第12話 理想の土地を見つけたぞ!
城から出た俺は貴族の居住エリアから銀獅子門をくぐり、城下町に戻った。
しばらく歩くと城下町の賑わいはだんだんまばらになり、やがて道は寂しくなり、
──そして王都から出た。
王都は王の居城を中心に円形に広がっていて、半径はだいたい1・5キロ。
外周を歩けば1周10キロ弱、7万人が暮らす都市としてはちょうどいい規模だと思う。
王都を出れば、そこはもう郊外だった。
畑や小さな集落が点々とし、森や丘が広がっている。
勇者特典の【未使用の土地を自由に開拓・拠点化できる権利】は、誰かがすでに暮らしている土地でなければ俺が自由に使っていいという素晴らしいもので、俺のスローライフ生活にとって最重要な特典だ。
1週間分の食料はある。
最高の土地を見つけて、この特典でGETするぞ!
【ロレスの日記】
1日目……草原地帯を歩いてみた。
広すぎて風を遮るものがなく荷物が飛んだ、あと夜がめちゃくちゃ寒かった。
牛が集団で草むらに座り込んでて、なんか気まずかった。牛糞くさいし。
2日目……森に入ってみた。
木陰は涼しくていいと思ったけど歩くのがとにかく大変。変なキノコが大量発生してた。しかもそのキノコが歩く、キモい。
木の実を拾おうとしたらリスにガン飛ばされた。
3日目……洞窟を探検してみた。
これは最悪だった……湿気で寝具がカビる未来しか見えない。
コウモリが頭上からポタポタおしっこしてきて、スローライフどころじゃない!
4日目……馬車で遠くの湖まで行ってみた。
景色は最高だった……だけどやっぱり王都から遠すぎる。俺は不便はいやなんだ!
ついでに貴族の避暑地らしく、夜は花火でウェーイ!とか騒いでいて眠れない。
……やばいぞ、雲行きがあやしくなってきたぞ。
俺のスローライフは、いったいどこに……もしかして一生探し回るんじゃ……?
心が折れかかりはじめてる。
5日目……王都の近くに戻ってきた。
農家のお爺さんが芋を焼いていて、食べてけと言うのでごちそうになった。
「ほふっ! ほふっ!
美味しいです」
「そうじゃろ、そうじゃろ。
栄養満点なわしの芋を食えば、
これからの長旅も
乗り越えられるぞい!」
「あははは……。
長旅……勘弁してください……」
そして午後になり、そろそろ今夜の野宿場所を決めないとな、なんて考えながら小高い丘のふもとを歩いていた時の事だった……男の悲鳴に近い叫び声が聞こえた。
「や、やめろぉ!
こっちにくるなぁ!」
荷物を背負った男が、錆びた剣と盾を持ったスケルトンに追い詰められていた。
3体、4体……5体の骸骨兵士の群れが、震える男ににじり寄っている。
「彼は……。
戦闘職じゃない!
助けないと!」
俺は駆け出して短剣を抜いた。
スケルトンの剣が振り下ろされる寸前――ガキィン! 短剣で受け止め、そして蹴り飛ばした。
骨はバラバラに崩れた。
バラバラになったスケルトンの頭蓋骨が腰を抜かしている男の前に転がった。
「ひいっ……!」
俺はその頭蓋骨をサッカーボールのように蹴っ飛ばして別のスケルトンに当てた。
当たったスケルトンは爆発するみたいに四散した……よし、残りは3体だ。
「スケルトンの防御力はほぼゼロみたいだ。
剣にだけ注意すればいいんだな」
スケルトンが突っ込んでくる。
俺は逆手に短剣を構え――スケルトンの肩口に突き刺した。
骨の継ぎ目が外れて、崩れ落ちた。
残り2体が同時に迫ってきた。
俺は後ろに跳び退き、掌を突き出した。
「……燃えろ!」
ボウッと火の玉が生まれ、1体の頭に直撃する。
ドクロは赤く光って砕け散った。
最後の1体が突進してくる。
腰を落として短剣を振り上げる。
カシャァン!
白い骨片がぱらぱらになって宙を舞った。
――静寂。
「ふぅ……。
初戦闘にしちゃ
上出来だと思うけど」
倒れたスケルトンの骨が、カラカラと乾いた音を立てて震えていた。
「なんだか、かわいそうだな。
それに時間が経ったら骨がくっついて
また人を襲いそうだ……」
俺は才覚の儀で「職業・勇者」の天啓を受けている。
その時に俺の魂には「勇者スキル」もインストールされてるはずだ。
「浄化魔法は王都学舎の教科書で、
やり方を読んだだけだし、
勇者スキルの初期レベルで
成功するかはわからないけど……」
俺は掌に小さな青い火を灯し、骨へとそっとかざした。
「……安らかに眠ってね」
炎となった青い火は不思議と熱を持たず、白く揺らめいて骸骨を包み込む。
やがて残滓の光の粒となって、空に吸い込まれるように消えていった。
「できた……。
さすが勇者って万能型だな」
他の4体のスケルトンも同じように浄化していった。
助けた男は足を怪我していたようだったから、回復魔法で治療した。
「もう大丈夫です、痛みも消えました!
それにしても……。
剣術……攻撃魔法……回復魔法……。
さらに浄化魔法まで……。
どれも使いこなすなんて信じられないです!」
ひょろっと痩せて背が高く、鼻が高いその男はルノタールさんという名前だった。
ルノタールさんは長髪の頭につばの大きな帽子をかぶって、襟がなくて丸首で丈の長い上着を着ていた。
その上着には赤、青、黄色、黒とカラフルな汚れがついている。
「ルノタールさんは
どうしてこんな場所に?」
「私は画家をしています。
丘の上で絵を描いてたんです」
「へえ、絵描きさん!
丘の上?」
「そこの丘の上に廃墟になってる砦があって、
そこまで続く細道を偶然見つけたんです。
そして砦からの眺めを描き終わった帰り道に
スケルトンに襲われました。
あそこから見える景色、ほんとうに美しいんですよ!」
ルノタールさんは、背中に背負っていた布に包まれている板を下ろした。
布を取ると風景画が現れた。
「どうです?
素晴らしい眺めでしょう?」
──俺はその絵を見て驚いた。
王都の城と街並みと川の曲がり具合……すべてがまるで計算されたように配置されていて、その後ろには上方に雪が残る雄大な山脈が見える。
手前に描かれているのは砦の場所に生えている木なのか……その木の枝も葉も美しかった。
一目惚れというのは、こういう事を言うんだろう。
最高の美しい景色。
まわりにはうるさい住人はいない。
王都にも近くて便利だ。
ここが俺が探し求めていた、理想のスローライフを送るための土地だった!
──見つけた、ついに!
次回『第13話 小さくない小さい石』
お読みいただきありがとうございます!
次回は
「最高の場所に出会い、これからここをどうしようかと妄想したりする」お話です。
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