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第14話 納税問題

理想の土地にあった石を撤去できないまま帰ってきて、その翌朝。

俺は母さんが朝食を準備する音で目が覚めた。


朝食は、硬い黒パン、残り野菜と豆を煮込んだ塩味のスープ、ハーブ入りのチーズだった。

勇者になる前と変わらない、けっして豪華ではないけど、ほっとする味だ。


父さんは、ちゃんと噛んでいるのか怪しいほどの早さでそれらを胃袋に入れ、仕事へ向かっていった。

俺は役場が開く時間まで、母さんとおしゃべりしながらゆっくりと食べた。


そして朝食を終えて、家から歩いて15分くらいにある城下町役場に行った。


申請関係窓口の人は、高周波ボイスを響かせながら超音波で笑う愛嬌のあるお姉さんだった。

声優なら間違いなく人外マスコットキャラ専門な、そのお姉さんに勇者特典の【未使用の土地を自由に開拓・拠点化できる権利】を使いたいと伝える。

俺が廃墟砦の位置を地図で説明すると、ミズリムさんが言った通り……申請は秒で通った!


「は〜い、

 これで勇者様の土地になりましたっ!

 ちなみにこの土地って

 なんの目的で使われるんですかぁ?」


「え?

 なんの目的って……

 ええと、その……」


お姉さんは、すごくキラキラした笑顔で俺の「勇者らしい」返答を期待しているのが、わかる。


その眩しすぎる笑顔から逃げようと横を向くと、母親と手を繋いだ5歳くらいの男の子と目が合った。

その男の子は目をキラキラさせて、やはり「勇者らしい」返答を期待している。


このキラキラした2人に……聞かせられない。

「平和だし、魔王とかどうでもいいんで、その土地でのんびりスローライフやりま〜す、てへっ」なんて絶対に言えない。


夢を壊しちゃだめだ……勇者っぽいこと言わなきゃ!


「……まあ、

 もしも王都に魔王軍が攻めてきた場合に、

 勇者がおとりとなって敵を引きつけ

 返り討ちにするための拠点ですね。

 この身に代えても王都を守る! 皆さんご安心を!」


お姉さんと男の子は「素敵〜!」「かっこいい!」と歓声をあげた。


……言っちゃったよ、なんだこの勇者芝居!


そして昨日の続きの廃墟砦の石除去に向かう前に、アリーアの実家に向かった。


母さんに「よく遊びに行ってるんだから、手土産くらい時々は持っていきなさい!」と今朝お金を貰っていたので途中で菓子店に寄って、焼き菓子の詰め合わせを購入した。

最初はアリーアの家族にケーキでも買っていこうかなって思ったけど、従業員さんも一緒につまんでもらった方が良いもんね。


街道の宿場で唯一の青い屋根瓦の、アリーアの実家の宿屋に着いた。

いつものように俺は裏の勝手口から中に入った。


「ご主人と女将さんよぉ、

 どうするつもりなんだい?」


声が聞こえた。聞いただけで下品な男だとわかるような話し方だった。

柱の影から覗くと成金じみた格好の中年男と、アリーアの両親が見えた。


「宿場税は“定額”だ。

 客が来ようが来まいが、

 毎年きっちり同じ額をお国に納めるのが義務だ。

 新街道ができてから客が減ったって

 お役人は情けなんざかけちゃくれねぇ」


定額税って……ちょっと経営が傾いたら一発でアウトじゃん!


新街道ができて、この宿が宿場で一番の被害を受けているって話を、前に御者さんたちが話してたな。


やっぱり、アリーアの実家は厳しい状況だったんだ。


「で、払えねぇ分は俺が貸してやったろ?

 ちょっと利子は高いかもしんねぇが

 ありがたく思えってんだ。

 けどよぉ、こっちから借りた金を返す前に

 明日、徴税官が来るんだろ?

 おう、どうするつもりなんだ?」


「返済はもう少しだけ

 待っていただきたいんです!

 明日納税した後に、すぐに利子分だけでも

 かき集めますんで!」


「娘さん……アーリア嬢だっけな?

