第22話 神肥料を届けに来た人に困惑する
自分の土地を「エウレカ」と命名した翌日、俺はエウレカで人を待っていた。
役場の話では今日の朝に“神肥料”が届けられるらしい。
どんな人が持ってくるんだろうか? おっさん? 爺さん?
農具で意味もなく土を掘ったりしていると、木のトンネルを抜けて編みカゴを背負った人がやってきた。
女の人だった。
年は……たぶん四十代前半くらい?
その顔立ちもスタイルも、ちょっと現実離れしてて、グラビア雑誌から出てきたような感じのアダルトな雰囲気の大人の美女だ。
上は黒のタンクトップ一枚で、肩と腕が丸見えだった。
下はぴったりした革のズボン。お尻や太ももが強調されてて、正直……すごく目のやり場に困る。
ロングの茶色の巻き髪が軽く風が吹いただけで、ふわって揺れている。
とにかく、とんでもない“色気”がこっちに向かって歩いてきた。
そして俺の前まできた女の人は、背中の編みカゴを地面にどさっと下ろした。
「はぁい、私はノーラ。
あなたが勇者くんね。
神肥料持ってきたわよ」
「ありがとうございます。
女性が来るとは思ってませんでした」
「もう、重かったわよ。
肩こっちゃった。
ねえ……揉んでくださらない?」
「肩を……ですか?
は……はい」
言われるがまま、俺はノーラさんの肩を揉んだ。
俺が指に力をいれるたびにノーラさんは「はぁん」「いいわぁ」「もっとぉ」と声だけ聞かれたら、なにか勘違いされそうな妖艶な声をだしている。
肩揉みが終わり、ノーラさんは神肥料の説明をしてくれる事になった。
「一角獣の堆肥に様々なものを混ぜて作る
私の一族秘伝の肥料……それが“神肥料”。
ただの白い粉みたいだけど、
ひと握りでも土を劇的に改良するのよ。
神事に使われる事が多いわね」
「薬草や野菜の効果や味が
かなりアップするって聞きました」
「そうね、あとは……。
収穫がすっごく早くなるの。
勇者くんは農業の経験は?」
「本とかで勉強はしましたけど、
実際にやるのはこれがはじめてです」
「あら……うふふ」
ノーラさんはふわりと髪をかき上げた。そのゆっくりと動く指先が艶めかしい。
そして俺の耳元に唇を近づけて、息を吹きかけながらつぶやいた。
「初体験なのね……かわいい。
じゃあ私が手取り足取り
……教えてあげる。ふぅぅぅ」
「ひゃう!
は、はい、お、お願いします」
なんなんだ……この人は……なにかが変だぞ!
ノーラさんが持ってきたのは神肥料は30キロ。
この広さの畑なら、これで十分らしい。
まずは神肥料を小型シャベルでパラパラと土に撒いた。
「普通の肥料ならこのまま
1日は寝かせた方がいいけど、
この神肥料なら気にしなくてもいいわ」
土を混ぜ込んでなじませる。土の色が少し黒みを帯び、指でつまむとしっとりとほどよく湿っていた。
「あらあら、そんなに早くかき混ぜちゃって。
もう若い男の子って、ガッツキすぎね。
でも、そういうのも嫌いじゃないの……ああん」
あのう……。
そう指をくわえて物欲しそうな目でじーって見られてると落ち着きません。
次に種まきと苗の植え付けだ。
種からはニンジン、タマネギ、カボチャ、トマト、ナス、ハーブ類。
苗で植えるのは、ジャガイモとサツマイモ、これはどちらも貯蔵がきく。
これらは俺が用意してたものだ。
「指で1cmくらいの溝をつくって
等間隔で種を落とすの」
「こんな感じですか?」
「あんっ、いいわよ。
そして土をかぶせて、軽く押さえるの。
乱暴はダメよ。
私に触れる時みたいにソフトタッチでね」
「はい、ノーラさんに触れる時みたいに……って。
誤解を招くような表現はやめてください!」
ノーラさんは苗の植え方を実演して見せくれた。
しゃがんで植える姿は、妙に形のいいお尻を俺の方に強調しているようだった。
まさか、わざとじゃないよな……?
そして俺がやる番だ。
苗は根が傷まないようにそっと穴に差し、軽く土を押し固めていく。
我ながらけっこう手際よくできてると思う。
ノーラさんも褒めてくれるんじゃないかな?
「本当にはじめてなの?
腰使いが素晴らしいわよ!」
「ありがとうございます!
うわ、なんか、うれしいなあ」
「夫なんかより……全然すごいわ!
もう私は勇者くんの……ああっ!
……あなた……ごめんなさい……」
俺をNTRモノの間男みたいにしないでください。
てか、結婚してたのっ!?
頼むから俺をからかってるだけであってほしい……もしいつもこうなら、旦那さん、なんとかした方がいいです。
石花壇にはバジル、ローズマリー、カモミールを植えた。
虫除けにもなるし、乾かして茶にすれば夜の楽しみにもなる。
最後に水を撒いて、作業は終了となった。
「あなたの畑、
肥料を吸ってふっくらしてきたわねぇ。
あ〜感じちゃうわ、土の鼓動」
わあ、だんだんこの人に慣れてきたぞ!
人間の適応力ってすごいや!
「野菜にあげる水って基本的には
自然の雨ですよね?」
「そうね。
でもずっと雨が降らない時は
勇者くんが水をあげないとだめよ。
……ここに水はあるのかしら?」
俺はノーラさんを露天風呂まで連れていった。
「俺が水源から引いてる水は
12時間くらいでこの風呂をいっぱいにします。
畑の水の量に足りますかね?」
「このお風呂2杯分のお水が
1日で使える量ってことなのね。
なら、大丈夫よ。
でもお風呂で使っちゃうと足りないわね。
お風呂の中には石鹸や香料は入れないで
翌日冷めた残り湯を畑に使えばいいと思うわ」
「あっ! なるほど!
そうですよね、水は貴重だから
そうやって使ってかないとですよね」
こういうアドバイスは助かる。
なんだかんだ丁寧に教えてくれていい人なのは間違いないんだよな……変な人だけど。
ノーラさんは空の編みカゴを背負った。
「ノーラさん。
色々と教えていただき
ありがとうございました!」
「来月また神肥料を持って来るわ。
今度はもっとすっごいこと
教えてあげるから……それまで我慢しててね」
そしてノーラさんは腰をセクシーに振りながらエウレカから去っていった。
そうですか……毎月これがあるんですか……。
耕し始めてから、4日目で畑になった。
ここが見渡す限りの、土と緑の小さな楽園になるのか。
──とても楽しみだ。
次回『第23話 不用品は宝の山』
お読みいただきありがとうございます!
次回は
「ボロボロのものでも自分にとってはキラキラした宝物に見える」というお話です。
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