第27話︎ ︎ ︎ ︎二人の騎士
《18:00》
規則的な電子音が鳴るわけでも、
誰かが声をかけたわけでもないのに、
三人は再びホールに集まっていた。
もうこの空間に、無意味な会話や
沈黙は存在しなかった。
空気は澱んでいた。
張り詰めて、重くて
誰かが深く息を吸うだけで崩れてしまいそうなほどに。
最初に声を発したのは、朱里だった。
大咲 朱里
「……ごめん、もう決めてる。
私、岬に入れるつもり」
その目は赤く、泣き腫らした跡が
そのまま残っている。
それでも、まっすぐ岬を見つめていた。
大咲 朱里
「昨日、奏多くんが吊られた時……
まだ夜が続いた。
つまり、彼は人狼じゃなかったってことになる。
だったら、奏多を吊ろうって言い出した
……岬と宇川くんが怪しいって思うのは、
自然なことだよね?
でも宇川くんは襲撃されたから、人狼ではない。
そうすると残るのは……」
岬は静かに眉をひそめた。
それでも、声は乱れず、どこまでも冷静だった。
升田 岬
「そう言うと思った。
だから……もう、言うね。
私──
── ──騎士だった。」
岬の声は、張りつめた静寂を
破るように真っ直ぐ響いた。
一瞬、ホールの空気がわずかに震えた気がした。
その宣言は、
誰もが予想していなかったわけではない。
けれど、今ここで告げられたことに、
皆が思わず息を詰めた。
戌井 正太
「……は?」
しばしの沈黙のあと、
口を開いたの正太だった。
声には戸惑いと
感情の乱れが滲んでいた。
戌井 正太
「…それは、おかしい。
騎士は──
──俺だ。」
言い終わった瞬間、
自分の言葉の重さに気づいたように
無意識に左手の親指を内側に
入れてぐっと握りながら
正太は唇をかみしめた。
その顔には悲しみと葛藤
そして何より焦燥がにじんでいた。
朱里が目を大きく見開き
二人を交互に見つめる。
彼女の瞳には困惑が色濃く浮かび
声も上ずっていた。
大咲 朱里
「え……? え、ちょっと待って……二人とも?」
その声に、岬がひとつだけ
深呼吸をし、感情を抑えながら口を開く。
升田 岬
「私はずっと公開する気なかった。
生き延びて、終わらせたかったから。
…でも、もう最後。
ここで黙ってる意味はないと思って……」
言葉は淡々としていたが
その手はわずかに震えていた。
覚悟を決めた人間の静けさの裏で
複雑な心の動きが読み取れる。
戌井 正太
「俺だって。
正直、いつ言えばいいのか分からなかった。
信じてもらえるかわかんないけど
……俺が騎士なんだ。」
正太の声は、低く、力がこもっていた。
けれど、どこか痛みを伴っていた。
その瞳の奥には、怒りでも嘘でもない、
何か切実な叫びのような光があった。
大咲 朱里
「じゃあ……どこを守ったの? 二人とも」
大咲の問いかけは鋭かった。
口調は淡々としていたが
内心は疑念でぐらついていた。
まず答えたのは岬だった。
升田 岬
「1日目の夜は……朱里を守った。
発言が少なめだったし
狙われる可能性あると思ったから。
2日目の夜は……正太。
ずっと静かだったし
目立たない人が狙われやすいと思った。」
彼の視線は朱里と正太の間を
真っ直ぐに見据えていた。
少し声が震えていたが
その言葉は誠実だった。
続けて、正太が口を開いた。
戌井 正太
「俺は……」
ほんのわずか、言葉を選ぶ間があった。
苦しそうに眉を寄せながら、彼は言葉を紡いだ。
戌井 正太
「1日目は、奏多。
私情だけど、仲良かったから。
あと占い師だって言っていたし
本物の可能性考えた。
2日目は……大咲。
俺は奏多を信じきれなかったから
もうそんな自分が嫌になったんだ…。
だからせめて奏多が人狼じゃないって
言っていた大咲のことを信じたいと思ったんだ。
ごめん、守ったって言ったら
信用されると思ったわけじゃなくて、
マジで、そう思ったんだ。
だから……」
その声には、必死さと苦しみが混在していた。
朱里はどちらの目も交互に見つめた。
真実を探るように。
誰が本物で、誰が偽物なのかを
言葉の裏側から手繰るように。
大咲 朱里
「……どっちが嘘をついてるの?」
沈黙が落ちた。
今、どちらかが――
嘘をついている。
それがどっちなのか。
言葉ではもう、判断できない。
信じた方が正しいのか。
信じなかった方が生き延びるのか。
三人の心が、
それぞれ違う不安と恐怖の中で
音を立てて揺れ始めていた。