 あの子を年季奉公に出せば

 借金の一部はチャラにしてやる。

 もっとも、あんだけの器量よしだ。

 奉公先ってのは……

 間違いなく“貴族様のお妾筋”だろうなぁ。

 はははっ!」


「そ……そればかりは……」


「いやなら今月末までに金を揃えろ!

 それか娘を差し出せ!

 それができねぇなら、

 この宿は土地も建物も差し押さえだ。

 ……いいか? これは最後通告だ」


アリーアが借金のカタに貴族の妾に?

そんな……そんな事って……。


ふと気配を感じて、その方向を見た。

2階へと上がる階段に……アリーアが立っていた。


アリーアは駆け足で階段を上がっていった。俺は追った。


アリーアは自室に飛び込んで鍵をかけた。

俺は部屋のドアを叩いた。


「アリーア!

 ドアを開けてよ、アリーア!」


 「…………やだ。

 もう私はお妾さんになるんだもん。

 ……嫌だけど。

 どうせ、ロレスは止めるに決まってるし!」


「そりゃ止めるに決まってるだろ!

 だって……俺だって、そんなの嫌だ!

 開けなきゃ、ずっとここにいるぞ!」


しばらくの無言の後、ガチャと鍵の音がしてドアが開いた。

そこには暗い顔をしたアリーアが立っていた。


アリーアは自分の机の前に座り、俺は窓の前に座った。

これが俺たちの、昔っからの「定位置」だった。


俺がアリーアとはじめて会ったのはお互い6歳の時。あの頃のアリーアはおかっぱがちょっと長くなったような髪で、いつもワンピースを着ていた。


そして10年が経ち、お互い16歳になった。


今日のアリーアは、白い襟付きのブラウスに淡いグレーの編み上げベストを重ねて、くすんだ青みがかったグレーのスカートを合わせていた。

昔よりは長いけれど、その赤い色は何も変わってない髪には小さな花飾りをつけている。


もう子供じゃなかったけど……今日は妙にお姉さんな感じに見えた。


しばらく黙っていたアリーアは、この宿の状況をゆっくり話しだした。


「さっきの金貸しの話を聞いてたんなら

 だいたいわかると思うけど、

 ……もうダメなの、この宿」


「金貸しからの借金と、

 国への納税が問題なんだね」


「金貸しは最初は親切な感じで

 利息もそんなに高くなかったのに

 途中から勝手に上げられたの。

 あの男に借金を返さないとこの宿は、

 差し押さえになる。

 でもそれは税も一緒。

 納めないと国に差し押さえられる。

 税を少し待ってもらえれば

 金貸しに借金は全部返せるんだけど……」


「お役人に相談は?」


「お父さんは行った……何度も頭を下げた。

 ……でもダメだった」

 

「新街道は貴族のワガママでできたって聞いたよ。

 必要ない新街道を国が作ったせいで苦しんでるのに

 ……国には定額の税を収めろって。

 そんなの……おかしすぎる話だよ!」


「うん、ひどいよね。

 でも私たちにはどうしようもできない。

 お父さんは商売が厳しくなっても、

 従業員は減らさなかったの、みんな家族だからって。

 それでお金もどんどんなくなっちゃった」


アリーアは膝の上で握ってる拳に、ぽたぽたと涙を落とした。


「私がお妾さんになれば……

 少しは潰れるのを先に伸ばせる。

 みんなも路頭に迷わない。

 だから、こうするしかないの!」


「そんな……。

 そんな事はだめだよ!

 なんの解決にもなってないし!」


「でも……他に方法……ないもん」

 


本当に、他に方法はないのか?



ないのか?



ないのか?







────────あった。



俺は窓際の椅子から立ち上がって、アリーアのそばに行った。


「ロ……ロレス?」


「大丈夫だ。

 なんとかなる。

 俺が絶対に守る」


「……えっ?」


アリーアの手を思わず掴んでしまう。

アリーアは驚いたように俺を見て、少し顔を赤くしていた。


「アリーア。

 お父さんお母さんと話がしたい。

 この宿が、助かるんだ。

 …………俺の“勇者特典”を使えば」




次回『第15話 緊急報告・結婚する事になりました』

お読みいただきありがとうございます!

次回は「勇者特典を使ってアリーアの宿屋を助ける唯一の方法」のお話です。


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!

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