第21話 この場所の名前は「エウレカ」にした
朝、役場で勇者特典の【聖域の立ち入りの権利】と【薬草、農作物が最高品質に育つ神肥料の提供】を申請した。
この1週間で、何度目の役場だろう。
このままだと“行政手続きマスター”の称号がつきそうだ……。
役場での申請関係が終わり、クワとスコップと土ふるいを持って自分の土地に来た。
これらの農具は昨日の宴会で「古くていらないのあれば回収しまーす!」と言ってまわって、従業員さんたちから提供してもらったものだ。
畑にする予定の土地は石はもうない。だけどけっこう雑草に覆われていた。
踏み分けて歩いてみると、思ったより広い。
コンビニの店内よりちょっと広いくらいかな……?
まずは草を刈って根まで掘り返し、固く締まった土をクワでほぐしていく作業が延々と続いた。
作業の合間に背を伸ばして、腰を叩いた。
春先のはずなのに、じんわりと汗がにじんでくる。
ひとりでやるには、やっぱり大変だ……でも、がんばらないと。
まだ庭の面積の半分も終わってなかったけど、夕方前になってきた。
続きはまた明日だ。
実家に戻る前に商人さんの息子の勉強を見てあげないといけない。
商人さんは城下町で雑貨商を営んでいた。
銀獅子門へ真っ直ぐ伸びる大通りがある。その大通り沿いにあるお店で繁盛している感じだ。
俺はお店に入って、昨日ゴテムさんと話していた商人さんを見つけ、声をかけた。
俺が勉強を見るのを承諾した事はもう伝わっていたようだった。
「おおっ、これはこれは!
わざわざ本当にありがとうございます!
うちのバカ息子をよろしくお願いいたします!」
俺は店の二階にある息子さんの部屋に通された。
部屋に入ると、10歳くらいの少年がすでに机についていた。
「はじめましてロレスです。
短い間だけどよろしくね。
君の名前は?」
「ロニーです!
王都学舎の4年生です!」
とりあえず今日はロニーが一番苦手らしい算術を教えた。
「勇者様の公式使うと
問題が解ける!
すげー!! 」
「……その公式、
絶対に王都学舎で習ってると思うけどね。
まあ、やる気出てくれるんなら
なんでもいいけど……」
そして俺は帰り際に「これは勇者からの試練だ」と言って計算問題を書いた宿題を渡した。
ロニーが「うぉぉぉ!」と燃えている姿を見て、商人さんはすごく喜んでいた。
翌日はまた耕作作業の続きをして一日を過ごした。
夕方からはロニーに国語を教えた……宿題もちゃんとやっていた、偉い!
そして耕しはじめてから三日目、畑はほぼ耕し終わった。やっとだ……つかれた。
終わったくらいのタイミングでアリーアがやってきた。
「ロレス慣れない事して
疲れてるだろうなって思って、
フルーツ持ってきたよー。
甘いお菓子もあるよー!」
「わあ、ありがとう!
うれしい……いまちょうど甘いものが
欲しいって思ってたんだ」
「えっ?
これひとりで全部耕したの?
すごい……がんばったね!」
俺とアリーアは絶景ポイントに座って果物とお菓子を食べた。
「ロレス。
残った2枚のクッキー、
チョコ多い方と、少ない方、
どっち食べたい?」
「いや、選ばせる風だけど、
どうせどっち言っても
チョコ少ない方になるんだろ?」
「えー? そんなつもりなかったのになー?
……ひどいから、罰としてあなたには
チョコ少ない方を渡します」
「ほらね! 完全に茶番じゃん!」
「覚えておきましょう。
チョコは女子のものなのです、もぐもぐ」
おやつタイムが終わって立ち上がったアリーアはスカートをパンパンと叩いて草を落とした。
「ねえ、ロレス。
この場所の名前って決めないの?
いつまでも
丘の上の廃墟とか、俺の土地とか
言ってないで決めた方がいいと思うの」
「この場所の……名前……か」
意外とパっとは出てこない。むずかしいな。
この土地のイメージから連想すればいいのか?
たとえば「忘れさられた」「歴史から消えた」「もう誰も使わない」そんな言葉から連想を……。
おぼろげながら浮かんできたんです。
アゲぽよ……リア充爆発しろ……白いたい焼き……という言葉が。
いやいや、「ようこそ、ここが俺が住んでる“白いたい焼き”です!」……はないだろ!
発想を変えよう。俺がこの場所の存在をはじめて知った時に思った事は?
たしか絵描きさんからこの場所からの風景画を見せてもらって……。
そうだ、「見つけた!」と思ったんだ。
見つけた…………「エウレカ」だ!
「アリーア。
この場所の名前は
エウレカにするよ」
「エウレカ?
エウレカってどういう意味?」
「エウレカってのはさ、
古代ギリシャ語で……」
「んっ??
古代ギリシャ語ぉ?」
しまった。この世界にはギリシャなんてないじゃん。
まあ、俺も古代ギリシャ語なんて知らないけどね。エウレカってのがゲームとかアニメで何度か出てきたから「どんな意味なのかな?」って調べたら「見つけた!」って意味だと知っただけだ。
「エウレカってのは、
えーと……太古にあった国の言葉で
“見つけた!”って意味なんだ」
「へぇー。
……はは〜ん」
え? なに?
その痛い人を見る目は……。
「はいはい。
8年生くらいがかかる、
思春期特有のアレね?
それって自分で作ったの?
でも古代ギリシャって……ぷぷぷ」
完全に厨二病認定されてるんですけど!
ほんとにあるんだから! こっちにはないけど、あっちにはあるんです!
「でもエウレカって
……ちょっといいかも」
「アリーア、ほんと?」
「うん。
いいと、思うよ。
それでエウレカを
次はどうする予定なの?」
次回『第22話 神肥料を届けに来た人に困惑する』
お読みいただきありがとうございます!
次回は
「思ってたのとなんか違う感じの人が神肥料を届けにきて、その人に困惑しながら農業を教わる」お話です。
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