国王様は勇者を左遷したい!
「伝令です!勇者ユータス様が魔王を討伐したとの知らせです!」
王の間が一気に湧き上がった。
泣き出す者、歓喜のあまり叫ぶ者。
だが、その中心にいる俺はまったく喜べなかった。
俺の名は――国王、フロギ・ヒューンメラン。通称フロギ4世だ。
実はこの場にいる何人かも、同じく喜んでいない。
宰相のバラスト、将軍、元帥……要するに国の中枢にいる連中の多くが、だ。
理由は単純だ。
魔王軍は毎回正規軍を蹂躙していた。だが、それをたった一人の勇者があっさり全滅させてしまった。
残るはスライムやゴブリン程度の低級魔族のみ。
……これでは我が国の軍の威信は地に落ちる。
そんな中、勇者が貴族と手を組みでもすれば――最悪、反乱だって起こされかねない。
このままでは国が危うい。何とかせねば。
(しかもあいつ、お人好しなんだよなぁ……)
殺してしまうという手もあるが、さすがに気が引けるし、何より俺が疑われる。
ならばせめて、どこか遠くに――左遷しなければ。
その日のうちに、俺たち“反勇者派閥(仮)”は会議を開いた。
宰相、将軍、元帥……皆で勇者の今後について話し合った結果、「辺境の地への派遣」が有力案となった。
だが、俺は内心それもうまくいくとは思っていなかった。
なぜなら、魔王の被害によって王権は既に揺らいでおり、褒章会には反抗的な貴族連中が堂々と出しゃばってくるに違いない。
陰で妨害していた連中が、今や堂々と光の下に現れる時代なのだ。
「宰相殿、どういたしますか……貴族の反発は必至かと」
困り果てたような声が飛ぶ。
「ううむ……いっそ勇者に対して、もう少し苛烈な条件を出すべきだろうか……」と宰相が唸る。
「だが、それこそ勇者が反発し、貴族に取り入られる可能性もあるぞ?」
その言葉で場は静まり返った。
(もう手はないのか……? いや、ある。あの方法だ!)
翌日、俺は朝早くから勇者ユータスの元を訪れた。
「ユータス殿。この度は魔王討伐、誠にご苦労であった。国を救ってくれて感謝する」
「国王陛下からそう言われるとは……このユータス、感激の極みでございます!」
(……やはり素直だ。だが、だからこそ危険でもある。貴族に利用されかねん)
「ユータス様。そなたの功績は国の宝。よって、魔王軍に滅ぼされた都市の復興任務を命じる。
復興の暁には、その土地を領地として授けよう」
「ありがたき幸せ!」
満面の笑みでそう答えた勇者を見て、俺はほっと胸をなでおろし、茶を一口飲んで屋敷を後にした。
「陛下……あれで本当によかったのですか?」
あとから宰相がいぶかしげに尋ねてくる。
「ああ、よかったのだ。貴族連中の介入も防げたし、やつを辺境に追いやることもできた。これ以上の策はない」
「……ですが、もし勇者殿がもっと要求してきたら?」
「それはない。あやつは、素直な男だ」
そう答えて、昼食をとり、俺は日常へと戻った――
そのときの俺も、勇者も、狸たちも――
まさか2年後、辺境に追いやられた勇者が、地方貴族と組んで革命を起こすなどとは、夢にも思っていなかった。