者特典の【各国の王族貴族への面会の権利】の事を伝えた。
勇者の都合でいつでも面会できるし、誰であっても拒否することはできない。
それに……突然押し掛けた方が調査するには得策に感じた。
アリーアとガイナスは、アリーアの宿屋で俺の報告を待っててもらう事にして、俺は貴族の居住区に向かった。
ラインゼイル家の屋敷の場所は銀獅子門の守衛さんに教えてもらった。
貴族の屋敷が立ち並ぶ中でも、ひときわ高い塀に囲まれたその屋敷は、まるで一つの要塞のようだった。
門まで出てきた執事の老人に勇者特典の【各国の王族貴族への面会の権利】の事を伝えると、しばらく待たされた後に敷地内の通された。
俺は緊張を隠せないまま広い中庭を歩いた。
よく手入れされた低木と花壇。庭のシンボルとなっている噴水。
ラインゼイル伯爵だろうか……馬にまたがり剣を突き上げる男の像。
すべてが、権力と余裕の象徴って感じだった。
「こちらへどうぞ。
侯爵閣下がお待ちです」
案内されたのは、屋敷の東棟にある応接の間だった。
磨かれた黒曜石の床、天井から吊られた巨大な燭台、壁には年代物の油絵。
そして、部屋の奥に静かに椅子に座っている男がひとり。
年齢は五十手前くらいに見える。
肩まで伸びた髪に、刺繍入り上衣。
立ち上がることもせず、ただ俺を見据えていた。
「アズマール・ラインゼイルだ。
ようこそ……勇者殿」
その声は低く抑えられていて、それでいて、こちらの心の内までも見透かしているかのようだった。
「ラインゼイル侯爵……
本日はお時間をいただき
ありがとうございます」
俺が深く一礼すると、彼は軽く指を動かした。
「まあ、座りたまえ」という意思表示だろうけど、もはや命令のようにも聞こえる。
「本来ならば平民の為に
貴重な時間は割かないが
勇者特典とやらがあるので仕方ない」
俺は頷き、彼の前にある豪奢な椅子に腰を下ろした。
「さて、勇者殿。
何かご用ですかな?」
部屋には執事の老人が残っていた。
「ふたりきりで話したいのですが
よろしいでしょうか?」
伯爵は俺を品定めするように見てから、犬を追い払うような手つきを執事に向かってした。
執事は部屋から出ていき、重厚なドアが閉まる音が響く部屋には独特な緊張が漂っている。
「…………それで?」
侯爵はなんでも話してみろ、という態度だ。
この男には変な小細工はしない方がいいと直感した、単刀直入に聞いてしまおう。
「過去の勇者が作ったという伝説が残る
女神像は……ご存知ですか?」
侯爵は表情を変えない、それどころか口元には余裕が滲んでいた。
次回『王の懐刀と呼ばれた男』
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次回は「心変わりしたある人物が、重要な情報を持ってくる」お話です。
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