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第20話 おつかれさまの宴

俺の拠点に水が来た。


俺1人じゃ無理だった。みんなが協力してくれたからできたんだ。


神殿がある丘の上で最後の確認をしていたライデムさんが、満足げに降りてきた。

ライデムさんは笑顔で親指を立てた。


ひとり熊牧場のベリムスさんは指につけた水をぺろっと舐め、土木師スキルで使える「水鑑定」で水質を検査した。


「……うむ。

 水質は問題ない。

 さすが神殿の水だ、

 問題ないどころか殺菌効果もある。

 ……飲んで大丈夫だぞ」


ベリムスさんは「戦士スキルレベル23の土木師」だ。

マッチョさん達の話では元凄腕の冒険者らしい。落ち着いた性格で頼り甲斐のあるベリムスさんはきっとパーティーメンバーから信頼されていたんだろうな。


「なんと美しい水でしょう。

 勇者様が使われる水にふさわしい。

 私が作った露天風呂で湯にして浸かれば

 勇者様の筋肉も輝きを増すはず」


僧帽筋の貴公子・セールさんは王都の城下町で鏡職人をしていると本人から聞いた……それを聞いた時、鏡に囲まれた部屋でポーズをとってうっとりしている姿が眼に浮かんだ。


「神殿からの帰り

 もう面倒だから、

 コロコロ転がってこようと思ったっス!

 それにしてもこの水……いやあ、うまいっスね!」

 

巨漢のライデムさんは、マッチョさんたちから可愛がられている。年齢が一番若いからというよりは、なんか可愛いからだろうな。

ライデムさんが働いてるピザ屋さんは今度アリーアと行ってみよう。


寡黙な巨人のドミンさんは、無表情で水を飲んでいる。

みんなドミンさんの職業は知らないらしい、何者なんだろう……でもこの人の準備とパワーのおかげで石を早く割ることができたんだ。


ドミンさんと目があった……その目が微かに笑っているのがわかった。


みなさん本当に良い人たちだった。

そして、この人たちを連れてきてくれたのが、アリーアの宿屋の馬番のゴテムさんだ。


「ゴテムさん、

 ありがとうございました!」


「いやいや。

 ……それでね、ふふふ。

 じゃあ宿の新オーナーからお願いします」


アリーアはコップの水を一気に飲み干すと、まるで女将さんのようにキリリと背筋を伸ばした。


「皆様、

 ささやかですが、

 うちの宿屋で

 労をねぎらう宴のご用意をしています」


「宴!?

 ……アリーア達。

 そんなの用意してくれてたのか?」


「従業員のみんながね、

 料理作って待ってるの。

 ……ロレスが宿を立て直すきっかけをくれて、

 ゴテムさんのお友達がロレスを助けて、

 そのお友達を宿屋の人間がねぎらう。

 しあわせがクルクル回ってて、よくない?」

 

と人差し指をクルクル回して言ったアリーアは、その指をこの丘から見える王都に伸ばした。

 

「じゃあ、これから

 行きましょー!

 お疲れ様でしたー!」


俺も含めて全員、「お疲れ様でしたー!」と大きな声でアリーアに続いた。



宿の一階にテーブルを出して作った宴会場はとにかく賑やかだった。

アリーアのお父さんお母さん従業員さんだけじゃなく、泊まり客まで旅先で仕入れた珍味を「これよかったら」と持ち寄ってくれて、宴はすっかり大家族のような雰囲気になっていた。


そうそう、この宿屋の納税問題を知った日の朝に俺が買った菓子も、テーブルに出した。


「あんたたち結婚式してないし」とアリーアのお母さんが、俺とアリーアを宴の上座に雛人形のように並んで座らせた。これはちょっと気恥ずかしくて、アリーアと顔を見合わせて一緒に変な笑い顔をした。


宿の入り口で男性と話していたゴテムさんは、男性が去ると俺の隣にやってきた。


「ロレスくん……いいかい?

 ちょっと頼まれてしまったんだ」


「さっき入り口で話してた男性ですか?」


「うん、あの人ね

 いつも馬を預けてくれる

 常連の商人さんなんだけどさ。

 息子さんの勉強のことで

 ずっと困ってるそうなんだ。

 先生を雇っても長続きしなくて……」


俺は黙って耳を傾けた。ゴテムさんは、少し気まずそうに続きを話す。


「……それでロレスくんが

 魔王討伐には行かないって僕が話したら、

 勉強見るのをお願いしてもらえないかって言われてね。

 ロレスくんが王都学舎の主席卒業者だって知ってたらしいんだ。

 もちろん、無理にとは言わないよ」


「あそこでの環境が整うまで

 ……たぶん1−2週間かな?

 それまで実家には毎日戻るんで、構わないですよ。

 俺でよければ、帰るついでに寄ってきます。

 あんまり立派な先生じゃないですけどね」


「助かるよ。

 大事な常連さんでね」


「ロレス、ありがとう。

 でも無理な日は、無理でいいからね」


「うん、まあ短い期間だし」



とりあえず俺の、この先しばらくの予定が決まった。

明日の朝、役場に行って【聖域の立ち入りの権利】を申請してこよう。そしてついでに【薬草、農作物が最高品質に育つ神肥料の提供】の申請だ。


まずは畑を作る、畑が出来上がったら次は廃墟砦のリフォームだ。

それを昼間にやって、夕方実家に帰る途中で商人さんの家に寄って息子さんの勉強を見てあげる。


リフォームがそれなりに終わったら生活拠点を向こうに移す。



──それでようやく俺の暮らし……スローライフ生活がはじまるんだ。




次回『第21話 この場所の名前は「エウレカ」にした』

節目の20話まで読んでいただき、ありがとうございます。

この作品は全50話前後を予定しており、完結までしっかり書くつもりです。

☆やブックマークのひとつひとつが、執筆を続ける力になります。

少しでも心に残るものがあれば、応援していただけると嬉しいです。


次回は「商人の息子の勉強を見たり、畑を耕したり、場所の名前って大事だよね?」という話です。

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