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第13話 小さくない小さい石

「本当にありがとうございました。

 いつか助けていただいたお礼に

 肖像画を描かせてください。

 それでは、ご武運を!」


砦まで続く道を教えてくれたルノタールさんは王都の画商のところに行くというので、ここでお別れとなった。


ずっと通る人がいなくて手入れもされていなかったんだろうな。

道の入り口は草が生い茂っていた……ルノタールさんもよく見つけたもんだ。


俺は細い上り坂を進んだ。

道の左右は木が生えているので少し暗い。木のトンネルって感じだ。


そしてしばらく歩くとトンネルは終わり、平らで明るい場所にでた。

全体が林になっている丘の、その場所だけは木がなくて草地だった。


「わあ……」と俺は自然に声が出た。


ルノタールさんは「丘の上」って言ってたけど、正しくは「丘の中腹」だな。


その広さは……アリーアの宿屋の敷地よりは少し狭いくらいだろうか。


そこには、話に出ていたかなり昔に廃墟となったと思われる砦が建っていた。

……砦というには小さい気もする。

見張りをする者の宿舎だったのかもしれないそれは、石造りの建物だった。


砦に近づいてみると結構しっかりしていた。

壁は苔や蔦に覆われてはいるけど、石の骨格はまだ生きている。

二階建てで、外階段も半分崩れたまま残っていた。


中は……まあ、埃と割れた木材だらけで、快適とはほど遠い。

でも屋根はまだ抜けてないし、これなら修理すれば十分住めそうだ。


「俺んちよりぜんぜん立派だな。

 ……うちは廃墟以下だったのか」


ふと想像してしまう。

ここを直しながら暮らして、いずれは隣に丸太のログハウスも建てたりしたい。


この砦から木の板で張り出した屋根を作って……昼寝用のベンチなんか置いたりしよう。

ロッキンチェアーとか自作できるかな? 柱からハンモックを吊るすのもいいかもしれない。


この庭には畑を作ろう……畑っていっても家庭菜園に毛が生えた程度で十分だ。

野菜やハーブの種を植えて、それを収穫して料理を作るんだ。


勇者特典には【薬草、農作物が最高品質に育つ神肥料の提供】もある。

これで金儲けする気なんてない、美味しい野菜を自分が食べる分だけ育てられたらそれでいい。


砦の中だけじゃなく屋外にも調理用のかまどが欲しい。

石窯とか作ってピザとか焼いちゃう?


この素晴らしい景色の高台で、DIYして、畑いじって、料理して、ゆっくり食べて、読書して、昼寝して……。


「いいぞ、いいぞ。

 なんとなくモヤっとしていた

 “快適スローライフ”のイメージが

 具体的になってきたぞ!」


俺は大きな石の上に座った。

ルノタールさんはきっと、ここに座ってあの絵を描いたんだろう。


あの絵と同じ景色が目の前に広がっている。

王都が円形だというのがここからだとよくわかる。

俺の家は……あの辺かな? アリーアの宿屋はどのあたりかな?


ここから見える春の草原はまるで緑の海みたいだ。

パノラマで広がる大地に雲の影が落ちていて、それがゆっくりと移動している。


風が心地いい……最高の場所を教えてもらった。俺はツイてる。


だけど、ひとつだけ。

とりあえず早急に、なんとかしなきゃいけない大きな問題がここにはある。


それは石だ……この庭は大きな石だらけなんだ!

俺がいま座ってる石もそのひとつだ!


この石より小さかったり、大きかったり、とにかく沢山の石がここには散らばってる。

地面に埋まっているのもあって、全体の大きさがどれくらいなのかわからない大岩もある。


これじゃ、ダメだ!

楽しい畑いじりができないし、芝生でゴロゴロ意味なく転がったりもできない!


座っていた石を力いっぱい押してみた……はい、ビクともしません。


どうやって動かせば……そうかテコか! 

たしか砦の廃墟の中に太い鉄の棒があったぞ!


廃墟から持ってきた棒を岩の下に差し込んで、体重を全部かけた。


「ギギギ……!」「キィィィ……!」と鉄の棒が悲鳴を上げた。

そして石がほんの数センチ、グラッと浮いた。


「おおっ……動いた!

 俺でもでかい石を動かせるぞ!

 さすがテコの原理!」


達成感で胸が熱くなった。


が、その直後にゴトンと元の場所に落ちる石。数センチは動いた……のかな?


「……これを庭じゅうの石に全部やるの?

 数センチずつ? 一個ずつ?

 ははっ……無理ゲーだろ……」


俺は石の上に座り、「考える人」のポーズで考えた。


ギルドでクエストをいくつかやって、成功報酬で建築関係者を雇うのはどうだろう?

プロにお金を払って整備してもらうのは、現実的といえば現実的かも。


……あ、でも、それはやめとこう。


ギルドでクエストやってるうちに面倒事に巻き込まれて、なぜか最後は魔王と戦ってる、そんな「お約束」の自分が見えた。


やっぱり自分でなんとかするしかないか。

とりあえず、小さめの石をどっかにまとめよう。


俺は持ち上げられそうな石をひとつずつ、一箇所に集めはじめた。

小さいって言っても、さっき俺がテコで動かそうとした大きな石と比べて小さいだけで、軽いわけじゃない。

どれも20キロ以上の重さだ。


しんどい……疲れた……。


なん度もなん度も往復を繰り返し、小さくない小さな石はそれなりに片付いてきた。

俺の腕にはもう力が入らない。腰もヤバいかもしれない。


アリーアの宿屋のゴテムさんの筋トレに少しは付き合っておけばよかった……。


今日はもうこれくらいしかできない……5日ぶりに家に帰ろう。

そして明日は朝一番で役場にいって、勇者特典でこの土地の所有許可を貰ってから、また来よう。


ここが理想的な場所なのは間違いない。

だからこそ妥協したら、もったいない。

石を撤去する方法は絶対にあるはずだ。


アリーアにも会いたいから、実家の宿屋に寄ってから来よう。


この場所の話をしようかな?

でも、色々と良い感じになってから見せて、驚かせたい気もする。



次回『第14話 納税問題』

お読みいただきありがとうございます!


次回は

「アリーアの実家の宿屋が大変な事になっていた……でも策はある!」というお話です。


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!

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