第15話 緊急報告・結婚する事になりました
アリーアの両親の部屋で話す事になった。
お父さんは、いかにも人の良さそうな丸眼鏡のおじさん。
お母さんは、アリーアと同じ赤い髪で、猫っぽい目もアリーアとよく似ている。
喧嘩しているところを俺は一度も見たことがない。仲のいい夫婦だ。
「いやあ、
あのロレスくんが勇者になるなんて、
本当にびっくりしたよ!
なぁ、母さん」
「勇者様だなんて、
もう住む世界が違ってしまったわね。
アリーアと仲がいいから
ロレスちゃんがおムコさんになるのかな?
なんて思ってたのにねぇ」
「おっ、お母さん?
そんな事、思ってたの!?」
「うふふ、お母さんわかるもん。
あなた……ロレスちゃんと……」
「なんか変なこと、言おうとしてる!?
私とロレスは……お、幼馴染なだけなの!」
アリーアのお父さんは「こほん」と咳払いをして、アリーアとお母さんの会話を止めた。
「……それでロレスくん。
この宿の将来の事で
話があるそうだけど」
「はい……この宿を救いたいんです」
「その気持ちは嬉しいけど、
しかし……それは無理だよ」
自分が知ってるアリーアのお父さんはいつも明るい笑顔だったが、今はすべてを諦めたような顔をしていた。
俺は自分の「計画」を話した。
「……まず、
アリーアのお父さんは
この宿の経営権を
アリーアに譲ってください」
「んん?
経営権をアリーアに?
つまりアリーアを
この宿屋の主人に
するってことかい?」
「そうです。
一時的でも構いません。
経営が立ち直るまでで」
アリーアとお父さんとお母さんは「どういう事だろう?」と顔を見合わせて、首をかしげている。
「アリーアを経営者にします……そして……」
俺は、少し緊張していた。
そりゃ、緊張するに決まってた。
《そして俺と……アリーアが“結婚”します》
しーん。
世界から、音が消えた。
そしてその静寂を先頭切って破ったのはアリーアだった。
アリーアは混乱して、手の動きがおかしな事になっていた。
「ロロッ ロレスゥ!?
けけけけっ 結婚!?
ななななななな……
何わけわかんない事言ってんの?
正気!? へんなキノコ食べた!?」
「ねえ、ロレスちゃん。
アリーアを宿の主人にしてから、
ロレスちゃんと結婚って、
どういう事なの?」
「ご存知のように俺は勇者です。
実は勇者になると国から10個の
勇者専用特典ってのが貰えるんです。
その中に、
【勇者世帯の納税免除の権利】というのが
あります」
「世帯の納税……免除……。
なるほど、そういう事か……」
お父さんはすぐに理解したようだった。
「勇者と世帯を一緒にする者……勇者の妻が
やっている商売は税が免除になります。
つまり、アリーアがこの宿の主人になって
俺と結婚した場合、
この宿は税を納める必要がなくなります」
これならば、とりあえず借金の方は返済できる。
アリーアが貴族の妾になる必要もないし、
この宿屋も差し押さえにならない。
これしか、方法はなかった。
しかし、アリーアのお父さんは腕を組んだまま考え込んでいた。
「たしかに、うちの宿屋は助かる。
とても、ありがたい申し出だけど、
その為に結婚というのは……」
まあ……形式上はちょっと変わった結婚ですけどね。
あー……その……いわゆる“偽装 (ごにょごにょ)”というか……。
「ロレスくん!
たとえば……たとえばの話だよ?
ロレスくんが本当に結婚したい
相手と出会ってしまったら
どうするんだい?」
「たとえばの話ですね?
まあ……一応、勇者特典には
【重婚の権利】というのあるんで
問題ないですけど」
「……重婚の……権利?
ロレス?
それって、どういう事なの?
あなたってそういう……。
えっ……信じらんない……」
「お……俺が作った制度じゃないよ!
元からあるんだから仕方ないだろ!
そんなの使わないし!」
「ロレスくん。
……本当に構わないのかい?
こんな形でアリーアを
嫁にもらってしまって」
「俺はアリーアと
アリーアが大好きな人たちを救いたい。
それが結婚で可能になるなら、構いません」
「アリーアは?
