第6話 1人の部屋で
冷たい鉄の床。
首に巻かれた黒いバンドと
首筋を締めるような冷たい輪。
ホールから部屋に戻り
正太は個室のベッドに座ったまま
身動き一つ取れず思考を巡らせていた。
── ── ──
── ── ── ──
彼らは何も知らされていなかった。
気づいたらこの部屋にいた。
《人狼ゲーム──生き残れば莫大な賞金が与えられる》
そう説明されたとき、頭に浮かんだのは妹の顔だった。
蒼白な肌に、管だらけの細い体。
週に数回、心電図を取られるその姿。
──金があれば、
もっと良い病院に移れるかもしれない。
──母の介護も専門の人に任せられるかもしれない。
けれど、それは「勝って生き残れば」の話だ。
目の前に突きつけられたのは
他者を欺き、命を奪い合うという、狂気のルール。
(これが本当だったとして……。
そんなこと、俺にできるのか…?)
正太は人を傷つける行いが何よりも嫌いだった。
学校でも、面倒ごとには巻き込まれず
困っている人がいれば手を差し伸べてきた。
そんな自分が、騙し、殺し
勝ち残らなければならない。
胃の奥が冷たくなる。何度も吐き気が込み上げた。
他人の命を奪って
自分の人生を救う──
そんな理屈がまかり通っていいはずがない。
でも、現実は甘くなかった。
(選べない……選択肢なんて、そもそもない…)
誰かを選ばなければ、自分が選ばれる。
誰かを殺さなければ、自分が殺される。
狂っている。
狂っているのに、逃げ道はどこにもない。
しかし、ほんのわずか──
(もし……勝ち残れたなら)
重い瞼の裏に
あの狭くて息苦しい団地の部屋が浮かんだ。
妹の薬。
酸素ボンベ。
母の介護用ベッド。
全部、金があればどうにかなる。
金さえあれば
この泥沼のような生活から抜け出せる。
そう思ったとき、正太の中にあるものが芽生えた。
それは、罪悪感でも、正義でもない。
──希望だった。
どんなに歪んでいても、血塗られていても、
生き残れば、救える命がある。
(俺は……生き残らなきゃいけない)
指がわずかに震える。
それが恐怖か覚悟か、自分でも分からなかった。
けれどその時
正太の目には確かに
静かな炎が灯っていた。