表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼GAME 第1章  作者: 山犬
6/34

第6話 1人の部屋で





冷たい鉄の床。


首に巻かれた黒いバンドと

首筋を締めるような冷たい輪。


ホールから部屋に戻り

正太は個室のベッドに座ったまま

身動き一つ取れず思考を巡らせていた。






── ── ──




── ── ── ──








彼らは何も知らされていなかった。


気づいたらこの部屋にいた。




《人狼ゲーム──生き残れば莫大な賞金が与えられる》




そう説明されたとき、頭に浮かんだのは妹の顔だった。


蒼白な肌に、管だらけの細い体。

週に数回、心電図を取られるその姿。




──金があれば、

もっと良い病院に移れるかもしれない。


──母の介護も専門の人に任せられるかもしれない。




けれど、それは「勝って生き残れば」の話だ。


目の前に突きつけられたのは

他者を欺き、命を奪い合うという、狂気のルール。




(これが本当だったとして……。

そんなこと、俺にできるのか…?)




正太は人を傷つける行いが何よりも嫌いだった。


学校でも、面倒ごとには巻き込まれず

困っている人がいれば手を差し伸べてきた。


そんな自分が、騙し、殺し

勝ち残らなければならない。




胃の奥が冷たくなる。何度も吐き気が込み上げた。


他人の命を奪って

自分の人生を救う──

そんな理屈がまかり通っていいはずがない。




でも、現実は甘くなかった。




(選べない……選択肢なんて、そもそもない…)




誰かを選ばなければ、自分が選ばれる。


誰かを殺さなければ、自分が殺される。


狂っている。

狂っているのに、逃げ道はどこにもない。




しかし、ほんのわずか──




(もし……勝ち残れたなら)




重い瞼の裏に

あの狭くて息苦しい団地の部屋が浮かんだ。


妹の薬。

酸素ボンベ。

母の介護用ベッド。


全部、金があればどうにかなる。


金さえあれば

この泥沼のような生活から抜け出せる。




そう思ったとき、正太の中にあるものが芽生えた。




それは、罪悪感でも、正義でもない。




──希望だった。




どんなに歪んでいても、血塗られていても、


生き残れば、救える命がある。




(俺は……生き残らなきゃいけない)




指がわずかに震える。


それが恐怖か覚悟か、自分でも分からなかった。




けれどその時

正太の目には確かに


静かな炎が灯っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