ロレスくんと結婚するのか?」
部屋の中の全員の視線がアリーアに集中した。
アリーアはしばらく目を瞑って無言になったあと……自分の両親の方に顔を向けて、深くお辞儀した。
「お父さん、お母さん、
いままで育ててくれて
ありがとうございます。
アリーアは……お嫁に行きます」
「アリーア!」「アリーア!」と両親はハモった。
え、ええ〜?
……なんでホームドラマの結婚式前みたいな雰囲気になってんの?
書類上の結婚ですよ?
アリーアのお父さんは税金免除の特典にずっと甘えるつもりはなく、いまあるお金は借金返済に全部回して。それから宿屋の状況をなんとしてでも立て直すと俺に約束した。
なるべく早く【勇者世帯の納税免除の権利】は解除したいらしい。
徴税官が来るのは明日だ。動くなら、すぐに動いたほうがいい。
俺とアリーアはまずは商人ギルドへ行って、「経営権譲渡届」を提出。その次は役場に行って「婚姻届」を提出した。
これで俺とアリーアはカタチ的には正式に夫婦となった。
不思議な感じだ……そりゃそうだ、今朝起きた時には考えてもいなかった事なんだから。
アリーアは婚姻届に名前を書く時も、書いた後もぼーっとした顔をしていた。きっと俺と同じ不思議な感覚なんだろうな。
そして最後は【勇者世帯の納税免除の権利】の申請だ。
なんだこれ……勇者なのに冒険しないで、ギルドと役場を回って事務手続きをしてる。
土地を手に入れた時に対応してくれた申請窓口の高周波ボイスお姉さんは「ちょっと待っててくださいね」と言って、奥の方の席の(おそらく上司なのだろう)チョッキ姿の男性のところに行った。
あれ……まさか、何か不備が?
チョッキの男性は窓口で待っている俺のところにやってきて、「経営権譲渡届」と「婚姻届」を確認した。
「ふむふむ。
勇者様はつい先ほど
入籍なされたのですな?」
「は……はい。
それでこの子が……」
「ロレスの妻のアリーアです」
アリーアは堂々とそう言ってから、俺を見てウィンクした。
な、なんだよ、いまの……すげえドキっとしたぞ。
いやいや、なんでそんなノリノリで当たり前みたいに“妻”とか言えるの?
……ていうか俺、顔が熱くなってないか?
「ご結婚おめでとうございます!
では奥様が経営者となっている宿屋に、
【勇者世帯の納税免除】を適用いたします!」
「はあ、よかった。
……でも世間的に俺って
“脱税勇者”とか言われないですか?」
「勇者様。
これは“抜け道”ではありません。
国が勇者を支えるために定めた
正式な制度です」
そしてチョッキの男性は俺の耳元でささやくように言った。
「……それとですね、正直なところ、
活用実績があると“うちの課”としても
面目が立ちますので色々ありがたいのです」
役所にも事情があるってことか……でも、モヤるんだよなあ。
そもそも勇者特典って、ちょっとズルいよね。
それを俺は「楽に暮らしたい」っていう、世間から見たらしょーもない夢のために使うって決めてるんだけどさ。
まあ今回の件に関しては……国が貴族の言いなりになったせいで起きた話だし、一番被害受けたのはアリーアの実家だしな。
他の宿もなんとかなればいいけど、今はそこまで余裕ないや。
とにかく、これでしばらくは宿屋が差し押さえにはならない。
ふと隣を見ると、アリーアは口をぽかっと開けて役場の天井をじっと見つめていた。
アリーアが何かに気がついた時のいつものクセだ。
「ねえ、ロレス。
私とんでもない事に
気づいちゃったんですけど」
「とんでもない事?
なにかまだ他に大きな問題が!?」
「大きな問題といえば大きな問題かなぁ?
私たちの結婚ってさ、
ロレスのお父さんとお母さんに
何も言わないで……勝手にしちゃったよね」
「…………あっ!」
忘れてた。
次回『第16話 本日の日替わりプレート』
お読みいただきありがとうございます!
次回は
「本当は魔王討伐に行きたいんでしょ?と疑ってくるアリーアをスローライフ拠点につれていく」お話です。
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