第8話 二人の占い師
その瞬間、空気がピンと張りつめた。
誰もが息を呑んだ。
久住 翔斗
「うっ、噓だよ!!
え、えっと…ぼ、僕が占い師です…」
思わず噛みながら名乗り出ると
久住の声が震える。
その震えは、小さなさざ波のように
場に広がっていった。
途端に周囲の視線が彼に集中した。
誰もが心の奥で同じ疑念を抱く。
(どっちかが――嘘をついている。)
沈黙の中、互いに目を見合わせる気配が走る。
かすかな衣擦れの音さえ
耳障りに思えるほどの緊張感。
(誰も本気で騙すなんて思ってなかった――)
そんな甘さが、最初の一手で砕かれた。
宇川 謙
「おい、ちょっと待て。
どっちかが嘘ついてんだよな……?
安住、グズ……てめぇら
まさか嘘ついてんじゃねぇだろうな?」
鋭い眼差しを久住と奏多、両方に突き刺す。
語気は荒いが、目の奥にあるのは疑念と困惑だ。
久住 翔斗
「ご、ごめん…でも、本当に占い師なんです…」
顔を伏せ、肩を縮めながらも、
必死に言い返す。
声はか細く、頼りない。
大咲 朱里
「……これ、どっちが本物なの?」
ぽつりと漏らした疑問が
誰もが抱える不安を言語化したように
場の空気を凍らせる。
その瞬間
――奏多が、無言で立ち上がる。
涼しい顔で口を開いた。
安住 奏多
「俺が占い師。……だから、久住、お前じゃない。」
言い終えた後の沈黙が、痛いほど耳に刺さった。
戌井 正太
「……そうか…。」
静かに眉をひそめた。
わずかに目線を落とし、口を引き結ぶ。
呟きは小さく、誰にも届かないほど。
感情は見せず、ただ場の変化を静かに見つめていた。
だが、その指先がほんの少し震えていた。
大咲 朱里
「え……うそ、もうどっちかが
…嘘ついてるなんて…そんな……」
か細い声で呟き、身を縮めるようにうずくまる。
目の前で起きた裏切りが信じられず
唇を噛んで震えていた。
升田 岬
「……みんな。
この中に嘘をついた人が
出たってことわかってるよね?」
理性的な声にわずかな怒気を滲ませつつも、
場を崩さぬよう努めていた。
その冷静さが、逆に周囲をさらに緊張させる。
羽賀 夏菜
「はぁ!?マジかよ!
ていうか久住、お前いつも頼りないくせに、
こういう時だけ出てくんのやめてくんない?」
叫ぶように声を上げる。
眉をひそめる者、視線を逸らす者
微かに拳を握る者。
場の空気が重く、冷たく変化していく。
部屋の空気が、ジリジリと重くなる。
さっきまで皆で協力していくはずだった
人狼ゲームが、突如として別の顔を見せはじめた。
(誰かが、今この瞬間に、明確な嘘をついた。)
それが全員の頭に焼きつき、心をざわつかせていた。
この中に人狼がいる。
そして、それを守ろうとする狂人も
――確かに存在する。
そんな現実が、全員の胸に、
静かに、しかし確実に迫っていた。
大咲 朱里
「……岬は、どっちが本物の占い師だと思う?」
朱里の声は小さく震えていた。
誰かを責めるわけでも、断定するわけでもない。
ただ、信じたい人の名前を口にするように。
頼りなさの滲む視線が
一番信頼のおける友人に向けられる。
升田 岬
「それは今日の時点じゃ分からない。
占い結果は“今夜”出る。
…だから今日の投票は
占い師じゃない人の中からにしよう。」
岬の声は冷静で落ち着いていた。
まるで感情を封じ込めているかのような静けさ。
その言葉には、一切の無駄も揺らぎもない。
場のバランスを保とうとする、強い意志が感じられた。
宇川 謙
「ふざけんな。誰が本物か分からねえなら
こいつらのどっちかを潰す方が手っ取り早いだろ?」
苛立ちが露骨に混じる声だった。
足を踏み鳴らすような勢いで、宇川は椅子に座り直す。
だが――
その意見には、すぐに続く声はなかった。