第31話 最終結果
そして、ホールの照明が変わった。
──【人狼の勝利です】
その文字が、モニターに浮かび上がる。
朱里は、それを理解できずに、しばらく瞬きを繰り返していた。
大咲 朱里
「……え?」
呟きに色はなかった。ただ、空白に浮かぶ声だった。
彼女の目が、モニターと正太の間を何度も行き来する。
血の気が引いていくのが、見て取れるほどに顔が蒼白になっていく。
戌井 正太
「……」
朱里の視線が、ゆっくりと正太に向けられる。
信じたくないという思いからか瞳の奥が揺れていた。
大咲 朱里
「……そんな……嘘……でしょ……?」
戌井 正太
「…………ごめん」
正太の呟きに、朱里の顔が絶望に染まっていく。
そのたった一言が、全てを崩した。
朱里の目が見開かれる。肩が大きく揺れ、口元がわななく。
声は掠れていた。呟きではなく、祈りのようだった。
大咲 朱里
「……あなたが……人狼だったの……?」
正太は、何も答えない。ただ、俯いたまま動かない。
彼の影が、静かに床に落ちていた。
朱里は、自分の膝に力が入らなくなったのを感じた。
喉の奥から何かが込み上げる。息が詰まり、胸が焼けつくように熱い。
大咲 朱里
「……どうして、こんなことに……」
立ち上がろうとするも、身体は震え、足がもつれ、立ち上がれない。
床に這いつくばりながら、朱里は正太に手を伸ばした。
大咲 朱里
「戌井くん……お願い、助けて……助けてよ……!」
その声は、少女の命のすべてを絞り出すような哀願だった。
涙と嗚咽が混ざり、朱里の口元から崩れ落ちていく。
だが、正太はただ黙って彼女を見ていた。
その目に、感情はなかった。
怒りも、悲しみも、喜びさえもない。ただ、沈黙。
そこにあるのは、終わったことを見届けるだけの無機質な目線だった。
何も言えなかった。
何も伝える意思がなかった。
その場に立っていることさえ、まるで「罰」を受けているかのような気配を帯びていた。
コードが伸び、コードが、機械音とともに蛇のように伸び、
朱里の首輪にカチリと音を立てて接続された。
彼女は泣きながら、叫びながら、最後まで助けを求めた。
大咲 朱里
「お願い、いやだ……死にたくない……!
どうして……こんなの、間違ってる……戌井くん……っ!」
振り絞った叫び。掠れる声。目の奥に浮かぶのは、信じた相手に殺されるという、
どうしても受け入れがたい――でも現実として突きつけられた、絶対的な裏切り。
――巻き上げ音が鳴る。
朱里の身体が吊り上げられ、両足が宙を蹴るが、もう地面には届かない。
喉が締めつけられ、声が、消えた。
その瞬間、瞳の奥に走る理解。
すべての裏切りが、自分の目の前に立っているこの人物によるものだったと――
その気づきと共に、彼女は、死んだ。
静かに、力なく、床に落ちる。
ドサッ。
音が、命の終わりを告げた。
軽く、淡く、だがあまりにも重たく。
ホールには、もうただ一人。
人狼、戌井正太のみが、立っていた。