表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼GAME 第1章  作者: 山犬
4/34

第4話 閉じられた箱庭



重く静まり返ったホールに、わずかなざわめきが響く。



升田 岬

「……ここから出られる道、探さない?


もしかしたらこんなことに参加しないで帰れる可能性もあるかもしれないし……」





小さな希望を抱くように岬が提案すると、何人かが頷き、他の扉に向かった。





ホールを囲うように設置された3つの大扉。




1つ目を恐る恐る押し開けると

明るく清潔な空間が広がった。




――キッチンと食堂だった。




冷蔵庫の中には、まるで病院食のように

管理されたパック食が種類別に

ぎっしりと詰め込まれていた。




見れば、賞味期限もすべて

今日以降の日付で揃っている。




空調は快適すぎるほどに整えられ

シンクや調理器具も新品のように光っている。


 


だが、それらの整然とした清潔感が

逆にこの場の異常性を際立たせていた。





夏菜はキッチンの隅を見渡して

小さく震えながら吐き捨てる。




 


羽賀 夏菜

「……うっわ、何ここ、


地味に快適そうなのが逆に怖いんだけど……」






その言葉に頷きながら、奏多が冷蔵庫を指差す。






安住 奏多

「誰が用意したんだろう…

…俺らを誘拐して管理してる人間が、どこかに……?」






そのときだった。


岬がふと天井を見上げ、冷静な声で言った。






升田 岬

「……監視、されてる。たぶん、ずっと」





全員がつられるように視線を上げた。


天井の隅

エアコンの横

出入口の上――

黒く無機質な監視カメラが

あちこちに設置されていた。


赤いインジケーターが点滅しており

動作しているのは明らかだった。





安住 奏多

「……監視されてなきゃ

ルール違反に罰則なんてできないもんな」




 

奏多が呟くように言うと

正太は黙ってその言葉にうなずいた。


感情を抑え込むように

自分の胸の内を締めつけるように。





カメラのレンズは、何も語らない。


ただ、そこにいるという事実だけを押しつけてくる。





大咲 朱里

「な、なにそれ……じゃあ……

ずっと誰かに見られてるってこと……?」



朱里が壁のそばに身を寄せ

小さく震えながら声を漏らす。



その隣では、久住が青ざめた顔で

カメラを見つめ、ぎゅっと肩を縮めていた。



宇川 謙

「クソッ!」



宇川がテーブルを拳で叩いた。


重たい音が空間を震わせ

一瞬、全員がビクリと肩をすくめる。





宇川 謙

「誰かがどこかで見てるなら出てこいよ……!

俺たちで何して遊んでんだ、クソ野郎が!」




激昂した宇川の声が壁に反響する。


だが、何も応えはなかった。

ただ監視カメラがじっとこちらを見ているだけだった。





羽賀 夏菜

「も、もうやだ……

お願いだから夢って言ってよぉ……!」





夏菜がヒステリックに叫び

目元をぐしゃぐしゃにしながら両手で顔を覆った。






絶望、怒り、困惑、そして恐怖。


それぞれの感情が

まるでバラバラな音を奏でるように


部屋に充満していた。




 


正太はそんな中、静かに

天井のカメラを見つめ続けていた。


何かを悟るでもなく

何かを見透かすでもなく、ただ――生きるために。






重苦しい空気の中、誰かがぽつりと


「……次、見てみる?」と呟いた。






誰の声かはわからなかった。




だが、その一言が糸口となり

再び全員の視線がホールの残る扉へと向かう。





慎重な足取りで二つ目の扉へと向かっていく。





扉の前に立った瞬間

誰かが小さく唾を飲み込む音が聞こえた。


 


それを合図にするかのように

奏多がそっと扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けた。





ギィィ……という静かな音とともに

扉の向こうの光景が広がる。




その中にはさらに扉が二つあり

男女別に分かれていた。


 


さらに進むと目に飛び込んできたのは

清潔感のあるタイル張りの床と、白く整った壁。




空間は広く、脱衣所にはロッカーが並び、その奥には


 ――まさかの、大浴場だった。



久住 翔斗

「え……これ、温泉施設……?」


久住が戸惑ったように呟き

恐る恐る中へ足を踏み入れる。




壁には明るい間接照明が等間隔に取り付けられ

室内はまるで旅館のように快適そうに整っていた。


足元にはバスマット

棚には未開封のタオルとアメニティが揃っている。




 


大咲 朱里

「……なんで、こんな施設まであるの……?」


脱衣所の中央で、ぽつりと漏らした。




その言葉には、疑問よりも恐怖がにじんでいた。




 

その瞬間、空間の静けさを切るように

誰かが息を呑む音がはっきりと聞こえた。


全員が同時に思ったのだ。





(これは……どれだけ前から“準備”されていた?)


(まさか、ただのイタズラじゃない。

こんな設備、即席じゃできない)


 



宇川 謙

「何なんだよこれ……」




落ち着かない様子であたりを睨みながら言う。




その肩は、ほんの少しだけ震えていた。




 


安住 奏多

「設備だけ見たら、

普通に合宿所みたいだけど……

普通じゃねぇよな……」




その声は低く、不安に揺れていた。






羽賀 夏菜

「こんな用意してる暇があるなら

私たちを帰してよ……!」



またヒステリックに声を上げる。

だが誰も、否定はしなかった。


この異様な快適さの裏にある

誰かの意図を、全員がうすうす感じていたから。






正太は、浴室の奥を見つめながら黙っていた。


こんな施設があることは

彼らにとって救いではなく

むしろ出口が存在しない証に思えた。


用意された食事、風呂、生活設備――


つまりこれは、長く滞在させる準備。




誰かが、彼らをここで

生かしたまま閉じ込めるつもりなのだ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