第41話 甘味街道
美味しいとは思うけど……ワサビソフトがここまで人気になるとは……。
どうやら最初は賛否両論だったらしい。
たしかコーラがはじめて日本に上陸した時も「薬のような味だ」と言われて賛否両論だったという話を思い出した。
未体験の味というのは、どうしても受け入れられない人が出てくる。
最初は新しいもの好きな若者がお客としてきたそうだ。
不思議な味だと戸惑っていた客が、「クセになる」と翌日も来て、そのうち口コミで王都の城下町全体に噂が広がり、貴族も使いを出して購入しはじめた。
神野菜ソフトの販売は、アリーアの宿屋の入り口近くに作った小さな屋台でやっていた。
収穫したばかりのワサビを届けに行くと、ちょうど今日の分のソフトクリーム販売が終了したところだった。
「ゴテムさん、
おつかれさまです!」
「おおっ、ロレスくん!
僕の上腕二頭筋と三角筋を
見てくれたまえ。
撹拌機を毎日回してるおかげで
さらにたくましくなってるだろ?」
「大繁盛みたいですね。
あと、来る時に気がついたんですが、
周りの宿屋にも
人が立ち寄っているみたいなんですけど……」
「そうそう!
神野菜ソフトを求めて
旧街道に人が来るようになっただろ?
それで周辺の宿もスイーツや料理を開発したんだ。
最近じゃ甘味街道って呼ばれはじめてるよ!」
新街道ができた事で一番被害を受けたのはアリーアの宿屋だったけど、もちろん他の宿屋も客が減っていた。
なのでどういう形であれ、旧街道に人が来てお金を落としてくれるのは良い事だ。
……しかし肝心の泊まり客の数は戻ってはいなかった。
王都の住人が、わざわざ城下町の宿屋を使うことはない。利用するのは他の都市や他国からの交易商や旅行者がほとんどだ。
しかし(噂話が本当なら)貴族が新街道を使うようにと交易商に圧力をかけている。
なので交易商に関しては現在も旧街道には寄り付かなかった。
「ロレスー!
じゃあ、帰ろっ!」
俺と一緒にワサビを届けにきたアリーアは、俺がゴテムさんと話している間、宿の中で両親と会っていた。
アリーアのお父さんお母さんは以前よりずっと明るい表情だ。
まだ泊まり客は戻っていなくても、みんなの笑顔が戻ってきているのは嬉しい。
「お父さんもお母さんも
すっごく喜んでたよー」
「うん。
でも神野菜ソフトは、
今は流行っているけど
いつまで行列が続くかわからないから、
違うメニューも考えたいよなぁ」
「……生の魚はなしだからね。
あれを美味しそうに食べてたロレスの姿、
夢に出てきちゃったんだからね!」
アメリカ人のように、カリフォルニアロールから慣れてもらうしかないのだろうか?
やっぱり宿屋になんとか客を戻したいよな、と考えながら歩いていると大きな声で呼ばれた。
「ロレス!」
声の主は……ガイナスだった。
「ガイナス!
王都に戻って来てたんだ?」
「お前の実家に行ったら
旧街道のアリーアの宿屋に
いるかもしれないと言われて
向かってたところだ。
……お前に話がある」
ガイナスとはガナール村での魔獣討伐以来だった。
たしかガイナスは、大昔の勇者が作った女神像の行方を調査していたはずだけど……。
「ガナール村以外の村でも、
さらには他の国でも
勇者が作った女神像が
なくなっていることがわかったんだ」
「マジか!?
じゃあ他の場所でも魔獣が
出現してるのか?」
「ガナール村ほどじゃないが
それなりに被害は出ている。
だがこれからどんな厄災が起こるかはわからない。
なにしろ魔の力を弱める為に置かれた
女神像がなくなってるんだからな」
「そうか……だけど、
いったい誰がなんの目的で
女神像を持ち去ってるんだろう」
「才覚の儀の時に
お前をバカにしてきた
貴族の息子を覚えているか?」
「ああ……ええと、
ギミリットだっけ?」
「勇者が作った女神像を
盗んでいるのは
そのギミリットの父親。
王の懐刀にして、王国第一の名門、
……ラインゼイル家を率いる男、
アズマール・ラインゼイル侯爵だ」
──この国に住んでいれば誰でも知っている。
その男は王家を除けばこの王都での一番の権力者だった。
次回『第42話 応接の間』
お読みいただきありがとうございます!
次回は「真偽を確かめる為に侯爵の立派なお屋敷に行く」お話です。
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